願いが叶わなかった私は、お茶屋さんを営んでいます。 作:如月雪見
前回、護廷十三隊の創始者の山本様と右腕の雀部様がいらっしゃいました。
お土産の苺ジャムパン、お気に召したなら幸いです。
ーヒナタ(八咫烏)
=ミヅキ(鳳凰)
†メグミ(朱鷺)
Θアキラ(黒い小猿)
△ヒカル(金色の鷲)
▽トオル(青鷺)
ωミノリ(黒い小猫)
●ユタカ(牝牛)
○カケル(牡馬)
◎ツヅミ(雌鶏)
♪サユル(鷦鷯/ミソサザイ)
⊗紡/ツムギ(狸)←NEW
サユルを家族に迎えてから、氷室の保ちが良くなったので、思い切って夏季限定のアイスクリンを少しだけ増やす事にした。
更に、干し柿や干し苺も冷凍保存出来るようになったからと、アイスクリンに混ぜてフレーバーの種類を増やしてみた。
そして先日泊まりに来た歌匡姉から齎された〈とある情報〉をキッカケに、急遽ブラマンジェ/通称・牛乳プリンを新商品として出す事にした。
その結果、より多くのお客様が涼を求めて来店するようになった。
「「「はぁ~…生き返るぅ…」」」
「アイスクリンが美味ぇ…」
「プリンだってそうだろ?」
「違いねぇや…」
「おいおい、牛乳ぷりんも忘れちゃ駄目だろうが」
「あ、やべ」
「お前なぁ…」
「だってよぉ、毎日売り切れで未だに食えてねぇからさぁ…」
「アイスクリンにプリン…これが今の俺の魂の支えだぜ」
「「同感だぁ…」」
「「「もう1本!」」」
「アイスクリンとプリンは勿論、今日も完売しましたが牛乳プリンもお1人様ひとつまでです」
「「「そこをなんとか!」」」
「駄目です。お腹を壊しますよ?」
「「「うぐぅ…」」」
常連さん達と冷菓を巡る攻防戦を繰り広げていたら、今日はお客さんとして来てくれたギン君と乱菊ちゃんが凄く困った表情で扉から顔を覗かせた。
「「あ、あの~…里央さん」」
「あら、いらっしゃい。2人ともどうしたの?外は暑いでしょう?入りなさいな」
「そ、そうなんやけどなぁ…」
「その、ちょっと困った事がひゃぁっ!?」
乱菊ちゃんが素っ頓狂な声を上げた。
「「「「「え?」」」」」
スルリッ、トテトテトテ…
ー=△♪…狸?でも
†▽ωこの気配は…
「…何か濡れてるけど…どうしたのこの子?」
「それがなぁ…その…」
「川で夕飯の為に仕掛けをしてたら、その子が溺れてるのを見付けてね」
「溺れてた所が僕等でどうにか出来る場所やったから、助けたんよ。そしたら…」
「付いて来ちゃった…と?」
「「うん(せや)」」
⊗…ここ、覚の気配がする
「え?アキラを知ってるの?」
Θなぁ里央!ユタカが今日来る時に桶をふたつ持って来てくれって…あれ?紡?何でここに?どうしたんだ?
⊗覚!あんたこそ今まで何してたのよ!?
Θうわっ!?痛っ!何すんだよ!?
⊗ずっと心配してたんだから!
ー=△♪わ、わぁ~…
†▽ωお、おぉ…
「ちょちょちょ、ちょっと落ち着いて。ね?アキラ、この子の事知ってるなら教えてくれない?」
Θお、おぅ。紡はな…
狸の名前はツムギで、嘗てアキラが住んでいた土地の直ぐ近くに餌場があり、群れと共に度々来ていた。
お互いの領分を侵さないよう規則を作り、群れ同士少なからず交流があった。
その中でもアキラとツムギは特にウマが合って、良く一緒に遊んでいた。
しかし、ツムギ達が次の餌場に向かった直後、アキラが住んでいた土地で火事が起こり、群れは離散、放浪の末にアキラは此処に辿り着いた。
以降、ツムギとは連絡のしようが無く今に至ると。
ツムギはずっとアキラの身を案じていたらしい。
「そうだったの…」
「此処で再会出来たのもまた縁だろう。ツムギが良ければだが、此処に住まないか?」
「小屋にはまだ余裕がありますしね」
⊗良いの?じゃあ、お世話になります!
