でもわたしのポケモンワールドのブイズちゃんたちはこんな感じです。
ちなみに私のデータにはブイズの中で一匹だけ♂がいます。
おや……???
ピキピキピキィィィン!!!
俺が「さぁ、試験会場に参ろうか」と玄関前で靴を履き、可愛い可愛い俺のブイズたちを呼ぶ。
玄関のドアごと、家の入口が全凍結した。
カンカンッ!!
試しに拳で叩いてみると、案外いい音がした。
澄んでいる。
グレイシアの愛は、今日も一段と透明度と殺意が高い。
「さすが、俺のグレちゃん。朝から芸術点が高い」
「アホ言ってないで解除させて??? わたし、登校できないんだけど???」
「大丈夫。グレちゃんがこうした時、必ずと言っていいほど……」
ドガァァァァァンッ!!!
ほらきた。
うちのブっさんの怒りの水蒸気爆発。
氷が白い煙を上げて溶けていく。さっきまで玄関を支配していた冷気がふわりとほどけ、代わりに柔らかい熱が足元へ広がった。
最近までは火起こしできるレベルだったはずなんだけどなぁ。
成長は早いね、うんうん。
「いや、頷いてないで、今もなおお兄ちゃんに抱きついて泣いてる子なんとかしてあげなよ……ウラヤマシィ」
妹の声が背後から飛んできた。
言われて視線を落とすと、俺の腰にはグレイシアがしがみついていた。
無表情。
だが、耳はぺたんと伏せられている。
尻尾も、俺の足首に絡みついたまま離れない。
「主様……行かないで……。ボクを置いていくなら、今すぐこの街をマイナス六十度にして、全員フリーズさせる……」
「嫌だ嫌だ嫌だぁぁ……! 主様ぁぁ、私たちをその狭い闇に戻すなんて、そんなのもう嫌いになったってことじゃないですかぁぁ!」
シャワーズは俺の袖を掴み、ブースターは泣きそうな顔で俺の手の甲に頬を押し当てている。
エーフィは黙ったまま、額の宝石を淡く光らせて俺の未来を読んでいた。
リーフィアは笑っている。
笑っているのに、背後の観葉植物がなぜか鋭利な刃物みたいに研がれていた。
雄英高校の一般入試試験。
その登校前の玄関先で、俺は文字通りの阿鼻叫喚に直面していた。
外の世界で五匹以上出すと、俺の脳には割れるような頭痛制限がかかる。
だから今日は、泣く泣くシャワーズ、ブースター、エーフィ、リーフィア、グレイシアの五匹を一度戻そうとした。
その結果がこれである。
「ははっ、脳内で『どうして消すの?』ってメンヘラ電波がショートしてやがる。前世のあの地獄フルマラソン爆走自転車耐久レースに比べりゃ、あの子たちの激重な執着なんて最高に心地いい子守唄だわ」
「比較対象が全部おかしいんだよねぇ……」
妹が遠い目をした。
だが、今は妹のツッコミを受けている場合ではない。
俺は玄関先で膝をついた。
氷も、炎も、葉の刃も、濡れた床も、紫色の光も、全部が俺を引き止めようとしている。
普通なら「怖い」と思う場面だろう。
だが俺は違う。
俺は、九匹全員の愛の質量を正面から浴びて、朝から脳を祝福されている男である。
ああ、可愛い。
可愛すぎる。
心臓が一個しかないの、バグじゃない?
