元パーティーメンバーに『ざまぁ』されないように世界の果てまで逃げる 作:hoge55
『これは・・・・・・!・・・・・・ゼイロ、キミが・・・・・・授かった才能は、<ステータス編集>だ・・・・・・』
10歳を迎えた年での教会にて、そう告げられた瞬間。僕の運命が決まったことを、この時の僕はまだ知らない。
王国の辺境にある小さな村。そこで僕は生を受けた。今にして思うと色々と制限された幼少期を過ごしていたように思うけど、それでも当時の僕は毎日が楽しかった。とある女の子がいたからだ。
アリア。天使のような女の子。その子の存在を知ったのは両親に連れられて友人だという人の家に入った時。
一目惚れだったように思う、アリアはずっと家の中で暮らしているようで外の世界のことを何も知らなかった。それから僕は毎日、アリアに会いに行き外の世界のことを沢山話した。まあ、僕自身村の外に出た事は無いけれど、絵本で外のことはよく知っていた。ずっと家の中にいるアリアに“勉強を教える”と言う名目で彼女の両親も歓迎してくれて、きっとこの時が僕の人生で一番幸福な時間だった。
アリアが初めて家の外に出たのは10歳に成った年。僕と一緒に教会に連れて行かれて、そこで女神様から授かる“才能”の確認をするのだという。
アリアが授かった才能は<剣聖>。固唾を飲んで見守っていた大人たちはみんな喜んで、そして僕の才能が明かされた時は・・・・・・みんな、沈痛な表情を浮かべていた。
その理由は分からない。教会の人は僕が授かった才能について“よく知らない”と言っていたけど、本当のことを言っていたのかは分からない。僕自身、その日から村八分にされたとか、そのようなことはなく、それまでと同じように愛情を持って育てられた。
変わったのはアリア。<剣聖>を授かってから、どこか雰囲気が変わった気がする。たぶん・・・・・・“眼”だろうか。彼女の才能にそんな力があるのかは分からないけど、きっとそういうものなんだろう。そして、アリアはこれまで以上に村の外への夢が日に日に大きくなっていった。
僕がアリアに絵本で外の世界の事を教えてからはよく冒険をする事を夢見ていたけれど、才能を授かってからはこれまで家の外に出ることすら禁じられていたからだろうか、その気持ちが爆発していた。よく家を抜け出すようになり、村の外へ脱走しようとするようになった。最初止めようかと思ったが、僕も村の外に出て冒険するというのは夢でもあったから協力して・・・・・・13歳の頃、遂に村の外に出ることが出来た。
そうして、僕とアリアの関係性は変わった。
村に出てすぐ、野党に襲われてそこでアリアは村から持ち出した小さな剣で野党の集団を全て斬り裂き、全てが終わった後自分が起こした惨劇に苦しんでいた。僕は見ているだけで何も出来なかった。村に居た時、いつか冒険に出るためちょっとした訓練をしていたけれど、本当の戦いの前では何の役にも立たなかった。ただ、アリアが戦う後ろで身を縮こまらせて隠れることしか出来なかった。
そんな僕が、苦しむアリアに掛ける言葉。考えて、考えて、考えて・・・・・・感謝を述べた。それに対してアリアも感謝を返してくれた。表面上は上手くいった。けれど、僕がこの時に本当に掛ける言葉は違ったんだ。
『村に帰ろう』
たった一言、これだけで良かったんだ。村の大人達には怒られるかもしれない。それでも、沢山謝ればきっと許してくれるはずだ。僕はアリアと村に帰るべきだったんだ。
この時から、僕とアリアは少し、距離が開くようになった。
