人生初めての体育祭。
全校生徒一同で行進。開会式の挨拶では藤巻が開会宣言を行い、それから赤組と白組はトラックを挟んで向かい合う。
*
第1種目:全員参加の100メートル走。
オレは第5組だ。
「おっ、俺の相手は綾小路か。今回は負けないぜ~」
そう言って元気に声を掛けてくるのはBクラスの柴田。「よろしく頼む」とオレも言葉を返す。
オレは他クラスの生徒の偵察は一切行っていないし情報も聞いていないが、夏休みのバレーの動きから柴田の運動神経が悪くないのは知っている。油断せずに行こう。
……思ったよりも速かった。焦る。
鬼頭と練習で100メートル走で何回か競ったが、鬼頭よりも多分速い。
「くっそー、負けた! やるなぁ、綾小路!」
「こっちもギリギリだった。スタートダッシュが上手くいったおかげだな」
悔しがりながらも明るく笑う柴田。裏表のない良い奴っぽい。
オレの後に続く鬼頭、橋本は1着。葛城は3着。後はボチボチの順位だ。全体的にやはり厳しいか?
コテージに戻ると、少々お隣が騒がしい。
見ると須藤が1人の生徒に詰め寄っていた。噂に聞く高円寺だ。無人島試験でもいの一番にリタイアしたという自由人。
「どうやら彼、レースを辞退したそうですよ」
「なるほど」
体格は良いし運動が出来そう……いや、出来るんだろうな。そんな相手が不真面目で参加しないのは確かに戦力として勿体ない。とはいえ、言って素直に聞くような奴なら最初からリタイアなどしていないだろう。
須藤は平田や数人の男子達に連れ戻されていった。そのまま怒り散らすかと思ったが、罰の悪そうに頭を掻いていた。読唇術からは「悪りぃ、ついカッとなった」と謝罪をしている。鈴音から簡単に話は聞いていたが、須藤の成長は著しいな。
「次は真澄さんの番ですね」
「真澄頑張れー」
一応声に出して応援してみるが、確実に声は届いていない。有栖がクスクスと笑ってくる。
真澄は同じ組だった一之瀬を破り安定の1位。その顔はニコリともしない。クールだな。
そして終盤、
「ひより頑張れー!」
「コイツ……」
「一周回って可愛くないですか?」
ひよりとは組も違い敵同士。本来なら応援出来ない立場だが、どうせオレの応援など届いていない。なのでセーフだ。
そう思っていたのだが、ひよりはオレの方を向き、握り拳を作って小さく頷いた。
「っ、ひより頑張れー!」
ひよりはビリだった。
まあ自他共に認める運動音痴だし仕方がないネ。でも、ナイスファイト!
*
第2種目:ハードル競争
第1組目を走るオレの相手は再び柴田だった。お互いに顔を見合わせて「またか」と同じことを思ったはずだ。
「今度も勝たせてもらう」
「なら今度こそ勝たせてもらうぜ!」
『ハードルを倒す』『ハードルに接触』の2つにはタイムのペナルティが付けられるので、それだけ気を付けながら、柴田にギリギリ負けない速度でゴールする。
鬼頭は1着。橋本は2着を取り、葛城は変わらず3着。
須藤はBクラスの神崎を打ち破って堂々の1着だった。
「なあ有栖。もしかしてこれは」
「清隆くんは気にしなくて大丈夫ですよ。そのまま1位でも連発していてください」
答えを言っているようなものだ。
*
第3種目:棒倒し(男子限定)
棒倒しがどんなものか動画で見てから、内心で楽しみにしていた競技だ。動画のように誰かが棒の上に乗ることはないが、それでも皆でわちゃわちゃと面白そうだと思った。
「綾小路! 防衛は任せたぜ!」
「ああ、須藤も頑張ってくれ」
本日1回目の団体戦。
連携的な観点から攻撃と守備はクラスで綺麗に分かれている。1回目の攻撃はDクラスでオレ達Aクラスは防御だ。
「殺されたいヤツからかかってこいや!」
物騒な言葉と共に棒を守るBクラスに突撃していく須藤。
同時に、
先頭は当然、山田アルベルト。1年生の中で最も屈強な肉体を持つハーフの生徒。威圧感があり、接触する前から何人かの腰が引けている。
「オレが行く。援護は要らない」
「は? おい、綾小路!?」