九個くれよ神様。
そうすれば全員に一個ずつ捧げて、残りゼロで綺麗に昇天できるのに。
「お兄ちゃん、朝から死生観が終わってる」
「違う。これは愛の等価交換だ」
「命を支払うな」
「シャワーズ」
名前を呼ぶと、シャワーズの濡れた瞳が揺れた。
俺はその頬のひれに指を添え、目元に浮いた水滴を親指で拭う。
「俺が外で何を飲んでも、帰ってきて最初に欲しくなるのは、お前の水だよ」
「……主様」
「今日は少しだけ離れる。帰ったら一番最初に風呂に入るんだ。汗で汚くなると思うからな。その時はお前に任せる。だから、俺の帰りを待っててくれ」
「一番、最初……?」
「ああ。一番最初。風呂も、飲み水も、ただいまの声も、今日はお前からだ」
「……ずるいです、主様。そんなこと言われたら、溶けてしまいます」
「溶けてもいいよ。俺がちゃんと掬ってやる」
シャワーズが、俺の手のひらに頬を擦り寄せた。
指の隙間から水になって消えそうなほど、ふにゃふにゃに溶けている。
俺はその額に、そっとキスを落とした。
「いい子に待てたら、帰ってからいっぱい甘やかしてあげる」
「……はい。主様の中まで、全部わたしで満たせるように、いい子で待っていますね」
「言い方がラスボス。でも可愛い。採用」
「採用しないで???」
「主様の体内に入る水分は、帰ってから全部わたしが管理しますね」
「はいもう結婚。水分管理系ヤンデレ嫁、あまりにも生活密着型すぎる」
「生活に密着しすぎて生命維持に食い込んでるんだけど???」
「ブースター」
ブースターは、泣きそうな顔で俺の袖をくわえていた。
いつもなら誰よりも我慢する子だ。
だからこそ、こういう時に崩れると破壊力がすごい。
「ブースター。お前は今日、俺の帰る場所をあたためておいてくれ」
「……私が、ですか?」
「ああ。帰ってきた時、部屋が少し寂しかったら困るだろ。俺が最初にほっとできるように、お前のふわふわで俺の場所を守っててくれ。お前の炎は暖かくて、気持ちいいからな!」
「主様の、場所……」
「それと、夜は俺の隣で寝ような。今日はお前を抱きしめて寝たい」
「っ……! そ、そんな、主様……私、燃えてしまいます……!」
「燃えてもいいけど、俺の隣だけにしてくれ。世界を焼くのは我慢な。あと俺の服も」
「はい……。主様のためなら、世界くらい我慢します……」
「俺の服は無理なんだね……でも偉すぎる。俺のブースターは世界一いい子だ」
ブースターの尻尾が、ぼふんと膨らんだ。
顔を真っ赤にして、ふかふかの首毛に鼻先を埋めている。
俺はその頭と耳の付け根を撫でてから、額にキスをした。
「帰ったら、最初に抱きしめるからね。約束だ」
「約束、です……。破ったら、泣きます……燃やします」
「破らないよ。俺の可愛いお前を泣かせる趣味はない」
「もう泣いてます……」
「可愛いなぁ」
「灰になるまで、温めます……」
「灰にはしないでね」
「頑張ります……!」
「約束の難易度高いなぁ。でも好き」
「エーフィ」
エーフィは何も言わずに俺を見ていた。
額の宝石が淡く光っている。
未来を読んでいる時、宝石が光るという特性がある。
俺が今日、どこで誰と話し、何秒視線を外し、何回あの子たちを思い出すのかを見ようとしている。
可愛すぎる。
「エーフィ。無理に全部読まなくていい」
「……主様は、知らない人間と会話する」
「試験だからな」
「知らない女とも、目が合う。話す。身体的接触がある。イチャイチャもある」
「それは事故だ」
「主様の未来に、私がいない瞬間がある」
「ないよ」
「……嘘」
「嘘じゃない。俺が見てる景色にお前が映ってなくても、俺が帰りたい場所には必ずお前がいる」
「……」
「だから、今日の俺の未来を全部守ろうとしなくていい。疲れたら、俺のことだけ考えてろ。俺も、帰ったら真っ先にお前を抱きしめるから」
「真っ先に?」
「シャワーズにもブースターにも言ったけどな」
「……浮気者」
「全員本命だからセーフ!」
「最低」
「でも好きだろ?」
