無能王女と最強勇者伯~ 無能で玉座に興味がない王女だけど、最強の勇者伯が勝手に味方宣言してきて困る~   作:たけすぃ

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最強勇者伯と無能王女2

 *

 

 私の名前はメフティア・フレネス・アブ・トゥロウサン。

 トゥロウサン王国の王女で継承権三位だ。

 

 そう三位だ。

 一位でも二位でもなく、三位。

 

 この三位という数字が良くなかった。本当に良くなかった。

 一位と二位からは警戒され、四位以下の兄弟からは追い落としてやろうと標的にされる。

 

 幸い下の兄弟達はまだ真剣に王位継承を考えるような年齢ではなく、私の事を姉様と慕ってくれてはいるが……それも時間の問題だろう。

 なにせ私は無能だからだ。

 

 それもちょっとやそっとの無能ではない。

 軍事に関しては長兄に遠く及ばす、政治に関しては次兄に遠く及ばない。

 

 これでこの二つがバランス良く備わっていたのなら、それはそれで武器になったのだろうが、残念ながら私のそれは遥か下だ。バランス良く無能と言っても良い。

 どれほど下かを自分で話すのも悲しいが、学園に通う事になるのに身の回りを世話する人間が一人しかつかない。

 

 私これでも王族なのに、王女なのに、継承権第三位なのに。

 つまり、それ程までに期待されていないのだ、実の家族からも。

 

 だけどまぁ仕方ない、そう納得できるぐらいに自分は無能だった。

 なにせ、これまで私に付けられた師匠を落胆させ続けてきた実績がある。

 

 これで継承権三位だし、女だし、三流の家庭教師でも付けておけば良いか、という話ならまだ救いはあったが、付けられた師匠は全て各界の著名人だった。

 そして教師としても優秀だった。残念ながらどれだけ優秀な教師であっても学ぶ物の無才っぷりまではどうにもならなかったが。

 

 一生懸命やったのだ! やったんだけどね? 結果はお察しください。

 まぁこんな無能なので、継承権三位とはいっても私は玉座に何の興味もない。

 

 こんな私が王位に付けば国が傾く。それぐらいの自覚はある。

 自覚はあるが、それだけでどうにかならないのが王族だ、貴族だ。

 

 私は眼の前で微笑むヴィスボリ伯爵夫人の顔を見ながら、心中で溜息を吐く。たぶん百回目ぐらいの。

 私の王位継承を推す人だ。いわゆる派閥の重鎮というやつだ。

 

 見る目が無さ過ぎて頭大丈夫か? と思うが、無能は無能で使い道があるのが貴族の世界だ。嫌な世界だ。

 担ぐ王が無能であれば使い道があると思う貴族というのは結構多い。

 

 ヴィスボリ伯爵夫人はその筆頭である。この人に見限られたら私はおそらく速攻で政略結婚にでも使われる。もしくは暗殺か。

 十六歳で婚約者もいないのは、この人のおかげでもある。

 

 そうと思えば無下にも出来ないのだけど、推される理由が自分の無能さというのが悲しい。悲しすぎる。それ程までに無能か私。

 

「少し早いですが、ご入学おめでとうございます殿下」

 

 ややこしい貴族の礼儀に則って伯爵夫人が所作を整えてお祝いを言ってくれる。

 祝の言葉に礼を返しながら、忘れていた明日の入学式を思い出して溜息が出そうになる。

 

 おっといけない、私は王族。

 無表情を保ったつもりだったが、伯爵夫人には感づかれてしまう。

 

 自分の無能さが憎らしくなる。

 

「何か心配ごとでも?」

 

 貴族社会とは、貸し借りの世界である。

 馬鹿みたいな話だけど本当だ。

 

 なので貴族は優秀であればあるほど、貸しを作る機会を見逃さない。

 貸し借りとは、要は歴史である。

 

