ようこそAクラスの教室へ   作:yadooo

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49話:5巻エピローグ

 ◆ ◆ ◆

 <side:一之瀬帆波>

 

 参加表リストが漏れている。いや、共(・)有(・)されている。

 クラスで一番足の速い柴田くんには綾小路くんが。神崎くんには須藤くん。他にも運動が得意な生徒には平田くん、鬼頭くんといった学年でトップクラスの生徒が割り当てられ、悉く1位を阻止されている。

 2位を取ることでさえ精一杯。団体戦でも足並みを揃えられ、勝ち越すことを決して許してくれない。

 口には出さないけど、皆きっと気付いている。自分たち(Bクラス)が4位であることを。そして、Bクラスの参加表が漏れていることも。

 

「くそ、龍園め!」

 

 Bクラスの参加表をAクラスとDクラスに流したのは龍園くん。

 私たちBクラスが良いようにやられている原因は龍園くんと…………そして誰よりも私のせい。

 

 Cクラスと参加表を共有することを決めたのは、最終的にリーダーである私の意思。

 もちろん警戒していた。本当に大丈夫なのかと疑った。

 『お互いの共有する参加表と本番の参加表が違っていた場合は、2000万プライベートポイントを支払う』

 そんな甘言(契約)に結局は騙されてしまった。

 

 

 1200メートルリレー。

 点数は3倍で1位を取れば150点。2位は90点と、大量に得点を稼げる最後の種目。借り物競争は運が味方しBクラスは1位を多く取った。男女混合二人三脚でも奮闘した。上位は無理でも、リレーが上手くいけばビリを脱却出来るかもしれない。そんな微かな希望も、たった今打ち砕かれる。

 

「あ……」

 

 歓声が沸き上がる。

 綾小路くんと堀北会長のデッドヒートに決着がついた。

 

 ほんの僅かにリードしていた綾小路くんが最終カーブに入ると、更に加速して堀北会長を引き離す。そして柴田くんをあっという間に抜き去り、南雲先輩の背中を捕らえたままゴールした。

 結局、Bクラスは堀北会長にも抜かれて4位。

 

 体育際の結果発表でもBクラスは4位となり『組』でも負けて、一クラスだけ150と大きくポイントを減らした。

 

 その結果がCクラスへの転落。

 Bクラス(Cクラス)との差は殆どないが、それは下にいるDクラスも同じ。次の特別試験によっては私たちはDクラスへとそのまま沈んで行くだろう。

 

「ごめんみんな……。また私が不甲斐ないせいで……」

 

「いやいやいやっ! 謝る必要はないって! それを言ったらオレだって、結局は綾小路に一勝も出来なかったし……」

 

「そうだよ、帆波ちゃんは何も悪くないよ!」

 

 柴田くんや千尋ちゃん。他にも皆が私を庇ってくれるけど、やっぱり責任は何も出来なかった私にある。

 

「っ」

 

「帆波ちゃん、足は大丈夫?」

 

「少し痛むけど、歩けるから大丈夫だよ。……それよりごめんね、これから生徒会があって」

 

「それはさっきも聞いたけど、怪我もしてるんだしあまり無理はしないでね」

 

 麻子ちゃん、千尋ちゃん達と別れて、私は足を庇いながらゆっくりと廊下を移動する。

 向かう場所は生徒会じゃない。

 

「一之瀬さん」

 

 呼ばれて振り返ると、神妙な面持ちの堀北さんがいた。

 

「ごめんなさい。今回の体育祭、同盟相手にも関わらず騙し討ちをしてしまって」

 

 堀北さんはそう言って私に頭を下げてくる。

 

「わわっ、そんな、謝罪なんていらないよ!」

 

 まさかの行動に私の方が面をくらってしまう。

 

「それに……今回の体育祭では組も分かれていて間違いなく敵同士だったわけだし、堀北さんはクラスを勝たせる為にやったことでしょ? 気にしないで」

 

 同盟状態だからといって「Bクラスの為に負けろ」なんて言えるわけがない。勝つ手段(参加表)があるのに、それを使うことが卑怯だなんて、私にそんなことを言う資格もない。

 

「ありがとう。そう言ってくれると助かるわ」

 

