Fate/WhiteЯ   作:サイベリアンザウルス

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Scene Ⅹ:廃墟の子供――王の独白 (Enter the Child of the Ruin; The King Soliloquizes)

「……で、どうしてあんたたちは荷物を降ろしてるわけ?」

 

 サネムは腹立たしげに腕を組み、指で腕を叩いている。双子は顔を見合せた。

 場所は、すでに廃別荘の中であった。

 

「え、だって……なぁ?」

「ああ。俺たちはここを拠点にすると最初から決めてたんだ」

 

「だからと言ってでしょうが!! ここは私の工房!」

 

「そうカリカリすんなって、サネムちゃん」

「誰がサネムちゃんよ!!」

 

 へらりと笑う将に、サネムはついにブチ切れた。

 

「ふっざけないで、ふざけないでよ! いい、私は真面目に」

 

「いやね、入っちゃいけない部屋とかあるし。鍵かかってた部屋、入ってないよな?」

「……入っちゃいけない部屋?」

 

 四つの目が、サネムを捉えた。

 

「二階に上がって右側の、前から二つ目の部屋。父親の書斎だよ」

 

 将がぽつりと言う。宙雷が言葉を継いだ。

 

「反対側の、前から三つ目の部屋。母親の私室だ」

「それから一番奥の部屋。ここが一番危ない。たっちゃんの部屋だから」

 

 たっちゃん。聞きなれない言葉に、サネムは首を傾げる。だが、何となく予想はついていた。

 

「……死体が見つかってない子供の部屋?」

 

 双子は同時に頷いた。

 幸いにも、この部屋にはずっと鍵がかかっていたため、入ったことがない。彼女はほっと胸を撫で下ろした。

 

「あ、でも」

 

 双子が追撃をかけた。

 

「たっちゃんの部屋、たまに勝手に開いてるけど、絶対入っちゃダメだからね」

「可笑しいと感じたらキッチンに逃げろ。たっちゃんはキッチンには来ない。ライダー、お前も行くなよ」

「御意に」

「……へぇ、そう……ご丁寧にありがとう……」

 

 サネムはついに完全に戦意喪失してしまった。

 

「ああ、あと」

「まだあるの!?」

 

 

 ***

 

 

 廃別荘のルールを聞き終えたサネムはぐったりとしていた。

 

 ――どれもこれも、死霊魔術で解決できるじゃない……!!

 

 サネムは死霊魔術師であった。死体の加工や霊的存在を処理するのは本業とも言える。だがそれを将に伝えると

 

「いや、俺も陰陽師だけど、たっちゃんはまだ悪いことしてないから」

 

 と言われてしまった。

 

 ぐったりしているマスターを他所に、アーチャーはライダーと談笑している。何をそんなに話すことがあるのだろうか。サネムは恨めしげにアーチャーを睨み、すぐに視線を床に落とした。

 

 ――絶対勝たなきゃいけないのに。

 

 唇を噛み締める。ぐっと拳を握り、力を抜いた。

 

 ――落ち着いて。魔術師たるもの、冷静に。感情に振り回されちゃ駄目よ、サネム。

 

 彼女は目を閉じる。まだこの肉体は生きて、動いている。ならば、まだ活動できる。焦るのはもう少しあとでもいい。両手で頬を叩いた。アーチャーがちらりと彼女を見る。

 

「アーチャー」

「なんだ」

「もう一度ここを見て回るから、呼んだらすぐ来てください」

「はいよ」

 

 彼はヒラヒラと手を振っている。ライダーも微笑みを浮かべながら、優雅に手を振っている。

 

 ――あんたのせいだっての!