ツムギが家族の一員になった。
「取り敢えず、身体をしっかりと拭かないと風邪を引くぞ」
⊗ありがとう
「アキラのお友達のツムギを連れて来てくれたギン君と乱菊ちゃんには、お礼に干し柿入りのアイスクリンを贈呈しましょう」
「え?ホンマに?」
「良いの?」
「生命を助けるのは立派な事だ。受け取っておきなさい」
「此処に座って待ってて」
「「ありがとうございます(おおきに)!」」
カラカラカラ…
「あら、今日も賑やかですね」
「これは卯ノ花様、いらっしゃいませ。生憎ですが、本日は個室が空いておりませんが」
「席は何処でも構いません。何せ久々の休暇、ふとぷりんと蒲公英こぉひぃをいただきたくなったものですから」
「畏まりました。お席は…」
「隊長!良ければ此方でご一緒しませんか?」
「あら…そう言えば小堺8席と堀辺11席も今日は非番でしたね」
「「はい!」」
「では、お言葉に甘えましょうか」
卯ノ花は菩薩の笑顔で勧められた席に座った。
「お待たせしました、プリンです。いつも通りタンポポコーヒーは後でお持ちしますね」
「ありがとうございます。あぁ…久方振りのぷりん…いただきます」
満面の笑みでプリンを口に運んだ。
「…っはぁ…このとろりとしたそぅすの苦味が甘いぷりんを噛む度に混ざり合って…堪りませんね」
「ですよね」
「解ります!」
「…あら?2人は水羊羹ですか?」
「あ…これは…」
「僕は先日いただいたので、今回は水羊羹にしたんですよ。でも小堺先輩はもがっ」
「余計な事を言うな!ちょっと後輩達を労っただけだろうが!」
…あぁ、やっぱりあの時に見栄を張ったから、次のお給金の日までピンチなのね、彼は
あの日の彼の様子を思い出して、不自然にならないよう気を付けながら、お盆で顔を隠しつつ苦笑いを溢した。
「あらあら…後輩思いなのは良いですが、程々になさいね」
「は、はい…」
少々ばつの悪そうな表情の小堺に、苦言を呈してから卯ノ花は再びプリンに向き合った。
彼女はうっとりとした表情で、ゆっくりと口に運んではひと口ひと口をしっかりと味わって完食した。
「…ふぅ」
「タンポポコーヒーをお持ちしました」
「ありがとうございます」
優雅にコーヒーを啜り、ひと息吐いた。
「…ご馳走さまでした。お勘定お願いします」
「はい。プリンとタンポポコーヒーのお代は…2,000環になります」
「あら?…前回来た時よりもお安くなったのですね」
「えぇ、材料が安定して入手出来るようになりましたので」
お代を支払い、卯ノ花は来た時以上の笑顔で帰路に着いた。
「…ふぅ」
…相変わらず、卯ノ花様はお淑やかで慎ましいながらも何て言うかこう、有無を言わせぬ気迫があるから、少し緊張するのよね
「「ご馳走さまでした~!」」
「お爺ちゃんに寒天寄せをお土産にしたいんやけど…良ぇやろか?」
「はい、お粗末さま。何切れ包みましょうか?」
「お爺ちゃんの分だけ厚めにして、三切れお願いします」
「畏まりました。少しお待ち下さいね」
「「はい(おおきに)!」」
この後もお客様は引っ切り無しでやって来て、閉店間際まで大忙しだった。
卯ノ花視点。
今年は去年よりも暑い日が続き、隊士達の中にも夏バテで休暇願いを出す者が増えた。
かく言う私も健康には気を付けているものの、こうも暑い日が続くと心身共に疲労が溜まり始めているのを感じた。
