体育祭の午前の部が終わり、やってくる昼休憩。
オレはダッシュで寮の自室に戻り、風呂敷に包まれたモノを手にひより、有栖、真澄の3人の元に戻る。
「清隆くん、その重箱は一体……」
「弁当だ」
特に体育祭では昼食の時間もイベントの一つだと、オレは勝手に思っている。こういう学校行事では、友達とお弁当を囲って一緒に食べるものだと。
なのでーー。
「早起きして作ったんだ。一緒に食べよう」
オレは重箱と一緒に持って来たレジャーシートを芝生に敷き、その上に座る。
ひよりと有栖が目を丸くしており、真澄もちょっと驚いてる様子だ。
「どうした?」
「いえ……清隆くん、料理とか出来たんですね」
「はい、いつも学食とかでしたから、てっきり……」
「夏休み前から練習し始めてな。味は問題ないはずだ。遠慮なく食べてくれ」
重箱の蓋を開け、料理を公開する。
おにぎり、唐揚げ、卵焼き、ミニハンバーグ、ミートボール、ウインナー、アスパラ肉巻き、チーズちくわ、ブロッコリー、ミニトマト、枝豆、キャベツ、パセリ、かぼちゃの煮物と、定番だと思われる料理をとにかく詰め込んだ。
「「…………」」
「かなり多いわね。けど美味しそう」
何やら絶句しているひよりと有栖を横に、真澄は割り箸を取りアスパラ肉巻きを食べる。
「どうだ?」
「……悪くないわ」
オレ、桔梗、堀北兄妹の味覚は正常のようで安心した。
「……美味しいです」
「そうですね……」
美味しいと言いながら、表情が沈んでいるひよりと有栖。
え、気を遣われてる?
「椎名さんは料理出来ますか?」
「……その時間をずっと読書に回してきたのでからっきしです。坂柳さんは?」
「私は片手だと厳しいので……」
「あ、ごめんなさい」
「いえ……私こそ
「「…………」」
「美味しいんですけど、素直に喜べないかもです。ごめんなさい、清隆くん……」
「前時代的な考えだと分かっているのですが……悔しいですね……」
プールの時と違って周りは特別騒がしくもないので、普通に2人の会話は聞こえている。
有栖と同じくオレも「女だから
「良かったら料理を教えるか?」
「「え!?」」
有栖とひよりはオレの方を向いてから、再度お互いに顔を見合わせる。それからコクリと頷き合った。
「清隆くん……料理を教えると言いましたが、誰の部屋でやる予定ですか?」
「誰の部屋でも構わないが」
「なら清隆くんの部屋で決まりですね」
2人して言質を取ったと言わんばかりの表情。
部屋には調理器具が一式揃っているし、むしろそれで…………問題ないよな? 問題ないよな、多分……。
「どうしたのよ、綾小路。変な顔して」
「いや、ちょっと量が多かったなと。張り切って作り過ぎた」
「気付くの遅くない? 私たちと違って2人が小食なのは知ってるでしょ」
体育祭も楽しみだったが、友達に料理を振る舞うのも楽しみの一つだったんだ。量のことなど頭から抜けていた。
とはいえ、料理が沢山残ると普通にオレが悲しい。
ここは人海戦術といこう。
取り敢えず、周囲にいたクラスメイトに声を掛け呼び寄せる。既に彼らの手には学校側が無料で配っている高級弁当があり舌が肥えていたが、それでも美味しいと口にし料理を摘んでくれた。
見る見ると減っていく料理。呼び寄せたのはオレだが、ちょっと集まり過ぎでは?