 

 とは言わず、彼を少し睨むに留めた。

 

「おやおや。嫌われました?」

「多感な時期なんだよ」

 

 サーヴァント二騎は何が面白いのか、笑いあっていた。

 彼らを無視して、サネムは一人で歩き始める。階段を上がると、空き部屋だった部屋から荷物整理を終えた宙雷が出てきた。

 

「よう」

「……何本当に居着いてるのよ」

「良いだろ、部屋いっぱいあるんだから」

「……」

 

 サネムはため息をついた。そういう問題ではない。

 

「……敵なんだけど」

「好きにしろっつったのはお前だろ」

「そうだけど限度がある!」

 

「どしたのー?」

 

 隣の部屋から将が出てきた。この状況の元凶二人目だ。手にはぬいぐるみと単語帳を持っていた。

 

「……何そのぬいぐるみ」

「たっちゃんへのプレゼント」

「悪霊でしょ?」

「地縛霊。それに、たっちゃんの家を借りるんだから、お土産くらい持っていかないとだろ」

「……訳わかんない」

 

 目を逸らす。本当に、理解ができなかったからだ。魔術師が、悪霊に同情などするはずもない。

 目を逸らした先は、一番奥の部屋だった。少し扉が開いている。

 

「……ねぇ、あれ」

 

 中からナニカが覗いていた。四歳くらいの少年――の、亡霊だ。部外者のサネムでもすぐにわかった。

 

「あ、たっちゃん」

「そう、たっちゃん――ちょっと!」

 

 将は友達でも見つけたかのようにそちらに歩いていった。慌てて彼の服を掴もうとするが、宙雷がその腕を掴む。銃を構えると、その腕を押さえつけられた。

 

「離してよ、あいつ丸腰で悪霊に近付こうとしてるのよ!?」

「将に当たったらどうする。それに、あいつは丸腰じゃない」

 

 兄は苦笑した。その視線の先には、空の符を綴った単語帳があった。

 

「よ、たっちゃん、久しぶり」

 

 たっちゃんの前にしゃがみこみ、挨拶をした。少年は何も言わない。扉の影から外の様子を窺っている。

 

「元気か?」

 

 たっちゃんはこくりと頷いた。

 

「たっちゃん、いくつになった?」

「たっちゃんね、よっつ」

 

 元気に指を三本立てていた。だが、不安そうに将の向こう側、主にサネムをチラチラと見ている。

 

「急に大勢で押しかけてごめんな。びっくりしたよな」

 

 サネムと目が合った。たっちゃんは少し奥へ引っ込んだ。

 

「あ、待って待って。あのお姉ちゃんは悪い人じゃないから。下のやつらもいい人達だ」

 

 単語帳を後ろ手に持ち、ぬいぐるみを差し出した。捕縛はいつでも出来る。だが、たっちゃんはまだ、ただの地縛霊だ。

 

「ってわけで、はい、これ。くまちゃんのぬいぐるみ。好きだろ? これで、しばらく見逃してくれない?」

 

 たっちゃんは少し首を傾げた。すなおにぬいぐるみを受け取り、しげしげと眺めはじめた。

 ぴょこぴょことぬいぐるみの手足を動かしたり、感触を確かめたりしている。ぬいぐるみの吟味が終わったのか、こくりと頷いた。

 

「いいよ」

「よし、ありがとう! 俺からは以上!」

「ありがと、将くん。ばいばい」

 

 くまちゃんのぬいぐるみを抱きしめて、たっちゃんは子供部屋に引っ込んでいった。ばいばい、とぬいぐるみの手を振るので、将も振り返す。ひとりでに扉が閉まり、鍵がかかった。サネムはそれを信じられない目で見ていた。

 

 ――陰陽師って、日本の死霊魔術師じゃないの?

 

 宙雷の腕を振りほどいた。

 

「……いいわね、あんたたちには時間があって」

 

 サネムはそう言い残し、自分が使う部屋に戻って行った。

 双子は顔を見合せ、不思議そうに首をかしげた。

 

「行っちゃった」

「そんなもんだろ」

「怒ってたかな」

「最初から最後までな」

 

 一旦サネムの事は置いておいて、階下のライダーに声をかける。

 

「ライダーさーん」

「はい、なんでございましょう?」

「うわぁっ!」

 

 真後ろから声がして、将は転びそうになった。ふわりとライダーに受け止められる。

 

