願いが叶わなかった私は、お茶屋さんを営んでいます。 作:如月雪見
前回、刳屋敷様が部下の方々を連れていらっしゃいました。
刳屋敷様の斬魄刀《餓樂廻廊》こと《餓樂》君と遊ばせていただきました。
相変わらず、可愛かったです。
ーヒナタ(八咫烏)
=ミヅキ(鳳凰)
†メグミ(朱鷺)
Θアキラ(黒い小猿)
△ヒカル(金色の鷲)
▽トオル(青鷺)
ωミノリ(黒い小猫)
●ユタカ(牝牛)
○カケル(牡馬)
◎ツヅミ(雌鶏)
♪サユル(鷦鷯/ミソサザイ)
⊗ツムギ(狸)
≡笙/ショウ(虎鶫/トラツグミ)←NEW
春恒例、タンポポの根を天日干ししていたら、山田様が弟さんを抱っこしてやって来ました。
「これは山田様。本日は定休日なのですが…如何なされました?」
「突然の訪問、失礼するよ。店主に頼みたい事があって来たのだけど、良いかな?」
「私に…?」
「ほら、花太郎。挨拶は?」
「こ、ここんにちゃ!」
「はい、こんにちは。どうしたのかな?」
相変わらず、焦るとどもった挨拶をする花太郎君の手元をよく見れば、何かを包んだ手拭いを大事そうに持っている。
「こ、このこをたすけてくだしゃい!」
「この子?…卵?」
手拭いに包んでいたのは、鳥の巣の残骸と思しき苔や泥が付いた卵だった。
…鶉の卵よりも少し大きくて、薄い青緑色に赤茶色の細かい斑点模様
…この卵は多分、虎鶫のかな?
大凡の見当を付けながら、涙目の花太郎君に話しかけた。
「えっと…何があったのかな?花太郎君」
「あ、あのでしゅね…」
花太郎君と山田様の話を合わせると事の経緯はこう。
久し振りの休暇、特に予定が無いのもあって、偶には花太郎君の相手をしようと、山田様は近所の遊び場に連れて行った。
遊び場に着いて早々、嫌に興奮した野良がとある木の根元で草木を荒らしていた。
安全確保の為に野良を追い払うと、木の根元には壊れた鳥の巣と既に事切れた鳥が横たわっていた。
どうやら天敵に巣を暴かれた挙げ句、野良にトドメを刺されたらしい。
弔う為にと、お墓を作って遺体を埋めようとした時、辛うじて無事な卵がひとつだけ紛れていた。
山田様の信条は〈どんな命でも生かす事〉。
しかし、流石の彼でもまだ孵化していない雛をどうにかするのは難しく、何より親には絶対になれない。
まだ幼い花太郎君もそれは同じ。
そこで、多種多様の鳥を飼っている私達ならと、卵を託しに来たのだとか。
状況が状況なので、そのまま中に入って貰った。
「虎鶫の卵…ですか」
「卵の大きさと模様から多分…だけどね」
「そう言えば…親鳥と思しき鳥は、虎の模様に似ていたような気がしたね」
「なら、間違い無いですね」
「…産卵からどのくらい経過しているのかも解らないんですよね」
「あぁ、あの場所自体久し振りに行ったからね」
「…このこ、だいじょうぶですよね?」
=あぁ、もう!何してるのよ!
「ミヅキ?」
=アタシの見立てだけどね、もう少し温めてあげたらそのうち孵化出来る筈よ
=仕方ないから、それまでアタシが温めてあげるわ
ミヅキの言葉を伝えたものの、ちゃんと孵化するのか心配な花太郎君はミヅキ(卵)から離れない。
それはお菓子を出しても変わらずで…。
「花太郎、折角来たのだからって、お菓子を用意してくれるそうだよ。何が食べたい?」
「…」(じーっ)
「…はぁ…ぱんけぇきをふたつ、苺じゃむと蜜柑じゃむ、飲み物は焙じ茶で」
「畏まりました」
「お待たせしました」
「花太郎、ぱんけぇきが来たよ」
「…」(じーっ)
「…花太郎、いい加減に」
=あ~、もう!どんなに見ていたって、今日中には絶対に生まれないわよ!(クワッ!!)
「ひぃっ!?」
ーΘ△♪⊗ちょっ…
†▽ωお、落ち着け(いて)瑞
=フーッ!フーッ!