転機はそれから一年ほど経った頃。アリアが突然暫く休むと言った。ここまでずっとダンジョンに挑戦し続けていたから僕にそれを止められるはずがない。その間も僕は戦えないでいたから。僕も力になろうと剣を振る練習をして、アリアに教えて貰おうともしたけれど“教えられない”と言われた。もしかしたら僕の事が邪魔に思ってたのかもしれない。
それでもなんとか力になりたくて、弓や罠系の道具の扱い等、色々と手を出してみたがどうしても上手く行かなかった。感覚的なものだから言葉にはし辛いけれど・・・・・・何か、自分の力になる寸前で
それならと、アリアが休んでいる間に仲間を増やそうと考えた。アリアは一人で戦う事を好んでいたようだけれど、今の彼女を見るに共に戦える仲間はいた方が負担は軽くなるだろう。
それで仲間になったのがカイル。
僕達よりも年上で冒険者としてもギルドからの信頼も厚い人物。この人しかいないと思った、アリアの助けとなってくれるのは。彼の居場所を聞いて、実際に話をして、そして彼が口にした言葉は僕の心を大きく揺さぶった。
『あー、<ステータス編集>な!知ってるぜ!何でも能力を強化するような感じの才能らしい!教会の聖書に書いてたぞ!』
これまで一度も手に入らなかった僕の才能の手掛かり。どうして彼が知っているのかは分からないが遂に手に入れた情報。アリアもこれにはさすがに驚いたようで、数日後、空いた日でアリアと共に教会に行って聖書を読ませて貰った。
そして、そんな情報はどこにも書かれていないという事が分かった。そりゃそうだ、教会の聖書に書かれているんだったら村の教会で教えてくれる筈だ。じゃあカイルは何故そんな嘘を吐いたのか。理由はすぐに分かった。アリアに取り入るためだ。
彼はずっとアリアを目で追っていた。僕も似たようなものだが、だからこそ分かる。僕の喜ぶような情報を与えてアリアに好印象を与えようとしたんだろう。偶に僕を鍛錬に誘おうとするのもその一環だろう。この時から僕は彼が嫌いになった。
アリアをリーダーとした三人パーティー、最初は年長者のカイルをリーダーに立てようとしたが、そのカイルがアリアをリーダーにすべきと言った。
『知ってるだろうがこの世界は才能が全てだ。俺たちの中じゃアリアが一番分かりやすい。・・・・・・心配すんな、俺も手伝うからリーダーやってみろ。立場が人を作るからその内貫禄とか出てくるだろうぜ』
僕自身、カイルは嫌いだったからその提案は有り難かった。でも少しだけ引っかかった。なぜアリアが
それからの二年間は怒涛だった。魔法使いのマギサ、弓使いのユートリア。二人が仲間になってよりパーティーは盤石になって・・・・・・より、僕が足手纏いとなった。他の冒険者からも直接は言われないけれど陰で言われているのは知っている。“剣聖パーティーのお荷物”。そんなこと、僕自身が一番分かっている。
アリア率いる剣聖パーティーは間違いなく王国一番の冒険者パーティーだ。本来ならもう既に王国中のダンジョンを攻略していたっておかしくない。そうなっていないのは僕の存在。僕が、彼らの足並みを遅くしている。
初めて攻略を失敗した『眠らずの洞窟』が良い例だ。
あのダンジョンを攻略中、襲いかかる魔獣の群れをみんなは僕に届かないように庇って戦っていた。そのせいで、彼らは撤退を選んだ。
あまりにも無様な姿。何故僕はこんなにも弱い。いくら鍛えたって強くならない僕の身体、そしていつになっても使い方が分からない<才能>。自分に纏わる全てが憎かった。
その後、彼らはギルドと王国からの依頼で突如出現した魔獣、“巨獣タイタン”の討伐に赴き、見事依頼を成し遂げた。僕は着いて行っていない、アリアから待機していて欲しいと、悲しそうな目で言われたからだ。それを僕に否定出来るはずもなく、街で待機して、帰ってきたアリア達を見て、ようやく決心が付いた。
