無能王女と最強勇者伯~ 無能で玉座に興味がない王女だけど、最強の勇者伯が勝手に味方宣言してきて困る~ 作:たけすぃ
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いつかはこうなる、それは最初から分かっていた事ではあった。
私が何故かショウ君に味方宣言をされた時から、他の派閥がショウ君の引き抜きにかかるのは当然の事なのだ。
トゥロウサン王国の貴族社会からは一定の距離を取っていたトリック侯爵家、その長男が、次代の勇者伯が、なぜか弱小派閥に加わったのだ。
どの派閥も目の色を変えるだろうし、特に兄二人の派閥は本気でショウ君を引き抜きにかかるだろう。
「まさか初手で兄上が直接出てくるのは予想外でしたが……」
「メフティアのお兄さん、結構いい人だったな」
思わず漏らした私の声に、ショウ君が実に軽い調子で応える。
この勇者は理解しているのだろうか?
おそらく昨日、兄様が学園に講演に来た、というのも学園に来る為の方便だ。
実際に講演をしたのかどうかも怪しい。
単に、王族であり王国軍の実質的な最高指揮官であるヴァンセル兄様が、ショウ君と顔を合わせる為だけに来たのだ。
政治的意図が非常に分かり易い。
呼び出したのでもなく、社交界の場でもなく、偶然学園に用があって出向いたら〝個人的な〟知己を得た。
ヴァンセル兄様は、そういう風に演出したかったのだろう。
ショウ君は貴族であるが、社交界には縁遠く、確か十歳かそこらから王国のお願いを聞いては、各地を転々としていたので、直接の面識があるのは王族でも現国王である私の父だけだ。
そういう状況で、先んじて個人的知己を得たというのは非常にメッセージ性が高い。
ヴァンセル兄様が本来なら避けるだろう、学園を使ってショウ君に会いに来るだけの価値はある。
学園はその性質上、一応は中立である、とされているが、元が王国軍の士官学校であるので、ヴァンセル兄様の影響力は大きい。
事実、教職員の殆どはヴァンセル兄様の派閥に参加している家の出だ。
それはヴァンセル兄様からすると、他派閥からは突かれたくない事でもある。他派閥からすると難癖付けてでも、兄様から削りたい強みだからだ。
「ショウ君は昨日の事をどれぐらい理解してますか?」
食堂では、さっそく兄様が手配した職人達が作業を開始している。
学園の顔でもある総ガラス張りの壁なので、一刻も早く修理したいのか、利用者で溢れる昼休みも休まず作業が続けられている。
普段とは違う騒がしさに、生徒達から非難の視線を向けられているような気がするのは、私の被害妄想ではないだろう。
気が付けば定位置となっている〝元〟窓際のテーブルで、私はトンカチやらノコギリの音に負けないように、少しだけ声を大きくする。
「ヴァンセル兄様はショウ君と知己を得たかった、という事ですよ?」
「へぇ」
へぇじゃないが? 自分の立場を分かってこの顔しているなら、私はショウ君を殴っても許されると思う。
素直にそうなんだーって顔をするショウ君を見て、どうやったらこんな摩訶不思議な貴族が生き残ってこれたのかと疑問に思う。
あ、そうだ、この人勇者だったわ、圧倒的な武力の塊だわ。
「つまりヴァンセル兄様は、ショウ君を派閥に誘いたいって事ですよ?」
「え? やだよ」
何言ってんだよって顔された! 不思議! 凄い腹立つ!
「自分で言うのも何ですが、私の弱小派閥よりも第一王子派閥の方が将来性豊かですよ?」
私の派閥は他と比べるのも烏滸《おこ》がましいレベルで弱小だ。
王位継承権争いは、おそらくあと数年で決着がつく。
なので未だ幼い弟や妹たちの派閥は、実質的には王位継承権争いには参加できない。
しかし私の派閥は、その継承権争いに参加できない派閥にも劣るかもしれないぐらいの弱小だ。
なにせ私の派閥は、無能を担ぎ上げて自分の栄華を築こうとする連中の集まりだ。
真っ当な忠誠を集めて出来た派閥と比べちゃいけない。
私は、〝将来性ってなんだろう?〟 顔でそう語るショウ君を見て溜息を吐く。
悲しい事にまわりにはショウ君以外の人間がいないので、溜息を我慢しなくて良い。
「猿山で大将したいような人でもないでしょうに」
自派閥を猿山呼ばわりは、ヴェスポリ伯爵夫人に聞かれたら怒られるだろうが、その猿山自身が言っているのだから許して欲しい。
「バーベキューはたまにやるから楽しいんだと思うんだよ。毎週のようにバーベキューに参加するつもりはないな」
「人間の言葉喋ってもらえます?」
意味不明すぎて思わず罵倒に近いツッコミが出た。
駄目だ、ショウ君と一緒にいると素の言葉が出てしまう。私王女、言葉気を付ける。
走る余地なぞ無い毎日を生きてきたのだ、慎重に慎重に、これからも慎重に。
「えへへ」
そしてなぜか嬉しそうに笑うショウ君。
困った、思わず私も笑顔になってしまう。
「やっぱり俺はメフティアに借りを返したいな」
だからその借りって何なんですか……。
恐ろしくて仕方がない謎の借りとやらに、私は初めて、そう初めてほんの少しだけ感謝した。
え? 当然すぐに後悔しましたよ?