Fate/WhiteЯ ――蛇川市における怪奇現象、および聖杯戦争について――   作:サイベリアンザウルス

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Scene Ⅴ:間違いの双子と、母の入場 (The Comedy of Errors――Enter the Mother)

 目を覚ますと、将は布団に寝かされていた。起き上がろうとすると、腹に激痛が走った。

 

「ガチかぁ……」

 

 そう呟く。どうやら夢ではなかったらしい。腹部を見ると、包帯が巻かれている。誰かが手当をしてくれたようだ。外はまだ暗いので、さほど時間は経っていないらしい。ぼんやりと、壁に貼られたゲームや怪獣映画のポスターを見て、考える。

 

 ――えーっと、何してたっけ……とりあえず走って……刺されて……神社行って、で……えっと……?

 

 そこであることに気付き、ガバッと勢いよく起き上がった。

 

「叔母さんは!」

「叔母さんは大丈夫だよ」

「うわぁっ!!」

 

 即座に掛け布団を跳ね除けて声の主から距離を取る。そして激痛に顔をしかめた。一息ついてちらりと声の主を確認する。

 

「……あ、宙雷?」

「声で分かれや」

 

 双子の兄、宙雷だった。鏡合わせの顔は、不機嫌そうに歪んでいる。布団のそばで正座をしていた宙雷は、「よっこいしょ」と言ってあぐらをかいた。いちいち動作がおっさん臭いのは昔からの癖だ。

 

「てかお前そんな急な運動すんじゃねぇ。ぶっ飛ばすぞボケ」

「口悪……俺今さっきクソ刺されてなかった?」

「刺されてたから言ってんだよ。俺とライダーが居なかったら、お前死んでたんだぞ」

「おん、それはありがとう……ライダー?」

 

 聞きなれない言葉だ。仮面ライダーなら知っているのだが。将は首を傾げた。

 

「ライダーって何?」

「私ですよ」

「うわぁっ!!」

 

 こういうのを、デジャブと言うのだろう。真後ろから声をかけられて、将は布団に倒れ込んだ。

 

「あぁ……いたぁい……誰ぇ……?」

 

 真後ろにいたのは男だった。目元を隠す仮面をつけた、黒い男。仮面には白い猪が描かれていた。

 

 ――仮面ライダーってか、プリキュアの敵幹部?

 

 将は怪訝な顔で彼を見た。

 

「ふふふふふふ。素晴らしいリアクション、ありがとうございます。では、改めまして自己紹介を」

 

 黒い男は立ち上がり、片足を下げ、優雅に礼をした。

 

「初めまして、中津淵エドワード将殿。私、リチャード三世役を仰せつかっております、ライダー、騎兵でございます。貴方様方の従属、下僕。サーヴァント! ああ、そう怪訝なお顔をなさらずに! 心配せずとも刺し殺したりはしませんとも! 何せ、私、貴方様の味方ですので、ね?」

 

 顔をあげる。真っ赤なルージュを塗った唇に微笑みを浮かべていた。あのホームズを名乗る男とは比べるべくもない。息を飲むほど完成された笑みだ。しかし、だからこそ――

 

 ――胡散臭……!!

 

 胡散臭さを感じざるを得なかった。蝋人形を思わせる微笑みから、将は無意識に距離をとる。ライダーは肩をすくめる。

 

「……まぁ、とりあえずだ」

 宙雷が言った。

「説明が先だな」

 

 ***

 

 ――数時間前。

 

 ホームズは弾き飛ばされたナイフを拾った。

 

「……あっちゃっちゃ。取られちゃったよ」

 

 彼はくるりと凶器を弄ぶ。そしてそのまま血がついたナイフで将を指し示した。

 

「その子、僕のマスターになってもらう予定だったんだけど……ま、いいか。今は()()がいるし」

 

 黒い男――ライダーは、ホームズを見て不敵に笑った。

 

「おやおや、ご存知ない様子。ならば教えて差し上げましょう――」

 

 彼は口の前で人差し指を立てた。辺りの音が消え、シンと静まり返る。そうしてようやく、口を開いた。

 

「――良いですか。主役が舞台に上がる時は、三枚目の道化は下がる。零番テープ(センターライン)は主役のポジション。それが常識――愚者でさえなければ、ですが! ああ、良かったですね。ひとつ賢くなりましたよ」

 

「お生憎様!」

 

 道化と呼ばれたホームズは楽しそうに笑い、軽やかなステップを踏んでくるりと回った。

 

「僕は知能犯、だが常識というものにとんと興味がない! おっとびっくり、僕は愚者じゃないらしい……ん?」

「ふふふふふふ。道化は真実を語るもの。だが長くは舞台にいられない――そうでしょう?」

 