このパーティーを抜けよう、と。
これまで脱退しなかったのは夢があったから。アリアと一緒に世界を冒険する。村で結んだ小さな約束。彼女が覚えているかは分からないけれど、今の僕にはもうそれだけしか縋れるものがなかった。しかしそれもここまで。分不相応だったんだ。彼女の隣は・・・・・・強く、逞しいカイルが、相応しい。
きっと、僕の運命は最初から決定づけられていたんだ。あの小さな村で、<ステータス編集>という才能を告げられた時から。
その運命が変わったのはアリアにパーティー脱退の宣告をされた時ーーー
カイルとマギサは王都に来たことがあったようだけど、僕を含めた他の三人は初めて来る場所。アリアは王都の武器屋に向かい、ユートリアはマギサを連れて何処かへ言った。“精霊様”がどうとか言っていたからきっといつもの貢物探しだろう。そして僕はというと・・・・・・カイルに首根っこ掴まれて王都にある教会、大聖堂に来ていた。
『ちょ、ちょっと待ってカイル!どこに行くつもり!?』
『さっき言っただろ、大聖堂だよ』
『なんで、そんな場所に・・・・・・』
『なんでって・・・・・・随分前言ったじゃん、お前の才能の事。聖書はここでしか見られねーからな、王都に来た目的の半分は此処だったんだ』
『・・・・・・は?』
カイルの言葉の意味が分からなかった。彼が言っているのは嘗て彼が吐いた嘘。聖書に僕の才能が書かれているというくだらない嘘。それはあの時滞在していた街にある教会でアリアと共に確認した。
『嘘じゃねーよ・・・・・・あ〜、もしかしてお前、他の街の教会にある”写し“を見たな?』
『”写し“なら正しいんじゃ・・・・・・』
『ま、そう思うよな・・・・・・これ、誰にも言うんじゃねえぞ』
それからカイルは人通りの少ない所に行き、周囲に誰も居ない事を確認してから真剣な顔で僕の耳元に顔を近づけ小さな声で言った。
『”写し“は嘘っぱちだ。本当の聖書、原本は王都の大聖堂・・・・・・そこの禁書庫にある』
『な、何だよ、それ・・・・・・』
『色々複雑な事情があるらしーんだわ、俺も騎士様に連れて行って貰った時に少し聞いただけだから詳しいことは知らん。・・・・・・ガチで誰にも言うなよ、言ったら俺とお前の首飛ぶから、物理的に』
『・・・・・・今の状況、不味いんじゃ』
『ああ!不味いな!』
言うことを言って満足したのかカイルは顔遠ざけて豪快に笑った。その様子を見て呆れると同時にふと思った。あの時、沢山の人がいるギルドの中で僕の才能が聖書に書かれてるってことを言ったのってかなり不味いんじゃ・・・・・・。
『ああ!マジですまん!勢いで言っちまったんだわ!』
バカだこいつ。
とはいえ、そんな事情があったからこういう時でもないと、聖書の事実を言えなかったんだろう。そして僕達はカイルの言葉を鵜呑みにして、”写し“を読んで“カイルに騙された”と、そう思ったんだ。カイルは『写し読んだんなら言ってくれよ』とボヤいているが、嘘つきで嫌っている人と出来るだけ話したくはないだろう。
そのままカイルに連れられて辿り着いた大聖堂、その奥深くに隠された禁書庫と呼ばれる場所に僕は来ていた。
『えーと・・・・・・?確かこの辺に・・・・・・あった、これだこれだ。ほれ、読んでみ』
そう言って手渡された一冊の古びた本。表紙は何も書かれておらず、開いて読み進めるが・・・・・・これは何かの物語だろうか。それから数時間読み進めて行き、読み終えることが出来たが内容は絵本とかでよくある勇者と魔王の物語だったと思う。そして、疑問に思った点は二つ。結局僕の才能については何一つ書かれていなかった事。もう一つは読めない単語が一つあった事。
『・・・・・・ねえ、結局どこにも書かれて無かったんだけど』