「大丈夫ですか、将殿」

「いやライダーさんのせいなんだけど」

「あの女寝るんだろうから、あんまり騒ぐなよ」

 

 言いつつ、宙雷はぐっと伸びをした。丑三つ時はとっくに過ぎており、外では夏夜の虫と蛙たちがコンサートを開いている。なんとなく三人は無言になり、その音を聞いていた。

 

「……何をぼーっとしてるんだ?」

 

 いつの間にか隣に来ていたアーチャーが、そう声をかけてきた。

 

「なんか、静かだなーって」

 

 将の言葉に、彼は片頬を上げた。

 

「外では斧を振り回す大男が徘徊してるかもよ」

「何それ、新手のジェイソン?」

「ジェイソンは知らんが、まぁ、バーサーカーだよ」

 

 バーサーカー。その言葉に、双子の顔が引き締まった。

 

「マジで殺し合うんだよな」

 

 宙雷はアーチャーの外套を凝視した。表地にでかでかと施された、見覚えのある家紋に、たまらず口を開く。

 

「……あんたの真名、もしかして」

「なぁ小僧」

 

 彼は少年の頭にハットを被せた。スチームパンク風の意匠が音を立てた。

 

「言っていいこと、言わない方がいいこと。言ってもいいけど後悔すること。色んなことがあるよな?」

 

 そう言って男はにこりと笑う。小僧と呼ばれた宙雷は、不満気な顔で目を逸らした。

 

「……寝る」

 

 そう言ってハットをアーチャーに返し、彼も部屋に入っていった。

 

「じゃあ、俺も。おやすみ、ライダーさん。アーチャーさん」

「おう、おやすみ」

「おやすみなさいませ、将殿、宙雷殿」

 

 

 

 子供たちがすっかり寝静まった頃。

 アーチャーはソファに座っていた。その隣に、ライダーも座っている。アーチャーがふと、ライダーに話しかけた。

 

「なあ、ライダー」

「なんです?」

「お前も面白ぇが……」

 

 彼は人を食ったような笑みを浮かべた。

 

「お前のマスター。あいつもだいぶ面白ぇな」

「……ふふ」

「……」

「ふ、ふふふ、ふふふふふふふ……」

「おい」

「ふふふふふふふ……」

 

 愉快で愉快でたまらない。そんなふうに、ライダーは笑い続ける。アーチャーから顔を逸らし、仮面をずらした。笑いすぎて出た涙を拭う。

 

「隠す気はねぇか」

「ふふっ……うふふふふ……ええ、まぁ。しかし困りましたな……」

「何がだよ」

 

 ライダーの仮面の下の瞳は、緑色に輝いていた。

 

「まだ、緞帳は上がったばかりですのに……」

「……食えんやつよな」

 

 そう言い残し、アーチャーは霊体化した。

 

「……ふふふ……ふふふふふ……そうとも。舞台の幕は上がったばかり!」

 

 ライダーはひとりでくるりと回る。外套を広げ、薔薇の花のように蹲った。

 

「今、この不満の冬は、兄王エドワード四世……いいえ。中津淵エドワード将によって……栄光ある夏へと姿を変えた!」

 

 外套を指で持ち上げ、一気に立ち上がる。長い髪がふわりと舞った。緞帳は上がる。舞台が幕を開ける。ライダーは尚も、ひとりで踊り続ける。朗々と歌い上げる。

 

「舞台に上がるは主役の陰陽師、兄の魔術師、敵対者だったはずの魔術師、恐ろしい魔王、そして怪物たるこの私!」

 

 ライダーは美しいステップを踏みながら、鏡の前に立った。

 

「提供はヨーク? ランカスター? テューダー? いいえ! そのどれにもあらず。提供はこの舞台、この世界! ふふふふふふ……ああ、楽しみだ……貴方もそうは思いませんか、マーガレットさん――おやおや。辛辣なことで。せっかくのソロパートだというのに、拍手もなし?」

 

 そして鏡に向けて話しかけた。彼の後ろには、誰もいない。

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