「やれやれ…とうとう怒られたね」
「うぅ…」
…花太郎君らしいんだけどね
…ミヅキだけじゃなくて、みんなもどんなに早くても数日はかかるって言ってるし
花太郎君はションボリしながらも、パンケーキを完食した。
「ごちそうさまでした」
「はい、お粗末様でした」
食べ終わって直ぐに、花太郎君の視線はミヅキが温めている卵に戻った。
「やれやれ…」
その後、畑の一部で育てている薬草の話をしていたら、結構な時間が経っていた。
「…少し名残惜しいけれど、そろそろ帰らないとならない時間だね」
「え…あら…引き留めてしまってすみません」
「いや、久し振りに有意義な時間を過ごせたよ。さて…花太郎、そろそろ帰るよ」
「え…でも…」
「…はぁ…店主達の見立てでは5日後以降に孵化する可能性が高いのだったね?」
「はい」
「…仕方ない。隊長に交渉して、5日後にまた休みをいただこう。花太郎、5日後に此処に来るから、今日は帰るよ」
「え…いいの?せいのすけにいさん」
「今回だけだよ。本来なら、そう易々と休みを取る訳にはいかないのだからね」
「…ありがとうにいさん!」
やっと帰る気になった花太郎君に苦笑する山田様は、時間が時間だからと、来た時と同じく花太郎君を抱っこして少し足早に帰路に着いた。
…言い方はちょっとアレなところがあるけど、何だかんだ山田様は良いお兄さんよね
5日後、約束通り山田様は花太郎君を連れて来た。
「お邪魔させて貰うよ」
「「いらっしゃいませ」」
「たまごはどうでしゅか?」
「こら。挨拶が先だろう?花太郎」
「あ…ご、ごめんなしゃい!こ、こんにちは!」
「はい、こんにちは。卵は彼方の部屋に移しましたよ」
1番手前の個室で変わらずミヅキが孵化を促している。
=早朝から動きがかなり活発になって来たから、そろそろ孵化しそうなのよね
「運が良かったですね。そろそろ生まれて来そうですって」
「わぁ…!」
カッ…カカッ…ガッ…ビキッ…ビキビキ…カシャッ…
≡…かか…かかしゃ、どきょ?
=無事に生まれたわね
≡…かかしゃ!
=あらまぁ
ミヅキの通訳をしていたら、殻にヒビが入ってあっという間に孵化した。
ミヅキの声に反応して上を見上げた為、無事にミヅキを母親認定したらしい。
…花太郎君や山田様を最初に見なくて良かったぁ
…もし見ていたら、大変な事になっていたわ
無事に孵化した記念にと、無料でお茶とお菓子を提供しようとしたが、山田様からにべも無く却下されてしまい、それでもと粘った末、花太郎君の分を値引きする事を何とか受け入れて貰った。
「…店主…貴女は時々、お調子者になるのが難点だね」
「う…そういう性分なもので…すみません」
「あ、あの!このこのなまえ、どうするんですか?」
「え?あ…そぅね…名前…う~ん…えっとぉ…花太郎君は?こういう名前付けたいとか無いかなぁ?」
「え?う~ん…」
「花太郎の名付けはどれも微妙だから、店主が付けた方が良いだろうね」
「あぅ…」
「え…」
…まだ幼い、しかも実の弟に何て酷評を
…そして、何という無茶振りを
…責任重大じゃないの
「う~ん…じゃあ…笙/ショウはどうかな?」
「しょう?」
「こういう字を書くのだけど…この下の字は生まれる、生きるって読み方があるの。無事に生まれた事を喜ぶ気持ちと、長生きして欲しいという願いを込めて」
「…ふむ。まぁ、悪くは無い名前かな」
「しょう…はい!」
虎鶫の雛の名前はショウに決定した。
…今は生まれたばかりでミヅキにベッタリだけど、もう少し大きくなったら是非遊んであげて下さいね、花太郎君
顔を見られなくて、ガッカリしている花太郎君に苦笑しながらそう思った。
花太郎視点。
今日は、珍しく清之介兄さんが休みで家に居る。
ぼくはぼくで、いつも一緒に遊んでくれる友人は家の用事で遊べない。
だからぼくは縁側で本を読んでいた。
「花太郎、日光浴をするなら本を読むよりも運動しながらの方が効率が良い」
兄さんはそう言ってぼくを広場に連れて行った。
でも…
「う、うぅ…」
「泣いてもこの鳥はもうどうする事も出来ないよ。このままだとまた野良が寄って来て面倒を起こすだろうね…墓を作って弔う事ならお前でも出来るだろう」
「…はぃ」
兄さんが野良を追い払ってくれたけど、鳥さんが巣を守り切れなくて死んでいたのを知って、涙が止まらなくなった。
お墓に鳥さんと卵を埋めようとした時、壊された巣の中に、割れていない卵がひとつだけあった。
「…運良く巣が緩衝材になったみたいだね」
「…せいのすけにいさん」
「…鳥には、〈刷り込み〉という生まれて直ぐに見た生き物を親と思い込む能力が備わっている。だから、翼を持たない僕達ではこの子の親にはなれないよ」
「う…」
「…とは言え、このままにはしておけないのも事実だからね。〈お茶屋・おはし〉の店主に相談してみようか」
「…っはい!」
少し意地悪な兄さんだけど、やっぱり頼りになる人だ。