『これだよこれ、ちょうどお前この単語見て唸ってたじゃん』
そう言って彼が指さしたのは僕が読めなかった唯一の単語。それが僕の才能、<ステータス編集>だと言う。どうしてこれが読めるのか問うてみると・・・・・・。
『むしろお前、それ以外読めるんだな。俺はこの単語しか読めなかったけど』
『え・・・・・・?』
『つーか、俺たち以外は何書いてるか読めねーらしいぞ。だから俺はこの聖書に関係有りそうな奴を此処まで通せる許可貰ってんの。で、なんて書いてた?』
『え、と・・・・・・勇者と、魔王の戦い、について、かな・・・・・・』
『へー、絵本みたいなやつか・・・・・・過去にそういう戦いがあったか調べるのも良さそうだな』
それ以上は特に何も分かりそうに無かったため僕達は大聖堂を出て、宿に戻った。その日の夜、ずっと考えていた。
あの読めなかった単語、あれが<ステータス編集>と読めるのなら、僕は・・・・・・・・・・・・。
『は、はは・・・・・・とんだ、
あれに書かれていた内容は、僕達の状況とほぼほぼ合致する。これじゃあ、僕は・・・・・・・・・・・・。
結局、才能の使い方は分からなかった。分かったのは僕の辿る末路、その先例。絶望して、涙を流して・・・・・・明け方になった頃、ふと前を見ると何か異質なモノが目に入った。
『なに、これ・・・・・・』
この瞬間、僕の才能は覚醒した。原因は間違いなく、聖書の原本を読んだ事だろう。カイルも言っていたようにあれは不可思議な力が働いているらしい。そうやって慌てて、何かできないかと色々試していると・・・・・・ある程度、この才能の事が掴めた。
・目に映る、薄い板のようなものは指で触れて操作できる。
・剣聖パーティーそれぞれの情報が網羅されている。
・自分の情報は”編集“が可能。
試しに自分の情報を”編集“してみたが、特に変わった様子は無い。外に出て、人のいない所で剣を振って見ると・・・・・・空気が裂けた。
思わず、笑ってしまった。これが、僕の才能?とんだ酷い才能だ。これまでどれだけ努力したって手に入らなかった力が、たった少し指を動かすだけで手に入った。この才能は・・・・・・・・・・・・努力を無に帰す。
『カイルも、無駄なことをするんだね・・・・・・』
そう、カイルだ。この目に映る情報自分だけじゃなくパーティーメンバーの情報すら見れるようだ。これを信じるならば、彼はーーー”無才“の人間だ。じゃあ何故あれだけ強い?答えは一つ、”努力“したから。そしてその”努力“をたった数秒で、僕の”才能“が上回った。なんて、無意味なんだ。
加えて、カイルが”無才“なのならば、それは聖書の内容と食い違いが出る。そうだ、彼はあの場所に居てはいけない。・・・・・・そう、あの場所には彼が騎士様と慕う人が本来いるはずだった場所、そうに違いない。
正さなきゃ、あるべき姿に。
いや、違う。僕はパーティーを抜けて・・・・・・。
カイルを追い出すんだ、アリアの隣から。
僕はただ、あの頃の夢を、約束を・・・・・・。
みんなカイルに騙されている、彼は、アイツは”無才“、悪魔の手先だ。
な、んだ、これ・・・・・・頭が・・・・・・
僕の才能で、カイルを絶望させる。簡単な事だ。
それからの事はあまり覚えていない。意識がハッキリしたのは再び王城に赴いて、カイルと戦っている時。
『今の状態じゃ俺に勝てねえ!じゃあやる事は分かってんだろ!!テメーの才能を!!ここで進化させてみせろ!!』
突然、脳に響いた誰かの声。聞き覚えがある、この声の主に目を向けると・・・・・・血に塗れたカイルが立っていた。彼は何を言っている。今はどんな状況だ。僕は、何をしている・・・・・・?