オレがまだ1つも食べていない人気の唐揚げは森下の手によって3つも奪取され売り切れ。他の肉料理や卵焼きといった品々も食べ尽くされていった。
……弁当でも貰いに行くか。
◇
まだ昼休みの時間は残っていたが、昼食を食べ終えたひよりはCクラスのテントへと戻って行った。
「有栖。この後の推薦競技も気にせず1位を狙いに行っても良いんだよな?」
「四方綱引きだけ
「点数の配分が大きい1200メートルリレーも大丈夫だな?」
「ええ。全学年が入り乱れていますしね。これで負けるようならCクラスとDクラスの
ならこっちも問題ないな。
1200メートルリレーではやることがあるので、手加減しろと言われたら面倒だった。
「にしても、意地の悪い『同盟』を組んだな」
「ふふ、誉め言葉として受け取っておきますね」
有栖が準備期間中の裏でやったのは、ACDの3クラス同盟。
ターゲットはBクラス。
「Aクラス、Cクラス、Dクラスの3クラスは、
柴田にはオレ。神崎には須藤といった、Bクラスの運動能力の高い生徒には、鬼頭、橋本、平田、龍園と、同じく運動能力が高く、そして上回れる生徒がぶつけている。
3クラスが総力を上げて狙い撃ちにしているので、男女ともに、恐らくだがBクラスは個人戦でまだ誰も1位を獲得していないんじゃないだろうか。今現在の順位は、確実にBクラスが4位だろう。大分えげつないことをしている。
「
「1200メートルリレーで決着をつけるそうです」
「いや、何でそんなすぐに3位だって分かんの。もしかして計算してたわけ?」
真澄が口を挟んでくるが、そんな面倒臭いことは当然していない。
「組み合わせを見ていれば大体分かる」
オレや柴田のように大体のメンバーが固定されており、CクラスとDクラスを引き立て、反面Bクラスを下位へと落とす組み合わせになっていれば嫌でも気付く。
「それに、Aクラスが3位にならないとCクラスとDクラスが素直に同盟を結ばないんじゃないか」
「その通りです。堀北さんと龍園くんも、こちらの狙いをしっかりと理解した上で同盟を結んでくれましたよ」
「理解
Bクラスを狙い撃ちにするのもそうだが、有栖がこの話を
今回の体育祭。試験ではなくてもクラスポイントの変動がある以上、基本的にどのクラスも1位を目指すのは言うまでもないことだろう。逆に言えば、唯一マイナス分のある4位にもなりたくはないのだ。
だからこその同盟。
だがこれだけなら、わざわざAクラスと同盟を組むメリットがない。
Aクラスが独走状態である今、自クラスを上位に入賞しながら、同時にAクラスを下位に落としたいという考えは当然持っているだろう。
BCDで同盟を組んで、Aクラスを4位に叩き落すのが本来の自然な流れだ。
しかし、
4位はAクラスにするとはいえ、問題は3位をどのクラスにするのか。
Aを除く現在の3クラスのクラスポイントは
・Bクラス:693
・Cクラス:550
・Dクラス:437
見ての通り、3クラスの差に大きな開きはない。
Aクラスを4位にする為とはいえ、どのクラスも
その点、ACD同盟ではAクラスが3位を引き受けることで、CクラスとDクラスが上位を狙える。下位2クラスにとってBクラスだって倒すべきクラス。
仮にBクラスが3位を引き受ける意思があったとしても、Aクラスがーー有栖が同盟を先にCクラスとDクラスに提案した時点で
何故なら、このAクラスの同盟を
同盟を組む組まない関わらず、勝敗の鍵を握るのは『参加表』の存在だ。
いくら3クラスで同盟を組み、1クラスを4位にしようと画策しても、相手の参加表が分からなければ狙い撃ちにすることは出来ず、結局は運が絡むことになる。
4クラス全ての参加表を把握していない状態で、この同盟は真価を発揮することは叶わない。
そのことを同盟を提案する
それだけではない。
もしBCDが同盟を組み、上手いことAクラスを陥れたとしても、今度はAクラスが『Dクラス』の足を全力で引っ張ってやり返せば良い。
団体戦は勝利した組に500点。団体戦は棒倒し、騎馬、玉入れ、男女別綱引きの計4種目。
Aクラスがワザと負ければ、それに引っ張られてDクラスも下位へと沈む。
これらの理由から、DクラスはAクラスとの同盟を蹴ることが出来ない。同じ赤組だということも関係し、BCD同盟を組んだ時に発生するメリットよりもデメリットが大きくなるからだ。
次にCクラスだが、CクラスはDクラスよりも説得は簡単だろう。
むしろCクラスは頭を下げてでも、同盟に加わらなければならない立場だ。
それはCクラスーー龍園が認めるかどうかは置いて起き、4クラスの中で、今一番追い詰められているのは間違いなく
龍園は何故追い詰められているのか。
理由はとても単純で、龍園がまだ
無人島試験も船上試験も、オレと有栖によって活躍の機会を奪われている。無人島試験ではBクラスとDクラスを出し抜いているようだが、それでも得られたクラスポイントは50と320万のプライベートポイントだけで、順位は3位。それを「勝利」と宣言するほど、龍園もプライドを捨ててはいないはずだ。
葛城、一之瀬、鈴音。他のクラスと違い、龍園は暴力によって独裁政権を築いたからこそ、何よりも結果を求められる。結果を出せない暴君にいつまでも付き従うほど、Cクラスの生徒も愚かではないだろう。
それについ最近、どのクラスも2000万以上のプライベートポイントを得た。
葛城から聞かされたが、他クラスの生徒から『Aクラスに移籍させて欲しい』との打診があったそうだ。
