彼らと分かり合える日は来るのだろうか?
「異性との性交で感染るのが性病。異星人との間に起きるのが星間戦争」
一時期、テレビCMなどでしきりに流れていたこの標語。
俺は好きだったが、同性愛者の団体からクレームが
入ったとかで、最近は見なくなった。
20年ほど前に惑星外知的生命体、すなわち異星人が
突如、この星に現れて以降、世の中は劇的な変貌を遂げた。
惑星間航行、クリーンでローコストなエネルギーの実用化、
優秀で頼れる人工知能などなど、
この20年間、猛スピードで変化した。
しかし、異星人達との交流ははじめから順調だったわけではない。
初めて異星人達が我々の前に現れた時、
彼ら異星人達は既に何百年も前から
我々のこの星の存在を知っていたという。
しかし、彼らの言う星間コミュニティのルールに則り、
この星の文化レベルが彼らのコミュニティの基準に達するまで
辛抱強く観察をし続け、このたび晴れてめでたく
ファーストコンタクトの運びとなったと説明した。
怪しい…
誰もがそう考えた。
何故なら、何百年も観察していたという割に、
この星の文化にあまりにも無頓着、
リスペクトどころか観察対象への興味があれば分かる事すら
把握出来ていない。
そもそも、
「文化レベルが基準に達した」
というが、ここ数十年、これといって劇的な技術革命や
世紀の大発明など起きていないのだ。
人々が警戒していると、
そんな我々の警戒心など気にもしないで、
「貴星を我々のコミュニティにお招きしたい。それにあたり、両者の間で条約を結びたいと思う。何、形式的な物なので…」
と書類を渡される。
書面はかなり細かい字で長々と書かれた条文。
しかも、スケジュールの都合で月内には返事が欲しいとの
かなり短い時間設定までして急がせる。
「明らかに不当契約のやり口ですね」
条約について話し合う為に集まった、
その星にあった国々のトップ達の意見は皆同じだった。
条約の締結に皆懐疑的だ。
それでも一応中身は読んでおこうと読んでみる。
黒髪黒目の男性が、
「あっ、これうちの国が昔、やられたヤツですね。某国に。相手の無知につけ込んで、ありえない不平等な条約結ばせて、後で尻の毛までむしるってアレ」
やれやれという感じで言う。
ちなみに「某国に」と言った時、同席していた金髪碧眼の
男性の方をチラリと見たが、その男は気まずそうに目を逸らした。
兎にも角にも相手の真意が分かったと言う事で、
断固拒否と言うことになった。
お断りの連絡を相手側にお送りした所、
「おのれ、辺境の蛮族の分際で生意気な!」
と本性を表す。
流石は惑星間航行を可能にするだけの科学力を持つだけあって、
勝ち目は薄い。下手したら一発で一瞬に終わる可能性が高い。
負けが確定した戦いではあったが、自分たちの星の誇りの為、
皆、戦った。
しかし、戦争は短期どころか、数ヶ月経っても、
大きな進展を見せることもなく、膠着したままだった。
理由は分かっている。
攻め方に違和感しか無いのだ。
大規模戦闘は一切行われず、行うのも敢えての白兵戦。
科学力の格差を考えれば、大量破壊兵器で一網打尽にすれば
この星に勝ち目なんて無くなるのに。
むしろ、この星の武器を調達して、自分達の武器を
ほとんど使わない。
なのに事あるごとに、
「早く降伏して傘下に入れ」
と急かしてくる。
「これは流石におかしい」
誰もがそう考えたが、そんな事をする理由が分からなかった。
「昔、相手が最初に攻撃してきたって口実造りの為に自国のラジオ局を爆破した国があったけど、この場合は、我々にはバレてるから、今更、我々の武器を使う理由はなんなんだ?」
各国の首脳達は頭を捻った。
そのうち、今回の一件、最初から最後まで一つの惑星国家しか
関わっていない事が分かる。
口では
「惑星間コミュニティ」
の存在や、そこに所属している事などを殊更に主張するのに、
他の惑星国家が一切登場しないのだ。
「これ、惑星間コミュニティへの加盟なんて話、実際はないんじゃない?」
皆が、その疑問を感じた。
「大航海時代、一将校の一人に過ぎない船団の人間が、『本国より全て一任されている』と独断で徴税やら条約やらまで勝手に結んでいた事があったけど、そんな感じじゃない?
