無能王女と最強勇者伯~ 無能で玉座に興味がない王女だけど、最強の勇者伯が勝手に味方宣言してきて困る~ 作:たけすぃ
「我が妹よ、これはいったいどういう状況だ?」
自分の表情筋が微動だにしなかった事にまず満足した。
初代勇者は海を割ったと言うが、我が兄である第一王子、ヴァンセル・フレネス・アブ・トゥロウサンは人海を割る。
王家の象徴である銀髪は短く切りそろえられ、見た者に活動的な印象を抱かせ。武人らしく自他ともに厳しそうな両目は、この人が言うのならそれは正しいのだろうと、人に思わせる強さがある。
長身を支える長い脚が食堂の床をコツコツと鳴らす音、それだけで誰か分かりそうだ。兄様の一歩ごとに自信が溢れて見える。人はそれをカリスマと言うのだろう。
こちとら自他ともに認める無能である。
足音を聞いただけでチビリそうである。
「なぜ勇者伯のご子息が食堂で正座している?」
それは私も訊きたい。正座はショウ君が自発的にやった事だ。
「兄様こそ、どうして学園に? ご卒業されて随分経つと思いますが」
とりあえず誤魔化し、答えを先延ばしする。
問題を先送りして良い結果になる事なんて殆どないが、今はその数少ない状況だ。なにせ先送りしようが何をしようが、まともな答えなんて無いからだ。
「以前からラドラリー卿に講演を頼まれていてな、今日がその日だったのだよ」
よく見れば兄様の横にラドラリー先生がいた。
思い出せ、思い出すんだ私。えーっと、確かラドラリー先生は熱心な初代国王の信奉者で、ヴァンセル兄様を初代国王ヴァンの再来だと、兄様を熱心に支持している、……人だったはず。
ここで〝はず〟が取れないのが無能の証だ。
私と違い、ヴァンセル兄様は真の意味で派閥の長だ。自派閥の貴族からの頼みごとをきくのは大事な事だ。
優秀な貴族は小さな貸しでも、作れるなら躊躇はしない。
「そうだったのですか。知っていれば私も聴講させて頂いたんですが」
半ば世辞だが半分は本気だった私の言葉は、ヴァンセル兄様の右手でパッパと掃われる。傲慢な仕草も似合うのが王者だ。
「やめろやめろ、俺の講演にお前が来たらそれだけで騒ぎになる。妹よ、痛くない腹をさぐられる趣味にでも目覚めたのでないのなら、大人しくしておくんだな」
一応は第三王女なので、兄様がそう言うのも分かるが。私の腹をさぐった所であるのは空虚な虚空だけなので痛くもかゆくもない。
駄目だ、流石にこれは悲しい。
「して」
ヴァンセル兄様がぐるりと視線を回す。たぶん睥睨《へいげい》を辞書で調べたらヴァンセル兄様の絵が描いていても不思議じゃないぐらい、堂に入っている。
「なぜに我が妹は次代の勇者殿を正座させている?」
当たり前だが、話題をそらした所で兄様は忘れてくれない。
しかし時間が稼げたので、無能な私でも考える事が出来た。結論としては別に隠す必要はない、だった。
正直に言えば良い、ショウ君が勝手に正座しているだけだと。
そもそも私がショウ君を正座させている、と誤解されるのが理解できない。
もうね、私ですよ、私。真面目に考えて次代の勇者を正座させられるわけがない。
「兄様、ショウ君は――」
「メフティアに迷惑をかけた事を謝罪しているんだ、邪魔をしないでくれ」
なんでやねん。
私は好きなコメディアンが良く言う言葉を頭の中で叫んだ。