青空ウィッチは弓を射る   作:オルフェイス

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書きたいところは書いたので、暫く止まるです。


絶望の日

 

 あれから、二週間は経過したかな。

 夜の私はウォッチになって、インクブスを倒して。

 昼の私は学校に通って、宮園さんを含めた友達と一緒に遊んで。

 充実した日々を送っていた。

 あまり話すのは得意じゃないから、いつも宮園さんに引っ張られて。

 でも、そんな日々が楽しくて。

 だから励めた。

 インクブスとの戦いは、毎日が楽に終わるわけじゃない。

 大抵はゴブリンで、上から撃つだけで終わるけど。

 中にはオーガとか、インプとか、フロッグマンにワーウルフ……? じゃなくてライカンスロープだった。

 そういうのと出くわすこともあった。

 インクブスは毒も使ってくるから攻撃されたら絶対に避けなくちゃいけないし、インプとかマジックを使ってきたんだから、もう大変だった!

 でもおかげで私は、私というウィッチのことを理解できたから、これも成長の機会の一つと考える……といいよって、モーリスが言ってた。

 辛いことや苦しいこともあるけど、でも私は頑張れる。

 だって、皆がいるから。

 お母さんにお父さん。

 モーリス。

 そして宮園さんと、他の友達。

 皆、大切な人たち。

 私の心にいる、大事な人たち。

 だから頑張れる。

 これからもインクブスと戦って、皆を守る。

 そう決めてあるんだから。

 

 でも、ずっと張り詰めてたら心が持たないってモーリスが言うから、皆との交流は大事にしないと。

 今日は皆を私の家に招待する日なんだ。

 楽しみだなぁ。

 今日はお父さんも休みなのか家にいるから、お父さんとお母さんに友達を紹介できる。

 宮園さんは私を連れ出してくれる人。私達のリーダーで、率先してくれる。

 明野さんは元気一杯な人。運動が得意で、持ち前の明るさ皆を笑わせる。

 大城戸さんは真面目でクールな感じ。分からないところがあったら大城戸さんに聞けば安心だ。

 白井さんは、不思議な人? ボケ~ってしてるけど、明野さんと同じくらい運動が得意で、大城戸さんと同じくらい勉強もできる。

 だからなのか、密かに大城戸さんは白井さんをライバル視してる、って本人から聞いたことがある。

 そんな四人を家に招く。

 家では何をしよう?

 まず部屋に案内して、あとゲームをしたりとか。

 あーでも、大城戸さんなら勉強をしようって言いそうだなぁ。大城戸さん、真面目だから。

 宮野さんは運動が好きだけど、ゲームも好きだから楽しめるといいな。

 宮園さんは皆がやりたいことをやってくれる。でも、宮園さんがしたいこともやってほしいから、これを機に言ってみなくちゃ。

 白井さんは……そういえば何が好きなんだろ。

 いつも遠くを見たり、近くの虫を見たりしてるから観察が好き……とか?

 わからないけど、やっぱり聞いてみないと。

 あとは、そうだなぁ……

 そうだ、お菓子も食べよう!

 皆は何が好きかなぁ。

 煎餅とか好きかな。いやいや、ここはケーキが良いよね。甘いのは女の子はみーんな好きなんだから。

 でも塩っぽいものが好きってこともあるから、色々買っておいたほうが良いかも。

 インクブスが蔓延るせいでお菓子の種類は少ない……らしいけど、それでも美味しいって思ってもらいたいもんね。

 それから、それから、それ……から─────

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

『スカイブルー!!』

 

 ─────一瞬、意識が飛んでた。

 多分、ストレスのせいだと思う。

 モーリスの叫び声が、脳に直接響いてくる。

 うん、わかってる。

 私は平気だよ。

 ちゃんと、するから。

 今の私からすれば、あまりに軽い力で押さえつけられていたのを、弾き飛ばす。

 狭い家の中、人が壁にぶつかる音が聞こえてくる。

 グシャ、って、聞こえた。

 お母さんがお肉を料理するときみたいな音。

 駆ける。

 地(・)下(・)。

 急がないといけない。

 私はウィッチだからって、後回しにされて。

 こっちのほうが好みだからって、私を放置して。

 隠されていた下り階段には、見張りのつもりなのかゴブリンが二匹。

 

『て、』

『来や、』

「どけ」

 

 それを、エナから直接形成した剣で斬り裂く。

 首が分かれて、胴体が真っ二つ。

 血と臓腑が辺り一面に転がる。

 ゴブリンは雑魚だ。

 だから、殺すのに時間はいらない。

 急いで降りる。

 降りる時間も惜しいから、跳ぶ。跳び進む。

 壁も床も、土や石の洞窟みたいだ。

 今はどうでもいい。

 駆ける。

 駆ける。

 駆け、

 

