お昼休憩が終わり午後の部。
今現在の赤組対白組では赤組が優勢。そして恐らく、このまま赤組の勝利で終わるだろう。
生徒会長のいる3年Aクラス。そして、2年生の殆どを掌握している2年Aクラスの南雲。1年生が余程足を引っ張らなければ負けることはないはずだ。
ここから後の全て推薦競技。
第10種目:借り物競争。
借り物競争に出場するのは各クラス6人ずつ。クラス1人ずつが走り、4人1組のレースとなる。
これまでの競技と違い、誰と誰が組み合わさろうと関係ない。運に左右される競技であり、もしかしたらBクラスが6連勝して一気にトップに躍り出る可能性だって存在する。得点の調整的な意味でも、同盟を組んでいる3クラスにとって厄介な競技だ。
「うがあああああ」と、遠くから須藤の声が聞こえてくる。どうやら外れを引いたらしい。
オレと同じ全競技で1位を取っていた須藤が、ここに来てまさかの最下位で競技を終える。同時に、Bクラスが初めて1位を獲得しガッツポーズをしていた。
足の速さは関係ない。勝敗を握るのはやはりクジ運だ。
「頑張れよ、綾小路」
橋本に見送られ、柴田と同じ3組目を走る。
そしてトップで置かれた箱の前に立つ。
借り物競争のお題。
これについてだが、借り物競争に出ないという条件で橘、溝脇、一之瀬の3名の生徒会が中身に大きく関わっている。
話を全て聞いていたわけではないが「やっぱり定番といえばコレですよね!」という橘の声。「ネタ枠も必要ですよね!」という橘の声。「難易度の高いやつも入れちゃいましょう!」という橘の声。「こんなの絶対無理です~」という橘の声。
……とにかく、須藤が2回も引き直しを選択するぐらい、外れのお題が紛れてあるのは間違いない。
頼む、変なお題は来ないでくれ……!
『友達100人』
「……嘘だろ?」
正気ですか、橘さん?
『友達100…………もしくは、友達10人を連れてくることです♪(橘の字)』
橘ぁ……!
お題の紙を握り潰すのを堪えながら、オレは友達の数を数える。
ひ、引き直すか……? いやしかし、30秒のロスがあるし次も変なお題が来ないとも限らない。
……行くか。
たとえ友達じゃなくても、口裏を合わせてくれることに期待しよう。
「ひより、一緒に来てくれ」
「はい」
ひより確保!
「悪い、このままAクラスのテントに来てくれ」
「わ、分かりました」
ひよりと一緒に反対側にあるAクラスのテントに向かって走る。オレだけ先行して行っても良かったが、せっかくなのでひよりと足並みを揃えてグラウンドを横断した。遅いなりに一生懸命に走る姿が微笑ましくて可愛い。凄く応援したくなる。
「有栖、真澄」
「お題は何なの?」
オレは無言で真澄にお題の紙を手渡し、クラスメイトを見る。
「葛城、鬼頭、真田、それと橋も……っ」
忘れてた、橋本はオレの次の番だから連れ出せない。どこに行ったのか、競技を終えたはずの須藤も見当たらない。2名減っ。
「フ、どうやら私の出番のようですね、綾小路清隆」
「(マジで)頼む。山村も来てくれ」
「は、はい」
ひより、有栖、真澄、葛城、鬼頭、真田、森下、山村ーーーーこれで8人。
残り2人だが……2人だけで助かった。
オレは隣のテント、Dクラスの元に行く。
「鈴音、きっ……櫛田、一緒に来てくれないか?」
「……お題は何?」「わっ、一体どんなお題なの?」
「友達だ」
「「……………」」
え、何だこの沈黙は。
てっきり二つ返事で承諾してくれると思っていたのに、どうして2人してたじろぐ?
「う、うん、勿論良いよ!」
「そ、そうね。友達なら仕方がないわ」
ちょっとだけ冷や汗をかいたけどヨシ!