「……好き」
「はは、俺も大好きだぞエーフィ!」
「……ばか」
エーフィの声が、ほんの少しだけ甘く沈んだ。
俺は額の宝石に触れないように、前髪のような毛並みの上からキスを落とす。
「帰ったら、俺の胸で休め。今日は何時間でも貸してやる」
「……主様の心音、予約する」
「はいはい。予約完了」
「キャンセル不可」
「もちろん」
エーフィは俺の言葉を聞き、俺の胸に額をこつんと当てた。
数秒だけ。
ほんの数秒だけ、甘えるように額を擦りつけてくる。
それでいて顔はクールなままなのだから、破壊力がえぐい。
「お兄ちゃん、顔が限界オタクのそれ」
「世界が俺に優しすぎる」
「なんだこいつ」
「リーフィア」
リーフィアは穏やかに笑っていた。
それはもう、誰が見ても優しい笑顔だった。
ただし、玄関脇の観葉植物が、なぜか刃物みたいに鋭くなっている。
ちょっと怖いけどぐぅかわ。
「リーフィア。今日は俺の家を守ってくれ」
「家を、ですか?」
「ああ。お前がいるなら安心だ。俺が帰ってきた時、いつもの香りがして、いつもの場所で、お前が笑って待っててくれたら、それだけで一日頑張れる」
「……主様は、私の香りが好きですか?」
「好きだよ。お前のそばにいると、頭の中が整理できて、落ち着くんだ」
「では、帰ってきたら、たくさん包んであげますね。主様に近づいた外の匂いも、人の気配も、全部、私で塗り替えてあげます」
「うん。塗り替えてくれ。ただし剪定はなし」
「少しだけ」
「なし」
「主様に悪意を向けた人間だけでも」
「それは内容による」
「許可が出ました」
「出してない! 今のはグレー判定!」
「お兄ちゃん、家庭内コンプラが崩壊してる」
「ブイズ法では合法です」
「なにその地獄の法律」
「でもさすがに犯罪者は嫌だからダメ」
「……主様がそうおっしゃるなら」
「偉い。さすが俺の優しいリーフィア」
俺がそう言うと、リーフィアの笑みが一瞬だけ崩れた。
嬉しそうに。
泣きそうに。
そのどちらにも見える顔で、リーフィアは前脚をそっと俺の手の上に乗せた。
「帰ったら、抱きしめてもいいか?」
「はい。主様が眠るまで、ずっと抱きしめて撫でてあげます」
「じゃあ、俺もお前の頭を撫でる」
「……それは、少し恥ずかしいです」
「恥ずかしがるリーフィア、レア演出すぎる。スクショ撮りたい。脳内で撮った。永久保存した」
「主様の記憶の中に、私だけの庭を作ってもいいですか?」
「いいよ」
「そこに近づいた記憶は、全部剪定しますね」
「記憶の庭まで治安が悪い。でも好き」
「グレイシア」
俺の腰にしがみついたまま、グレイシアは顔を上げた。
表情は薄い。
けれど、俺の服を噛む力だけが、ほんの少し震えている。
「……行くの?」
「行く」
「ボクを置いて?」
「置いていくんじゃない。俺の帰る場所に、お前を残すんだ」
「……同じ」
「違うよ。置いていくのは、忘れる時だ。俺は忘れない。俺が帰ってくるために、お前にここにいてほしい」
「ボクが、帰る場所?」
「ああ。俺がただいまって言った時、一番冷たい顔で、一番安心する目を向けてくれるのはお前だろ」
「……安心、する?」
「するよ。お前のそばにいると、俺はちゃんと帰ってきたんだって思える」
「……主様」
「だから、世界を凍らせるのは我慢してくれ。代わりに、俺の手だけ予約していい」
「手?」
「帰ったら、寝るまでずっとお前の前脚を握ってていい。離さなくていい」
「……本当に?」
「本当」
「凍っても?」
「お前なら、俺が痛くないギリギリで止めてくれるだろ」
「……うん。主様には痛くしない。綺麗に、ずっと、守る」
「ありがとう、俺の氷のお姫様」
「ッ〜〜〜! ずるぃ……」
俺はグレイシアの額にキスを落とした。
冷たい毛並み。
けれど、その奥で確かに震えているものがあった。
「いい子で待ってたら、帰ってから一番長く手を繋いでやる」
「……他の子より?」
「内緒」
「……やっぱりずるい」
「ずるい主様でごめんな」
