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<side 神室真澄>
坂柳に私の『秘密』を知られ、早いことに数カ月が経っていた。坂柳には自分の手足になるように要求され、最初はもっとこき使われるのかと警戒していたが、蓋を開けてみれば拍子抜けしたというのが本音だ。私がやり始めた事と言えば主に友達の真似事である。
そして友達の真似事として、坂柳と共に一緒に行動するようになった綾小路清隆。
基本的に無表情だけども、それでも意外と「楽しい」とか「嬉しい」とか「面倒臭い」とかの感情が出ている普通ではない変な奴。
「気持ち悪い」
「酷くないか?」
綾小路は無表情ながらに「傷つく」みたいな顔で私を見る。
「思いっ切り走って何でこんなにピッタリなのよ」
「いや、練習したからだろ?」
「たった一度だけね」
女子で一番足の速い私と、男子で一番足の速い綾小路は二人三脚のペア。
「二人三脚は初めてだ」とそわそわした様子の綾小路とグランドを一周した後で、100メートルの直線距離を思いっ切り走ってみたが何の問題もなかった。綾小路ならもしかしてと全力を出したが、いざ本当に問題がないとそれはそれで気持ち悪い。
学年トップの学力を持ち、走力や握力の運動面でもAクラスでトップ。顔立ちも整って外見だって悪くない。期末テストで満点を取った時からだけど、そこから特別試験での活躍を経て、この無表情男は一気にモテ始めている。
ほら、今も何人かが熱い視線を送ってきてるし。
綾小路が悪い奴ではないのは分かっているし別に嫌いではない(でなければ名前呼びを許したりもしていない)ただ、個人的には
「綾小路、俺とも頼む」
「もちろんだ」
私との練習を終え、次は鬼頭との二人三脚の練習を始める綾小路。鬼頭の外見に対して未だに苦手意識を持つクラスメイトもいるが、綾小路は平然としている。そして私の時と同様に、簡単に息を合わせて走り抜ける綾小路と鬼頭コンビ。男子が「はえぇー!」と騒いでいる。
その様子を私たちだけではなく、他クラスの生徒も見ていた。
Bクラスが数人。偵察だ。
「ふふ」
坂柳は偵察に来ているBクラスを一瞥した後で微笑む。坂柳が一体何を考えているのか一目瞭然だ。「
私も事前に話を聞き、その場に居たから坂柳の取った戦略を知っている。体育祭で
「真澄さん」
内心でBクラスに同情していると名を呼ばれる。
坂柳の視線を追うと、案の定そこに居るのは綾小路。どうやら先程から熱い視線を送っていた
「嫌よ」
「まだ何も言っていませんが、私はただ清隆くんに用があるから呼んできて欲しいだけです」
「あのねぇ」
面倒臭い。色々な意味で面倒臭い。別に付き合っているわけでも、恋人というわけでもないのに嫉妬だなんて、ただただ面倒臭くて重い。
「真澄さん、今何か失礼なことを考えていませんか?」
「
「今何か変じゃありませんでした?」
普段は理性的で賢くてチェスが強く勉強も出来る。船上試験ではちゃっかりイカサマ人狼ゲームを仕込んだり、今回の体育祭の策といい綾小路に匹敵する頭脳なのは間違いないだろう。ただ、それ以外が変なところでお子様なのだ。
「そういえば、綾小路には伝えておかなくて良いの?」
「清隆くんならわざわざ言わなくても私の狙いに気付きますよ。それに、彼には純粋に競技を楽しんでもらいたいですからね」
谷原との会話を終え、再び男子達の中に混ざっている。相変わらずの無表情だけど、楽しそうにしているのは何となく分かる。その様子を見て坂柳もほっこりしていた。
綾小路も謎だけど、坂柳のこの態度もかなり謎よね。坂柳が綾小路を特別視しているのは言うまでもないが、子供の成長を喜ぶ保護者のような目は何なの?
「神室さーん」
呼ばれたので私も練習を再開させた。
練習の途中で、近くにいた綾小路がふと顔を上げた。視線を追うと、偵察を行うBクラスの近くにやってくる3人の生徒。内1人が椎名だった。うわぁっと内心で声を漏らす。
「Cクラスも偵察に来たようだな」
「そうね……」
「ちょっと行って来る」
好きにしなさいよ……。
喜怒哀楽の少ない綾小路。
冷静沈着な変人が、椎名を前にした時だけ、
口では上手く言えないけど、まるで人形に無理くり幼子の心を与えるような、『外』と『内』が乖離した状態になるのだ。
坂柳曰く『刷り込み』の影響だそうだが、その言葉の真意はよく分からない。
そしてそんな坂柳だが、綾小路と椎名が2人で話している場面を見ても、先程のように嫉妬するような表情を見せていない。いや、全くないわけではないけれど、それでも菩薩のように穏やかな表情をしていた。椎名と仲違いして欲しいわけじゃないけど、恋敵に向ける視線としては間違っている。
坂柳が腹の内で何を考えているかは分からないが、きっとロクでもないことだろう。
◆ ◆ ◆
<side 櫛田桔梗>
当初の予定では2人でキッチンに並び、少しずつ清隆くんの成長を見守るつもりだったが、1週間もしない内に頓挫していた。
全く
私別にいらなかったわよね。むしろ私より料理が上手くなってない?