オレは守備の中から抜け出して前に出る。
全速力で突っ込んでくる山田。普通にぶつかれば体格差や筋肉量で負けるので、衝突の直前で足を動かし腰を落としてタイミングをずらす。一瞬だけ力が空振りしたことに対する動揺を感じ取りながら、そのまま姿勢を落として山田を抑え込む。
「なっ、アルベルト!?」
「と、止めたぁあああああ!!」
前方からの動揺と後方からの歓声。
力で劣っているなら技で対抗する。この体勢なら山田の力も十全には発揮出来ないだろう。これでCクラスの主力は抑えた。
後はDクラスの頑張り次第だと思うんだが、このまま山田と1対1を続けさせてもらえないようだ。
左右からCクラスの生徒が来るのを確認しながら、一瞬だけ力を抜いて山田の体を前のめりにさせる。同時にオレも素早く後退してながら、山田を腕を掴みそのまま地面へと引き倒した。
オレは動きを止めず、右から来ていた生徒ーー石崎の手を掴みーー
「あ、ちょっ!?」
「悪いな」
足技を掛けながら石崎を山田の背中に落とす。そのまま左から来ていた生徒。完全に足を止めて尻込みしていた小田との距離を詰め、山田、石崎の上に投げ落とした。
龍園を見て、攻撃側のDクラスを見る。須藤には3、4人の生徒がマークされており厳しそうだ。平田などの生徒もギリギリの瀬戸際で防ぎ切られている。まだまだ時間が掛かりそう……というより時間切れになりそうだな、これ。
「てめぇら、棒の前にあのすまし顔をぐちゃぐちゃにしてやれ」
須藤みたいに物騒なことを言う。
そんなことをすれば一発で反則だろ……とか暢気に思っている間に、龍園の号令によってCクラスの男性達が声を上げ向かって来た。防御側として棒を狙って来ないのは素直に助かる。
それに数が多くても統制が取れていない。掴まれないように注意して逃げ回れば良い時間稼ぎが出来そうだと、そう思っていたが……。
「やらせるかよ! いくぞお前等ー!!」
「うおおおおおおおおお!!」
後方から咆哮。
ドドドドドと、地面を踏み鳴らしながらCクラスに突撃していくAクラスのクラスメイト達。
棒を支えているのは葛城や真田といった数人だけ。まさかの展開に驚いたのは当然Cクラス側も同じで、士気の高いAクラスの突撃に圧倒されていく。
防御側が攻撃側を攻撃してる……。なるほど、攻撃が最大の防御というやつだな。
オレは小田、石崎、山田の3人の上に体重をかけて抑え込みながら、戦況を見守る。鬼頭・橋本コンビが
そしてその光景に「こっちも負けてられるか」とDクラスの勢いが増し、逆にBクラスの動揺を誘う。
時間ギリギリだったが、最後にはDクラスがきっちりと棒を倒して勝利した。
「よっしゃあああああ!!」
須藤が雄叫びを上げ、白熱した戦いに周囲からも歓声が上がった。
Aクラス、Dクラスの席から「きゃー!」なんて黄色い声も飛んでくる。
「皆、大丈夫か?」
Cクラスと揉みくちゃになっていた皆に声を掛ける。何人かが掠り傷を負っていたようだが、気にした様子はなく全員楽しそうに笑顔を浮かべた。何人かが親指を立てて来たので、オレも同じように返しておいた。
「次はお前達の番だぜ! ぜってー、棒を守り切ってやるからよ! 頑張ってこい!」
Dクラスに見送られながら、今度はAクラスが攻撃側に回る番。
防御側は再びBクラスか。
開始のブザー音が鳴り、オレ達は棒を目指して走り出す。
反対に、攻撃側であるCクラスは誰一人動こうとはしていなかった。
「なっ!? 何をしている龍園!」
声を荒げる神崎。
当然だ。攻撃側が攻撃しなければ一生棒を倒すことは叶わない。
「見て分かんねえのか? 疲れたから休憩だよ」
「ふざけるな!」
「クク、それよりも前をしっかり見た方が良いぜ? もう敵さんが目の前だ」
「っ!」
Cクラスが何をしようが、Aクラスのやることは変わらない。
突撃するオレ達に神崎は焦って指示を飛ばす。
鬼頭とオレに向かって来る数人の生徒。鬼頭はそのままぶつかり合うが、オレは組み合わず後方に下がって回避する。普通に横をすり抜けることも出来たが、やってみたいことがある。