 堀北さんは安堵の表情を見せる。

 彼女と初めて会話したのは冤罪事件があった7月の時。その時はもっとツンツンしていた気がするけど、今は全然そんな感じがしない。プールの時も思ったけど柔らかくなった。

 

「足の方は大丈夫かしら? 怪我さ(・)せ(・)ら(・)れ(・)て(・)い(・)た(・)はずよね?」

 

「にゃはは……」

 

 歯に衣着せないと言うべきか、堀北さんもやっぱりそう思うよね。

 

 私と木下さんの接触事故。

 木下さんは認めないけど、彼女は何度も私の名前を呼んできた。そして、振り返ったタイミングでの接触事故。木下さんと口裏を合わせ龍園くんがポイントを要求してきたことからも、偶然のはずがない。狙ってやって来たのは明白。……けど、それを証明する術が私にはない。

 

「……何か協力は必要かしら?」

 

「え?」

 

「CクラスやAクラスと一緒にBクラスを4位にした私が言うのもおかしな話だけど、龍園くんのそ(・)の(・)やり方には賛同出来ない。協力が必要なら言って頂戴。手伝わせてもらうから」

 

「あ、ありがとう。……でも大丈夫だよ」

 

 堀北さんのその申し出は本当に嬉しい。けどやっぱり、木下さんの行いが故意によるものだと証明することは難しい。決定的な証拠があれば別だけど、競技中に起こったことで証拠が落ちているわけでもない。逆に、私が何度も振り返っていた光景が検証のビデオにはしっかりと残っている。

 

 私は出来るだけ笑顔を浮かべながら堀北さんと別れて保険室に向かう。

 

 龍園くんが私に要求して来たポイントは100万。

 自分に非がないと分かっているのに、そんな額を素直に支払うわけにはいかない。

 

「…………」

 

 頭では分かっているけど、そうなると訴えが生徒会まで行ってしまう。

 障害物競走の後の全員参加種目と推薦競技を怪我によって全てリタイアした木下さん。陸上部である彼女の方が私よりも足が速く、いくら私が否定しても客観的に見れば、私が彼女を勝たせない為に意図的に怪我をさせたという見方も出来てしまう。

 

 今月中に、生徒会長が入れ替わり新しい生徒会が発足される。

 私を生徒会に入れてくれたのは南雲先輩だけど、もし訴えが生徒会に行って、そのまま審議で敗れることになったら。

 まだ何の実績もない、生徒会に入ったばかりの私を南雲先輩はそのまま生徒会に居させてくれるのだろうか……?

 

 やっぱり……ダメなのかな。

 ……ううん、諦めちゃダメ。最悪、木下さんが出れなかった推薦競技の代理分、40万ポイントを支払うのは仕方がないかもしれない。けど、100万もやっぱり支払えない。船上試験で一クラスが2000万近いポイントを得たけど、100万は間違いなく大金で、簡単に渡せるような額じゃないから。

 

「おせぇ」

 

 保健室で待っていた龍園くん。

    

「?」

 

 お昼休憩の時、この場で対面した時の龍園くんは不敵で嘲笑うような表情をしていた。

 体育祭の結果ではDクラスと同様に1位を取り、ポイントこそ変動しなかったが十分な結果だったはずだ。

 

 それなのに龍園くんは明らかに苛立ちを抱え、不機嫌そうにしている。

 

「木下さんは?」

 

「木下なら帰らせた。此処に居ても邪魔なだけだ」

 

「そう……。龍園くん。木下さんが出れなかった推薦競技の代理分、40万ポイントを肩代わりするのは仕方がないかもしれない。けど、やっぱり100万ポイントも支払うつもりはないよ。それでも認められないっていうなら……良いよ。訴えを出しても。私、負けないから」

 

 嘘。訴えを出されれば困るし、恐らく負けると思う。

 でも最初から最後まで大人しくやられっぱなしにはならない。虚勢だとしても、私は胸を張って龍園くんと対峙する。

 

「50万だ。それで手打ちにしてやる」

 

「……え?」

 

 50万でも間違いなく大金だ。それでも、龍園くんがあっさりと発言を翻したことに困惑と驚きを隠せない。100万以外は認めないと、そう言ってくると思っていたから。

 

「50万だ、それ以外は認めねえ」

 

