無能王女と最強勇者伯~ 無能で玉座に興味がない王女だけど、最強の勇者伯が勝手に味方宣言してきて困る~ 作:たけすぃ
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壇上の上で、背後にこれから研究発表をするケミカ先輩たちを並ばせた状態で、ラドラリー先生が「正当なる王者に王権を!」と叫んだ時に。
その目が確かに私を見た事に気が付いた。
私は、うそーん、って思った。王女なのに、本当にもう。うそーん、としか思えなかった。色々と、〝本当に〟色々と納得できなかったからだ。
だってこの特別授業という名前の研究結果発表は、派閥間におけるマウント合戦の戦場だからだ。
学園から独自の研究を許される優秀な生徒を、自分の派閥から何人出せるか? で各派閥は時に本当に血を流す。
それを、最大派閥のヴァンセル派閥に所属するラドラリー先生がぶち壊しにくるとか、常識から言えば考えられない事だったからだ。
だって今日発表する先輩方は五人いるが、その内の三人はヴァンセル派閥だ。
今度はちゃんと我慢したぞ、と自慢げに言ったショウ君の〝我慢〟ぐらい信じられない。
ラドラリー先生の突然の奇行に、周囲の生徒が最初に浮かべたのは冷笑だった。
派閥の中での点数稼ぎか何かに思えたのだろう。
しかし私は彼らを無能だとは思わない、だって彼らにはショウ君がいないのだから。
そして残念な事に、私にはショウ君がいた。
ここ最近、二度も学園の窓ガラスを割ってダイナミックエントリーした馬鹿が居たのだ。
私の足りない頭の中でピースがはまる。
その二度共に、その場にはラドラリー先生がいた。
ああー、もう、本当だ、たぶんショウ君の言っている事は本当だ。
「ショウ君!」
私は周囲の生徒に注意を促す前に、彼の名前を呼んだ。
呼んだからなんだと言うのだ、という気持ちと、なぜか彼の名前を呼んだらどうにかしてくれる、という根拠不明の期待があった。
なんだこれは? こんな根拠不明の身勝手な期待、王族が持って良いような物じゃない。
まるで……これではまるで友達に寄せる――。
「任せろ!」
自分で自分の感情が理解できなくて、頭が真っ白になりかけた私を正気に戻したのは、ショウ君の声だった。
普段は頭痛と溜息しか運んでこないくせに、こういう時に聞くショウ君の声は頼もしすぎて笑い出しそうになる。
ショウ君が冗談みたいに私の隣から消え、次の瞬間には檀上の上に立っていた。
「そいつを渡せ」
まるで演劇を見守る観客のように、檀上の上に立つショウ君を見守る生徒達。
さっきまで浮かべていた冷笑が引っ込んでるのは、ショウ君の真面目な顔を見たからか? おぅ、私は最近いつもそんな顔になってんぞ?
ショウ君と出会ってから何度〝マジか〟って顔になった事か。
「勇者! 貴様が間違った人間を選ばなければ!」
ラドラリー先生の手に、三つのリングが繋がったアクセサリーのような物が見える。
あれがケミカ先輩の作った魔道具か。
ちなみに間違った人間とは私の事だろう。
外から見れば選ばれたように見えるのだろうが、私に選ばれたという感覚は全くない。
腹が立つ、私は単に無能が無能らしく人畜無害に生きていきたいだけなのに。
王位継承権の立場も、王女という生まれも、全部私が望んで手に入れた立場じゃない。
私が唯一、私の責任で私自身が手に入れた物は、無能という評価だけだ。
ショウ君だってそうだ。勝手に彼の方から私のほうに近づいてきただけだ。
無能が理由で殺されるならともかく、勝手に付いてきた物で殺されるなぞ、腹が立つ。
「何を勝手な事を! そんな理由で我が臣民傷つける事ゆるしません!」
気が付けば私は叫んでいた。
こんな理不尽な事があるかと、そんな理由で私がなんで暗殺されなきゃいけないんだという怒りを、〝我が臣民傷つける事ゆるしません〟とか何とか聞こえの良い言葉に変換して叫んでいた。
ちなみに〝我が〟も貴族を指しての〝臣民〟も、王でもない私が使うと完全な失言で、王女ポイントマイナス3000点である。
失言やらかしたけど、流れでどうにかならないかなぁ? と私が鍛えぬいた王女顔(無表情)の下で焦っていると、ラドラリー先生が顔真っ赤にしながら叫んでくれた。
よし、あの表情で叫んでくれたら、私の失言ぐらいみんな忘れてくれるだろう。
「何を言うか! この泥棒猫め! シンの王はヴァンセル様にこそ相応しい!」
ふっざけんなよ、このハゲ教師が! 私は確かに猫派だけど!
