無能王女と最強勇者伯~ 無能で玉座に興味がない王女だけど、最強の勇者伯が勝手に味方宣言してきて困る~ 作:たけすぃ
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トゥロウサン王国、王位継承権第一位ヴァンセル・フレネス・アブ・トゥロウサンは、噂が本当であった事に心底驚いていた。
次代の勇者、ショウ・アブ・トリックが、自分の妹でもある第三王女、メフティアの派閥に参加したと聞いた時は、随分と趣味の悪い噂を流す者がいるものだと思った。
どの派閥にも所属せず、そして自派閥を作る事もしない勇者伯という存在、それがまさかメフティアの派閥に所属するとは、天地がひっくり返っても起きないと思ったからだ。
どこぞの愚か者が、妹を馬鹿にする為のでっち上げを流した、そう思っていた。
部下の何人かから、本当の事のようだと報告を受けても、ヴァンセルは信じなかった。
まだ池の亀が本を読んでいると言われた方が信じられた。
ヴァンセルにとってメフティアとは、ただの血の繋がった身内でしかなかった。
可愛くはあったが、自分の脅威にはなりえない。
努力はしているが、何一つ人より抜きんでた所はなく、分かり易く言えば平凡な人間だった。
漫然と生きている人間と比べれば優秀と言えるだろうが、〝そこ止まり〟の人間。王位継承権こそ第三位だが、自分の邪魔になるような人間ではい。
ヴァンセルはそう思っていた、今日まで。
「まさか本当だったとはな」
王宮にある一室で、ヴァンセルは思わずといった感じで呟いた。
「妹君の事でしょうか?」
そう尋ね返してきたのは部下の一人で、王国軍では参謀のような事をやらせている男だった。何の趣味か、侯爵家の長男のくせに軍に入り、どこであろうと軍服を着用する男だ。
名はザイソン。コスピアン侯爵家の次期当主だ。
「いったいどんな魔法を使ったのだろうな?」
それはヴァンセルの本音だった。実力でもって如何なる敵をも捻じ伏せられると、確信しているヴァンセルは貴族の前で本音を言う事を恐れない。
「非才の身としては、金か女か、としか思いつきませんね」
相変わらず危うい冗談を口にするザイソンに苦笑する。
次代の勇者を指して、金か女で転ぶような人間だと言っているようにも聞こえる。
首が飛ぶような失言ではないが、大いに顰蹙を買うだろう。
「あの家の人間がその程度の物で靡《なび》くようであるなら今頃王位を簒奪《さんだつ》しているだろうよ」
勇者伯が持つ権威と武力はそれを可能にする。
トゥロウサン王家が今も王でいられるのは、勇者伯が
ついこの間も、王家は辺境に発生した危険な魔物の討伐を命じた所だった。
次代の勇者を派遣した勇者伯家は平然と、かつ淡々と、討伐を済ませ何の報奨も求めてこなかった。
臣下に報いるは王の責務であるので、当然貰えるものだと事更に求めない事までは理解できる。
しかし、益の最大化をこころみないのはヴァンセルからすると全く理解できなかった。
「アレほどの力があるのなら、俺であったら疾《と》うに王位を簒奪している」
「勇者殿は高潔であられますね」
自分の危うい本音にザイソンが皮肉で落としどころ作る。
「メフティアがどのようにして次代の勇者を物にしたのか、知りたいものだな」
その為に自分は今日、学園にまで向かったのだ。
丁度使える都合の良い理由があったからだが、なくても自分は確かめに行っただろうとヴァンセルは思う。
それほどに勇者伯を自陣営に取り込めるというのは、魅力的な話しだったからだ。
次代の勇者が何を求めてメフティア派閥に入ったかは分からない、しかしそれを知れれば、自分なら確実に次代の勇者ショウ・アブ・トリックを自派閥に取り込めるとヴァンセルは確信していた。
今日はただの顔見せ、妹に貸しを作るという形で勇者伯にも恩を売れた、初回としては上々だろう。
学園の食堂での事を思い出していたヴァンセルは、ふと下らない事を思いつく。
「もしかしたら、メフティア陣営が流した噂が真実なのかもな」
次代の勇者は個人的な友誼でメフティア王女と友人となっただけである。
弱小派閥に突然勇者伯という役《やく》が転がり込んで来た衝撃を和らげようとする工作なのだろうが、工作するにしてももっと良く考えるべきだろう。
冗談の質としては、メフティア派閥に勇者伯が参加した、という冗談と同じぐらいに趣味が悪い。
そんな贅沢な物は王族には無い。
やはり我が妹は〝その程度〟なのだ。
「そうであるならば、こちらに勇者伯を引き込むのは難しいかもしれませんね」
ヴァンセルは、真面目な顔で冗談を言うザイソン見て笑った。