これで友達10人揃った!
「ちょっと綾小路。お題は分かったけど、坂柳はどうするわけ?」
真澄はオレにお題の紙を返しつつ有栖を見る。
当たり前だが、有栖のペースに合わせて移動すればかなりの時間を要する。かといって有栖を置いて行けば9名となりお題が達成できない。
「普通に抱えて行くが」
「そ、分かっているなら良いわ。……おんぶよね?」
「おんぶだが」
「なら良し。間違っても他の方法で運んじゃダメよ」
他というのは、お姫様抱っことか俵担ぎとかか? 言われずとも、悪目立ちはしたくないから要らない心配だぞ。
「今更っ」
オレは後方にいる有栖の前に移動して背中を向ける。
「し、失礼します」
体育祭の競技に参加していない有栖はジャージに着替えていない。制服のままなのでスカートに気を付けながら、彼女の膝裏に手を通して抱え上げる。
山村の時も思ったが、有栖も軽いな。
「よし、行こう」
こうして10名でゴールに辿り着く。
そしてやってくる審判のチェック。
「あなた達は彼の友達ですか?」なんていう、ハラハラドキドキの問いに、各々が「もちろんです」「当然です」「そうね」「相違ない」「ああ」「そうです」「ブイ」「は、はい」「えぇ」「友達です」と応えてくれる。
「皆、ありがとう」
2位という結果だったが、それでも『友達10人』というお題を達成出来たのが誇らしく思う。
「清隆くん」
「何だ?」
借り物競争を終え、有栖をおんぶしたままテントに向かう途中。
「あなたが櫛田さんと話している姿を一度も見た事がないんですが、いつ櫛田さんとお友達になったんですか?」
「………………」
「清隆くん?」
おんぶされた状態で、後ろからオレの耳を引っ張って来る有栖。
桔梗と口裏を合わせる必要がありそうだな、これは……。
*
第11種目:四方綱引き。
運が多分に絡んだ借り物競争の影響により調整が行われる。
3クラスで協力してBクラスを4位に落とし、オレ達Aクラスは3位。Dクラスが2位でCクラスが1位という結果になった。
*
第12種目:男女混合二人三脚。
オレは真澄と競技の準備に入る。
「ところで頼まれていたことだけど、本当にあれだけで良かったわけ? 騎馬戦から戻って来たらもう大丈夫だなんて。中途半端だったと思うんだけど?」
「いや、十分に助かった」
「そ。なら良いんだけど……どうするつもり? 助けるわけ?」
「昼にも言ったが、助けるつもりはない」
「ならどうしてあんな頼み事をわざわざして来たのよ」
「
「でた。
頷くと真澄は「え、ホントに」と目を丸くする。
「脅せるけど、脅さない。十分な
「……別にどうでも良いんだけど、少しだけ同情するわ」
真澄はそう言って小さく息を吐く。
「頼もし過ぎて怖い」
オレと真澄は、柴田・網倉コンビを打ち破り堂々の1位を獲得。
しかし、他の組ではAクラスが転倒してビリとなったり、Bクラスが意地を見せつけて1位を2連続で獲得したりと、僅かばかりのズレが起こった。
「清隆くん、お願いしたいことがあります。最後の1200メートルリレー。Bクラスの順位次第ではありますが、8位以下にはならないでください」
「Bクラスに逆転されるか?」
有栖が短く頷く。
借り物競争と男女混合二人三脚で得点を取り返されたか。あるいは3位に調整し過ぎたせいか。
まあどちらでもいいか。オレのやることは変わらない。
「任せてくれ」
*
最終競技:3学年合同1200メートルリレー。
スタートを告げる音と共に、12名の選手が一斉に走り出す。
その中で1名が一歩目から11名を出し抜き先頭に躍り出る。
須藤だ。どうやらDクラスは混戦を避けて、インコースを維持しながら一気に距離を稼ぐ作戦を取ったようだ。
対するAクラスは、混戦を避ける為に敢えて
鬼頭から六角。六角から4番手の橋本とバトンが渡っていく。
その時にはビリから7位までと順位を上げているが、1位との差はかなりある。やはりというべきか上級生は強い。その中でBクラスだけが3位、4位と競い合っていた。A、C、Dと3クラスだから抑え込めていたが、Bクラスの持つ運動能力の高さに少し驚く。
