無能王女と最強勇者伯~ 無能で玉座に興味がない王女だけど、最強の勇者伯が勝手に味方宣言してきて困る~   作:たけすぃ

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得難き、そして堪え難き5

 *

 

 最悪だ、終わった。私は終わった。今日、私はここで死ぬんだ。

 大議場で、己の間抜けさに対して、内心でとても言葉にはできないような罵詈雑言を並べていた私は、自分の体が浮いた瞬間に死を覚悟した。

 

 辞世の詩でも歌うべきか? 

 嗚ゝ(ああ)、無能。

 

 駄目だ続きが思いつかない。

 自分の無能さに呆れながら、真剣に死ぬのだと覚悟しながら、それでもどこかで楽観が私の中にあったのは、認めたくはないけれどショウ君のせいだろう。

 

 信じてしまうのだ。

 あの埒外《らちがい》を。人類の決戦兵器を。人の希望、人々がそうだと思ったから、そうであったという人類の救世主を。

 

 そして……意味の分からない事を、意味の分からない理由でやらかし、私に迷惑をかけるあの同級生を。

 意外と甘い物が好きで、食堂で出るデザートを食べる時に嬉しそうに笑う少年を。

 

 怒る私に、なぜか嬉しそうな笑みを返してくるあのショウ・アブ・トリックを。

 あの同級生を。

 

 私はショウ君なら何とかしてくれると、無根拠に信じてしまうのだ。

 大議場の屋根を吹き飛ばしながら、召喚された魔物に捕らわれた私は営庭でその少年と再会した。随分と速い再会だが、ちょっと泣きそうな程に懐かしい。

 

 だってさっきから私の体に巻き付いた木の枝が痛いのだ。

 いや、これマジで痛いですよ? 魔物を召喚した犯人のくせに、なぜか私と一緒に捕まっているラドラリー先生なんて気絶しちゃってます。

 

 私も王家が作り上げた魔道具、防御用下着がなければとっくに気絶してただろう強さです。

 そして私はショウ君を信じた事を、当然のように後悔した。

 

 あの馬鹿! 本当にあの馬鹿! マジでもうあの馬鹿!

 語彙が欲しい! あの馬鹿を馬鹿以外で表す為の語彙が欲しい!

 

 私は突然聖剣を取り出したショウ君に対して叫びまくった。

 なぜです!? なぜ貴方はそんなに自信満々で剣を構えられるのですか!?

 

 それ何か分かってます!? 聖剣ですよ!

 初代勇者様が文字通り山を割り、海を割った、あの聖剣ですよ!?

 

 やめろ馬鹿と叫ぶ私の声は、殆ど悲鳴のそれで。

 その蒼き剣身が、伝説にある通り光り輝いた瞬間には、私は頭を丸めショウ君と二人で贖罪を生涯の使命にする覚悟をした。

 

 たぶん王都の半分が崩壊する。

 ――閃光。

 

 伝説は、派手な音もなく、ましてや詩人が残した詩のように、雷や〝凍った炎で出来た花びら〟が舞う事もなかった。

 私のすぐ横を通り過ぎたそれは、安直な表現で言えば光の刃で、召喚された魔物を文字通り一刀両断した。

 

 背後の大議場と共に。

 

「やっぱりじゃないですか! やっぱりじゃないですか!」

 

 高い所にある物は下に落ちる。その当たり前を体で感じながら私は叫んだ。

 

「やっぱりじゃないですか!」

 

 三回叫んだ。

 

「いやホントごめん」

 

 空中で私を受け止め、ついでのようにラドラリー先生を魔法で浮かせたショウ君が謝ってくる。

 本当に反省しているかのような、いつもの顔だ。

 

 何回も騙されると思うなよ、この妖怪反省してる風勇者。

 

「助けるのがちょっと遅れた」

 

「怒ってるのはそっちじゃないですよ?」

 

 おっとマズいニヤニヤしそうになった。

 私は吊り上がりそうな頬を筋力で抑え込み、重力に逆らいゆっくり降下する浮遊感を感じながら大議場を指さした。

 

 真っ二つである。

 屋根が吹き飛んだ事で、元々崩れそうだったのだろう、丁度足元でグチャってる魔物もかくや、みたいな感じで大議場が崩壊している。

 

 完全崩壊って奴だ。これどうすんだ? 私に弁償を求められても流石に無理ですよ?

 土下座か、土下座だこれ。お父様に土下座しにいこう。ショウ君と二人で。

 

「ちょっと……その、あのだな。良い所を見せたくてだな」

 

 お前の良い所なんてみんな知っとるわ! 王国民全員が知っとるわ!

 なんなら私達王族が一番良く知っとるわ!

 

「メフティアには最近怒られてばっかりだったから」

 

 んだよーコイツ。私に良い所見せたかったのかよぉ。

 

「私に見せた所でどうにかなる物なぞ無いでしょうに」

 

 内心でちょっと嬉しく思ったが、それはそれとして意味が分からない。

 まあいつもの事なんですが。なんだ〝いつもの事〟って?

 

 短い間にショウ君に慣れすぎだろ私。

 

「借りを返せなくなったら困る」

 

 拗ねたような、もしくは、照れたように、私から視線を逸らすショウ君は、ただの同い年の少年に見える。

 困った、本当に困った。

 

 ああーもう、ホントにもう、この妖怪勇者は。

 

「またそれですか……」

 

 呆れる事に、それで納得しそうになる自分がいる。

 私には分からないが、彼にとっては大事な物がある。

 

 それが善良な物であるのなら、私もそれを尊重したい。素直にそう思ってしまう。

 これではまるで大事な友達みたいではないか。

 

 近づく営庭の地面に視線を落としながら、私は特大の溜息を吐いた。

 

「一緒に土下座ですよショウ君」

 

「一緒にかぁ」

 

 なんで貴方は嬉しそうなんですか。

 私はもう一度溜息を吐いた。

 

 周囲には私達以外に人はおらず、私の溜息はショウ君しか聞く人はいなかった。

 

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