……やろうと思えば、色々と
龍園《リーダー》の立場からしても、何としても4位は回避したいだろう。
同盟を拒否した結果、ABDで同盟を組まれCクラスを叩き潰しに来られたら目も当てられない。たとえ参加表の漏洩を防ごうとも、Bクラスが団体戦で足を引っ張ればどう頑張っても下位に沈む。
Bクラスがそれをやるかどうかは別にしても、可能性がある以上は無視出来るはずがない。
同盟を組めば4位にはならず、上位を目指せる。
同盟を断れば、裏で他3クラスが同盟を組んで敵に回って来る可能性が出てくる。
同盟という戦略を知ってしまった以上、どちらを選んだ方が得かは明白だろう。
最悪Aクラスは組で負け、順位で4位になってマイナスになろうとも、1000クラスポイントは維持できる。これはクラスポイントに大きな差があるAクラスだからこそ取れる
「同盟を組んだら後は簡単です。
「BクラスではなくCクラスと同盟を組んだのは、そっちの方が同盟が組みやすかったのと、龍園ならBクラスから参加表を入手出来ると思ったからか?」
「ええ、やり方は龍園くんに一任しましたが、恐らくBクラスの参加表をあれこれと理由を付けて共有したのでしょう」
同じ白組とはいえ、龍園が相手なら素直に信用されないだろうが、そこは有栖の方法を真似れば簡単だ。
Bクラスと、お互いに提出する参加表と本番の参加表が違っていたらペナルティが発生するという契約を交わせば良い。
後はそこから入手したBクラスとCクラスの参加表を基準に、AクラスとDクラスが参加表を調整するだけだ。
Bクラスもまさか、同じ白組のCクラスが裏切っており、
「清隆くんなら分かっていると思いますが、私たちAクラスが3位を引き受けた理由は……」
「ヘイトコントロールと3クラスの混戦。Aクラスの運動能力の低さ。それと龍園に対しての
他にも副次的な効果がありそうだが、有栖は微笑みながら頷く。
改めて、意地の悪い良く出来た戦略だ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「どういうことなのかな?」
「思ったよりも面の皮が厚いんだな、一之瀬。お前が意図的に木下に怪我を負わせたくせに反省の色はなしか」
「一之瀬さん、倒れた私に言ったの……絶対に勝たせないって……」
「そんなことは一言も言っていないよ。どうしてそんな嘘をつくのかな」
「お前のせいで木下はリタイアしたって言うの嘘つき呼ばわりか。誰の目にも明らかだろ。お前が木下に自爆覚悟で接触事故を起こしたってな。学校側に訴えさせてもらうぜ」
「……訴えれば良いんじゃないかな。私は何もしていない。正しい判決が下されるって信じてるから」
「クク、本当にそう思っているならもっと堂々とした方が良いぜ。お前も分かっているだろ、一之瀬。このままじゃ、せっかく生徒会入り出来たってんのに、いきなり汚点をつけることになるぜ?」
「っ……龍園くんは何が言いたいの?」
「100万ポイントだ。それで訴えを取り下げてやる」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
◆Aクラス、Cクラス、Dクラスは契約を締結する(簡易版)
①3クラスが共有し、提出した参加表と本番当日の参加表が違った組み合わせだった場合、『裏切り』を行ったそのクラスは1000万ポイントのプライベートポイントを各クラスに支払う。
②Bクラスの参加表が本番当日の参加表と違った組み合わせだった場合、CクラスはAクラスとDクラスに1000万プライベートポイントを支払う。
③Aクラスが1位で入賞した際、CクラスとDクラスに80万のプライベートポイントを支払う。
④Aクラスが2位で入賞した際、下位に入賞したCまたはDクラスに40万プライベートポイントを支払う。
⑤団体戦において、勝敗を調整し公平に得点を振り分ける。これを破ったクラスは各クラスに1000万のプライベートポイントを支払う。
◇綾小路清隆
・大事な友達の為に料理を振る舞えるこの
◇坂柳有栖
・競技に参加していないのでリタイア組なので、各クラスの得点を計算して把握している。ただ、きっちりと全てを見ているわけではないので多少の
◇一之瀬帆波。
・龍園に強請られる。原作同様、《この段階》も来てしまった以上は無罪の証明はかなり厳しい。
もっと登場して絡んで欲しいと思うキャラは?(参考程度に)
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椎名ひより
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坂柳有栖
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神室真澄
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堀北鈴音
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櫛田桔梗
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山村美紀
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森下藍
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その他