「い゛や゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ!!」

「やめでっ!やめてよ! やだやだやだやだぁぁぁぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

「ぎ゛ぃぃ!ひっ、ひっ、がっ、ぁぁぁぁあああ!!」

 

 明野さん。

 大城戸さん。

 宮園、さん。

 三人の、声。

 角が見えた。

 曲がれば……見えた。

 大きな広間。

 沢山のインクブス。

 組み伏せられる、四人の姿が。

 白井さんも、いる。

 犬みたいな体勢にされて。

 でも、必死に声を出さないようにって、自分の手を噛んで……

 私は、弓を構えた。

 インクブスの数は……あぁ、数える時間も面倒だ。

 全部撃ち抜く。

 エナでできた矢を放つ。

 一度に放ち切れないから、連続で弓を引く。

 それは狙い外れることなくインクブスたちに向かい、その行為に集中していた多くの頭部を貫いた。

 でも、防いだやつもいる。

 

『ほう。家畜風情に押さえつけられる程度の弱者かと思ったが……悪くない』

 

 矢を掴んで防いだインクブス。

 オーガだ。

 ゴブリンよりも大きくて、しぶとい。

 防がれた。

 そ(・)う(・)な(・)る(・)こ(・)と(・)は(・)わ(・)か(・)っ(・)て(・)た(・)。

 

『なっ……!?』

 

 掴んでいた矢は、爆(・)ぜ(・)た(・)。

 エナの応用。エナの矢を爆ぜさせて爆弾にした。

 これは私のエナの性質じゃない。

 でも、使える。

 手からオーガの指が零れ落ち、動揺したオーガに第二の矢が頭部を貫通した。

 これで、終わり───

 

『くそっ、ウィッチめ!』

 

 じゃない!

 駆ける。

 オーガの陰で見えなかったゴブリンが残ってた。

 ゴブリンの手には、卑猥な物体。

 聞いたことがある。

 あれは入り口を作る。

 作られた入り口は、ウィッチでは干渉できない。

 確か名前は……

 

 そんなのはあとでいい!

 

 ゴブリンは、2体。

 一匹は近くにいた宮園さんを。

 もう一匹は白井さんを掴んで、引きずる。

 宮園さんは茫然自失してて動かない。

 白井さんは、掴んできたゴブリンの手を、噛んだ。

 一瞬動きが止まるゴブリン。

 反撃されるとは思ってなかったのか、怒りで顔を歪めるゴブリン。

 腕を振り上げたゴブリンに、矢を放つ。

 隙だらけだ。

 頭と首を貫き、そのまま曲がって宮園さんを捕まえてるゴブリンを狙う。

 矢は確かに直撃コースを進んで……途端、空間が歪んで矢が逸(・)れ(・)た(・)。

 赤い渦が、ゴブリンと宮園さんの近くに発生していた。

 

『残念だったなぁウィッチ! お前の顔は覚えた! 必ず捕ま、』

 

 何か喋るゴブリンに矢を放つ。

 空間が歪み……ギャリギャリと何かを削るような音を響かせ、貫こうとする矢が歪みと拮(・)抗(・)す(・)る(・)。

 

『は……?』

 

 紅い渦は、矢でも突破できる。

 私ならできる。

 でも、軽い力じゃ駄目だ。

 直接近づくか、もっと強くならないと貫けない。

 もっと近づけ。

 一秒でも早く、宮園さんを救い出せ。

 はやく、はやく、はやく。

 もっと、近づいて、

 

『ポータルを削って……破れるのかっ!? くそっ』

 

 ゴブリンが、渦に進んだ。

 宮園さんを連れて。

 距離は、もう手が届く。

 エナを纏わせて、手を伸ばして……歪みに到達。

 抵抗感が、手の進みを遅くした。

 

「あ、」

 

 宮園さんは、こっちに手を伸ばして。

 私は、それを掴もうとして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空振る。

 たたら踏んだ。

 そこには何もない。

 手の中には何もない。

 ─────届かなかった。

 

『スカイブルー』

 

 手が、震える。

 届かなかった。

 周囲を見渡す。

 大城戸さん、明野さん、白井さん。

 三人いる。

 三人しか、いない。

 宮園さんがいない。

 何処にもいない。

 何処なの宮園さん。

 何処にいるの宮園さん。

 

 宮園さん宮園さん宮園さん宮園さん宮園さん宮園さん宮園さん宮園さん宮園さん宮園さん宮園さん宮園さん宮園さん宮園さん宮園さん宮園さん宮園さん宮園さん宮園さん宮園さん宮園さん宮園さん宮園さん宮園さん宮園さん宮園さん宮園さん宮園さん宮園さん宮園さん宮園さ、