 龍園くんは舌打ちを零し、苛立ちを隠さない。

 分からない。龍園くんが何に苛立っているのか。なぜポイントの額が変更されているのか。

 龍園くんが目の前にいる私ではない『誰か』を見ていることしか、私には分からなかった。

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 Aクラスは3位だったが、クラスポイントに変動はなし。

 勝利とは言えないが、だからといって敗北してしまったと暗い雰囲気にもなっていない。逆にテンションが高いぐらいか。

 約1カ月にわたる体育祭準備、そして体育祭が無事に終わったことに対する軽い打ち上げが開催されることになった。

 場所は教室。真嶋先生からも許可を貰い、数人の男女がお菓子とジュースを買いに行く。

 

 体育祭というイベントが終わり、クラスメイトと打ち上げ。

 普通の学生っぽいイベントだ。

 

 

 だけどその前に、少しやるべきことがある。

 

 オレは有栖や真澄に一声掛けてから教室を出て特別棟に足を運ぶ。

 場所は割とどこでも良かったが、強いていうならここなら人目に付かないからだ。

 

「時間通りだな。てっきり遅れてくるかと思ってた」

 

「テメェと違って暇じゃねえんだ。さっさと用件を言え」

 

 この後用事があるのは知っている。オレだって打ち上げがあるからさっさと済ませたい。

 

「一之瀬帆波を脅しているな。いくらで手打ちにしようとしている?」

 

「あ? 誰から聞いた……いや、それを知って何の意味がある。お前には関係ねえだろ」

 

「関係ないならわざわざ呼び出したりしない。別に言わないで帰っても良いが、多分後悔するぞ」

 

 龍園がオレを睨み付けながら舌打ちを零す。

 

「100万ポイントだ」

 

「吹っ掛けたな。はいそうですかとはならないだろ」

 

「クク、そしたら訴えを起こすだけだ。汚点付きになった生徒会役員。そんな奴が生徒会に居続けられるか怪しくなるぜ」

 

 南雲なら気にせず一之瀬を生徒会に置き続けると思うが。むしろ、それを恩義に感じさせて自分の勢力下に置くぐらいはするだろう。

 そうなれば少し面倒臭くなる。1年生に対する目と耳はあまり増やさせたくはない。

 

「50万だ。木下の代理分のポイントと、プラス10万ぐらいは見逃してやる。だから50万で手打ちにしろ」

 

「……テメェは何を言っているんだ?」

 

 オレは携帯を操作し、龍園に動画を添付したメールを飛ばす(因みに連絡先はひより経由で入手している)

 龍園は携帯を操作し動画を開く。そして、表情を固くする。

 

「龍園。お前は絶対に負けないと思っているようだが、見ての通りだ。ーーあるぞ、一之瀬がハメられたという『証拠』が」

 

「綾小路、テメェ……!」

 

 動画から再生される、雑音が混じっている声。

 2人の男女のやり取り。

 

『りゅ、龍園くん、ほ、本当にやるの……?』

 

『既に言ったはずだ、木下。さっさと足を出せ」

 

『わ、分かった。…………っ、ッッッ~~~~!!?』

 

 龍園の声と、最後に聞こえる痛みを必死に噛み殺す声。

 

「その後はお前も知っての通り、大(・)怪(・)我(・)を(・)負(・)っ(・)た(・)木下は、動画の通り足を引きずりながら保険室に向かって行った。その前までの動画では足を痛がるフ(・)リ(・)をしていただけで、重心のズレもなく普通に歩いていたはずなのにな」

 

 証拠がないから龍園は一之瀬に対して強気な脅迫を行えた。

 なら、証拠があれば? 龍園の脅迫は当然通用しなくなり、立場が一転する。

 

「先に言っておくが、これは見(・)返(・)り(・)だ。お前がオレの見(・)返(・)り(・)を受け取らず、一之瀬に100万、あるいは訴えを起こすなら、この動画(証拠)を一之瀬に渡す。そうなったら7月の冤罪事件と違って今度はお前も逃げられないぞ」

 

 龍園が一之瀬から100万を奪い取った後で、動画(証拠)を一之瀬に渡したらどうなるか。あるいは、訴えを起こし審議が行われている最中なら? 

