子供の何気ない言葉で、
自分が子供の頃に親に言った言葉を思い出す。
そう言う体験をしました。

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継承される朝の風景

「朝ご飯出来たよー」

出勤前、朝の支度を終えた私は急いで子供達の朝食を準備する。

準備、と言っても、皿の上に、パン、トマト、チーズなどを載せて

出すだけの簡単なお仕事だ。

それでも、プチトマトを喉に詰まらせぬ様半分に切られているか、

動物性タンパク質はあるか、

発酵食品もちゃんと添えられているか等々、

妻からの細かいチェックがある。

それだけではない。

パイナップルが入っているか、

量が多過ぎないか、

嫌いな物は入っていないか等、

子供達からのチェックもあり、なかなか気を遣うのだ。

それら多くのチェック項目と、審査官の目をクリアした上で、

冷蔵庫の食材の状況や子供達の好きな食べ物の有無で、

多少は皿の上に載せるラインナップを変えている。

子供達を飽きさせない為の工夫でもあるのだが、

美味しいものを子供達にも食べて貰いたい親心でも

あるのだ。

 

しかし、子供達も小学生を過ぎた辺りから、

この朝ご飯を小馬鹿にする様になってきた。

まあ、朝食というより父親である私を馬鹿にし出すと

言った方が良いかもしれない。

私が、

「朝ご飯、出来たよー」

と言うと、

「出来たってお皿に載せただけやん!」

といちいち否定してくる。

私は悲しい気持ちになりながらも、

それだけではない、何か心に引っ掛かる物を感じる。

「なんだろう、この感覚は…」

そう思いながらも、その時はそのまま思い出せずにいた。

 

それから何日か後の事、

その時は「お母さんは頑張っている」

という話を子供達としていた。

母への感謝の気持ちを意識するのは良い傾向だと私も

「お仕事もしながら、君らの習い事の送迎までしている」

「みんなの為に旅行の準備とか全部やってるんだよ」

等と、子供達のお母さんへの感謝の気持ちを後押ししていた。

子供達も、

「洗濯物してくれる」

「宿題見てくれる」

と良い感じで母への感謝を具体化出来ていた。

 

その時、子供達から

「毎日ご飯を作ってくれる」

と言う意見が飛び出してきた。

その意見に、以前の「お皿に載せてるだけ」の一件を思い出し、

よせば良いのに、

「あ、でもお父さんも毎朝君らの朝ご飯作ってるで」

と便乗してしまう。

するとやはり以前と同じく、

「いやいやあんなん載せてるだけやん。誰でも出来るわ」

と辛辣な返事が返ってきた。

その時、俺は悲しい気持ちになったが、同時に、

以前、心に引っかかっていた物の正体を思い出したのだった。

 

それは遠い記憶、

記憶の中で子供の頃の俺は朝ご飯を食べている。

あまりお腹が空いていないのか、急いでいるのか

分からないのか、トーストの耳の部分を残したまま、

「ご馳走様」

と言っている。

するとそれを見た母が、

「せっかく作ったんだから、ちゃんと食べちゃって」

と子供の俺を嗜める。

生意気盛りの私は、

「作ったって、焼いただけやん」

と口答えしている。

すると母の顔は少し陰り、悲しさを含んだ表情になってしまう。

その罪悪感を拭いたいのか、

自分の言っていることは正しいと言う気持ちからか、

「そんなん誰でも出来るわ」

と口にしてしまうのであった。

 

自分の子供達の言葉により、

自分が子供の頃のこの記憶が一気に呼び覚まされる。

今になって分かる。

あの時の母の気持ち…、母の悲しみ。

自分の言葉で母を傷つけていたと言う事実に、

自分が親になって気付かされる。

「因果応報」

その言葉が真っ先に浮かんだ。

自分が親にした事がそのまま自分に返ってきただけだ。

当時の自分の愚かさと母への言葉を後悔して、

ギュッと心が締め付けられる気がした。

ふと、目の前の子供達に目がいく。

この子達も将来、子供を持った時、

同じ様な体験をするのだろうか?

その時、子供達は自分の言葉の残酷さに気付くだろう。

その予想に少し安心する。

大人になれば気付く。

そうであるならば、まあ良いか。

肩の荷が少し軽くなる感覚。

その時、後悔し、成長して、少しだけ子供達は優しくなれるだろう。

その予想に嬉しさすら感じる。

 

しかし、そこで気が付く。

私と母は違う。

母は心無い私の言葉で傷ついたのだ。

だが、私は子供の頃の俺自身の愚かな振る舞いで母を傷つけた事に

胸を締め付けられたのだ。

全然違う。

私が伝えるべきは、

私が母を傷つけ、それを後悔していると言う事。

だから、将来、子供達が自分の子供の言葉に悲しみを感じた時、

私の悲しみより、因果応報と納得をせざるを得なかった

私の業にこそ注目して欲しい。

そして、なんとかこの悲しみの連鎖を、

継承されてしまった朝の風景を終わりにして欲しい。

そう切に願うのであった。


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