どうも、独断での戦闘行為どころか、この星への干渉自体、
大っぴらには出来ない様だ。
そこまでして何故、これほどまでにこの星の掌握を急ぐのか?
と言う疑問が出る。
そんな折、降伏勧告の書状を持ってやって来る異星人側の官僚を
通じて相手方の穏健派の高官と密談が行われる。
「こういうのはうちのお家芸だ。任せてくれ」
とハニートラップが得意な国のトップが、声を上げる。
彼は黒目黒髪だったが、
同じ黒目黒髪の別の国のトップはその様子を見て苦笑いを浮かべていた。
兎にも角にも密談でやって来た相手の高官は、
飲ませる、食わせる、抱かせるの三段攻勢にすっかり籠絡されてしまい、
洗いざらい情報を吐き出した。
聞くと、その星の主要国のトップの息子が、
コミュニティの規定で禁じられている未開惑星での探索を行い、
現地住民と情交に及び、未知の病気に感染してしまったという。
違反どころか、立入禁止区域から未知の病原菌まで持ち帰る。
こんな事が惑星間コミュニティの他の星にバレたらどんな制裁があるか。
少なくとも、そのバカ息子は死罪を免れない。
下手をすれば、その惑星国家自体が懲罰を受ける可能性もあった。
そこで可及的速やかに、この星を取り込むべく、
交渉を急いでいるのだとか。
「そういえば我々の星でも船に乗っていく先々で現地の女の子に手を出して、世界中に性病を撒き散らかした人達がいましたね」
それを聞いてソワソワしている一部の人達。
赤い髪やら碧眼やらバラバラだったが、
皆、一様に鼻が高いのが特徴だった。
すると誰ともなく、
「何だか、星が変わっても、やってる事あんまり変わらないんだな」
と発言する。
その場にいる者もそれに賛同、侵略者であるはずの異星人に
妙な親近感を覚えてしまう。
兎にも角にも原因がこの星の性病なら治療方法は我々の方が、
詳しいだろう。
早速、異星人達に、
「性病、我レ、治療ノ準備アリ」
と電報を打つ。
翌日、首脳達の目の前には、土下座する身なりの良い異星人がいた。
「この度は申し訳ございません。何卒、愚息をお救い頂きたく…」
謝罪と救済を懇願する異星人を見下ろしながら、
誰が、
「異星人にも土下座とかあるんだ…」
とボソリ呟いた。
その後、各国のトップは異星人側のトップを招き手打ち式が行われた。
その後賑やかに行われた食事会では、
最近の体の不調や、奥さんの悪口で大いに盛り上がり、
それを見ていた秘書官が、
「異星人も酒が入ると話す内容は変わらんな」
と苦笑いしていた。
結局、惑星間コミュニティへの参加は見送られた。
今のこの星の実力では、他の惑星との科学力の格差が大き過ぎて、
得られるメリットより負担させられる役割の方が重いから
割が合わないだろうとの忠告を素直に聞き入れた形になる。
もちろん、異星人側としては、
自分たちの醜聞(スキャンダル)を知る我が星の連中が、
コミュニティに入ってうっかり口を滑らしはしないかと、
常時、ヒヤヒヤし続けるなんて真っ平ごめんだという
気持ちも本音ではあるだろうけど、
過剰な負担が事実ある事は間違いないようだったので、
無理に背伸びする必要はないと、こちらも判断したのだ。
しかし、この異星人の星とは今後も密かに国交を続けようという事に
なったのは大きい。
結果的には彼らの科学力の恩恵は受けられるのだから。
彼らの星の名は「地球」というらしい。
今後は長い付き合いになるだろう。
調印式で固く握手を交わす両惑星の代表。
彼らの二つしかない瞳に、我々の3つの目が光って見えた。