 この動画(証拠)がある状態で一之瀬との信用勝負を行い、果たして龍園の勝率は幾ばくか。

 退学になるかは分からないが、重たいペナルティが科せられるのは間違いない。体育祭にも関係しているので、恐らくクラスポイントにも影響を及ぼすだろう。

 今の龍園の立場でそれを喰らえば、致命的な一撃になる。 

 

「いつだ……いつからだ……!」

 

 漠然とした問いだ。

 怒りをオレに向けて来てるが、内心で驚き焦りが伝わって来る。

 

「そんなに難しく考えることはない。一之瀬との木下の意図的な接触事故を見て、お前ならや(・)る(・)と思ったから見張ってただけだ」

 

 オレが真澄に頼んだこと。

 それは教室から2人分の携帯を取って来てもらい、龍園と木下を見張りながら動画を撮ってもらうことだ。

 とはいえ、真澄が動画を取る前に龍園が直ぐにでも行動していたら間に合わなかったので若干の運もあった。ただ、龍園も木下を怪我させるのには人目を気にする必要があるし、間違ってもテントの下で行われることはない。それに、少しは真実味を増やす演出として二人三脚ぐらいは出る素振りは見せるだろう。

 

 実際に実行されたのは二人三脚の次。騎馬戦の女子の試合中だった。

 龍園はリタイアしている木下を連れ出し、人目に付かない教室の中で行った。

 怪我をする前、怪我をした後。この動画も音声も、同じく女子の騎馬戦に補欠として出ていない『協力者』が入手してくれたものだ。

 因みに携帯は有栖に預かってもらい、隙間の時間で中身を確認した。

 

「分かったな。50万で満足しておけ。そうすればこの動画(証拠)を一之瀬に渡すことはしないし3カ月後に破棄しよう。必要なら契約書も書いて良い」

 

「綾小路……!」

 

 龍園は憤怒の表情で睨み付けるが、それだけだ。

 無人島試験と同じ。銃口を突きつけているのはオレで、龍園はそれに従うことしか出来ない。

 

「龍園。前に言ったはずだ。もっと成長しろと。姑息な手、卑怯な手、時には犯罪行為。普通の人なら忌避するような戦略をお前は平然と取ることが出来る。それは確かにお前の強みではあるが、逆に言えばそ(・)れ(・)しかない」

 

「あぁ?」

 

「どんな強力な武器だろうと、そ(・)れ(・)しかないと分かっていれば対策は難しくない。カウンターだって狙っていける。そうなれば、お前の取る戦略は大きなリスクばかりを負うただの『ゴミ』だ」

 

 屈辱に塗れる龍園を見ながらオレは告げる。

 

「武器を増やせ。もっと上手く成長しろ。そうしないとオレはおろか、鈴音にも抜き去られてそのまま歴然とした差が開くことになるぞ」

 

 オレは龍園に背中を向けて出口に向かって歩き出す。

 

 半々の確率で仕掛けてくるとは思ったが、流石に何もしてこなかったか。

 オレは真澄から借りていた携帯。死角に隠して置いた録画中の携帯を回収してから、Aクラスの教室へと向かった。

 

 

 クラス全員での打ち上げはこれが初めて。

 どんな感じになるか楽しみである。

 




◇綾小路清隆。
・もしも龍園が見(・)返(・)り(・)を受け取らなかったら、一之瀬に100万以上のポイントで動画(証拠)を売りつけていた。 
・もしも最後に龍園が暴力、あるいは携帯を破壊しようとしてきたら、録画していた真澄の携帯を使い逆に脅し返していた。多分100万ポイントくらい請求していた。
 原作と違い別に裏に潜んでいるわけでもないので、自分に有利に働くなら普通に訴えを起こしたりする。

◇一之瀬帆波。
・50万でも高いが、それでも100万よりはマシなので支払った。
BクラスがCクラスに落ち、リーダーとして責任を強く感じている(メンタルダメージ)

◇龍園翔
・敵に塩を送られているという行為に激しい屈辱を感じている。
 綾小路が去った後で特別棟の壁に拳を打ち付けた。




*アンケートありがとうございます。
 椎名に負けないくらい櫛田の人気が凄くて驚いてます。そして堀北さん低い……。

もっと登場して絡んで欲しいと思うキャラは?(参考程度に)

  • 椎名ひより
  • 坂柳有栖
  • 神室真澄
  • 堀北鈴音
  • 櫛田桔梗
  • 山村美紀
  • 森下藍
  • その他
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