 貸したり借りたり、踏み倒されたり強制的に回収したり。それらが積み重なって歴史となり、家と家の繋がりになる。

 こんな無能を次代の王にと推す人である。つまり自分達にはそれだけの能力があると思える程に有能な人なので、一度隙を見せたのなら素直に晒した方が軽症で済む。

 

 無能な私が学んだ大事な事の一つだ。

 

「いえ、明日の入学祝賀で総代としてスピーチをしなければならないので。少し緊張しているのです」

 

 気を付けなければ王族らしからぬ敬語が出そうになる。

 

「そうでございますか」

 

 ありがたい。

 余りに情けない理由だったおかげで、伯爵夫人は作る借りを思いつかなかったようだ。

 

 ヴィスボリ伯爵夫人が浮かべる柔和な笑み、それが私の無能を嘲《あざけ》る物ではないと良いのだけど。

 そう思いながら私は心中で溜息を吐いた。たぶん百一回目の。

 

 

 

 誰も見ていない、それを確認して私はそっと溜息を吐く。

 服は学園に通う間は身分の差なく勉学に励んで欲しい、という理由で用意された制服。

 

 本当の所は制限を設けなければ、学園に子供を通わすだけで貴族の家が傾きかねないからだ。

 一度着た服は二度と着ない。少なくとも、一目みて分からない程に仕立て直さない限りは。貴族とはそういう物だ。

 

 そして、そうならないように制服が用意されたのだ。

 ――と、貴族家は思っているが、真実は一番最初の理由が正解だ。

 

 今日から私が通う学園、初代国王の名前を冠するヴァン王立学園は、貴族に列せられる事になった勇者様に貴族教育を受けて貰う為に出来たのが大本《おおもと》だ。

 勇者様が、いきなり貴族社会に放り込まれてまともにやっていけるはずもなく、必ず発生するだろうイザコザを無かった事にする為に、学園内では身分差は無い物とされた。

 

 あとついでに言うと、実は二番目の理由も本当だったりする。

 貴族の為ではないけども。

 

 当然ながら平民だった、もとい貧乏騎士だったか何かだった勇者様に、毎日違う服を用意する金もなければ、作らせる為のツテもなかった。

 それで出来たのがこの制服だ。

 

 魔族との戦争後で両親が死んでまともに貴族教育を受けられなかった貴族子弟もついでに集めたので、そこに対する配慮もあっただろう。

 戦後のドサクサに紛れて出来たのが我が国トゥロウサン王国なので、我が国の貴族とは~と纏めて教育するのも都合が良かった。

 

 新しい酒袋には新しい酒をという事である。

 平和になった後は、巨大な王国で貴族子弟を実質的に人質に出来たり、派閥の形成等と便利だったので形を変えた。

 

 私は女子用の制服に身を包んだ自分の姿を鏡で確認して、もう一度溜息を吐いた。

 私についているたった一人の従者は部屋の外で見張りについて貰っているので、自分で着替えた。王女なのに。

 

 王家の血統を色濃く映す銀髪は、見た目だけなら立派だが。

 中身が私だと思うとなんとも情けなく見える。

 

 こんな自分が新入生総代としてスピーチするのである。

 吐きそう、今すぐ全部投げ捨てて逃げ出したい。

 

 だがそれをすれば各方面に迷惑が掛かる。

 こんな無能を推している派閥の人達には特に巨大な迷惑が掛かる。

 

 流石にそれは王族の一員として無責任すぎるだろう。

 派閥が負けて解散するなり何処かに吸収されるにしても、その理由が入学祝賀の席で王女がスピーチしたくないからでは、身の振り方にも困るだろう。

 

 溜息はこれで最後にしよう。

 私は鏡の前でもう一度だけ溜息を吐いてから、グッ握りこぶしを作って気合を入れる。

 

 ただの決まり切ったスピーチである、大丈夫、無能といってもそれぐらいは出来る。

 出来るはずだ、お願い出来てくれ!

 

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