無能王女と最強勇者伯~ 無能で玉座に興味がない王女だけど、最強の勇者伯が勝手に味方宣言してきて困る~   作:たけすぃ

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私が貴方にできること4

「おう、まかせとけ」

 

 そんな私の気持ちを知ってか知らずかショウ君は、たとえ知っていても変わらないだろうと思わせる笑顔でそう言った。

 私がそれに安堵し、そしてその事を後悔する事になるのは――ほんの先の事だ。

 

 具体的には明日の事だ。速いよ!

 

 

 

「く……くぁ……」

 

 全身全霊を込めて、私は喉の筋肉を制御した。

 少しでも気を抜けば、悲鳴もしくは叫び声を上げそうだった。

 

 学園の朝は割とゆっくりしている。

 学園の寮に住んでいる学生にとっては、すぐそこだが。見栄の為に寮に住めず、広い王都に別邸を建てる大貴族の令嬢令息は、混雑する王都を馬車に揺られて登校しなければならないからだ。

 

 しかもくだらない事に、後から登校してくる人間の方が格上、とかいう謎のローカルルールが存在している。

 現在、学園に通っている王族は私だけなので、必然的に私の登校は最後になる。

 

 私に付けられた唯一の侍女から鞄を受け取り、馬車から降りた私は校門の前で絶句した。

 違う、絶句になるように叫び声を押さえたのだ。

 

 普段なら既に静かになっているだろう門の前は人だかりが出来ていた。

 ショウ君が貴族を三人締め上げていたからだ、言葉通りに。

 

 私が叫び声をあげるのを我慢していると、周囲の人間から控えめな、それでいて断固とした視線が飛んでくる。

 なんだ? これはアレか? 私にアレをどうにかしろと言っているのか?

 

 マジでやめて欲しい。無理に決まってるだろ。

 私を何だと思ってるのか? 無能な第三王女メフティア・フレネス・アブ・トゥロウサンだぞ。

 

「いや待て待て! 本当に知らない! 俺は関係ない!」

 

 ショウ君に締め上げられている男子学生が叫ぶ。最悪だ、見たことがある、というか入学祝賀の際に私に絡んで来た貴族だ。

 アホなのかアイツは? 勇者伯に挑まないと気が済まない性癖でも持ってるのか?

 

 特殊性癖はひっそりと楽しめひっそりと。

 短期間に二度も次代の勇者に吊るされる馬鹿が、クケーと鶏肉《とりにく》になる前の鶏のような声を出しはじめ、周囲の視線が一斉に真剣さを増す。

 

 お前がどうにかしろ、という強烈な意思を感じる。

 無茶を言うなと言い返してやりたいが、周囲にいる人間の殆どは他派閥の貴族家ばかりだ。そんな勇気は私にはない。

 

 本心から泣きそう、されど私はこれでも王族。

 私は表情を作り、演出の為の溜息を吐きながら、ショウ君に近づいて行った。

 

 おい、やめろ馬鹿三人、救世主がきたみたいな目で見るな。

 

「何をしているのですか?」

 

 おぉー、凄い私。完璧に平常の声が出た。

 

「おはよう」

 

 おはようじゃないが? 私は馬鹿貴族三人を二つの手だけで器用に吊し上げるショウ君を見て、演出の為の溜息をもう一度吐いた。

 嘘です、ガチな溜息です。

 

「何があったのかは知りませんが、貴方は簡単に人を吊るし過ぎです」

 

 言外におろしてあげなさい、と含めてみた。

 

「犯人捜しをしてるんだよ」

 

 当然ながらショウ君には伝わらなかった。

 

「何の犯人を捜してるんですか?」

 

 まさかな? と思いながら尋ねる。

 〝まさか〟昨日のあの話しをして、こんな公衆の面前でケミカ先輩の道具を盗んだ犯人を捜したりしてないですよね?

 

「そりゃもちろんケミ――」

 

 期待を込めて発した問いは即行で裏切られた。

 私はショウ君の口を咄嗟に手で塞ぎ、言うな馬鹿と伝わるように首を高速で横に振りまくった。嘘だろこの男。

 

 私が暗殺された事は、隠すような事じゃないというか、隠さずとも既に殆どの貴族が知っているだろう。

 なんなら、自派閥のヴェスポリ伯爵夫人あたりが、暗殺を防いだぞと噂を広めていても不思議ではない。

 

 だがそれにしたって、暗殺にケミカ先輩の作った道具が使われた、なんてのは含まれていない。魔物召喚魔法が使われた事は知られているようだが、その方法までは広まっていない。

 私は手のひらの下でショウ君が口を閉じたのを確認したのち、口を塞いでいた手を放して地面を指さした。

 

「おろしなさい」

 

「えー?」

 

「おろしなさい」

 

 なんだよーもうー、真面目にやってるのになー。

 ショウ君が信じられない事を言いながら、馬鹿貴族三人を地面におろす。

 

 おいやめろ、その目はマジでやめろ馬鹿三人。

 あろう事か、お兄様の派閥に所属する貴族の息子三人が、私に真剣な感謝を浮かべた視線を向けてくる。

 

 私が引き抜きをかけているとか、あらぬ噂がたったらどうしてくれるのだ。

 駄目だ、この場にいては延々とツッコミ続ける事になってしまう。

 

「こっちに来てください!」

 

 私は不満げな顔をするショウ君の腕を掴み、「なんだよぉ」と文句を垂れるショウ君を引きずって急いで門から離れる。

 背後の人込みから「勇者を手懐けている」とか「勇者伯は本当に第三王女についたのか」等の声が聞こえてきたが、大声で否定したいのを我慢した。

 

 この状況で私が否定しても、白々しいだけだろう。

 お前ら本当にこの次代の勇者を手懐けられると思ってるのか? 半日で良いから一緒にいてみろ、自分の愚かさに気がつけるぞ。

 

 どんなに白々しい状況でも、話せばその威厳とカリスマで真実と思わせられる兄様方を羨ましく思いながら、無能な私はただ無言を貫き撤退した。

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