「桔梗。悪いが運ぶのを手伝ってくれ」
「はいはい」
テーブルの上に肉じゃが、きんぴらごぼう、味噌汁と夕食を並べていく。
いただきます。……これでメシマズとかだったら面白いんだけど、普通に美味しいから困る。
「どうした、そんな目で見て来て?」
「別に……」
勉強は学年トップで、松下さんや佐藤さん達の話では運動神経も良い。ついでに料理も上手。
承認欲求が高く1番でなければ気が済まない私だけど、不思議と清隆くんに対してはあまり嫉妬心が湧いてこない。
理由の一つとして『心境』の変化はまあ……あるとは思う。
でもそれとは別に、小学校、中学校と今まで学校に通って来なかったと言った清隆くん。普通なら嘘だと思うところだが、私はその秘密を教えてもらい不思議と納得したのだ。やはり彼は『変』であり、そして『異常』であるということを。
だってそうでしょう? 義務教育を受けたことのない人間が、学年でトップの実力を持っている。絶対に普通ではない。それこそ漫画や映画にありがちな、幼少期から厳しい機関で育てられたエージェントとか言われた方が納得出来る。
極端な言い方になるが、そんな未知の存在と己を比べて嫉妬するのは難しい。宇宙人が突然やって来てオリンピックで金メダリストになっても嫉妬しないような感じだ。……少し違うかな?
「ところで清隆くんって、この学校を退学したら何扱いになるの?」
「何扱い?」
「学歴の話。保育園か幼稚園は行ってた?」
「いいや」
予想はしていたけどホイ卒、幼卒にもならないなんて、退学したら悲惨な学歴になるわね。そして闇が深そう……。他人の秘密を知ることは大好きだけど、清隆くんのは知ったら洒落にならない気がする。まあ、清隆くんもそこら辺の線引きをしっかりしているはずだし、教えてくれないとは思うけど。
「Dクラスの方はどうだ? 問題なさそうか?」
「リーダー面した堀北がムカつくだけで、特に問題はないかな」
あと須藤くんが凄い張り切っていてウザイ。
「相変わらずだな」
退学は一旦保留にしたけど、堀北のことは最初から嫌いだからね。
「桔梗の方は大丈夫か?」
「大丈夫って何が?」
「ストレスとかそっち方面でだ。上手くガス抜き出来ているか?」
「……一応、清隆くんの部屋でやっているつもりだけど」
「それはもちろん分かっているが、まぁ問題ないなら別に良いんだ」
言いたいことがあるならハッキリ言って欲しいんだけども。
「もしかして堀北の件?」
「理由はともかく、鈴音を退学させたいという気持ちは別に変わっていないだろ? 鈴音の存在が桔梗にどれだけのストレスを与えているかオレは分からないからな」
「ふ~ん」
心配してくれてるんだ。
「また爆発して下着姿で迫られるのは困るぞ」
「バっ!?」
カ~っと自分でも顔が熱くなっていくのが分かる。
あの夜のことは確かに自分でも大胆だったというか、色々と緊張していたし、万が一の可能性に賭けてもいたし、もしかしたら清隆くんとの関係も途絶えるかと思ーーーー。
「た、退学! 退学にさせるわよ!?」
「友達だろ? 見逃してくれ」
「~~~~っ!」
無表情ながらも、可笑しそうに軽口を叩いてくる清隆くん。
前々から思っていたけど、この変人はたらしの才能がある。椎名さん、坂柳さんの前でもこんな感じなの?
