繋がる虚ろな人格戦争(セブンスヘイブン) および 神をも断ち切る白黒の剣(デュランダル)   作:茶鹿秀太

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人格を持った悪いやつら

「荒くれ者の1人討伐で配食3日分、大物1人で10日分。医薬品の回復エナドリセット、冬を越す燃料。ウチは3人家族で大喰らいの姉が1人。10日分の食料は最速で2日で消える。はぁ……。足りないよなぁ」

 

 

 

俺ことアラタ・ムラサメは悩んでいた。

 

 

 

野山の茂みに姿を隠しながら、燦々と降り注ぐ太陽の熱を浴びて、汗をぬぐい、捕らぬ狸の皮算用をしていたのである。

 

 

 

『夢がないよねぇ。だったらアラタ1人でやらずにチーム3人でかかっていけばいいじゃないか。追い込み漁なんかして怪我をする方が問題だろうに。今回の手配書は情報少な目だし、しいて言うなら、植物をうねうね使う技があることしかわからないし、絶対そっちの方がいい。私もそういう時期はあったけどね、自立したい気持ちって社会に出てから大事だからさ』

 

 

 

「うっさいなぁパト姉。ただ俺は今気分良いぜ。確かに飯も無ければ夢もない。でも見てくれよ」

 

 

 

『んー?』

 

 

 

俺は茂みの中から指を差した。

 

 

 

刺した先には、そう、括り罠だ。

 

 

 

樹木を支柱にしてワイヤーを括りつけ、板を踏んだら圧縮されたバネがはじけ、ワイヤーが足に強く絡みつくという寸法だ。

 

 

 

『イノシシでも捕まえるのかい?』

 

 

 

「違ぇよ、まずこれで犯罪者の足を括る。その後は砂で目つぶし、スタンガンで電気を首から流して泡を吹いたところで手錠を付ける。そして財布を抜き取りお金を幾分か寄付してもらった上で街のギルドに引き渡してさらに報酬を手に入れる。ついでに寄付してもらった金目の物を闇市に売りさばく! 犯罪をするバカが金を生むバカの錬金術だすげぇだろ!」

 

 

 

『ひ、人でなしぃいいい!』

 

 

 

耳元できんきんと響く高い声。ヘヴィメタのシャウトほどのツッコミの音圧。

 

 

 

しかし、この森は依然として静かなままだった。当たり前だ。何せこの声は、自分の頭の中でしか聞こえないのだから。

 

 

 

『ダメだよアラタっ! 相手は人なんだぞ! 確かにその人は罪を犯したのかもしれない。でも捕まえた後に更生して、世の為人のために働くかもしれないじゃないか。私は人間性ってやつを信じている。そう、見てごらん。あの青々とした空を。あれくらい心の広い対応を、ううわっ、森のせいで見えないやなんて狭い空。君の心そのものじゃないか』

 

 

 

「黙りなぁ~! ……へっ。悪かったな。親父と馬鹿姉と違って不出来なもんで。こんな準備しなくても、親父がいれば……もう話終わってるかもしれないしな。所詮独断のサブプランだよ」

 

 

 

『まったく……』

 

 

 

彼女は俺の目の前に現れた。

 

 

 

半透明で、自分にしか見えない彼女は、俺を睨みつけるように鼻先がくっつくほど近づいていた。

 

 

 

蒼くて真っ直ぐな目。十九かニ十歳程度の見た目で、スレンダーな体でフリルの多い戦闘衣装を纏っている。

 

 

 

腰まで伸びているハーフツインの金髪を揺らし、腰に付けたコルセットから、六本の鎖が宙に浮いてゆらゆらと揺れていた。

 

 

 

『君ねぇ、家族と違うことをやろうとし過ぎてキャラ付けに必死になっていないかい? いい家族じゃないか! 素直で勇敢で、何より元気いっぱいだ!』

 

 

 

「そうだな。強すぎる攻撃で環境破壊や被害を増やして修繕の補填で報酬が減額されなければ最高だぜ」

 

 

 

『うっ! うぅ……。そうなんだよねぇ……』

 

 

 

括り罠に向かって歩き、足でつんつんと板に触れる彼女。

 

 

 

名前はパトリシア・デュー。俺のもう一つの人格だ。

 

 

 

いつからか、いつでも俺の頭の中を騒がしくさせる喧しい姉を自称する不審者だった。

 

 

 

肉体の同居人、と言った方が聞こえは良いだろうか。

 

 

 

正直プライバシーもへったくれもあったもんじゃない。だが、今となってはそれも普通だ。

 

 

 

『こんなのに引っ掛かるとは思えないけど……、あ。アラタ。誰かが走ってくる。おそらく狙っている大物だよ』

 