〈お茶屋・おはし〉の店主さんに話をしたら、ミヅキさんが卵を孵してくれる事になった。
卵が心配でずっとミヅキさんを見ていたら、怒られてしまった。
ぱんけぇきを食べた後もずっとミヅキさんを見ていた。
ミヅキさんはどんなに怒ってもぼくが離れないと理解したらしく、何も言わなくなった。
日が暮れる前に帰らないとならないからと、兄さんが立ち上がった。
愚図るぼくに呆れながらも、卵が孵化するだろう5日後にまた連れて来てくれると言った。
兄さんはこういう時の約束は必ず守ってくれる。
5日後、約束通り〈お茶屋・おはし〉に連れて来てくれた。
ミヅキさん曰く、今日中に孵化するらしい。
言葉通り、卵が無事に孵化した。
「わぁ…」
ミヅキさんの身体に顔を埋めて、こっちを向いてくれなかったのはちょっと寂しかったけど、無事に生まれた事が凄く嬉しかった。
名前をどうするか聞いたら、逆にぼくだったらどういう名前を付けたいのか聞き返された。
思い付いた名前を言う前に、兄さんに止められてしまい、結局、店主さんが考えた名前〈笙〉に決まった。
ミヅキさんに甘える笙ちゃんはとても可愛かった。
この日以降、何年かに1回家に帰れば良い方だった兄さんが、月に3回は戻るようになり、〈お茶屋・おはし〉にぼくを連れて来るようになった。
「…拾った命の行く末を把握しておくのも、医療に身を置く者として当然の事だからね」
いつもと変わらない表情でそう言う兄さんだが、ぼくが笙ちゃんと遊んでいる間は、店主さんがご近所の人達と共有している薬草畑を見に行っては、気になった薬草の苗を買ったりしている。
…本当に、偶に意地悪だけれど、兄さんは凄く頼りになる人だ
笙ちゃんにおやつをあげながら、そんな兄さんの後ろ姿を眺めた。
山田(兄)視点。
隊長に「いい加減、休みを取りなさい」と命じられ、久し振りの休暇を取った。
しかも、寮に居れば結局仕事をするからと、家に強制帰省させられてしまった。
仕方なく帰ったものの、これといった用事は何も思い付かず、どうしたものかと考えていたら、縁側で本を読んでいる弟、花太郎が視界に入った。
…偶には花太郎の相手をして時間を潰すか
花太郎も、いつも遊ぶ友人の都合が悪くて遊べず、暇を持て余していたらしい。
遊び場に行けば、誰かしら人が居るのでは無いかと思ったのだが、そう都合良くはいかなかった。
それどころか、厄介な事になった。
地に落とされた鳥の巣を荒らす野良を追い払い、墓作りをする羽目になった。
埋葬の際、見るも無惨な鳥の巣の中に唯一無事な卵が出て来た。
…予定外な事がこうも連続して起こるとは
鳥と言えば〈お茶屋・おはし〉の店主だろうと、卵をどうにか出来ないか相談に行った。
結果、予想通り卵は無事に店主へと託す事が出来た。
5日後に無事孵化し、鳳凰の瑞が親として育てる事になった。
しかし、卵が無事に孵化した記念だと、店主が僕達の注文した商品全てを無料にすると言い出した。
「とてもお目出度い事があった時くらい、羽目を外しても罰は当たらないと思います」
雛の誕生を心の底から喜んでいるのは解るが、それでも肯くには行かない。
このままでは、他の客達の分まで無料にしてしまいそうな勢いの店主は、流石に止めるべきだろう。
弟子の彼では彼女を諌めきれないだろうし、今は用事で出ている兄君が事情を知れば、流石に止める或いは説き伏せるだろう。
無料は却下したが、それでもと食い下がる店主に根負けして、花太郎の分だけ少し値引きする事で折り合いを付けた。
…どれだけ祝いたいのだろうか
…此処まで食い下がるとは思ってもいなかったよ
…可笑しなところで本当に頑固な人だ
戻って来た兄君が事の経緯を知り、店主の暴走を止めた事に感謝を告げられた。
…支払いの件はこれで良いけれど
…問題はこれからだな
十中八九、花太郎は笙の様子を見に来たがるだろう。
しかし、花太郎1人では此処には絶対に来れない。
…両親は祖父母の世話と家業で手一杯だろうし
…ちょうどいいかも知れないな
…隊長から「もっと積極的に休みを取りなさい」と言われているし
少なくとも、花太郎が1人で来れるようになるまでは〈お茶屋・おはし〉への送迎係を務める事にした。
花太郎は笙に会えて機嫌が良い。
隊長からのお小言が減る。
此処にしか無い薬草や、食事療法についての知識を深める事が出来る。
この良い事尽くめの現状を維持出来るよう、是非とも笙には長生きして貰いたい。
原作が始まる110~100年前(過去編)で次は誰が良いか、〈MASKED〉を見ていてふと、山田兄弟はどうだろう?と思い付いたので、書いてみました。
…流石に生まれていますよね?花太郎君…。
他の小説を書きながらの執筆なので、どうしても時間がかかってしまいます…。
仕事一辺倒なお兄さんが、何かと理由を付けて、弟の花太郎君の相手をする姿を想像しながら書いたのですが…。
上手く書けていれば良いのですが。
次回は何方が来店なさるでしょうか?