トップ争いを繰り広げているのは2年Aクラスと3年Aクラス。しかし、ハプニングが発生。3年Aクラスが躓き転んでしまう。慌てて立ち直したものの、その間に2年Aクラスとの差が大きく広がってしまう。
5番手、橋本から真澄にバトンが渡る。
この時にはDクラスを抜かし、Aクラスは6位。全体の平均として運動能力の劣っているAクラスだが、上位だけで見れば意外と戦えている。てか美術部なのにホント真澄が速い。距離を維持してくれるだけで十分だったのに、前にいる上級生を抜かして順位を繰り上げてくれるとは。
「この勝負は俺たちの勝ちっスね堀北会長。出来れば接戦で走りたかったですよ」
南雲はトップを走る2年Aクラスの生徒を見ながら笑う。2位を走る3年Aクラスとは30メートルは開きがある。実力が似た者同士なら逆転出来る距離ではない。
「総合点でもうちが勝ちそうですし、新時代の幕開けって感じですかねー」
「本当に変える気か? この学校を」
「今までの生徒会は面白みが無さ過ぎたんですよ。伝統を守る事に固執しすぎたんです。口では厳しいくせに救済措置を忘れない。ロクに退学者も出ない甘いルール。もうそんなのは不要でしょう。だから俺は新しいルールを作るだけです。究極の実力至上主義の学校をネ」
生徒会長が話を聞いてたが、本当に実力・個人主義を重視する仕組みを目指すようだ。
「綾小路。そん時は、お前ともきちんとした場で遊んでやるよ」
南雲は生徒会長からオレに目を向けてから、バトンを受け取る助走に入った。
それを見てから、生徒会長はオレの方へと体を向ける。
「綾小路。やるんだな?」
「ええ、せっかくの機会ですからね。よろしくお願いします」
「ふ、全力で挑ませてもらう」
南雲がバトンを受け取ってから程なくしてBクラスも2位という順位でアンカーまで辿り着く。
「柴田くん、お願いっ!」
「っしゃ! 後は任せてちょ!」
これまでに見て来たどの競技よりも、真剣な眼差しで柴田が駆け出す。今回の体育祭で散々やり込められたBクラスにとっては、最終結果に関わらず意地を見せたい所なのかもしれない。
同時に、3年Aクラスの5番手もバトンを手に生徒会長の前に辿り着く。
「ご苦労だった」
「あ、え、ああ……」
助走も何もしていない。立ち尽くしたままの生徒会長に、名も知らぬ3年生は戸惑いながもバトンを手渡し、引き上げていく。
その間にも、後続に抜かされ3年Aクラスは順位を一つ落とす。
オレは助走に入る前に、
そして、5位の順位をキープしたまま全速力で駆けて来る真澄を見る。
稀に見る真剣な表情だ。
生徒会長との真剣勝負。
全力で走るという意味ではオレのやることは変わらない。
だけど、そうだな……生徒会長との勝負の他にも、ここまでバトンを繋いでくれたクラスの為……友達の為にも、勝たせてもらうか。
「綾小路っ!」
真澄からバトンを受け取り、オレは開幕フルスロットルで駆けだした。
今までの人生で、だたっ広い世界を本気で走ったことなどなかった。
無機質な部屋の中で淡々と走り続けたあの時とは状況がまるで違う。
まだまだ涼しくなる時期は遠い10月の頭。
オレは冷たい風をその身に浴びる。
やっぱり悪くない。
知略も戦略も関係ない、堀北学との純粋な一騎打ちも。
クラスメイトの、真澄の頑張りに応えようと思える、この不思議な気分も。
「清隆くん、頑張ってください!」
決して大きな声ではなかった。それでも歓声の中に搔き消されることはなく、有栖の声が確かにオレの耳に届いた。
言葉には力がある。
応援によってパフォーマンスが向上する……なんて話を聞いたことはあったが、今までの人生でそれを体験したことはなかった。
これまで半信半疑ではあったんだが……オレはまた新たな学びを一つ得た。
本当に悪くない。楽しいなーー。
1つ目のカーブを超え、直線を超え、そして最後のカーブへ。
ほらーーもっと加速すーー
「清隆くん、頑張って!」
はい勝ちました。
負けるわけがないな!