 コツン、と硬質な足音を立て、ライダーは一歩前へ出る。大鎌が舞台を擦り、キィ、と音を立てた。

 

 ホームズは一歩後ろに下がる。そして、ため息をついた。

 

「……今はやめとくよ、君、強そうだし。でも、また後で必ず会いに来る。そう、彼に伝えておいてよ」

 

 彼は将を見た。そして、帽子を取って会釈をした。

 

「僕はホームズ。君のサーヴァントになる男だって」

 

 そうして彼は、神楽舞台から飛び降りた。光の粒になって、空気中に溶け込む。気配は消え、辺りは静寂に包まれた。

 

「――さて」

 

 ややあって、ライダーが口を開いた。

 

「観客席にお座りの、私のマスター(パトロン)はどなたでしょうか?」

 

 ***

 

「……えーっと、つまり?」

 

 将は眉間を押さえる。にわかには信じられない話を聞いた。

 

「俺は聖杯戦争っつー……その、なんだ。魔術師の、魔術師による、魔術師のためのデスゲーム、みたいなのに意図せず参加しちゃったと。で、このプリキュアの敵幹部みたいな人、ライダーさんだっけ。この人はその相棒の、サーヴァント。こういうこと?」

 

「そんな感じ。難儀なこったな」

 

 二人一組のチームで、最後のひとりになるまで殺し合う。残った一組は、なんでも願いを叶えられる聖杯なるものを与えられる。

 

 ――なんつー物騒なことをこの街でやるんだよ、無人島とかでやってくれよ……。

 

 正座を崩し、将もあぐらを組んだ。

 

「じゃあ、あのホームズとかいう野郎も、その聖杯戦争絡みか?」

「ええ。彼もそうでしたな」

 

 今まで静かにしていたライダーが口を開いた。

 

「ふふふ。この世は舞台(All the world's a stage,)! 彼も私も所詮は役者(and all the men and women merely players)! 我々まとめて引き立て役でございます! 何たる皮肉! どうしてあんなのと(O Romeo, Romeo!)同じところに還らねばならぬのですか(wherefore art thou Romeo)?」

 

「……?」

 

 よく分からずに首を傾げていると、宙雷が

 

「あー……なんだ。その、英雄や偉人を神とした場合の分霊(わけみたま)みたいなもんだよ、サーヴァントは。探せばエジソンとかもいるんじゃねぇかな」

 

 と補足をした。

 

「ふーん。で、英霊の座ってのは?」

 

「役者のプライベート故、トップシークレットです」

 

「うぃ。式神とはまた違う?」

 

「私には式神がよくわかりませんが……はてさて、なんのことやらさっぱりですな」

 

 ライダーは完璧な笑みを崩さずにそう言った。

 

「全然違うっての」

 

 宙雷はため息混じりに言う。

 

「お前ら陰陽師が使う式神は今あるもの、霊体や符、人形(ひとがた)に命令をして駒として使うだろう。彼らサーヴァントは、聖杯なしでは現界すら出来ないほど高位の存在。存在の規模が違うんだよ」

「なるほど、わからん」

「期間限定の激強使い魔ってこと」

「あーね?」

「あんまよく分かってねーだろ」

「うん!」

「元気よく返事しやがって……」

 

 アッシュブラウンの髪をかき、「こっからが本題だ」と宙雷は難しい顔をした。

 

「さっき二人一組と言ったが、俺たちに限っては三人一組になる」

「なんで?」

「俺の魔力でお前が召喚したもんだから、契約が変になっちまったんだよ」

「……どゆこと?」

 

 宙雷は、この世の全てが暗澹とし、何もかもが絶望に苛まれているかのようなため息をついた。

 

「お前、気失ってたもんな……まぁ、続きはセーフハウスについてからだ。現時点での最難関は――」

 

「――最難関って、それは私のことかしら。フィリップ、エドワード。そして、ライダー」

 

 女性の声がした。将の顔が強ばった。何かを言おうとして口を動かすが、声が出ない。

 

「……お」

 

 やっと絞り出した声は、死にかけの鶏のような萎びた声だった。

 

「……お母さん……ですか……?」

 

 その声に、女性は呆れたような声で返した。

 

「ええ、貴方たち二人のお母さん。いやだわ、そんな声をあげられたら、私が極悪人みたいじゃない」

 

 ――実際そうだろ。

 

 とは言わず、寛いでいた足を正座に組み替えた。そろりそろりと振り返る。

 グレーの瞳が、将を――将の左手を射抜いている。彼女が歩みを進めると、一拍遅れてブロンドの髪がついてきた。宙雷は居住まいを正した。

 

「待ってくれ、お母さん。将は悪くない。悪いのは」

 

「善悪の話はしていないわ。間違いのつづきの話をしています。お黙りなさいな、フィリップ」

 

 二人の母、ハリエット・バーボンだった。

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