Fate/WhiteЯ ――蛇川市における怪奇現象、および聖杯戦争について――   作:サイベリアンザウルス

1 / 7
第1幕
Act 1:魔王 (Enter the Demon King)


 七月十九日、深夜。

 

 女は祭壇の上に銃を置いた。十六世紀に日本に渡来したという、古い銃だ。

 絶対、上手くいく。きっと、上手くいく。多分、上手くいく……。不安な気持ちを追い出すように、彼女は深呼吸をした。自分の頬を両手でぴしゃりと叩く。「むん」と気合を入れ、真剣な顔で、女――サネムは片手を召喚陣に向けて突き出した。ピンと張り詰めた指先から、ぽたりぽたりと血が滴る。

 

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ――」

 

 コンクリートを打ちっぱなしにした薄暗い地下室が、青白い光で照らされる。強く引っ張られる感覚がある。内側から召喚陣に吸い込まれそうだ。だがそれをぐっと堪え、次々流れ込む魔力を制御し、サネムは最後の詠唱を口にした。

 

「汝三大の言霊を纏う七天。抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」

 

 太陽のような光が溢れ、彼女は思わず目を瞑った。光がおさまる。何かを掴んだ感覚はあった。だが、それが成功か否か――

 

「問おう」

 

 ――目を開ける前に、声がした。見知らぬ男がいた。歯車やゴーグル付きのレトロなハットなど、スチームパンク風の装いに身を包んだ男だ。髑髏の意匠が施されたステッキを片手に、値踏みでもするような目でこちらを見ている。

 この威圧感。当たりだ。サネムは無意識にそう確信した。男は言葉を続けた。

 

「汝が、俺のマスターか?」

「……そうだ。私がお前のマスターだ」

 

 声が震えなかったのは僥倖と言えるだろう。サーヴァントはその様子を見て、

 

「で、あるか」

 

 と言った。そのままなんの疑いもなく歩き始めるので、サネムは面食らった。何だこの男は。 人を疑うことを知らないのか、いや、違う。

 この程度のことは、問題としてすら認識していないのか。

 自分のことなど歯牙にもかけられていない。取るに足らない、どうでもいい存在だ。そう言われている気がして、サネムは男の肩を掴んだ。

 

「待ちなさ」

 

 最後まで言いきれなかった。薄暗い地下室でも分かる。男が、こちらを見ている。荒ぶる獅子すら射抜いてしまいそうな目だ。鳶色の瞳は、こちらの心根すら見抜いていて、お前などどうしようもなく矮小で、くだらない人間である。そんな風に雄弁に語っている気がした。

 

「……どうした。言の葉の続きは無いか」

 

 何も言えない。サネムは浅い呼吸を繰り返す。下手なことを言えば、殺される。そんな恐怖に支配される。先程までの勢いは既になく、彼女はただ、浅黒い肌に汗を滲ませるだけだ。

 

 彼女の様子を見て、男は盛大なため息をついた。張り詰めていた空気は一瞬で解け、鳶色の目は拗ねたような色を含み始めた。

 

「そんな怖がらんでいいだろうがよぉ! おじさんだって傷付くんだぞ!」

「え、あ」

「んで、俺の真名っつってたか。俺の名は」

 

 男は外套(マント)を翻した。僅かな光を反射する豪奢なマントには、大きく織田木瓜が描かれていた。

 

「俺は尾張の大うつけ。織田信長よ」




ノッブじゃないよ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。