"絶望的な欲望を人に与えるのは、いつも魅入る別れを惜しまぬ者だ。"

1 / 1
理解出来ない。

上へ上へ登っていく円盤。

 

その場にいる誰もがそれを見つめ、涙を流し、心に刻む。

 

みんなに愛されて、みんなを愛したかぐやは役目を終えたように羽衣を纏う。

 

その姿はもう、太陽じゃない。

 

手を伸ばそうとしても、声を出そうとしても、

 

凌駕するほどの後悔が、自責が、感情が零れてしまいそうで、

 

何とか器の端、表面張力ギリギリで堪えて、

 

限界を弾き出すように、

 

寂しさを孕ませられながら、

 

 

 

ログアウトした。

 

 

 

────────

─────

 

戻った現実には、空気の掠れる音が。

 

足元には、かぐやの服とヘットホンが。

 

『..大好きっ!』

 

.....ぁぁ。

 

『彩葉!遊ぼー!!』

 

...いっつも邪魔ばっかしてきてさ。

 

『彩葉、今日はアメリカン料理だよ〜!』

 

私の事ばっか気にしてさ...。

 

『...彩葉、これにはクレーターよりも深い訳が..!!』

 

どんな時でも、楽しそうにしてた....。

 

『おっしゃァーー!!』

 

なんでも本気で挑んでた...!

 

『かぐやは、かぐや姫だったみたい』

 

どうして、受け入れちゃったの....。

 

『彩葉、お疲れ様!』

 

どんなときも笑顔で....私の事、見てくれたのに....。

 

『彩葉ならダイジョーブ!!』

 

寂しくて寂しくて、もう、おかしくなりそうだよ。

貴方が恋しくて、おかしくなりそう。

 

敷かれた布団の上で膝を抱える。

 

 

......。

 

.............。

 

 

........................。

 

 

 

 

月が昇りと朝日が沈む。

 

気が遠く成程、何度も繰り返される。

 

それでも私の心が晴れず、少しずつ、少しずつ雲を濃くしていく。

 

かぐやとの記憶を思い出す度に、何かが私の底に出来ていく、黒い不完全な形の何か。

 

深く沈み込んで、こびり付いて、私を少しずつ変えていく。

 

それと同時に湧く、何か混じりっ気のある愛情。

 

生きろ、生きつずけろ。と言わんばかりにどんどん、どんどんと湧き出てくる。

 

それはいつの間にか体をホルマリン漬けにし、立ち上がらせていた。

 

────

──

 

気づけば、もう10年。

 

人生を遠目で見たら一瞬の出来事。

でもそれが今を作ってくれていた。

 

なら、今の私は満足しているか?

 

そんなわけ無い。

 

これは満足出来じゃない。

 

あの時私が、かぐやが、みんなが望んだハッピーエンドは誰1人かけることなく、底なしの幸せで浸かるものだったはずだ。

 

だから、目指した。

 

かぐやのように全力で楽しんで、自由に、止まることなく。

もちろん苦労も苦痛も経験した。

でも、その度に私の底にある何かが力をくれた。

 

 

限界を超えて、新しい限界に踏み込む力を。

 

 

....。

 

そして、今日。

それは果たされる。

 

 

目の前に堂々と設置されているのは自身の人生を捨ててまで作った代物。

長方形の枠がいくつも重なり、枠の隙間からは淡い凰色が漏れでており、どこか妖しい雰囲気を醸し出している。

その装置の最奥に位置しているのはタケノコ型の箱舟。

 

周囲には強化ガラスを1面、その奥には人影が浮かぶ。

 

その人影から声が聞こえてくる。

 

『準備はいいかい。酒寄君』

 

萎れた、けれど興奮を隠しきれていない老人の声が部屋に響く。

その声に1寸の待ちを与えることなく答える。

 

「はい。後の処理、お願いします」

 

『任せたまえ。最後にいいかい、"君の"処理は何処へ送ればいいかな?』

 

その問に一瞬口が止まる。

 

「....お任せします。もう、用もありませんし」

 

我ながら冷たい回答だと思う。

昔の私が見たらなんて言うだろうか。

 

『そうか』

 

老人はただ一言。

 

それから数秒後、起動音がキツく耳に入ってくる。

 

....遂に。

 

遂にだ。

 

 

この実験、表向きは人間の意識拡張実験としているが真の目的は違う。

 

冷戦期、ある2つの大国はお互いに自国の優位性を示すためにあらゆる分野で競争をおこなった。

 

その中には宇宙進出も含まれていた。

 

そして、いつしか宇宙への進出先は月へと変わっていた。

 

時代が流れ、あの出来事の前も、後も、

パイロットを乗せたいくつものロケットが月へ向かって打ち出された。

 

私はそのニュースを見る度に誓った。

 

 

 

『かぐやに会いに行く』と。

 

 

 

そして今度は私の番。

手に入れた切符はNASAから渡されるものとは違って歪なものだったけど。

 

けれど、誓いは果たせる。

 

片道切符を目にはめ込み、装置前の椅子に座る。

 

目を閉じて、再び目を開ける時には.....