◇ ◇ ◇
クラスメイトに囲まれ多くの称賛を受け続け、若干気疲れしながら有栖と真澄の元に行く。
有栖は満足気な表情を浮かべていた。
「お疲れ様です。清隆くんの勝利を信じていましたよ」
「ありがとう、有栖が応援してくれたおかげだ」
「っ、聞こえていましたか」
「しっかりと聞こえてた。嬉しかったぞ」
「な、なら、応援した甲斐がありましたね」
照れ臭そうにオレから有栖は目を逸らす。
「あんた、今まで本気じゃなかったのね。それなのにクラスで1番足が速かったってどういうことよ」
真澄はタオルで汗を拭きながら、呆れた様子で呟く。
「本当、あんたって何者なの?」
「哲学の話か?」
「は?」
冗談だから睨まないで欲しい。
「というか、これなら同盟なんて組まずに普通にやった方が良かったんじゃない? もしかしたら上位を狙えたでしょ」
それはどうだろうな。オレ、鬼頭、橋本、真澄と、確かにAクラスでも運動の出来る生徒はいるが、半分以上が平均、または平均以下である。やはり総合力で見れば他クラスには劣っているしBクラスには敵わないはずだ。それにそもそも、今回の同盟は勝ち負けに重きを置いていないし……どのみちもう終わった話だろう。
電子掲示板に結果が発表される。
『勝利赤組』
1位:1年Cクラス
1位:1年Dクラス
3位:1年Aクラス
4位:1年Bクラス
「ん?」「あら」
これは……同着1位か。
「調整はしてましたが、こんなこともあるんですね」と有栖が暢気に言う。
隣のDクラスも最初は戸惑った様子だったが、徐々に勝利を祝う声が上がり始めた。
◇白組にマイナス100クラスポイント
◇学年別順位が与える影響
・1位:プラス100クラスポイント。
・2位:プラス50クラスポイント
・3位:0クラスポイント。
・4位:マイナス50クラスポイント。
<クラスポイント>
◆Aクラス:1230 → 変動なし
◆Bクラス:693 → 543
◆Cクラス:550 → 変動なし
◆Dクラス:437 → 537
1年最優秀賞。
Aクラス:綾小路清隆。
「クラスが入れ替わったな」
「同着1位は出来過ぎでしたが、狙い通りに
◇綾小路清隆
・クラスメイトからの応援を受け不思議な気分になっている。だけど悪くない。
最後はかっ飛ばした。
◇坂柳有栖
・綾小路がクラスメイト達から褒められている光景を、後方から腕組みをしないでドヤ顔で眺めていた。
◇須藤健
・MVPを綾小路に取られたが、Dクラスが1位であることや堀北の性格が改善されていることもあり名前呼びを解禁。テンションが上がっている(忠犬度アップ)
◇南雲雅
・余裕をぶっこいて先頭を走っていたら、後ろから信じられない速度で猛追されて割とビビった。
もっと登場して絡んで欲しいと思うキャラは?(参考程度に)
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椎名ひより
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坂柳有栖
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神室真澄
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堀北鈴音
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櫛田桔梗
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山村美紀
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森下藍
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その他