永久凍土上の石板について   作:シロン茶

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芸術家提督

オーディンからフェザーンに来ていたメックリンガーが、執飾室に顔を出した。

ヒルダが書いた草案を見せられた芸術家提督は、その紙を両手で丁寧に持ち、ゆっくりと読み始めた。

 

読み終えた彼は紙からゆっくりと目を離し、まるで彫刻の完成形を見たかのように、静かに息を吐いた。

 

「……これは、構造美ですね」

 

ヒルダがわずかに眉を上げた。

 

「構造美、ですか?」

 

メックリンガーは頷いた。

 

「装飾を排して、国家という芸術を支えるための骨格を見せたもの。……しかし、なんというか、彼の方を思い出す文言ですね」

 

メックリンガーは苦く笑う。

 

「まったく、まるで彼の姿をしています。まるで彫刻の芯材のように」

 

ヒルダは、静かに息を吸った。メックリンガーの言葉は、彼女が悟ったものを、別の角度から照らし出していた。

メックリンガーは眩しいものを見る目をして言った。

 

「ラインハルト陛下の治世は、光の彫刻でした。眩しく、強く、そして儚い。しかし、光というものは本来は形がありません。形を保てたのは、骨格があり影があったからです」

 

メックリンガーは、さらに静かに言葉を重ねた。

 

「しかし、影だけでもまた、形にはなりません。あなた方が書いたこの条文は、その影を石に刻み直したものです」

 

ヒルダは、ゆっくりと笑った。石に刻む。ここでも石板が出てくる。

 

メックリンガーは、視線をそっと、執務室に掲げられた黄金獅子の紋章へ移しながら、ふと思い出したように話した。

 

「……そういえば、かのユリアン・ミンツも、かつて陛下に憲法を語る際に“療法”という言葉を使っておりました」

 

ヒルダが顔を上げる。

 

「療法?」

 

「ええ。ローエングラム王朝が病み疲れ、衰えたときに必要な療法を——と」

 

ヒルダはわずかに顔を強張らせた。

自分には「同じ山」と言い、病床のラインハルトには「療法」と言ったのか。ユリアン・ミンツは。

相手の立っている場所を見て、その人間が理解できる言葉を選び、最も届く言葉を差し出す。あの穏やかな物腰の奥の底知れなさを今になって感じる。

 

黙り込んだ摂政皇太后へ、メックリンガーは静かに言った。

 

「もっとも、国家に施す療法というものは難しいものです。一つの病を治そうとして、かえって深刻な副作用を招くこともある」

 

ヒルダの聡明な瞳が僅かに揺れる。

芸術家提督は視線をそっと外して、黄金獅子の紋章を再び見た。ゆっくりとかみしめるように、彼は言った。

 

「皇帝陛下が成人なさるその時、この『骨格』がどのような『作品』となるか……それを、生きて見届けられたなら、これにまさる幸福はございますまい」

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