 

『スカイブルー!』

 

 耳元で叫ばれて、ようやく呼ばれていることに気付いた。

 

『彼女達を保護しよう。インクブスに凌辱されて、疲弊している』

「あ……うん。そう、だね」

 

 三人に、近寄る。

 明野さんの瞳には光がなくて、自失してる。

 大城戸さんは、気絶してる。

 白井さんは、

 

「大丈夫」

 

 そう言って、よろめきながらも立ち上がった。

 ……強い人だ。

 明野さんを抱えて、大城戸さんを背負う。

 白井さんは布切れみたいになってる服を掻き集めて大事な部分を隠して、酷いことをされたはずなのにしっかり立って、歩いてる。

 地下を出て、2人を床に寝かせて、固定電話を手に取って警察に電話する。

 白井さんは二人を気にかけて、座って見つめている。

 警察に繋がるまで、ほんの僅か。

 その僅かな時間で、私はリビングを見た。

 そこには倒れる人が二人。

 

 お父さんとお母さん。

 

 血を流して、今はただの肉の塊となった二人が、そこにいた。

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 それから警察が来て、事情聴取されて、解放された。

 私はウィッチだったけど、詳しくは詮索されずに解放された。

 犠牲者は一(・)名(・)。

 宮園さんだけ、救えなかった。

 私は、ウィッチの姿となってビルの上にいた。

 自宅は、警察が色々と調べてるから帰れない。

 仮の家は教えられて、暫くはそこで寝泊まりして欲しいと言われたけど……今は、一人になりたかった。

 

『スカイブルー。今回の事件、君は悪くない』

 

 肩に止まったモーリスが、そんなことを囁く。

 

『全ての首謀者は君の父と母、そしてインクブスだった。けど、君はそれを知らなかった。だから、』

「違う」

 

 違う。

 モーリスの言葉を、私は否定する。

 あれは、あれは……

 

「私のせいで、皆が傷ついた」

 

 ただ、安心できる家に皆を招きたかった。

 楽しく過ごしたかった。

 幸せに過ごしたかった。

 この気持ちを、皆にお裾分けしたかった。

 

 全ては言い訳だ。

 

 現実はそんなことにはならなかった。

 父と母はインクブスの信奉者だった。

 私という何も知らない操り人形を使って、インクブスに捧げようとしていた。

 その時に私もインクブスに捧げるつもりだったと、本人の口から聞けた。

 

『あなたは大切な子よ。インクブス様への捧げモノなんだから』

『大丈夫、怖くない。きっと幸せになれる。だから……さぁ、葵』

 

 信じたくなかった。

 それは違うって、思いたかった。

 だから皆が連れて行かれても、押さえてくる父と母を退かせなかった。

 ウィッチになった私が全力でやったら、死んじゃうから。

 実際そうなったし。

 信じたくない現実に私は意識を失って……すぐに目を覚ました。

 その時には、心は平静になってた。

 スイッチでも入れたみたいに。

 邪魔をする二人を強引に吹き飛ばして……でも、遅かった。

 私は救えなかった。

 

「私が迷ったせいで、皆は消えない傷を一生背負って生きていく」

 

 大城戸さん。

 明野さん。

 白井さん。

 ─────宮園さん。

 

「私のせいでっ! 宮園さんは連れ去られたっ!!」

 

 ガン、と。

 鉄柵に全力で拳を叩きつけ、鉄柵はねじ曲がった。

 

 私のせいだ。

 

 私のせいで、壊れちゃった。

 もう取り戻すことはできない。

 もう直すことはできない。

 私が……皆を、不幸にした。

 

「ごめんなさい」

 

 ごめんなさい。

 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい─────

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

 

 叫ぶ。

 視界は、歪んでよく見えない。

 もう何も見たくない。

 でも、それでも。

 見上げた月は、なぜだかよく見えた。

 月の欠けた三日月。

 それはまるで、今の私を表しているようで。

 そして、私を嘲笑っているようにも、見えてしまった。

 だから。

 私は、三日月が嫌いになって。

 

「あは、ははははははは!」

 

 そして嗤った。

 歪んだ視界で、月を見上げながら。

 

『葵……』

 

 そんな私を、私のパートナーは悲しげに見つめていて。

 私がそれに気付くことは、なかった。

 

 

 




『権能∶??』
・インクブスの開くポータルを突破可能(new)

『補足』
 スカイブルーはエナの操作に長けている。
 その操作技術でウィッチに変身した時に自動的に形成される武装を自分の手で形成したり、エナを爆ぜさせたりしている。しかし、それに特化した権能の権能の持ち主には劣る、いわば小技。
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