Aクラスは先程の士気の高さを引き継いでいるし、反面BクラスはCクラスの態度も含めて、流石に動揺している。別にオレが何かしなくても普通に勝てそうだが、やってみたいことがある(2回目)
「橋本、頼む」
「オーケー!」
「綾小路が何かを狙っているぞ!」
オレは数人のBクラスの生徒を躱し、橋本に向かって突き進む。
橋本は両手を構えバレーのレシーブの姿勢を作る。オレは橋本の両手に片足を乗っけ、同時に橋本は腕を思いっ切り振り上げた。
棒倒しを調べて知ったが、どうやら攻撃側は味方を足場にして棒を倒しに行くのが普通らしい。本来なら背中などを足場にするそうだが、まあ棒を倒す為に跳躍するという点では同じだな。
「なっ!?」
オレはBクラスの頭上を飛び越え棒を掴む。後はそのまま勢いと体重を乗せて棒を倒した。
これで2勝。AD連合がストレート勝ちし歓声が上がる。
「助かった、橋本」
「良いってことよ」
橋本は笑いながら手を上げて来たので、オレもそれに合わせてハイタッチを交わす。近くに居た鬼頭ともハイタッチをした。
陣営に戻ると女子達からの称賛が飛んでくる。
2回目の攻撃はともかく、1回目でAD連合が勝てたのは間違いなくCクラスを完全に抑えるというAクラスの活躍があったからだ。その自負があるからこそ、多くの男子が胸を張りテンションを上げている。冷静沈着な葛城も両腕を組んで満足そうに頷いていた。
オレは有栖と真澄のところに向かおうとすると、谷原や中島といった数人の女子が立ち塞がって来た。
「綾小路くん、凄いね! あのCクラスの山田くんを正面から止められるなんて!」
「その後の動きも凄かったし、さっきの跳躍だってカッコ良かったよ!」
「あ、ありがとう」
褒められているのは分かるが、あんまり喋ったことのない相手だから嬉しさよりも戸惑いの方が強い。だが、せっかく話し掛けてきてくれたのだ。仲を深める為にも怖気づいてはいけない。
きゃっきゃっと盛り上がっている彼女達との会話を頑張った(まあ、質問されたのをただ返していただけだが)
その後で、とても良い笑顔の有栖が無言で出迎えてくれた。
笑顔を浮かべながら怒れるなんて有栖は器用だと思う。
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第4種目:玉入れ(女子限定)
10個以上の差が開いてあっさりと
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第5種目:男女別綱引き。
2戦目も順調にAD連合が綱を引いていると、急にあり得ないほど手応えが軽くなった。このまま将棋倒しになって怪我をするのは危ないので、オレは咄嗟に飛び退く。
一瞬遅れて、後方に倒れ込む
有栖の取った戦略が分かって来たし、龍園ならもしかしてと警戒していたが、本当にやってくるとは。
これにはAクラスDクラスはもちろん、Bクラスの生徒も怒りをあらわにしていた。
そんな様子を龍園はせせら笑い3クラスを挑発してくるが、まあ勝ちは勝ちなので問題ない。ただ、負けるにしてもタダでは転ばないその精神は素直に感嘆する。
続いて女子の綱引きは、男子の全く逆。有栖の1名減があるとはいえ、
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第6種目:障害物競走。
オレは最終組であり、またまた柴田と同じだった。これで3連続。露骨過ぎてどんなに鈍くても気付き始めるだろう。
「なあ、綾小路。流石に偶然、じゃないよな……?」
「あー、先に言っておくが、Aクラスの参加表を作ったのはオレじゃないからな」
Aクラスの参加表を作ったのは有栖であり、オレは完全に任せきっている。
障害物競走もオレが1位で柴田が2位という結果になった。
男子が走り終わり女子の部。
真澄も安心安定の1位を取る。ひよりは……うん、ナイスファイト!!
