無能王女と最強勇者伯~ 無能で玉座に興味がない王女だけど、最強の勇者伯が勝手に味方宣言してきて困る~ 作:たけすぃ
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「はい、そうです。それでですね。私は召喚された魔物に吊るされてですね」
なぜ私は伝説の竜を前にして、正座で自分が暗殺されそうになった所を説明しているのか?
「ほう、次代のボンはちょっと行動が遅いのぉ。初代ちゃんなら他の人間を助けながら、同時にメフティアちゃん助けてたぞ」
鼻息一つで城を破壊できる伝説の竜が、学園の営庭で〝あぐら〟のような恰好をしている。意味が分からない。
「やめてくれよ爺さん」
ショウ君が伝説の竜を爺呼ばわりする。
「メフティアが先輩方を頼みますって俺に頼んだんだ。つまり自分を後回しにしてでも他の人間の安全を最優先しろって事だ。これを言われて汲《く》まないわけにはいかないだろ」
そんな事は考えていなかった。単に自分も一緒に連れて行って逃げてくれ、という事が思いつかなかっただけだ。
「かー! メフティアちゃん良いのぉ!」
伝説の竜が、わざわざ首を曲げてまで、前足で顔面を覆って感激する。
なんというか、仕草が人間のそれで、違和感が凄い。
そして竜が大げさな動作をするたびに、遠く離れてこちらを観察している生徒達からどよめきが起こる。
あの程度の距離、竜が本気になれば安全圏でも何でもないと思うのだけど、安全な場所まで後退するというのも、それはそれで怖いのだろう。
最近の私が、ショウ君が近くにいないと怖いのと一緒だ。
見えない場所で何かされている方が怖い。
「あ、えっとそれでですね」
流れでこの前の暗殺テロ事件の話をする事になってしまったが、本当に伝えたい事はそれじゃない。
「その事件でショウ君が大議場を壊してしまったので、その再建費用の寄付を募っている時にですね、私がショウ君に王族は長らく黒竜様にお礼を言えていないと〝雑談〟で漏らしてしまいまして」
そうしたらコレである。私のせいじゃないと思う。思いたい。
普通はこれで竜を連れてくるとか想像できない。
まさかたった一日、目を離しただけで竜を連れてくるとか、マジで意味が分からない。
「黒竜様とかやめてくれんかのぉメフティアちゃんや。ケツが痒くなるでな」
じゃあなんて呼べば良いんだよ。
伝説にちゃん付けで呼ばれる私の気持ちも考えて欲しい。
「竜ジイで良いぞ」
そんなフランクに伝説の竜を呼べと?
「ちなみにワシの名前ジイな」
名前よびじゃねーか!
「それでしたらジイ様と」
「お、メフティア上手い」
「メフティアちゃんも上手いこと言うのぉ! ヴァンの奴にそっくりじゃ!」
誰も上手いこと言おうと思っていませんが!?
私は、このセンスは王家の血筋かのぉ、とか感心している竜を無視する。そんなダジャレの血筋はいらない。
「という事ですので、本来であれば私達王家の方からジイ様にお礼を言いに向かうべき所でしたのですが、〝不幸な〟……ええ不幸な誤解により逆にお呼びつけるような事態にあいなりました事、深くお詫び申し上げます」
そう言って私は正座の状態から頭を下げる。
王族は簡単に頭を下げてはいけないが、伝説の竜相手なら何度下げても許される。
「あーあー良いんじゃよ、そんな事。礼なら初代ちゃんからヴァンの手紙を何度も受け取っておるしな。直接礼を言えない事を何度も謝られておるわ」
初代国王様は竜と文通していたらしい。知らない王家の歴史だ。
こんな状況でなければ、もっと前のめりで聞いていたかもしれない。
「毎週のように、無茶を承知で一つの国にまとめたから大変だとか、何々の大臣はクソとかの愚痴を読まされたがのぉ」
おぉおおっと危ない! 危険すぎる話が! 私は自分の耳を塞ぎたい欲求を抑え込んだ。
「えっとですね」
声が引き攣らなかった自分を褒めたい。
「もしジイ様がよろしければなのですが、我が父である現国王もジイ様に直接お礼を言いたいと以前申しておりましたので、どうか我が父とお会いになって頂けないでしょうか?」
初代勇者と初代国王の戦友である伝説の黒竜。
それが私に会う為だけに王都に来た、等となったらまた話がややこしくなる。
というか政治的に強力無比なストレートパンチ過ぎる。
ここはどうにかして、和らげなければ、薄めなければならない。
国王である父は当然のように多忙の身だが、流石に伝説の竜が現れてそれより優先する仕事は他にないはずだ。
何としてでも会ってもらう。なんなら第一王子派閥とか第二王子派閥とかの面々も一緒に会わせたい。
「おぉヴァンの子孫どもか、そうかそうか当たり前じゃな。メフティアちゃんがいるんじゃから他もおるわな。うんうん、わしも会ってみたいのぉ」
うぉおおしゃああ! 私は心中で喝采を上げた。
助かった! 私は助かった!