そんな折の久方振りの休暇は英気を養おうと、足は自然と〈お茶屋・おはし〉へと向かった。
当時、老いを理由に閉店する筈だったお茶屋を、十歳くらいの若さで流魂街に来た少女が継いだと聞いた時は耳を疑ったものだ。
あの少女だった子、今は立派に店を切り盛りしている橋浦里央は、とても不思議な娘。
飲食物に対する情熱は他の追随を許さず、見ただけで全く同じ物を再現出来るだけでも凄いのに、現物を見ずとも、人伝に聞いただけでそれを作れるのは天才等という言葉では表現出来ない。
それに…彼女だけではなく、あの男も言っていた。
「あの子はきっと、世界に望まれた特別な存在だよ」
「あの娘は間違い無く素養を持つ者だ。故に守らねばならない」
と。
あの男に彼処まで言わせる彼女が平凡な筈が無い。
そんな事を考えながら移動していれば、あっという間に〈お茶屋・おはし〉に辿り着いた。
…さぁ、待ちに待った癒しのひと時の始まりですね
私が来られない間に、卵を使わず、こぉんすたぁちなる粉で固めた、冷たくて甘い牛乳菓子が新商品としてお品書きに加わっていた事に衝撃を受けたものの、今回のお目当てのぷりんは無事に食べる事が出来た。
…はあ、以前食べた時と寸分違わぬこの味に食感、堪りませんね
…もうひとつ食べたいのですが
…1人ひとつずつは相変わらずですか
…とても残念ですね
…それはそうと、牛乳ぷりんとはどんな食べ物なのでしょうか?
…このぷりんに似ていると耳にしたのですが
とある理由から其程量は作っていないらしく、今日も売り切れだとか。
…次に来た時に食べられると嬉しいですね
「ご馳走様でした。今回も大変美味しかったですよ」
「ご満足いただけたようで何よりです。此方、お土産になります。隊の皆様とお楽しみ下さい」
「いつもありがとうございます。皆もきっと喜ぶでしょう。では」
「またのお越しをお待ちしております」
…この重さから推測するに、羊羹もしくは寒天寄せでしょうか
…今までのお土産の傾向を考慮すると、両方の可能性が高いですね
翌日、〈お茶屋・おはし〉からのお土産を皆に振る舞った。
予想通り暑い日が続いているからと、羊羹と寒天寄せの詰め合わせだった。
「「「「「うわぁ…!」」」」」
「「「「ありがとうございます隊長!」」」」
「「「「「いただきます!」」」」」
「「「美味し~!!」」」
「「「〈お茶屋・おはし〉の羊羹最高~!」」」
「この程良い甘辛さが何とも…」
「「うんうん」」
「今回の寒天寄せは、真桑瓜入りと桃入りの2種類ですか…」
「「「うわぁ~、悩むぅ…」」」
「そんなに悩むようでしたら、私が決めて差し上げますよ?」
「「「真桑瓜のを!」」」
「「「私は桃で!」」」
「はいはい」
…こうして、皆の様子を見ていると〈食の申し子〉の異名は伊達では無いと再確認せざるを得ませんね
「さて、私もいただきましょうか」
先にしっかりと確保していた羊羹を、緑茶と共に美味しくいただいた。
次のお客様はやっぱり、初代剣八であるこの方かと思いまして。
他者に有無を言わせぬ気迫の籠もった笑顔も素敵ですが、心の底からリラックスしている卯ノ花さんも良いですよね。
そして、本人の知らないところでいつの間にか付いた異名…里央が知ったら「恐れ多い」と、慄くでしょうね。
さて、次のお客様は誰でしょうか?