分からない、何も分からないが・・・・・・それでも彼のしたい事が分かった。僕と、戦いたいんだ。
才能しかない僕と、努力しかない彼が。
そこでようやく目に映る。才能が覚醒したことで見えるようになった薄い板、ステータス情報と呼んでいるそれに記載された僕の欄に、謎の一文が羅列されていること。
迷わず、その一文を削除した。瞬間、視界が晴れた気がした。状況を理解するよりも先に、”編集“する。自分の情報に”武術“を書き加える。この時、僕の才能は進化したのだろう。
ここから僕は彼を押し始めた。
やっぱりそうだ、努力なんて無意味。この世界は才能が全て。
ようやく分かったんだ。僕の役目。
彼に才能の力を知らしめて、夢を諦めさせるんだ。彼の様な”無才“の人間は、この世界じゃまともに生きていけない。
彼にそう教えるのが、僕の役目。
結局、僕は彼に負けた。この眼に映る数値では勝っていた。才能も進化し出来ることの幅が増えた。それでも負けたのは恐らく、経験値の差だろう。だったらこれから僕がするべき事は・・・・・・。
そう考えたところで、誰かから声が掛かる。
「あの、ゼイロ様。これからどうされるんですか?」
僕がアリア達の元を離れて最初に出会った少女。理由は分からないけれど僕に付いてくる様になった子。名前は・・・・・・何だっけ。
これから僕は逃げた彼を追いかけなきゃいけない。彼が逃げる先は世界の果て。だったら一人じゃ・・・・・・難しいかもしれない。
「ごめん、君の名前・・・・・・教えてくれる?」
「・・・・・・やっぱり、覚えてなかったんですね。いいですよ、私の名前はーーー」
一人一人改めて、自己紹介する。なんで、名前の一つも覚えなかった自分にここまで良くしてくれるんだろうか。分からない。分からないが、もう、忘れない。
そうして再び歩き始めて、思考がクリアになったことで・・・・・・思い出した事がある。
アリア達と別れた後、
**
マギサの転移魔法により脱出し、俺たちは王都から遠く離れた平原にいた。すげー距離だが、あっさり転移させたマギサはもしかしたら騎士様以上にヤバいのかもしれない。いや、騎士様も似た様な事はやってたしそんな事は無いかも・・・・・・。いや、どうだろう・・・・・・。
「うし、じゃあこのまま王国出て冒険の続きをーーー」
「それじゃ、アタシは此処までだから。あとは頑張んなさい」
「ーーーしよう、ぜ・・・・・・って、は?マギさん?一体何を・・・・・・」
「マギサちゃん・・・・・・?」
マギサのまさかの一言に俺とアリアは狼狽始める。いや、めっちゃいい雰囲気のまま此処まで来たじゃん。このまま一緒に行こうぜ。
「悪いわね、さっきのパーティで王子に仕事頼まれたのよね」
「あっ、そうだ王子!あの人なんか隠してるだろ!そういうことなら俺も着いて行くわ!」
「ダメよ、これはアタシの仕事。ちょっと魔法学園で問題が起こってね、アタシにしか解決できないからアンタら来ても意味ないわよ。アンタ達はアンタ達の道を進みなさい」
マギサからの明確な拒絶。ここまで拒絶されたのは初めてだが、マギサがどうにかなる姿は見えないから送り出すのが吉か・・・・・・?アリアも悩んでいる様だが・・・・・・ま、俺たちは冒険者。今生の別れでも無いし、会おうと思えばいつでも会える。ゼイロを巻いたら魔法学園に遊びに行くか?
