願いが叶わなかった私は、お茶屋さんを営んでいます。 作:如月雪見
前回、五大貴族のお力添えで郊外に牧場が出来ました。
視察にいらした際、プリンと薄荷茶を御試食いただきました。
お泊まりに来た歌匡姉達にはマシュマロとカスタードクリームも振る舞いました。
いずれも大好評で良かったです。
ーヒナタ(八咫烏)
=ミヅキ(鳳凰)
†メグミ(朱鷺)
Θアキラ(黒い小猿)
△ヒカル(金色の鷲)
▽トオル(青鷺)
ωミノリ(黒い小猫)
●ユタカ(牝牛)
○カケル(牡馬)
◎ツヅミ(雌鶏)
♪サユル/冴/←NEW(鷦鷯/ミソサザイ)
鳥、7羽目ゲットしました。
夕方、双也君と一緒に牧場の様子見を終えて帰る最中、アキラとミノリが何処からか鷦鷯(ミソサザイ)を拾って来た。
「どしたの、この子?」
Θ痛い、助けてって声が何度も聞こえたから、気になって行ってみたらさ
ωこの子が倒れていたの
Θ別の野鳥の縄張りに間違って入っちまったって
「うわぁ…」
「取り敢えず手拭いで包んで…帰ったら直ぐ手当てをしないと」
「そうね」
傷に障らないように注意しながら、急いで帰った。
「…これで良し。当分の間は大人しくしててね」
♪うん、ありがとう
ーそれにしても
=久し振りね、冴
♪久し振り!2人とも此処に居たんだね
†ヒナタとミヅチの知り合いとはな
Θ世間は狭いよなぁ
△此処は安全だから、安心すると良い
▽うむ、皆優しい者達ばかりだ
ω牧場にも同胞が居るから、怪我が治ったら紹介するわ
♪うん!
…メグミの言う通り、ヒナタとミヅチの知り合いとは言え、アッサリ打ち解けて良かったぁ
「サユル用の止まり木を用意しないとだな」
「あ…そうだね」
鷦鷯は日本でもトップクラスの小ささを誇る野鳥だから、他の子達の止まり木には上手く止まれないだろう。
止まりやすいように細工を施した止まり木を作って貰った。
それから早1ヶ月が過ぎた。
サユルの全快祝いとして、イチゴジャムを作った。
「…物凄い量のお砂糖を使いましたね」
「…うん。まぁ、ジャムは果物を長期保存する為のもので、保存食の一種だからね」
ー=△♪凄ぉ~い!
Θツヤツヤだな!
†▽ほほぅ…
ω私達にもくれるのよね?ね?
「勿論。先ずはそのまま食べてみて」
ぱくっ…
「…うん、予想以上に甘いですね」
「しかし、イチゴの酸味が程良い刺激で中々…パンやパンケーキと合いそうだな」
「でしょ?あんパンやクリームパンに加えてイチゴジャムのパンを作っても良いかなって。勿論、パンケーキだけじゃなくて薄荷茶に入れるのも有りだと思うしね」
「成程…」
「流石は里央さんですね」
ー=△♪美味し~!
Θパンケーキに付けたのが食いたい!
†▽ωイチゴジャムのパンを是非(!)