「……好き」
「俺も好きだよ」
「帰ってこなかったら、探して、凍らせて、連れて帰る」
「愛が強い。だが帰るから大丈夫」
「必ず?」
「必ず」
「……なら、待つ」
「偉い。世界一偉い」
「~~~~っ」
「よし見たか妹。今のグレイシアの顔。世界遺産登録しよう」
「感情の世界遺産が多すぎるんだよ」
全員可愛い。
結婚したい。
というか、俺の人生、九方向から愛されすぎて幸福の逃げ場がない。
逃げる必要もない。
むしろ囲め。
もっと囲め。
俺は包囲殲滅されたい。
「お兄ちゃん、今の発言だいぶ終わってるよ」
「愛による包囲殲滅は合法」
「どこの国の法律?」
「俺の心の中のポケモンリーグ」
「んだコイツ」
俺はまた五匹のおでこに、一匹ずつ丁寧にキスを落とした。
リップ音を、わざと少しだけ強めにして。
「帰ってきたら、いっぱい遊んでやる。だから今は我慢してくれるか? 俺のお姫様たち」
その瞬間。
さっきまで天変地異を起こしかけていた特級災害クラスの五匹が、一斉に真っ赤になった。
「……主様、ずるい」
「そんな言い方、我慢できちゃうじゃないですか……」
「未来が変わった。主様が帰ってくる未来だけ、守る」
「お庭を綺麗にして待っていますね」
「……帰ってこなかったら、世界ごと凍らせる」
「最後だけ物騒だなぁ。でも可愛いからヨシ!」
「ヨシじゃないが???」
妹のツッコミを背に受けながら、俺はようやく玄関を出ることに成功した。
実家を出て、通学路に出た瞬間。
今度は選抜組の四匹が、当然のように俺へ群がってきた。
「主様……主様主様主様ぁッ! さっきのズルいです! 私たちだって、まだ今日のおでこキスもらってません!」
「……他のやつらに触れすぎ。気配が残ってて不愉快です。今すぐ私のリボンで上書きしてあげますね」
「ぶいぃ……。主様の形、ボクにも分けて……。同じになれば、置いていかれないよね?」
「……外は敵だらけだ。主様の周囲三メートル以内に入った人間は、全員私が覚えておく」
サンダース。
ニンフィア。
イーブイ。
ブラッキー。
今日の勝利組であり、今まさに俺の理性を殺しにきている四匹である。
可愛い。
非常に可愛い。
試験会場に行く前にここで人生を終えても悔いはない。あとニンフィア本性でちゃってない?
いや、悔いはちゃんとある!
帰って居残り組も甘やかさないといけないからな。
「イーブイ」
俺は足元で裾をくわえていたイーブイの前にしゃがんだ。
イーブイはびくりと肩を震わせる。
ふわふわの首元の毛に、ちょこんと埋もれるような小さな顔。
ぱっと見れば、誰もが「可愛い女の子みたい」と言うだろう。
けれど、俺だけは知っている。
その少し低くて甘い声も。
女の子扱いされると耳まで真っ赤にするくせに、否定しきれずに尻尾を揺らしてしまうところも。
全部ひっくるめて、俺の大事なイーブイだ。
「主様……ボク、今日、ちゃんと主様の好きな形になるから」
「ならなくていい」
「……え?」
「俺の好きな形は、今のお前だよ」
「でも、ボクはまだ何者でもないし……。進化もしてないし、みんなみたいに、ちゃんと綺麗な女の子にもなれないし……」
「だから好きなんだ」
「……主様?」
「何にでもなれるお前が、今は俺のそばにいたいって選んでくれてる。それが一番嬉しい」
「……」
「進化しなくてもいい。似せなくてもいい。俺の口調を真似しなくてもいい。お前はお前のまま、俺の大事なイーブイだ」
「ボクのままで……?」
「ああ。女の子みたいに可愛くても、少しだけ男の子みたいに拗ねても、どっちでもいい。俺は今のお前が好きだ」
「っ……!」
「はい可愛い。今ので耳が赤くなった。イーブイ選手、照れ隠し失敗です」
「み、見ないでください主様ぁ……!」
「見る。可愛いから見る。俺は可愛いものから目を逸らせない病にかかっている」
「お兄ちゃん、それは病じゃなくて性格」
「重症だな」
イーブイの耳が、ぺたりと倒れた。
涙目になって、俺の袖を前脚でぎゅっと押さえる。