文武両道な清隆くんの人気は日に日に高まっているのは耳にする。
いつか女性関係でトラブって背中から刺されるんじゃないだろうか。
◆
チャットアプリ。
名前やメールアドレスの他にも色々と入力する欄がある。
前に連絡した時に、たまたま目にしたその項目。まあ、赤の他人ではないからな。
オレは山村に連絡をし、買い物に出掛ける約束を取り付けた。
*
「何ですか、急に呼び出して。決闘ですか? ヤりますか?」
「やらない」
「そう言って油断させようとしても無駄ですよ。前にも言いましたが、私は藍ちゃん流古武術の免許皆伝。どんな不意打ちが来ようと通用しません。バッタバッタです」
シュっシュっと口に出しながらシャドーボクシングを繰り出す森下。
そんな彼女の背後に忍び寄る影。
「あの、森下さん」
「ひゃあっ!?」
猫のように飛び跳ねて背後を振り向く森下。不意打ちが早速成功している。
にしても……「ひゃあっ」って、森下のくせに可愛いと思ってしまった。……悔しい。
「なるほど……。これが噂に聞くファンクラブの逆襲ですか。私に打ち勝ってアイドルの座を奪うつもりですね、山村美紀。……良いでしょう、頭をポコポコ叩いて綾小路清隆共々、記憶喪失にしてあげますよ」
心なしか恥ずかしそうにしながら、ターゲットを山村に変更する森下。慌てる山村。
「ご、ごめんなさい、驚かせるつもりはなかっ……ひぇええ~」
森下は山村の両肩を掴みながら「くらいなさい」と上下に大きく揺らす。
いきなり脱線し始めたので、オレは準備していた紙袋を取り出す。
「森下」
「あなたは後です、綾小路清隆。せいぜい首を洗って覚悟しーー」
「誕生日おめでとう」
ピタリと森下の動きが止まった。
山村はその隙に森下の手から逃れ、オレと同じ準備していた紙袋を取り出す。
「も、森下さん、誕生日おめでとうございます」
「…………なぜ、私の誕生日を?」
「チャットのプロフィール欄を見て知った。9月25日で大丈夫だよな?」
「…………まあ、そうですね」
森下は無表情で平然を装いながら、オレと山村の持つ物に目を向ける。
「それは……その……例のブツですか?」
「誕生日プレゼントだ。受け取ってくれ」
「は、はい。是非どうぞ」
オレと山村はそれぞれ持っていた紙袋を森下の渡す。
オレは選んだプレゼントはハンドクリームで、山村はヘアブラシ。森下の欲しい物や喜ぶ物が分からなかったので無難な物を選んだ。
「…………ふふ。ふふふふふっ」
両手が塞がり、棒立ちになってた森下が唐突に笑いだす。笑顔を浮かべるわけでもなく、口角を上げているだけなので普通に不気味だ。
「流石は藍ちゃんファンクラブNo.1とNo.2。ファンの鑑ですね。特別に100藍ちゃんポイントを差し上げますよ」
「その藍ちゃんポイントが溜まったらどんな特典があるんだ?」
「そんなのは知りません、自分で考えてください、あんまりふざけているとヤっちゃいますよ」
森下は早口のまま、金縛りが解けたような軽やかさで、くるりと回ってオレと山村に背中を向ける。
「体育祭では覚悟しておいてください。ぎゃふんと言わせてやりますからね」
味方同士なのだが、そんな捨て台詞を吐いてから駆け足で去って行った。
「喜んでもらえて良かったですね」
「ああ、意外な一面が見れた」
森下でも照れたりするんだなぁと。
誕生日プレゼントという不意打ちもしっかり成功したし満足だ。
◇神室真澄。
・友達の真似事でも、一緒に過ごす時間が長ければ情も湧く。
原作と違い、坂柳から言うほどこき使われいないし辟易もしていない。
◇坂柳有栖
・テストの満点や生徒会所属、特別試験での活躍。今回で運動も出来ることがバレてきたので、綾小路の人気が更に上昇。綾小路が自分以外の誰かに負ける姿は見たくないが、人気を集めてモテモテになって欲しくもない。だからといって楽しんでいる綾小路に頑張るなとは言えないので、内心でやきもきしてる。
◇櫛田桔梗
・綾小路が自分の心配をしてくれること。一緒に夕食を食べていることなど優越感。自分を完全に受け入れてくれた綾小路と一緒に居るだけで、別にストレスを吐き出さなくても大分リフレッシュ出来ている。「堀北さん退学にならないかなぁ」とは今も思っているが、自分から仕掛ける気は今のところない。それをやって綾小路の不興を買いたくない。
◇綾小路清隆
・イケメンで勉強が出来て運動神経も良い。
そりゃ性格に難があってもモテるよねって話。
◇森下藍
・誕生日:9月25日。
もっと登場して絡んで欲しいと思うキャラは?(参考程度に)
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椎名ひより
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坂柳有栖
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神室真澄
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堀北鈴音
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櫛田桔梗
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山村美紀
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森下藍
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その他