ここ最近は、ケミカ先輩たちが〝個人的に〟私の派閥に入るとか宣言したりと、滅茶苦茶な状態になっているのだ。
派閥にとって勢力が大きくなるのは良い事なのだが、勝手に大きくなるのも問題なのだ。
元々いた派閥の人員からすれば、新しく入ってくる人間はすなわちライバルだ。
私の派閥のように、無能を担ぎあげて自身の栄達を望む者の集まりだったりすると特に。
私は、これ以上ヴェスポリ伯爵夫人に怖い顔で睨まれるのはゴメン被りたい。
「ありがとうございますジイ様」
私は伝説の竜に礼を言って立ち上がる。地面に正座していたせいで脛が痛い。
「まずは他の者達に、ジイ様の説明を私がしてまいります。何もない営庭ではありますが、暫くお待ち頂けますよう」
そう言って私は、こちらを遠巻きに見てくる生徒達、および教師の方へと歩いて良く。
そう言えば私達は何の為に営庭に集められたのだったか?
そうだ、思い出した。大議場再建費用を捻出されたヴァンセル兄様への感謝を、とついでに新しく第二大議場もできるよっていう話を聞かされていたのだ。
私がショウ君に頼んで、ヴァンセル兄様の名誉回復の機会を邪魔させた、とか思われたりしないだろうか?
流石に大丈夫か。でも念の為にジイ様への挨拶は絶対にヴァンセル兄様が優先されるように手を回そう。というかジイ様に頼もう。竜様の方からヴァンセル兄様に声をかけてくれって。
我ながら良いアイデアを思い付いたと思ったら、自分の横でショウ君がニヤニヤしている気配を感じる。
「なんでショウ君はニヤニヤしてるんですか?」
コイツのせいで私は酷い目にあっている。そう思えば多少は声が固くなる分には許されるだろう。甘えだろうか?
「メフティアの願いを叶えられたなって思ってだな」
勇者が個人の願いを叶えて嬉しがっていたりしたら、キリがないでしょうに。
私の記憶が確かなら、学園が休みの間にショウ君はどこかの街を救っていたはずだ。
個人の願いどころか街の住民総出の願いを叶えている。
相変わらずショウ君が分からない。
こんな時に同じ年の友人がいたら、愚痴を言ったり相談できたりすのにな。
私の周りにいるのは現状ショウ君ただ一人だ。
私は思わず立ち止まり、空を見上げてしまう。
「ああー友達が欲しい」
私の隣でショウ君が破顔したのが分かった。
「奇遇だな、俺もだよ」
何故か急激に嫌な予感がわいてくる。
「なんかメフティアの願いをもっと叶えたくなってきた」
さもそれが当然のように、最強勇者が良いアイデアみたいな顔をする。
「玉座とかに興味ないか?」
私は叫んだ。
「やめろ私は玉座になんか興味ない!」
いったん区切りの良い所までは書けたので、満足。