その後も何人かの顔見知りが走っていく中で、トラブルが起こった。
1つ目、2つ目、3つ目と障害物を乗り越え、最後の50メートルで接触事故が起こったのだ。
1人はCクラスの木下美野里。
もう1人はBクラスの、一之瀬帆波だった。
「先に言っておきますが、
「それぐらい分かる」
龍園らしいと言うべきか、容赦がない。必ずこの後も仕掛けがあるはずだが、それに一之瀬が対応出来るのか。
「有栖、一応聞くがアレは
「ええ、龍園くんが勝手にやったことです」
「分かった」
「……助けるつもりですか?」
「今のところは助けるつもりはない」
ただ、龍園に対して
「真澄、頼みたいことがあるんだが良いか?」
「取り敢えず言ってみなさい」
仏頂面を浮かべながらも何だかんだで引き受けてくれる真澄。
違和感のある歩き方で自陣に戻っていく一之瀬を一瞥し、オレは次の競技の準備に入った。
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第7種目:二人三脚。
鬼頭とのコンビでぶっちぎりの1位。
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第8種目:騎馬戦。
競技の順番が一時的に逆転し、先に女子騎馬戦が幕を開ける。
騎馬は4人1組。それぞれのクラスから4つの騎馬が選出され8対8の形となる。その為、1部『余った』生徒は補欠、予備の人材扱いとなる。
女子騎馬戦はとても
Bクラスの騎馬がAクラス4騎のハチマキを取り、
「清隆くん。申し訳ないのですが、Bクラスで終わらせておいてください」
「分かってる」
男子騎馬戦。
オレは騎手で大将を任せれることになり、騎馬は鬼頭、橋本、司城。普通なら責任重大だが、まあ問題ない。どうせ出来レースだ。
開始の合図と同時にCクラスの騎馬は後方へと下がっていく。
オレは鬼頭に指示を出し、Dクラスと協力してBクラスの騎馬を一体ずつ着実に落としていく。
「龍園!!」
神崎が怒声を上げるが、龍園はニヤニヤとどこ吹く風。むしろCクラスの騎馬はBクラスの退路を塞ぐように立ち回り、満足な身動きも取れず
残ったのは無傷の
本来ならこのままCクラスを蹂躙するのだが、どちらのクラスも動かない。
「ち、つまんねーな」
近くにいた平田の騎馬を務めている須藤が舌打ちを零す。
「ごめん、須藤くん。さっきも言ったけど我慢して欲しい」
「わーってるって。堀北にも理由を教えられて頼まれたしな」
戸惑っている生徒は何人か居るものの、Dクラスの方は問題なさそうだ。
Aクラスの方も統率が取れているし、何人かは本番前から話を聞いているのだろう。落ち着いている。
女子騎馬戦と同じく、こうして穏やかに
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第9種目:200メートル走。
午前の部の最後の競技であり、全員参加種目の最後でもある。
第4組を走るオレの相手は当然柴田だ。
いや、狙いは分かるんだが流石に少し気まずいぞ?
「あー、一之瀬の怪我は大丈夫か?」
「ん、まあ……足を捻挫しちまったみたいでさ。事故だから仕方がないとはいえ、ついてないよな……」
「そうか」
本気でそう思っているなら能天気……楽観的だと言わざるを得ないが、別に柴田が悪いわけではない。むしろ真っ直ぐな柴田の善性を羨ましく思う。だが、世の中は『良い人』の数が圧倒的に少なく、
もっと登場して絡んで欲しいと思うキャラは?(参考程度に)
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椎名ひより
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坂柳有栖
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神室真澄
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堀北鈴音
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櫛田桔梗
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山村美紀
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森下藍
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その他