「はいは~い」
…良し、新商品化決定ね
試作品をペロリと平らげた彼等を満足気に眺めた。
「お待たせしました。丸パンのイチゴジャム添えです」
「「おぉ~!」」
「こ、これが噂のいちごじゃむ…!」
「現世では食べられなかったあの高級品が…!」
「死神になって良かった…!」
「「「美味ぇ…!」」」
要兄と双也君と話し合った結果、クリームパンの時と同じく、最初は丸パンに添える形で出して、お客様方に慣れて貰ってから改めてジャムパンとして出す事にした。
しかし、牧場のおかげである程度安定供給される卵、牛乳とは違って、栽培が始まったばかりでまだ採取できる量の少ないイチゴが原材料である以上、どうしても作れる量に限界がある訳で…。
必然的に早い者勝ちになってしまった。
その為、競争に負けたお客様方の反応はそれはもう凄かった。
「あの、いちごじゃむは…」
「すみません、本日の分は先程完売しました」
謝罪の言葉と共に頭を下げると、お客様はその場で崩れ落ちた。
そして、
「…畜生!」
「今日もかよ!」
「くそぅ!明後日こそ食ってみせるからな!」
「待ってろよ、いちごじゃむ!」
等と宣言しては立ち去って行く姿を目の当たりにする回数が増えた。
…ごめんなさい
…どんなに嘆かれても、原材料の供給が安定するまではどうする事も出来ませんので
…またのご来店、お待ちしております
イチゴの栽培が漸く安定し始めた頃、久し振りに山本様と雀部様がいらっしゃった。
「いらっしゃいませ。お席へどうぞ」
「うむ」
「久し振りですな、里央殿」
「はい。お二方共に変わらぬようで安心致しました。此方、本日のお品書きになります」
「「ふむ」」
2人はメニュー表を暫く見つめた後、ほぼ同時に注文をした。
「蓬団子に粒餡を添えたのを頼む。茶は番茶でな」
「パンケェキにイチゴジャムをお願いします。お茶はミントテーで」
「畏まりました」
注文の品を取りに厨房に向かった。
…2人とも、相変わらずだなぁ
山本様は定番の蓬団子かその他の和菓子にその日の気分でお茶を決めて、雀部様はその日出せる洋菓子にタンポポ茶かタンポポコーヒー或いはミントティーを注文する。
「お待たせしました」
「「おぉ…」」
ずず~っ…ごくり…はむっ…もぐもぐ…
全く同じタイミングで、それぞれのお茶をひと口飲んでからお菓子を食べるのは、まるで鏡を見ているようで中々楽しい。
「…腕は健在の様で何よりじゃ。美味、美味」
「部下達から話は聞いていましたが…このイチゴジャム、想像以上に美味しいですな。ミントテーとも相性が良くて、手が止まりませんよ」
「お口に合って何よりです。ありがとう存じます」
お代わりのお茶を飲んで、会計を終えたお二方を見送った。
それと同時に、来店している他のお客様方から安堵の息が漏れた。
「…はぁ~、緊張したぁ~」
「まさか、総隊長と雀部副隊長が参られるとはなぁ…思ってもいなかったぜ」
「あぁ…にしても、流石は総隊長だな」
「だな。新商品が出たからってはしゃいだりとか、浮き足立つとか一切無いもんな」
「うんうん」
「なぁ?里央さん」
「ふふっ、そうですね」
…まだ皆様にはバレてはいませんから安心して下さいね、山本様
数ヶ月後、山本様は1人で来店された。
「いらっしゃいませ。本日は個室が空いておりますが」
「うむ」
「此方、本日のお品書きになります」
「うむ…」
「(小声で)本日のお薦めは、薄餅に苺の甘露煮、薄荷入りのお茶にございますが、如何致しますか?」
「構わぬ」
「畏まりました」
こうやって、1人で来店された際は個室で洋菓子(パンケーキ、イチゴジャム、ミントティー)の表現方法を変えて注文する。
「お待たせしました。ごゆっくりどうぞ」
「おぉ…!」
歓喜の声を上げて、ひと口ひと口噛み締めるように味わう山本様の姿を知っているのは、私達3人だけ。
他の誰も知る事の無い4人の秘密である。
「馳走になった」
「ご満足いただけたようで何よりです。此方はお土産(苺の甘露煮を包んだ麺麭(めんぽう))になります。宜しければ是非、雀部様とお楽しみ下さい」
「うむ。…何時も済まぬな。其方等には本当に感謝しておる。息災でな」
「ありがとう存じます。またのお越しをお待ちしております」
…威厳ある山本様のこんな可愛い一面を、私達以外に共有なんて出来る訳が無いもの
「里央、パンケーキを3人分頼む」
「あ、は~い!」
要兄に呼ばれて厨房に戻った。
雀部視点。
今日、数年振りに山本先生のお供として〈お茶屋・おはし〉へ参った。
部下や他隊の隊長、副隊長から〈お茶屋・おはし〉で現世の洋菓子が新商品として出たと聞き、一刻も早く味わいたいと思ってまた数年が経ってしまった。
