Fate/WhiteЯ ――蛇川市における怪奇現象、および聖杯戦争について―― 作:サイベリアンザウルス
Act 1:魔王 (Enter the Demon King)
七月十九日、深夜。
女は祭壇の上に銃を置いた。十六世紀に日本に渡来したという、古い銃だ。
絶対、上手くいく。きっと、上手くいく。多分、上手くいく……。不安な気持ちを追い出すように、彼女は深呼吸をした。自分の頬を両手でぴしゃりと叩く。「むん」と気合を入れ、真剣な顔で、女――サネムは片手を召喚陣に向けて突き出した。ピンと張り詰めた指先から、ぽたりぽたりと血が滴る。
「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ――」
コンクリートを打ちっぱなしにした薄暗い地下室が、青白い光で照らされる。強く引っ張られる感覚がある。内側から召喚陣に吸い込まれそうだ。だがそれをぐっと堪え、次々流れ込む魔力を制御し、サネムは最後の詠唱を口にした。
「汝三大の言霊を纏う七天。抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」
太陽のような光が溢れ、彼女は思わず目を瞑った。光がおさまる。何かを掴んだ感覚はあった。だが、それが成功か否か――
「問おう」
――目を開ける前に、声がした。見知らぬ男がいた。歯車やゴーグル付きのレトロなハットなど、スチームパンク風の装いに身を包んだ男だ。髑髏の意匠が施されたステッキを片手に、値踏みでもするような目でこちらを見ている。
この威圧感。当たりだ。サネムは無意識にそう確信した。男は言葉を続けた。
「汝が、俺のマスターか?」
「……そうだ。私がお前のマスターだ」
声が震えなかったのは僥倖と言えるだろう。サーヴァントはその様子を見て、
「で、あるか」
と言った。そのままなんの疑いもなく歩き始めるので、サネムは面食らった。何だこの男は。 人を疑うことを知らないのか、いや、違う。
この程度のことは、問題としてすら認識していないのか。
自分のことなど歯牙にもかけられていない。取るに足らない、どうでもいい存在だ。そう言われている気がして、サネムは男の肩を掴んだ。
「待ちなさ」
最後まで言いきれなかった。薄暗い地下室でも分かる。男が、こちらを見ている。荒ぶる獅子すら射抜いてしまいそうな目だ。鳶色の瞳は、こちらの心根すら見抜いていて、お前などどうしようもなく矮小で、くだらない人間である。そんな風に雄弁に語っている気がした。
「……どうした。言の葉の続きは無いか」
何も言えない。サネムは浅い呼吸を繰り返す。下手なことを言えば、殺される。そんな恐怖に支配される。先程までの勢いは既になく、彼女はただ、浅黒い肌に汗を滲ませるだけだ。
彼女の様子を見て、男は盛大なため息をついた。張り詰めていた空気は一瞬で解け、鳶色の目は拗ねたような色を含み始めた。
「そんな怖がらんでいいだろうがよぉ! おじさんだって傷付くんだぞ!」
「え、あ」
「んで、俺の真名っつってたか。俺の名は」
男は
「俺は尾張の大うつけ。織田信長よ」
ノッブじゃないよ