「王女の文句は俺に言えつってんだろうが」
なに言ってんの!?
せっかく私の失言が誰の脳にも引っ掛からずに流れ消えるかと思ったら、他の爆弾発言が放り込まれた。
なんでそう貴方は勝手に私の味方を宣言するのか?
ショウ君が堂々と演壇の上で宣言し、唖然とする私に対して周囲の生徒から強烈な視線が降り注ぐ中、その音は鳴った。
三つのリングが繋がった魔道具、ケミカ先輩が作った魔物召喚用の魔道具が割れた音だった。
壊れた? いやそんなわけがない。
膨れ上がる、無能な私ですら分かる膨大な魔力。だって目に見えるんだもの。
劇的な効果音なぞなく、禍々しく膨れ上がるそれを見て、大議場に集まった生徒達は初めて息をのんだ。
言葉による説明なぞ必要ない〝あ、これヤバいやーつ〟という本能からの訴え。
「それはそんな風に使う物じゃないんだけど」
壇上のケミカ先輩が呟いた言葉が妙にハッキリ聞こえた。
ラドラリー先生を中心に膨れ上がり続ける魔力の塊。
ああ、ヤバいヤバいヤバい。これどうすれば? というかショウ君〝任せろ〟とか言ったくせに止めるの失敗しちゃってるじゃないですか!
馬鹿な事を宣言してる間に大失敗じゃないですか!
いや、あー違う。私がこの前、貴族はいきなり吊るしちゃダメって言ったからだ。それでショウ君はラドラリー先生を問答無用で吊るさなかったんだ。
だから「それを渡せ」とかショウ君らしからぬ交渉から入ったのだ。
あーあーあー! 私のせいじゃないですか!
「退避なさい!」
おそらく殆どの生徒にとって初めて感じる、本能からの〝あ、これヤバいやーつ〟によって呆然としてしまっている生徒達に私は命令する。
内心では自分のやらかしでジッタンバッタンしているが、それでも声を出す事は出来る。
「ショウ君! 壇上の先輩方を! ラドラリー先生は後回しです!」
ええっと、とにかく自分の失態をどうにかせねば。
その思いだけで私は必死に頭を働かせる。
呆然として固まっていた他の生徒達は、私の命令という
そしてショウ君が私の隣に着地した。
どうやってか、壇上にいた五人の先輩方と一緒に。
速い、速すぎる、待って、まだ私の頭じゃこれからどうすれば良いのか、まったく考えついてない。
やめて! 俺はこれからどうするの? みたいな目で見てこないで!
ショウ君の瞳の中に、意味の分からない全幅の信頼を見出して、私は悲鳴を上げそうになる。
そんな物を! そんな物を易々《やすやす》と受け取れるか!