前回のカスタァドクリィムの時といい、マシュマロの時といい、何故か〈お茶屋・おはし〉に赴きたい時に限って忙しくなり、中々行けない日々が年単位で続くのは本当に勘弁願いたいものである。
…漸く、念願の苺ジャムを食べられる
パンケェキに苺ジャムを塗り広げ、ナイフとホークを使ってクルクルと巻き、ひと口大に切ったパンケェキを口に運んだ。
…カスタァドクリィムとは全く違う
…試食させていただいた生の苺は少々酸味が強かったが
…この苺ジャムは砂糖で煮詰めていると説明があったが
…そのおかげで、甘味が補強されて程良い甘酸っぱさに昇華されている
…それでいて、苺の食感はしっかり残っていて食べ応えがあって
「実に美味しい…丸パンに添えられたジャムはまた違うそうですが…うぅむ」
「…ふん、流行り物に踊らされよって…やはり、この蓬団子こそが至高じゃ。先代より受け継がれた由緒正しいこの味あってこその〈お茶屋・おはし〉じゃろうて」
「…はぁ」
…相変わらず、西洋由来の物はお嫌いのようで
思わず出た感嘆の声に総隊長は溜息を吐かれた。
…総隊長が何と言おうと、今はこのパンケェキと苺ジャムを楽しませていただきますよ
苺ジャム入りのミントテーをお代わりして、苺ジャムを堪能して店を出た。
…次に〈お茶屋・おはし〉に来れるのは何時になるだろうか
後ろ髪を引かれながらも、お土産の苺ジャムパンを大切に抱えて帰路についた。
山本視点。
久方振りに長次郎を連れて〈お茶屋・おはし〉へと赴いた。
…先日、大雨が降ったと聞いておったが
思ったよりも被害が少なかったようで何よりである。
…前回来た時は売り切れだったからのぅ
今回は蓬団子に粒餡を添えたのを注文した。
目の前では長次郎が、十数年前に新商品として出されたというぱんけぇきと、数年前に追加された苺じゃむとやらに薄荷を入れた茶を注文し、心の底から嬉しそうに頬張っている。
…今回もまた、美味そうに食しておるのぅ
確かに儂は西洋由来の物を嫌っている。
現世では次々と西洋から食べ物に着物に小物…挙げれば切りが無い程に、日の本に入って来ているからだ。
それは、日の本特有の古き良き物まで西洋の物に侵食されていくようで、とても口惜しく感じるのが主な理由である。
しかし、此処〈お茶屋・おはし〉は違う。
先代より受け継がれた菓子の味を守り、その上で彼等が受け入れやすいよう、工夫を凝らした洋菓子を出してくれるのだから。
…長次郎が食しておる苺菓子も、疑う余地など無い程美味なのであろうな
瀞霊廷内で目にする洋菓子は正直言って砂糖と脂の塊である。
そう評価するのも無理は無い。
西洋の菓子がそのままの形で入って来た状態故に、只管甘くて脂質が大量に含まれたそれは、人によっては胃の不調を訴える原因になり、最悪、砂糖そのものを舐めている方がマシだと思えるシロモノもある程だ。
…瀞霊廷の高級菓子屋なぞ、足元にも及ばないこの菓子を口に出来る日は当分来ぬな
今後の予定を思い返して内心がっかりしたものの、久方振りの蓬団子はしっかりと味わった。
数ヶ月後、どうにか1人で〈お茶屋・おはし〉に来れた。
…本当に此処の店主達には適わぬな
供も連れずに訪れる。
それはつまり、人目を避けて茶を楽しみたいという気持ちを的確に読み取り、最初に洋食として商品化した麺麭(めんぽう)…世間ではパンと呼ばれる食べ物を口にする事すら躊躇う儂を気遣い、現世での別称を教えてくれた。
以降、洋菓子を頼む時は儂専用の品書きを用意して頼みやすいよう工夫をしてくれる。
…その器量、気立ての良さが客達を惹き付けるあの者達の最大の魅力なのであろう
誰にも邪魔される事無く、じっくりゆっくり時間をかけて薄餅と苺の甘露煮を味わった。
「馳走になった」
「ご満足いただけたようで何よりです。此方、お土産になります。宜しければ是非、雀部様とお楽しみ下さい」
「うむ。…何時も済まぬな。其方等には本当に感謝しておる。息災でな」
「またのお越しをお待ちしております」
…長次郎への気遣いだけでなく、儂が土産を口にし易い言い訳もこうして毎回用意してくれる
…誠に有難い事じゃ
〈お茶屋・おはし〉は他の何を差し置いても守らねばならない聖域、理想郷だと皆が口にするのも致し方が無いと、改めて思う山本元柳斎重國だった。
いよいよ護廷十三隊とのお話をと思ったのですが…。
どの隊から書こうか悩んだ末、やっぱり生き字引のお2人からかなと。
洋食嫌いの山本元柳斎も、〈お茶屋・おはし〉は別物として足繁く通っていそうだなぁと。
表向きは洋食嫌いを公言しているものの、日本人好みにアレンジされた洋菓子なら人の目を盗んでこっそり食べていそうだなぁ…と思いまして。
そして、洋食好きな雀部さんとの相性は絶対に抜群でしょう。
さて、次は何処の隊の方々に来店していただきましょうか…。