足元を白銀の世界で彩る時期、その中でも飛び切りのイベントとなる今日、12/25。クリスマスという大きなイベントの日、多くの人々が街を行き交い、賑わう店や素敵な思いを胸にする人もいるだろう。
しかし、ここキヴォトスでは、胸を踊らせるものはいなかった。いつも通りに飛び交う銃声と爆発音、悲鳴と断末魔のみが、この静かな空間に色を付ける。
アビドスも、トリニティも、ゲヘナも、ミレニアムも、どこからも賑やかな声は聞こえてこない。
理由は、およそひと月前、シャーレの先生の○だった。死因は…重い病気だった。キヴォトスに来る前から患っていた、「今の医学では治らない」と言われていた病は、多くの事件に巻き込まれる先生の体を徐々に蝕んでいった。
先生はその優しさ故に、生徒達に心配させまいと、誰一人として伝えておらず、気づいた時には症状が悪化して倒れてしまった。
すぐにアロナとプラナが救護騎士団への連絡を寄越したが、既に手の施しようが無く、静かに息を引き取った。
連邦生徒会は混乱を防ぐため、すぐに情報統制を行ったが、先生想いの生徒たちの噂は瞬く間に広がり、すぐに全学園へと伝わることとなった。
この事で暴走する生徒は少なくなかったが、幸い大事には至らなかった。
そんなこともあり、クリスマスという日にとても静かだったキヴォトスだったが、そんな静寂を打ち破ったのは、生徒全員に送られたモモトークとそこに記されたURLだった。
送り主は、そんなことできるはずのない先生からであり、トーク画面には、生放送と書かれた動画枠へのリンクが貼られていた。生放送の開始時間は今夜7時。
静かだった多くの学園に、困惑と叫び声が多くあがった。
19:00
生放送が開始された。
そこに写っているのは、間違いなく生徒たちが想いを寄せていた、生きている先生の姿だった。
「アロナ、プラナ。ちゃんと映ってるかな?……えっ、もう録音始まってるの?!分かった!」
慌てた様子で席に座る先生、その顔はいつも通り、自分たちに向けてくれる優しい顔だった。しかし、とてもやつれていることが分かる。
いつもは化粧などで隠していたのだろう。そんな顔で、先生は苦笑しながら話し出した。
「えーっと…、皆、メリークリスマス。これを見てるってことは、私はもう○んでいるか、意識がないか、もうそこには居ないと思う。生きていたとしても、ベッドの上にいて、この動画のことを忘れていると思う、ははっ」
自虐気味にそう話し出す。自分の病を、もう先が長くないことも。
噂の真相が明確になり生徒の何人かは、その姿を見て涙を流したり、苦しい思いをしているだろう。その想いが伝わらない画面の向こうの先生は話を続ける。
「この動画のことはリンちゃん、連邦生徒会長にもその関係者にも伝えてない。私が独断で残したものだよ。最後まで迷惑をかけてしまうことを許して欲しい。
それと、皆はちゃんと生きているかな?私の独断ではあるけれど、私を追ってきそうな子には、予め連絡をさせてもらったよ」
先生は、生徒が想いを寄せていることは薄々感じていた。スキンシップの激しい生徒やアピールをする生徒が多かったからだ。
その中でも、これまでの会話の発言や感情を受け入れたとき、追ってきそうだなと思う生徒のリストをつけるぐらいには。
その言葉を聞いて、何人かの生徒、特に救護騎士団とヴァルキューレの生徒達は納得をしていた。
いつも暴走する「厄災」も、似たように暴走するものたちも、そのほとんどが姿を見せなかったのだから。
「皆はまだ学生で、人生の半分も歩んでいないんだ。だから、まだ私を追ってきて欲しくない。私という○神に惑わされないで欲しい。君たちの大切な命を、まだ守りたかった君たちを奪わせないで欲しい」
これは先生の本心だ。誰もがそう思った。
外の世界から来た先生は、生徒たちより弱い。なのにいつも守ろうとした。その弱い身体で。『まだ守りたかった』と言うぐらい、お人好しな人なのだから。
「……そういえば、この動画を残す理由を伝えてなかったね。この動画はね、今まで出会ってきた大切な生徒たちとの記録として残したかったんだ。言ってしまえば私しか知らない生徒の姿、何だけど」
衝撃的なCOだった。
今から先生がやろうとしていること、それは生徒たちとの思い出を語ることだった。つまり、今までの秘密もこの先生は暴露しようとしている。もちろん、何人かの生徒は驚いたり、困惑したり、怒っていたが、この動画は生放送とはいえ録音したものであるため、その言葉は画面の先生には届かない。
「まずは、初めてここに来た時からかな。あの時は……」
先生から語られるここでの思い出
先生となり、多くの生徒との出会い、事件や出来事、そこで見せる普段見せない生徒の姿、1人1人の思い出を語っていく。
驚くことに、先生は関わってきた一般生徒たち、1人1人の名前と何があったかも覚えており、様々な感情を見せながら話していた。
その時の先生は、子供が自分の冒険話をしているかのようなキラキラと、思い出に耽る大人のような優しさが混じっていた。
こうして、始まりから4時間以上にわたる、全ての関わった生徒の話を終え、日付が変わりそうになった。
動画内の先生も不意に時計を見たのか、とても慌てていた。
「えっ?!もうこんな時間?! 日付が変わりそうになるまで話してたんだ……。こんな動画を撮っておいてなんだけど、私は、私が思っている以上に、皆のことが大好きなんだね。
……うん、私は皆のことが大好きなんだ。」
震える声で涙を流しながら、先生は生徒たち、画面に向かって言った。
涙を拭い、時間を確認して、いつもの優しい顔に戻った。
「……まだ少しだけ時間がある。せっかくのクリスマスだからね。プレゼントというのもあれだけど、歌でも歌うよ」
そういうと、先生は音楽を流し始めた。
外の世界で先生がよく聞いていた曲。定番でも、知名度が高いわけでもない。マニアックな曲だと言っていた。
この曲が流れ始めて、即座に反応できるのは、ミレニアムサイレンススクールの、とある部活メンバーだけだろう。
最も、先生自身が聞かせて号泣させた曲でもあるが……
その曲は、1人の少女の想いを描いた歌詞、その歌詞はあまりにも、的確に、今の状況を思わせる歌だ。
雪の降るクリスマスの夜に、先生はなんてものを聞かせるのだろうか、多くの生徒が声を出して泣いた。
歌詞の1番最後に「さようなら」という言葉があるというのに……
歌い終わり、いつの間にか、また涙を流していた先生は、その涙を拭い、いつもの暖かい笑顔を生徒たちに向けた。
「私はね、あまり湿っぽい終わり方は好きじゃない。だから、最期は笑顔でお別れを言うよ。
もし、死後の世界なんてものがあるのなら、その時は皆の幸せだった人生を、惚気話を沢山聞かせて欲しいな。
私はね、みんなと出会えて、とても幸せだったよ。
今までありがとう!」
画面に向かい、涙を流しながら、いつも以上の笑顔を向けて手を振る先生。
その姿は12時を告げる無機質な機械音と共に、その動きを止めた。