「今日、俺の足元はお前の場所だ。迷子にならないように、ずっと俺の服を掴んでろ」
「……掴んでて、いいの?」
「いいよ。離したら俺が寂しい」
「主様が、寂しい……?」
「寂しい。めちゃくちゃ寂しい。イーブイが一歩遠いだけで、俺の心がタマゴ未発見グループになる」
「例えが分からないよ!?」
「ボク、主様の近くにいていいんだ……」
「いい。むしろ義務。俺の可愛いイーブイは、俺の一番近くで歩く係な」
「……はい。主様の一番近く、ボクが守る」
「偉い」
「ぶいぃ……好き……」
「俺も好きだぞ、俺の可愛いイーブイ」
「……お姫様って、呼ばないの?」
「呼ばれたい?」
「っ、ち、違……でも、主様が呼ぶなら……その……」
「じゃあ今日は、俺だけの小さなお姫様な」
「~~~~っ!」
「はい尊死。今の照れは国宝」
「お兄ちゃん、その子だけ属性盛りすぎじゃない?」
「可愛いだろ?」
「否定はしないけどさぁ……」
「サンダース」
名前を呼んだ瞬間、黄色い影が胸に飛び込んできた。
衝撃で少し後ろに下がる。
サンダースは俺のシャツを掴み、潤んだ目で睨んできた。
「主様、さっき他の子たちに甘すぎました」
「うん」
「私、見てました」
「うん」
「私にも、してください」
「もちろん」
「今すぐ」
「可愛いなぁ」
「はぐらかさないでください!」
「ごめん。可愛さで会話のコマンド選択をミスった」
バチ、と小さな電気が弾けた。
俺はサンダースの頬に手を添える。
「サンダース。今日、俺の心臓を一番近くで鳴らしていいのはお前だよ」
「……心臓?」
「お前が飛び込んでくるたびに、俺の心臓がびっくりする。けど、俺は嫌じゃないだ。むしろ、お前が来たって分かってむっちゃ嬉しくなる」
「……主様の心臓、私で動いてる?」
「そうだな。今日の俺の心臓は、お前の電気で動いてるようなもんだな」
「……っ」
「だから、自分を傷つける方に電気を向けるな。全部俺に向けろ。受け止めるから」
「でも、主様が他の子を見ると、頭がバチバチして……」
「そのたびに俺の名前を呼べ。俺が何回でも、お前を見てるって言ってやる」
「本当に、何回でも?」
「何回でも」
「面倒じゃない?」
「お前に呼ばれるのが面倒なわけないだろ。俺のお姫様だぞ?」
「……主様ぁ」
「はい落ちた。雷のお姫様、陥落。俺も落ちた。相打ちです」
「一人で実況しないで」
サンダースの火花が、ぱちぱちと柔らかくなる。
俺はその額にキスを落とした。
「今日のサンダースは、俺の一番速いお姫様だ」
「……もっと言って」
「俺の胸に一番速く飛び込んでくる、世界一可愛い雷のお姫様」
「……っ、もう、無理……好き……」
「よし、今日の俺の移動担当はお前に決定。俺の心臓も足も全部預ける」
「全部……?」
「全部」
「主様を、私の速度で連れていっていいんですね?」
「いいぞ」
「世界ごと置き去りにしても?」
「妹だけは置いてくな」
「そこだけ現実的なの腹立つなぁ!?」
「ニンフィア」
ニンフィアは俺の両腕をリボンで絡め取っていた。
にこにこ笑っている。
とても可愛い。
そして、とても逃がす気がない。
「主様、今のサンダースちゃんへの言葉、甘すぎませんか?」
「ニンフィアにも言うよ」
「同じじゃ嫌です」
「同じにするわけないだろ」
「……本当ですか?」
「ああ。お前は俺の逃げ道を塞ぐ子じゃない」
「……?」
「お前のリボンは、俺を縛るためだけのものじゃない。俺が迷った時、帰る場所を教えてくれる道だよ」
「主様……」
「だから今日は、そのリボンで俺を繋いでてくれ。試験会場でどれだけ人がいても、俺が帰ってくる先はお前たちだって分かるように」
「わたしのリボンが、主様の帰り道……」
「そう。俺が他の誰かを見ても、最後に戻ってくるのはお前のリボンの先だ」
「……そんなこと言ったら、わたし、絶対にほどいてあげませんよ?」
「ほどかなくていい」
「一生?」
「俺が困らない範囲で一生」
「そこは全部って言ってください」
