無能王女と最強勇者伯~ 無能で玉座に興味がない王女だけど、最強の勇者伯が勝手に味方宣言してきて困る~ 作:たけすぃ
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メフティア・フレネス・アブ・トゥロウサン。
トゥロウサン王国の第三王女は自分の人生が崩壊の最中である事を、遂に受け入れた。
ここ一週間、毎日ひたすら歩きまくった。
色んな貴族の所に行っては、泣きつき、弱音を吐き、愚痴を吐いては自分の窮状を訴えた。メフティアは知っている、人間はチワワに泣きつかれるとついお願いを聞いてしまう事に。
まあ自分は猫派だが。
現在ヴァン学園は建設当時からある歴史ある大議場が大崩壊した事で、臨時の休みになっている。
しかも、学園の教師から王族暗殺犯が出てしまったので、そちらの方の処理もある。
暗殺はバレなければ暗殺ですむが、バレたら殺人だし、今回の場合はテロ扱いだ。
メフティア一人の為に大勢を巻き込むだろう方法が使われた事に、貴族界隈は騒然となっている。
どういう事だ? 私にそんな価値なんて無いと言いたいのか?
まあ、ないんですけどね。
メフティアは溜息を吐いた。
「何を溜息を吐いているんだ?」
今日もまた、王都にある貴族の別邸を三つ回ったメフティアは、休憩の為に入った喫茶店でショウにそう問われた。
相変わらずショウは貴族のあれこれに関しては驚く程に無頓着だった。
メフティアとしては今すぐにでも頭を抱えて眠ってしまいたい状態だというのに、呑気に茶と菓子を楽しんでいる。
そもそも今回のラドラリーが起こしたテロ事件は、良く考えなくても不審な点だらけだった。
メフティアは考える。
無能な自分でも分かるくらいに、あからさまにおかしい。
何度も言うが、暗殺はバレない事に価値がある。
ヴァンセル兄様派閥の、ラドラリー先生が、衆人の耳目の中で、王族である私を排除しようと、他の貴族も巻き込んでテロを起こした。
これを不信と思わないのは、無能とは別の才能が必要だ。
例えば、目の前のショウ君のように。
「第一王子派閥からテロ犯が出たけど、犯人の行動が怪しすぎて、第一王子派閥は他派閥の妨害工作を疑っていて、疑われた方はそれに対して、どういう事だこの野郎って怒っている状態だからですよ」
メフティアはざっくりショウに説明した。
言葉にしてみると本当に意味不明な暗殺テロだ。
驚くほどに誰の利にもなっていない。
テロ犯を出したヴァンセル派閥も、そして妨害工作を疑われる他派閥も。
おかげで各派閥は弱小含めて大混乱中だ。
犯人であるラドラリーは奇妙な魔法を使用し、完全な黙秘を貫いているので、混沌は収まる気配を見せない。
「貴族って大変だな」
本当に貴族界隈に対して興味がないな、この男。
自分も貴族の一員のくせに、まるで他人事のように茶を飲むショウを見てメフティアは呆れる。
「貴方も私の溜息の理由の一つなんですが?」
「え? 俺なんかしたっけ?」
「貴方が私に付いてきた事ですよ」
貴族界隈が大混乱の中、メフティアが何をしていたかというと貴族家行脚を行っていた。
ショウが壊した大議場の建て直し費用の〝寄付〟を募る為だ。
元々は一人で王都に別邸を構えている貴族、つまりは大貴族か金持ち貴族の家をまわり歩くつもりだったのだが、それを聞いたショウが護衛と言い張って付いてきてしまったのだ。
おかげで、大議場を建て直す為の寄付を募る貴族家行脚が、勇者を引き連れた王女の恐喝行脚になってしまった。
精一杯チワワ顔を披露したつもりだが、どれほど効果があったものか。
無能な上に勇者を使って金を毟り取る王女とか、悪評にもほどがある。
「いやあ楽しかったな!」
そりゃ貴方はそうでしょうよ。
シンドイ事になるだろうな、そう思っていたメフティアの貴族家行脚は、予想外に快適な物となってしまった。
全てショウのせいである。
勇者が自分の家に尋ねてくるなぞ、王家が家に来るよりも珍しい。
家としては拍が付きまくりだ。
そりゃもう歓待される。
しかし、それもメフティアが大議場再建資金の寄付を募っているという話を出すまでだったが。
相手からすれば堪ったもんじゃないだろう。
嫌だろうなぁ、人類最強戦力を背後に寄付を頼む王族って。
寄付を寄越せと脅しているようなものだ。
メフティアは引き攣った貴族の顔が忘れられない。自分で暗殺の種を方々に撒き散らした気がする。
というか先ぶれをたった一日前に出しての訪問なので、完全に不意打ちだ。相手から真面目に恨まれているだろう。
一応は自派閥の貴族も含めて家をまわったが、あまり意味があるようには思えない。
なにせ弱小派閥なので、金を持ってる貴族が少ない。
嗚呼、最悪だ。無能の上に
メフティアは頭を抱えたい。そう無駄になったのだ、自分のこの寄付集めは。
つい先ほど知った事なのだが、大議場の再建費用はヴァンセル王子が捻出するという事になったらしい。