「・・・・・・じゃあさ、王子に会っといたら伝えてくれ。『パーティでは迷惑かけた、ごめん。何かあったら言ってくれ、全力で協力する』ってな」
「しゃーないわね。良いわ、伝えておく」
「本当に、一人で大丈夫ですか・・・・・・?」
「大丈夫よ、パパッと解決してやるわ。そもそも冒険者なんて出会いと別れの連続。すぐ会えるわ」
「気をつけてくださいね・・・・・・マギサちゃん」
アリアもマギサの意思を尊重するようで、大人しく引き下がった。マギサが離脱か〜、こうなると俺の前衛としての力が試されるな!なんて考えているとユートリアが続けて口を開く。
「すまないが、私も此処までだ」
「ってうおい!何でお前もだよユートリア!」
「ふふ、精霊様のお導きさ。”東の大陸に向かえ“と啓示なさってね」
「じゃあ途中まで一緒に行こうぜ」
「ダメだよ、それだとキミが死ぬ」
「えっ・・・・・・なんで・・・・・・?」
「精霊様からキミへ託けを預かっている。・・・・・・『ワシを邪霊扱いしたクソガキ、次相見えた時殺す』だ、そうだ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふーっ。
「マギサも同罪だよなぁ!?お前も俺の考えに同意してたもんな!!」
「精霊様はマギサ嬢については不問とされるそうだよ」
「なんで!?」
「あははっ、ウケる」
「クッソオオオオオ!」
「あ、あはは・・・・・・」
地面に手を突き叫び声を上げる俺に、アリアだけが背中をポンポンと慰めてくれる。マギサも道連れにしようとしたのに・・・・・・罰が当たっちまったよ・・・・・・。
「と、いうわけで私は失礼するよ。私も友を殺すのは忍び無いから、せいぜい逃げてくれ。世界の果てまでね」
「あはは、良いわねそれ。そうねぇ・・・・・・じゃあアタシも今度会った時、アリアが幸せじゃなかったらアタシが盗っちゃうから、覚悟しておくことね」
「お、お前ら・・・・・・」
二人は手を振りながらそれぞれの道を歩いて行く。う、嘘だろ。ゼイロだけじゃなくてユートリアとマギサからも狙われんの?俺・・・・・・。
呆然としていたが、何時迄も呆けていても何も始まらない。
「お前らーっ!元気でなーっ!」
俺の声が届いたかは分からないが、言いたい事は言った。あとはなる様になるだろ。別れも済んだため、残ったアリアとフィリスに声を掛ける。
「じゃ、行くか」
「そうですね」
「え、えぇとぉ・・・・・・」
「どうした?フィリスさん」
「・・・・・・私もぉ!巡礼の旅に出ますのでぇ!それではお二人ともお元気でぇ!」
「ちょ、フィリスさん!?」
顰めっ面をしていたフィリスだが目をカッと開いてそんなことを言いながら走り去っていった。もしかして、気を使わせてしまったか?
「・・・・・・ここまでありがとなーっ!」
「フィリスさん、お気をつけて!・・・・・・気を使わせてしまいましたかね」
「あー、まあそうだろうな。別に気にすることねーんだけどな」
「・・・・・・私は、カイルと二人旅で嬉しいですけど」
「!?」
アリアの攻めた発言に思わずギョッとする。だけど確かに、此処暫くは恋人らしい事が出来ていなかった気がする。フィリスには悪いが、この状況にしてくれたことに感謝しよう。敬礼。
それから俺達は他愛無い話をしながら近くの街に向けて歩き始めた。とりあえず近くの街に行って、そこで国を出て次の冒険を始めよう。早くしよう。そうしなきゃゼイロが追ってくるだろうし、ユートリアも怖い。マギサも怖い。はぁ・・・・・・良いパーティーになったと思ったのに解散か。
ゆっくりとした冒険は出来なさそうだけど、冒険なんてそんなものなのかもしれない。
「そういえば、カイルって何かしたいことあるんですか?」
「今やってんじゃん、全世界の踏破だよ」
「あぁいえ、そうではなく・・・・・・その夢が叶った後、何かしたい事があるのかなと思いまして」
「夢を叶えた後か・・・・・・・・・・・・静かに過ごしてーなぁ」
「静かに、ですか?」
「ああ」
女神様から授かった才能が<無し>だと判明してから、俺はここまでずっと激動の人生を送って来た。一度も心が休まった事は無い。あー、いや、アリアと一緒にいる時はゆっくり出来たか。とはいえ、本当の意味で心を休められたことなんて無かった様に思う。才能のない俺が此処まで来るには、それだけのことをしなければ無かった。
なんなら、これから先、これまで以上に多くの困難が待ち受けている筈だろう。その一つがゼイロ。俺の中ではもう決着は付けたが・・・・・・あの様子なら延長戦が始まるだろうな。俺は逃げるが追い付かれたのなら・・・・・・その時は相手しよう。ユートリアだって逃げて欲しいとも言っていたし、マギサもチンタラしてるとアリアを盗るとか言ってたし・・・・・・。アイツ妙にアリアには甘いと思ってたがやっぱ
『これが才能の力だー!ざまあみろ!』
『これが精霊様の力だー!ざまあみたまえ!』
『アリアはアタシの女よー!ざまあみなさい!』
心の中の元仲間達がそう言ってくる。やめろやめろ!なんで元仲間に襲われなきゃいけねーんだ!