「全部」
「よろしいです」
「お兄ちゃんが個性に尻に敷かれてる……」
「違う。これは自発的服従だ」
「もっとダメじゃん」
ニンフィアが満足そうに笑った。
妹よ、俺は本望だぞ。
俺は少し身を屈め、彼女の額にキスを落とす。
「今日のニンフィアは、俺を一番甘やかす係な」
「主様を?」
「ああ。俺が疲れたら、お前のリボンで抱きしめてくれ」
「……主様、そんなお願い、わたしにしていいんですか?」
「お前だから頼んでる」
「……もう。主様って、本当に悪い人ですね」
「好きだろ?」
「大好きです。だから、絶対に逃がしません」
「はい出ました。あざと可愛い拘束宣言。満点です」
「採点しないでください。照れます」
「照れるんだ」
「主様に見られると、なんでも照れます」
「ぐはっ。今の一撃、急所に当たった」
「お兄ちゃんが勝手に倒れてる……」
「ブラッキー」
ブラッキーは俺の背中に張りついたまま、黙っていた。
周囲の通行人を睨んでいる。
全員敵。
世界全部敵。
そんな目をしている。
「ブラッキー」
「……何」
「背中は任せたぞ」
「……」
「今日、俺の背中を預けるのはお前だけだ」
「……主様」
「前は俺が見る。横はみんながいる。だから、後ろはお前に守ってほしい」
「私がいれば、誰も近づけない」
「知ってる。だから安心して歩けるんだ」
「……本当に?」
「本当。お前が後ろにいてくれると、俺は振り返らなくて済む」
「……振り返らないのは、嫌だ」
「じゃあ、たまに振り返る」
「たまにじゃ足りない」
「なら、信号ごとに振り返る」
「少ない」
「可愛いなぁ、お前」
「ごまかすな」
「ごまかしてない。独占欲丸出しで拗ねてるブラッキーが可愛くて、俺は今ちょっと真剣に試験どころじゃないんだよ」
「……っ」
「はい輪模様光った。照れです。完全に照れです」
「違う」
「違わない」
「……噛むぞ」
「噛んでいいぞ」
「そこは止めろ!?」
「妹よ、ブラッキーに噛まれるのはご褒美だ」
「倫理観が防御ゼロ!」
ブラッキーの輪模様が、ふっと強く光った。
俺は背中越しに伸びている彼女の前足を握る。
「外が嫌いでもいい。人間が嫌いでもいい。俺を閉じ込めたくなるくらい大事に思ってくれてるのも、ちゃんと分かってる」
「なら、閉じ込めてもいいか」
「それは帰ってから相談」
「今は?」
「今は、俺を守る騎士でいてくれ」
「……姫ではなく?」
「お前は俺のお姫様で、俺の騎士だ」
「欲張りだな」
「お前相手なら欲張りになる」
「……主様」
ブラッキーは抱えてる腕から俺の胸に額を押し当てた。
俺は少しだけ振り返り、彼女の額にキスをする。
「今日の夜は、お前の隣で寝る。暗い部屋で、輪模様を見ながら」
「……約束」
「約束」
「破ったら、閉じ込める」
「破らないよ」
「……好きだ」
「俺も好きだよ、ブラッキー」
「……もう一回」
「好きだよ」
「……もう一回」
「好きだよ」
「……一生言え」
「任せろ」
「任せちゃダメだよお兄ちゃん! 試験始まるよ!?」
俺は四匹をまとめて抱き寄せた。
イーブイの震える手。
サンダースの火花。
ニンフィアのリボン。
ブラッキーの影。
全部が俺に絡みついて、俺を逃がすまいとしている。
普通なら怖いのかもしれない。
でも、俺にとっては違う。
これは愛だ。
重くて、面倒で、危なくて、でも、その一途な想いが俺だけに向けられた最高の愛だ。
「いいか、みんな」
俺は一匹ずつ顔を見る。
「俺は今日、雄英に行く。でも、ヒーローになるためにお前たちを置いていくわけじゃない」
「原作がどうとか、試験がどうとか、正直どうでもいい」
「俺が帰りたい場所は、お前たちのいる場所だ」
「俺が守りたい世界は、お前たちが笑ってる世界だ」
「だから、怖くなったら俺の名前を呼べ。寂しくなったら、俺を引き止めろ。嫉妬したら、ちゃんと言え」
「俺は面倒くさいなんて思わない」
「重いなんて言って捨てたりしない」
「お前たちの愛が重いなら、俺がそれ以上に重く愛してやる」
