大好きなアーティストに捧ぐ狂愛の文。

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第1話

身勝手な奴らに中指を。大好きなあなたに狂愛を。

 好きだったアーティストがあの世に行ってしまった。

 最早好きという言葉で表すことさえ恥ずかしいと思えるほどに、そのアーティストに狂わされていた。彼の作る音、描くストーリー、心を乱す歌詞。どれを取っても彼にしか出せない。私を狂わす、おかしくて優しくてイかれた音。

 そんな素晴らしく、美しく、最高で、やばくて、極上で、最強の音楽を奏でる彼が、死んだ。

 私のヒーローが、

 スターが、

 勇者が、

 死んでしまった。

 

 訃報(ふほう)を聞いた時、私は、単純に、悲しいと思った。それしか思わなかったことが面白いとも思った。あれほどまでに好いていたアーティストが死んだ時の感想が、「悲しい」だけで終わるとは。陳腐(ちんぷ)なものだと、嘲笑(あざわら)ったものだ。

 死因は自殺――らしい。ぼかされていたので正解かは定かではないが、みんながラブラブなネットでは()()()()()()()()()()()()

 

 私は毎日、彼の生きた痕跡(こんせき)――(のこ)した音を辿る。そうすることで、彼が遺した意志を知ろうとする。何を嫌ってこの音を作り、何に疲れてこの歌詞を書き、何に狂ってこの物語を描いたのか。それを知ろうとする。知りたがる。無論、彼が何を思ったかなど、部外者である私が知れるわけがない。私の妄想如きで彼を推し量りなどしたくはなかったが、そうでもしなければ、彼のいない日々には耐えられそうにない。

 この行為には、彼のミュージックビデオを用いるのが良い。音だけでは表し切れない感情を、映像が補ってくれるからだ。映像は、いわば助演。音楽という主演と共演することで、素晴らしい世界を形作るのだ。

 ミュージックビデオのコメント欄を見るのも良い。生前、コメント欄では、同志が自身の解釈を自分勝手に(つづ)っていた。私が考えもしなかったような訴えが、視聴者の広場に(いく)つも共有されていた。同じ趣向(しゅこう)を持った人間たちが各々に自身の考えを発信し、議論を飛び交わせ、時には殺害予告まで行われる――そんな、狂信者(ファン)しかいない其処が、私は大好きだった。

 昔は、だが。

 今は違う。コメント欄は、彼の死を惜しむものばかりになっていた。狂信者(ファン)たちの素晴らしい解釈や思いは、その自己中な情報に押し流されていた。

 大好きだった曲の解釈。それが「どうして先に行っちゃったの?」そんな、身勝手な、クソみたいな言葉で()き消される。嫌だ。たまらなく、たまらなく嫌だ。ここはそういう言葉を書く場所じゃない。

 薄っぺらい曲の感想を、

 曲の自分勝手な解釈を、

 自分の好きな箇所を、

 自分の嫌いな箇所を、

 吐き出して、(つづ)って、(つむ)いで、書き殴る。そういう場所だ。そういう場所であるべきだ。

 そうするのが、死んでしまった彼への、最大限の感謝じゃないのか? 素晴らしい音を遺し、狂わせてくれたことに対する仕打ちがこれか?

 頭が沸いているとしか思えない。気色が悪い。

 

 そう思いながらも、曲のコメント欄を見てしまう自分に、嫌気がさしてしまう。

 私は、彼の歌声を、音を聴きに来たはずなのに。いつの間にか、そこに(おもむ)いてしまう。ファンと呼ぶことさえ(はなはだ)だしいミーハーどもの言葉に中指を立てる。それが、何故か日課となってしまっている。

 ただ、コメント欄を開かなければ良いだけなのだ。ミュージックビデオを再生し、うざったい広告が流れ去るのを待ち、イントロを脳内に流し込み、歌声を飲み、歌詞を咀嚼(そしゃく)し、生きる(かて)にする。それだけで良いのに。どうしても、コメント欄を開くのがやめられない。

 理由は、分かっていた。

 私も、ミーハーどもと同じなのだ。多分。

 死んでしまった彼に、「どうして死んでしまったの?」と。

 もうこの世にはいない彼に、「また会いたいよ」と。

 大好きな彼に、「大好きだったよ」と。

 私がそう伝えたいミーハーだからだ。心中では嫌っておきながら、頭では同意してしまっている。

 彼の曲を、ただ自身を(なぐさ)める行為に利用してしまっている。

 そんな自分に嫌気が差す。嫌気という軽い言葉で済ましていることに殺意を覚える。

 変わりたい。こんな自分を変えてしまいたい。変われないのなら、いっそ終わってしまいたい。

 ああ、変えてくれ、マイヒーロー。

 あなたの狂った想いで私を殺してくれ。それが私には丁度いい。いや、それが良い。それが良いんだ。

 でも、あなたはもうこの世にはいない。

 私は多分、あなたなしでは変われない。

 あなたはもういないのだから、変わらなくても良いだろうと、胡座(あぐら)をかいてしまう。

 そんな私を、どうか……どうか、(ゆる)してほしい。嫌っている奴らに成り下がっている私を、矛盾し続けている私を、どうか、嫌わないでほしい。

 ずっと、あなたの狂信者(ファン)のふりをするから。

 ミーハーな奴らに、中指を立て続けるから。

 だから――だから、私を抱きしめてくれ。

 

 私にずっと狂わせて。私の大好きなヒーロー。

 


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