「先輩!」
いったんはショウ君の視線を無視して、私は時間稼ぎの為にもケミカ先輩に声をかけた。
そしたらケミカ先輩他四人の視線が一斉に私に向いてきて、ぐえぇこの無能と自分を罵りたくなる。
「ケミカ先輩、先ほど、あの魔道具はそのように使う物ではないのではないか、みたいな疑問を口にされていましたが。どういう事でしょうか?」
よーし! どさくさに紛れて、ケミカ先輩がさもあの道具を知っています、みたいな事を口走った過去を改変だ。
ケミカ先輩が一瞬だけ首を傾げるような仕草をすると、私の忖度《そんたく》に気が付いてくれたのか、〝あ、なるほど〟みたいな顔をする。
この人もホント自分の才能とか影響力とか立場に関して無頓着な人だなぁ、ホント。
「あの魔道具は〝魔力の流れ〟を見るに、何かを召喚する魔道具だと思います。ですけど私が見た限り、あれは本来リング一つ一つを動作させる物であって、あのように複数同時に使用するものではないです……ないと思われます」
流石、優秀な人だ。最後はちょっと危なかったが、魔力の流れを見るに、とか適当に理由をでっち上げている。
「あ、やっぱりそうですね。魔力が何か変な動きをしています。あれでは想定された動作はしないんじゃないですかね?」
あ、違う。本当に魔力の動きから推測してたわこの人。天才舐めてたの私でした。
私の反省と同時に、最後の生徒が大議場から出て行き、残されたのは私とショウ君、そしてケミカ先輩を含む五人の先輩方だけだった。
私と話していたケミカ先輩はともかく、他の四人の先輩方はなんで逃げなかったのか?
「おぉケミカ女史、やはりアレはそういう感じの物だと予測されるのですか?」
「それがし、あれは召喚系の動きだと思いますぞ」
「召喚系ではありますが、融合系? 冶金などに使われる魔法のような魔力の動きもありますわ」
「いやいや、どちらもありますが、注目すべきは魔力の整流でしょう。あれは見事な物ですよ!」
あ、駄目だ。こいつら揃いもそろって駄目だ。
竜に食われる時に牙の数をかぞえるタイプの連中だ。
おかげで私の考えはまとまった。
「ショウ君! 先輩方を連れてすぐに避難です!」
良く考えればこれである。私も一緒にさっさとこの場から逃げるのだ。
なんか知らんが魔道具は奇妙な動作をしていて、すぐにでも魔物が出てくるわけでもないのだから。暗殺対象の私はさっさと逃げるべきだったのだ。
混乱していたとは言え、我ながら酷い間抜けである。
いや違う、嘘を言うな私、ショウ君がいるから私は逃げなかったのだ。
先ほどまでは大議場から逃げ出す生徒で混雑していた出入口も、今はすいている。
オッケー、ショウ君が嬉しそうに笑って、五人の先輩方を持ち上げる、手も使わずに。
え? なにその便利魔法。
空中に浮いた先輩方がショウ君の魔法に興奮しているが、私達はそれを無視して走り出した。
嗚呼! なんで! なんで私はもっと出入り口の近くにいなかったのか?
大した距離じゃないのに、自分の足の遅さに絶望しそうになる。
逃げるという判断も、走る足も、全ての行動が遅すぎる。駄目だ無能、自分の無能に殺される。
ラドラリー先生が魔道具を使用してからの全ての行動に、今さらながら多数の反省点を見出して私は後悔する。
あの時こうしてればなぁ!
当然、そのツケは私が払う事になる。
無能でも本能はちゃんと働く自分に驚いた。でも本当に驚いたのはもっと別の事だ。
私は背後で沸き上がった〝いや、これホントにアカン奴ですわ、お疲れ〟の感覚に、そして自分の口を突いて出た言葉に、心底驚いた。
「ショウ君! 私は良いから先輩方を先に!」
何を言ってるんですか私は!
良いのか? そう問うショウ君に頷く自分が信じられない。
あ、でも本音も出そう。あ、出たわ。
「あとで私もちゃんと助けてくださいね」
背後で聞いたこともない魔物の鳴き声が上がるのと、ショウ君が私の目の前から一瞬でいなくなるのは、殆ど同時だった。
ショウ君が最後に真剣な顔で頷いたのが妙に記憶に残った。
そして――。
「あ、私も一緒にショウ君に運んでもらえばよかった」
私は自分の無能さに絶望しそうになった。