建付けとしては、自分は与《あずか》り知らぬ事だが、自派閥の人間が〝心神を喪失〟し、歴史ある大議場を壊してしまった事、ヴァンセル兄様のご心痛ふかく、これからの王国を背負って立つ生徒諸君の為に再建資金を出す事を決意された、という事になった。
つまりメフティアのここ一週間の貴族家行脚は無駄になったようだ。
〝ようだ〟というのは、本当に先ほど訪問した貴族家で聞いた話なので、裏も何もまったく取れていないのだ。
今貴族界隈で話題沸騰の、暗殺テロ事件の被害者なのにこの体たらく。
頭を抱えて蹲りたい。暖かいベッドの中でゴロゴロしてたい。
溜息を吐きながら頭を抱えたメフティアを、頼んでいた茶の御代わりを持ってきた店員が見て不審な顔をしている。
店員の前での溜息はオッケー。
メフティアは自分のセーフラインを適当に動かしながら、この後始末をどうするか考える。
「まあ、順当にやるならヴァンセル兄様に集めた寄付金を渡す、とかですかね」
「麗しい兄弟愛だな」
自分の向かいで、茶と焼き菓子を美味そうに食べながらショウが相槌をうつ。
「なんでそう他人事みたいに……」
だがメフティアはショウに文句を言えない。
なぜならショウは今回メフティアが集めた寄付金と、ほぼ同額を一人で用意しているからだ。何でも処分しようとしていた竜の死骸が良い値段で売れたとか。
なんと寄付金とショウの出した金で、大議場の再建が出来る程だ。
「あーいや、待ってください。これマズいのでは?」
政治的な事を考えると、ヴァンセル兄様に私が集めた寄付金と、ショウ君の寄付金が入る事になる。これは痛くもない腹を思いっきり探られる事になる。
なんというか政治的メッセージとして強すぎる。
特にそれを見た第二王子派閥がどう動くのか想像できない。
「え? これ集めたお金どうしたらいいの?」
今更、寄付を出すと約束した貴族家をまわって〝やっぱり要りません〟は通じない。
それはそれでメンツ問題になる。
貴族が一度出すと言ったら出す、絶対に。これを受け取らないは、寄付を募った王族側としては絶対にやっちゃいけない。
くあぁあ、悩み過ぎてメフティアは喉から変な声が出そうになる。
問題は集めた金の使い道がない事だ。だって肝心の大議場はヴァンセル兄様が再建するのだから。
「使えば良いんじゃね?」
実に気楽に、ショウが言う。
「そんな事できませんよ」
メフティアは自分の声に、呆れというより拗ねが入った事を自覚した。
どうにもショウと話していると、無警戒な自分が外に出てしまう。
しかしこの拗ねは許されるだろう、だってショウ君が滅茶苦茶な事を言うのだから。
大議場再建を掲げて寄付を集めたのに、それを他の事に使用するなぞ大問題だ。
しかし、まあ……。
メフティアは口に放り込んだ菓子の甘さを噛みしめながら考える。
ヴァンセル兄様に渡せないとすると、残る手段はヴァンセル兄様を差し置いて自分が金を出すという法方しかないのですが……。
当たり前だがこれはこれで、ヴァンセル兄様のメンツ問題になります。
しかもそうなったら、どちらが出すか? でメンツ合戦になるので、弱小派閥の自分がそれに勝てる見込みは極めて低い。
……八方塞がりじゃないですか。
メフティアは空を見上げた、喫茶店の天井しか見えなかったが。
「いや、だからさ。もう一つ大議場建てれば良いんじゃね?」
何を馬鹿な事を言い出すのか。
メフティアは次代の勇者を馬鹿を見る目で見た。
あぁ、いや、これは、馬鹿は私でしたか?
「確かに……、学園には空いている土地がありますし、名前は第二大議場なりで。いやそれでは同じような施設が二つもあるという無駄に。ああいえ、そうか、名前は大議場にして中身を別の物に、そう言えばケミカ先輩は研究室が狭いとか足りないとか……」
嗚呼、これだ。
「第二大議場(研究棟)を建てましょう」
大議場再建という名目を達成しつつ、ヴァンセル兄様と対立せず、第二王子派閥からも余計な勘繰りをされない、完璧な策である。
しかもケミカ先輩や、他の優秀な生徒の役にもたてる。完璧じゃないですか。
メフティアは流れでケミカの事を思い出しながら、自分の思い付きに感激する。
魔物召喚の魔道具に関しては有耶無耶になってくれたが、大人しくしているのだろうか? 本人は自分の作った魔道具をあのように使われてしまい、大変に反省していたようだが。
「おぉー」
世にも珍しい勇者のやる気のない歓声と拍手を受けながら、たまにはショウ君も良い事を言うものです、とメフティアは満足げに片手をあげて「ありがとう、ありがとう」と応える。
彼女はまだ知らない。
第二大議場という名前の研究棟を作ると彼女が発表し、それによりケミカ先輩他、多数の独自の研究を許されている学生達が、〝個人的に〟メフティア派閥に協力すると宣言し、彼女が悲鳴を上げる事になるのはもう少し先の事である。
まだ何も知らないメフティアは「寄付を出してくれた方々にも感謝しないとダメですね。そういえば初代勇者様と一緒に戦ったっていう竜の方には――」などと、問題が解決したと安心しきった顔で楽し気にショウと会話していた。
二人の顔は、王女と勇者というよりも、まるで友人のようであった。