世界の果てに辿り着いてそういう問題が全部解決したら後はゆっくり余生を過ごしたいと、そう思った。
スローライフだな、スローライフ。それがいい。
「ふふ、良いですね。それじゃあ私は畑仕事したいです。村で勉強しました」
「やったことあるのか?」
「家の窓から覗いていました」
「・・・・・・やる時は一緒にやろうな」
「はい!」
満面に笑みを浮かべるアリア。この笑顔を見るとこれから待ち受ける困難がちっぽけな様に思えてくる。
だが、それじゃ駄目だ。脅威を視認し、しっかり準備して、備えて、困難に対抗しなくちゃいけない。
つまり、俺の当面の目標は一つ。
元パーティーメンバーに『ざまぁ』されないように世界の果てまで逃げる。ただそれだけだ。
**
「ただいま戻りましたぁ」
世界の何処か。上も下も、右も左も白に覆われた静謐な空間。背中に純白の翼を生やしたフィリスはその中心に佇む目的の存在に声をかけた。
雪の様な煌めく白髪を持ち、両眼を黒い布で覆っている美しい女性。名を持たぬ神聖なる存在。
「ーーーご苦労様でした、フィリス」
天界の主たる存在ーーー女神が、厳かに微笑みながら応じた。
「ほんっと無茶振りしますよねぇ、女神様」
「それは・・・・・・すみません。私はここから動けませんので」
「はいはい、何回も聞きましたぁそれ」
申し訳なさそうに眉を下げる女神に、フィリスは心底うんざりした様子で肩を竦める。
女神の僕たる、天使フィリス。それが彼女の正体。
僕とは言っても、そこに明確な上下関係があるわけではない。形式上、天使達は女神を上に立ててはいるものの、基本的にはかなり自由に行動している。フィリスもまた、地上で自分の目的のため行動していたところを、女神から直接頭を下げて懇願され、自分の目的とも一致する利のある話だったため渋々その願いに付き合っていただけだ。
「これで良かったんですかねぇ」
「ええ、これで皆さん“世界の果て”を目指していただけます」
「本当にあるんですかぁ?そんな場所」
“世界の果て”。天界の存在ですら観測の出来ない未知の領域。女神は人類がそこに辿り着くように天使を使って誘導している。もっとも、今の所辿り着いた事は無いが。
「できればあのまま貴女も彼らに着いて行って欲しかったのですが」
「いやいや無理ですぅ!あの2人の間に挟まりたく無いですよ私はぁ!ていうか何であの流れでパーティー解散するんですかぁ!?意味分かんないですよぉ!」
「ふふふ、やはり彼のお陰で随分と変わって来ています。ようやく、私の“期待”に応えてくれる人間が育ちました」
女神の言う“彼”とは自らが才能を授けなかったカイル。カイルの動向を近くで観察し、万が一の事態が起こった際はサポートさせるため天使であるフィリスを遣わせていた。
「・・・・・・あのぉ、結果は上手くいきましたけどぉ・・・・・・
「・・・・・・すみません、ですがこうする他無く・・・・・・」
「カイルさんがあのように育ったのは貴女のお陰ではなく、彼自身の努力と!彼が騎士様と慕うあの人のお陰です!女神様の期待がどうとかは止めて下さい!」
「う・・・・・・そうですね、貴女の前では控えます」
「私の前じゃ無くても止めて頂きたいですねぇ・・・・・・」
フィリスの怒りに女神は謝罪するが、その瞳の奥の合理的な考えが変わることは無い。女神と天使、そして人間ではそれぞれの思いも、目指す理想も、何もかもが違う。
「彼と、あの国の第一王子には随分と助けられました」
「・・・・・・あのお二人ですかぁ、あのお二人が居て失敗したらもう諦めて下さいねぇ」
「私もそのつもりですよ。ここまで盤面が整った上で、あのお二人がいて失敗する様なら私も諦めましょう」