「そして俺が重すぎて沈みそうになったら、全員で支えろ」
「俺はお前たち全員に愛されて、全員を愛し返して、全員まとめて幸せにする」
「異論は?」
「「「「ありません……!」」」」
「よろしい」
四匹が、息を呑んだ。
俺は笑って、最後に囁く。
「──今日も俺を好きでいてくれてありがとう。俺の可愛いお姫様たち」
「「「「っ、~~~~~~~~~~ッッ!!!!」」」」
その瞬間、四匹の理性がきれいに焼き切れた。
イーブイは俺の足にしがみつき、サンダースは胸元へ顔を埋め、ニンフィアはリボンで俺の腕をさらに強く絡め取り、ブラッキーは背中から離れなくなった。
歩けない。
でもすんごいいい匂いします最高ですうへへへへ。
「今のは完全に下種ホストの手口だったよ。あと顔すんごいことなってるよ??」
「失礼な。俺は全員本命だ」
「それが一番タチ悪いんだよねぇ!?」
「俺は一途だぞ」
「九方向にね!!」
「九方向一途。新しい概念だ」
「開発しなくていい概念!!」
重すぎる愛の包囲網。
最強のヤンデレたちの視線。
それら全部を「ポケモンに愛されて最高!」のイカれたスタンスで真正面から受け止めながら、俺はようやく雄英高校の一般入試会場へと足を進めた。
なお。
試験開始まで、あと十分。
「……って、ちょっとお兄ちゃん、浸ってるところ申し訳ないんだけど普通に遅刻寸前だよ? あと10分で試験開始だけど」
「な、何だって……!? おいイーブイ、サンダース、ニンフィア、ブラッキー、歩けないからって俺の体に発情して密着したまま固まるな! タイムリミットだ!!」
「主様ぁ……リボンが解けなくて……はぁはぁ……」
「ダメだ、理性溶けてて話が通じねぇ!! 仕方ない、サンダース!!」
「は、はいっ! 主様のご指名、いつでもスタンバイしてますっ!」
「走るぞ! 俺を胸に抱っこしたまま、マッハの速度で雄英までぶっ飛ばせ!!」
「任せてください主様! 私のスピードで、世界ごと置き去りにして、そのまま二人だけの
「行き先が心中になってるけど背に腹は代えられん、行けーっ!!」
「待て待て待て!? ボク普通の人間! 妹は雄英の通り道の中学校で降ろしてぇぇぇぇ!!」
「ナンジャモ、お前も巻き込み(連行)だ!! 雄英高校の通り道に中学校あるんだし、そのまま投げ込んでやる! 任せたよサンダース!!」
「〜〜〜〜っ!!!! はぁぁぁい!! 主様との
「はぁぁぁ?!?! ちょ、ま」
バヂィィィィィィッ!!! *1
シャ────ク!!! *2
「いぃぃぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
その日、雄英高校の正門前に、黄色い特級災害クラスの雷光が突き刺さった。
今日も一日、いい日になりそうだ。
【個性解説】
個性名!
『ブイズ』!!
九匹のブイズを実体化させる、召喚・具現化系の特殊個性!
基本はポケモン姿で活動し、戦闘・索敵・防御・移動・拘束など、それぞれの進化先に応じた能力を発揮するぞ!
ただし、外の世界で五匹以上を同時に出すと、使用者の脳に強い負荷がかかる!
なので普段は四匹以下の選抜運用が基本だ!
そして重要ポイント!
通常のポケモン姿の時、ブイズたちの言葉を理解できるのは、オリ主とその家族だけ!
周囲には「ぶいっ」「しゃわ……」「にゃーん」みたいな鳴き声にしか聞こえていない!
だが、オリ主には激重ガチ恋台詞として全部聞こえている!
そりゃ限界化するわな! わははは!!!
さらに!! 感情が限界突破した時や個性を深く発動した時には、ブイズたちは限定的に擬人化する!
擬人化中は、周囲の人間にもちゃんと人語として聞こえるようになるぞ!
つまり、普段は鳴き声で隠されていたやべぇモンが放出されるわけだな!! はは!!
周囲への精神的ダメージはかなり大きいぞ!
総評!
かわいい!
強い!
愛が重い!
そして一番ヤバいのは、それを全部ご褒美として受け止める主様である!