 

 

 

─────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

 

 

──────────────

 

 

 

 

───────

 

 

 

 

────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

﹌﹌﹌﹌

 

 

 

 

﹌﹌﹌﹌﹌﹌﹌﹌

 

 

 

 

 

 

﹌﹌﹌﹌﹌﹌﹌﹌﹌﹌﹌﹌﹌﹌

 

 

 

 

 

 

 

 

﹌﹌﹌﹌﹌﹌﹌﹌﹌﹌﹌﹌﹌﹌﹌﹌﹌﹌﹌﹌﹌﹌﹌

 

 

 

 

 

 

 

 

....ぁ、綺麗...ッ!

 

視界に映ったのは地球。

けれど奥行はなくピクセルアートのよう。

 

そして処理することの出来ない、逃げ場のない脳への苦しみが襲いかかってくる。

けれど平気だ。常に痛みと一緒に生きてきたんだから...ッ。

それに久しぶりに会えたしね。

 

▶▷▶〘〘✡¿¿✧✣✍✄✰¿✡☠✟‼〙〙◀◁◀

 

ぞろぞろと小バエのように飛んできているのは提灯頭。

 

どうやら歓迎されているらしい。

ていうかコイツら私の事覚えてるんか?

 

武器の柄を握り直して私の方から迎えに行く。

ここはKASSENじゃない。

だからお兄ちゃん直伝のコードだって使いたい放題だ。

 

刃を振り抜きでた飛ぶ斬撃はまるで意志を持っているかのように敵の首を咲いていく。

 

私はそれに囲われながらゆっくりと1歩ずつ確実に宮殿の奥間へと近ずく。

一体また一体と次々に斬られ、千切れ、削られていく。

進む地面には青色の花弁が目指す場所を示すように私を導いてくれた。

 

 

 

私の姿はきっと鬼退治に来た桃太郎のようだろう。

 

それとも、お姫様を起こしに来たプリンスだろうか。

 

 

 

苦痛を抱えながら廊下を歩く。

 

使用人のような者が私を見つけては叫び、恐怖し、逃げ惑い、そして切った。

ある者は不慣れな様子で武器を持ち立ち向かい、首を堕とされた。

またある者は頭を垂れて命乞いをし、頭を潰された。

 

気配がする部屋は一室一室丁寧に、無邪気に虫を踏むように、確認していく。

 

誰にも。邪魔されたくないから。

 

───────

────

 

気配も息遣いもなくなり始めた頃、

最奥の手前、光が漏れ出る襖が目に入る。

 

それは他の部屋とは何かが違う。

足裏に花弁の粘り気を感じながらゆっくりと近ずく。

 

武器を片手に置き、片方で引手触れて直感する、『ここだ』。

 

勢いよく引くとそこには...

 

 

 

背中を通り床まで伸びたしなやかな髪、

背筋は真剣、雰囲気は違いど見間違えることはなかった。

 

「....かぐや」

 

"迎えに来たよ"

 

気が付いたのかピクりと首が反応する。

 

恐る恐る金色に変化していく髪をふわりと流しながら彼女は振り返る。

 

「いろ...は...?」

 

目に輝きを戻し、涙を浮かべ、口を曖昧にあけ、裳唐衣を無理やり引きずって、

 

「おまたせ、迎えに来たよ....!」

 

「いろはぁ!!」

 

迷うこと無く飛びついてきた。

 

 

「いろは!いろはぁ!!!」

 

「うわぁ!?ちょ...おも..!」

 

押し倒されて床に叩き寝かされる。

かぐやはまるで飼い主に再開したゴールデンレトリバーみたいだ。

 

「....かぐや」

「なに!!ッ!?」

 

腹上に乗るかぐやの手を引っ張って私の眼前まで引き寄せる。

 

「.....」

「......」

 

目の前に映る綺麗な目を見て思う。

あぁ、私...やっぱり、かぐやのこと....、

 

「ねぇ、かぐや」

「..うん」

 

「ずっと....会いたかったんだよ」

「抱きしめたかったんだよ」

「こうやって、話したかったんだよ....」

 

月の熱に溶けていく。

 

氷の女王と言われていた私が。

 

零れていく。

 

内に秘め続けた願いと一緒に。

 

「だからね。かぐや...」

「私と」

 

 

「一生一緒にいて下さい」

 

 

 

嫌いになんて、なれないよ....。

 

それは本心から出た思い。

誰にだって崩せない、崩させない思い。

 

かぐやはまるで待ってましたと言わんばかりの表情をしてニッコリと、

 

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

私を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...ぇ?」

 

 

 

 

 

 

 

かぐやの、首が飛んだ。

 

それは酷く勢い良く。

 

他の虫と同じように青色の花弁を床に散らしながら。

 

コロコロと転がった生首と奇しくも向かい合って、見つめあっている。

 

飲み込めない。

 

 

理解できない。

 

 

なんで...?

 

 

どうして...?

 

 

 

理解...できない....。

 

 

 

 

 

 

 

 

『分からないよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。