「是非そうしていただけますと幸いですぅ・・・・・・そういえば、聞きたかったんですけどぉ」
ふと思い出したようにフィリスが問う。
「ゼイロさんの才能、あれ結局何なんですかぁ?女神様、あんなの
「そうですね、彼には別の才能を授けていましたが既に
「女神様、割とそういうところ雑ですよねぇ。そのせいでアリアさんとマギサさんの才能に影響が出ているじゃないですかぁ。ユートリアさんに影響が出なかったのはよく分かりませんがぁ・・・・・・」
「ユートリアさんは大精霊に守られていますから。貴女もかの大精霊の怒りは買わないようにしてください。・・・・・・準備は整い、物語は始まりました。後は見守るだけです。貴女達天使の皆さんも自由に動いて頂いて大丈夫ですよ」
「ふーん・・・・・・じゃ、そういうことで私はカイルさんの後をこっそり付けましょうかねぇ。“無才”であることを明かした今、彼は苦労することでしょうし、陰から支えることにしますよぉ」
そう言い、フィリスは踵を返し女神に背を向ける。
フィリス達天使の根底にある想いは皆同じだ。女神に才能を授けられなかった人達の救済。世界に蔓延ってしまった“無才”への迫害、その撃滅。そのために天使達は人間の暮らしに溶け込み、行動している。長い時を掛けて、女神と縁深い教会の意識改革には成功した。というか、現在の教会のトップに天使を据えられたから成功した。後は教会外の人間への意識改革だが・・・・・・かなり難航している。王城での一幕が良い例だ。どれだけ教会が声を上げようとも、世界には届かない。もっと力が必要だ。
故に、教会では腕の立つ者を冒険者として送り出し、名声を得て立場を作らせてから意識改革を行おうと画策している。
この場を去ろうとするフィリスに女神が「最後に一つだけ」と言って。言葉を紡ぐ。
「貴女がカイルさんに近づく際、妨害して来た彼についてですが・・・・・・」
「あー・・・・・・あのギルド職員ですかぁ、そういえばいましたねぇ。彼、何者なんですかぁ?勘が良すぎる気がするんですがぁ」
「彼は私とは別口からの指令で動いてますので今後も会う事があると思います。その時は彼と協力していただけると助かります」
「えぇ・・・・・・私、あの人嫌いなんですけどぉ・・・・・・」
「人じゃありませんよ」
「・・・・・・・・・・・・考えるのやーめたぁ!」
「それでは、行ってらっしゃい。どうか健やかに、フィリス」
「女神様もお元気でぇ!」
フィリスは言い捨てるように女神に言葉を返し、光の粒子となってその場から姿を消した。
元来、面倒な事は嫌いだが、それ以上に女神の授ける才能により苦しむ人達を見捨てられない彼女。最後に女神から伝えられた事は“余計な情報”として頭の片隅の追いやり、自分の目的を果たすため行動を始める。彼女は目的のためならば最悪、天使としての“誓約”を破って良いとすら思っている。彼女だけでなく天使は皆、その覚悟を決めている。
一人残された空間で、女神は静かに呟く。
「そう、盤面は整ったんです。後はただ・・・・・・各々が全力で歩むだけ。“世界の果て”へ辿り着く鍵となるのはーーー」
その薄い唇が、静かに、愛おしげに歪んだ。
「ーーーカイルさん、貴方です。心から“期待”していますよ」
“俺たちの冒険はこれからだ”という名のぶん投げエンドです。
色々思うところはあると思いますが、これにて締めます。
最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。
この作品の背景や、今後の活動については活動報告に載せましたのでそちらもお読みいただけると幸いです。(このような終わりした理由も書いてます。)