俺たちが作ったゲームなのに知らない設定が多すぎる ~自作ゲーム世界に転移したら聖女になっていた~ 作:Fiomia
※タイトルは別に♀に目覚めたという意味ではありません
目を開けると、白い石造りの天井が視界に入った。
ぼやけていた景色が少しずつ輪郭を取り戻していく。
身体は重い。
腕を動かそうとするだけで力が抜けてしまう。
「……ここは」
掠れた声が漏れた。
その声を聞いた途端、近くで椅子を引く音がした。
「フィアナ!」
聞き慣れた声。
顔を向けると、そこにはアレックスがいた。
目の下には薄く疲れが残っている。
ずっと付き添ってくれていたのだろう。
その姿を見た瞬間、胸の奥に張り詰めていたものが静かにほどけた。
「……アレックス」
「気が付いたか」
穏やかな声だった。
けれど、その表情には隠しきれない安堵が浮かんでいる。
私は崩落の直前を思い出す。
足元が崩れたこと。身体が宙へ投げ出されたこと。
そして。
私へ向かって迷わず飛び込んできた、黒い髪の青年の姿。
「あ……」
思い出した途端、胸が少し熱くなった。
「そうだ……私」
「助けてもらったんだよね」
アレックスは少し照れくさそうに頭をかいた。
「間に合ってよかった」
それだけ。
本当に、それだけしか言わなかった。
でも、その短い言葉に、あの時どれほど必死だったのかが伝わってくる。
私はゆっくり身体を起こそうとした。
「おい、無理するな」
アレックスが慌てて肩を支える。
その手の温かさに、私は自然と笑みを浮かべた。
「ありがとう」
「助けてくれて」
言葉にすると、不思議なくらい素直に気持ちが溢れてきた。
「あの時、アレックスが飛び込んでくれなかったら……」
その先は言えなかった。
考えたくもない結末が頭をよぎる。
アレックスは少し困ったように笑う。
「そんな顔するな」
「助けるのは当たり前だろ」
「親友なんだから」
私はその言葉を聞いて、小さく首を振った。
「当たり前じゃないよ」
「あの高さだったんだよ?」
「自分まで落ちるかもしれないのに、迷わなかった」
アレックスは少し黙り込んだ。
「……考えてなかった」
「身体が勝手に動いた」
その答えがいかにも彼らしい。私は思わず笑ってしまう。
「アレックスらしいね」
「笑い事じゃない」
今度は少しだけ真面目な顔になる。
「本当に危なかった」
「お前を見失った時、心臓が止まるかと思った」
その一言で笑みが止まる。
あまり感情を口にしないアレックスが、そんなことを言うなんて思ってもみなかった。
私は返す言葉を探す。
けれど、見つからない。
代わりに、もう一度だけ小さく言った。
「……ありがとう」
今度は彼も照れ隠しをしなかった。
「無事なら、それでいい」
短い返事。
それだけなのに、胸の奥が少しだけ温かくなる。
しばらく沈黙が続いた。
気まずいわけではない。むしろ心地いい静けさに感じた。
やがて私は思い出したように尋ねる。
「そうだ」
「私、どれくらい寝てたの?」
「丸一日だ」
思ったより長い。
崩落のあと、本当に何も覚えていなかったらしい。
最後に残っている記憶は、アレックスの腕の中だった。
私はゆっくり息を吐き、それから一番気になっていたことを口にする。
「クラリスさんは?」
アレックスは安心させるように頷いた。
「大丈夫だ」
「無事に目を覚ました」
その言葉を聞いて、ようやく肩の力が抜けた。
今回の戦いは、決して無駄ではなかった。
◇
その後、私は医師から診察を受けた。
重傷ではない。
ただ極度の魔力枯渇。
数日は安静が必要らしい。
病室を出ると、廊下にはルークとミリアがいた。
「おっ!」
「目覚めた!」
二人が駆け寄ってくる。
「心配したんだからね!」
ミリアが頬を膨らませる。
「ごめん」
「本当だよ」
ルークも苦笑しているけど、その顔は明るい。
私はようやく生きて帰れたのだと実感した。
「レオンさんたちは?」
「調査局で後始末だ」
「ドルガンさんは取り調べを受けてるんだって。まあ仕方ないよね」
ミリアが言う。
「今は王城に呼ばれてるみたい」
私は頷いた。
当然だろう。
今回の件はあまりにも大きい。
王族。
古代遺跡。
そしてマグナス。
調べることは山ほどある。
◇
夕方。
病室に来客があった。
レオンさんとコーデリアだった。
「目が覚めたか」
「はい」
レオンさんは相変わらず無表情だった。
だがどこか安心したようにも見える。
「クラリス殿下は本日昼に意識を取り戻した」
私はほっと息をついた。
本当に助かったのだ。
「後遺症もありません」
「よかった……」
思わず声が漏れる。
その反応を見てレオンさんは小さく頷いた。
「今回の件、お前たちには感謝している」
それは彼にしては珍しい言葉だった。
「礼なら皆に言ってください」
「言うつもりだ」
短く答える。
そしてレオンさんは話題を変えた。
「マグナスの最後の言葉についてだ」
病室の空気が少し変わる。
私は姿勢を正した。
「古代王都」
私は頷く。
あの場にいた全員が聞いていた。
「現在調査中だ」
「何か分かったんですか?」
「まだだ」
そこでレオンさんは一度言葉を切った。
「だが手掛かりはある」
私は眉をひそめた。
「というと?」
「この件はクラリス殿下が何かをご存じらしい」
レオンさんは続ける。
「まだ確証はない」
「フィアナさんが回復したら、一度王城へ召喚されると思います。それまでしばらく休んでいてください」
コーデリアが少し疲れた様子でそう言った。
◇
レオンさんたちが去った後、私は窓の外を見つめた。
夕暮れ。
王都の街並みが赤く染まっている。
王都での冒険は終わろうとしている。
だけど事件は終わっていない。
むしろ本当の黒幕が姿を現し始めただけだ。
──カルディア。
──古代王都。
──そしてどうして私たちがここにいるのか。
まだ何も終わっていない。
窓際へ近付こうとして、ふらりと身体が揺れた。
「だから寝てろ」
背後から声がした。
振り返ると、いつの間にかアレックスが戻ってきていた。
私は少し笑う。
「監視?」
「保護だ」
即答。
その答えがおかしくて、思わず吹き出してしまう。
アレックスは不満そうな顔をした。
だけど私には分かった。この人は本当に心配している。
崩落の時も。今も。
そのことが少しだけ嬉しかった。
「ありがとう」
私がそう言うと。
アレックスは少しだけ目を見開いた。
「……何だ急に」
「別に」
私は笑った。
夕日が差し込む部屋は暖かかった。