 

 

「っ」

 

 

 

パト姉の声に引き戻される意識。息をひそめ、地面と一体になる様に伏せ、獲物がかかるまで待つ。

 

 

 

ガサガサと茂みを踏み分けながら、荒れた呼吸で走る男がやってきた。

 

 

 

汗をまき散らしながら走る中年の男。

 

 

 

必死に、何かから逃げているようだった。

 

 

 

「畜生、ついてねぇ、クソ、お前が走れよ速いんだから!! 目立つとかもうこの際どうでもいいだろ!」

 

 

 

 

 

 

 

『来たっ! 独り言が激しい。間違いなく人格持ちだね。あの様子だと、ウチの家族に追い込まれた犯罪者って感じ。でもあんな括り罠、人間が引っ掛かると思わないけど。人間舐めすぎじゃない?』

 

 

 

姉? の声を無視して、相手の声を聞く。誰かと会話している。

 

 

 

しかし足音は1人分、来た、人格犯罪者だっ! 大物だ!

 

 

 

ツいている、帰ったらエナドリを2本買っても許されるに違いない!

 

 

 

ついに中年の男が視界に入る。

 

 

 

「ぜぇ、ぜぇ……? なんだこのクソみたいな罠っ! 寝ぼけたタヌキでも引っ掛からねぇぞ!」

 

 

 

男は罠を避けるように茂みの中に入った。

 

 

 

『あっちゃー。言わんこっちゃない!』

 

 

 

俺は自分の口角が上がっていくのを感じる。掛かったっ!

 

 

 

「あぁ面倒く、ぎっぴゅいっ、ぎゃああああああああああああ痛っっっっっっっっっっったぁああああああっ!? ま、マキビシに、有刺鉄線!? し、仕込まれ、ぐわっ危な」

 

 

 

男は体勢を崩し、地面に手をついた。

 

 

 

直後、板に触れたことでバネがはじけ男の右手にワイヤーが強固に巻き付く。

 

 

 

「よっしゃああ! 露骨な罠を躱した先にえぐい罠作戦大成功だぜっ! ちなみにその有刺鉄線は結構錆びついてるから病院で治療コース待ったなしだ! 破傷風ってやつだぜ! おっと下手にその辺の川で洗ったら寄生虫と戯れる羽目になるかもなぁ! この世からグッバイ宣言したくなかったら大人しくしなぁ!!!!」

 

 

 

『サイテエエエエエエエエエエ!?』

 

 

 

なんとでも言うがいい脳内女め。

 

 

 

これぞ策略というものだ。

 

 

 

どんだけ優秀な相手でも地味に嫌なことをし続ければ勝てるのだ。

 

 

 

そうだ、俺は強い力が無くても、大物を捕まえられ ……。

 

 

 

「お、おい! 変われ! 無理だ! 俺じゃどうしようもない! ワイヤー斬れ! 良いから早くっうぐ、ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

 

 

 

突如、男の顔が変形していく。

 

 

 

肉体も、精神も。ぐんぐんと伸びる髪の毛。そして、体毛。

 

 

 

獣のようにぎらついた瞳、肉食獣のような犬歯、突如、大柄な、筋骨隆々のライオンのような顔をした男が、伸びた爪でワイヤーを断ち切った。

 

 

 

「grrrrrrr! ふざけよって! 足を負傷しているのに速く走れると思ったか、ワイヤー程度お前が何とかしろ軟弱者がぁっ!」

 

 

 

「嘘だろおい!?」

 

 

 

シャツがはちきれ、筋骨隆々のライオン顔の人間が、涎をダラダラと流し、ナイフの様に鋭い瞳をこちらに向けてきた。

 

 

 

いや、ナイフではない。

 

 

 

もっと野性的で、粗野で鋭利な……ノコギリの刃のような瞳で。

 

 

 

『あちゃー。ワイヤー斬れるタイプの人格かぁ。明らかに身体特化で爪が鋭利ときたもんだ。ほら移動移動っ! そのままタイマンでも挑むかい?』

 

 

 

「無茶言うなっ!?」

 

 

 

すぐさま俺は森の奥に逃げようとする。

 

 

 

奥にまで行けば対策のとれた武器を持ってこられるのだ。

 

 

 

たった今手持ちにある武器は、さっきの中年男の能力を対策したものだけ。

 

 

 

さすがに今の装備ではライオン顔の人格の相手は無理だ!

 

 

 

「貴様ぁああっ! 俺様に罠を仕掛けておいて生きて帰れると思うなよっ! 野郎ぶっ殺してやる!」

 

 

 

「くそ、さっきまでただの中年だったくせに、ライオン顔になってからフィジカル強そうなのやめろ!」

 

 

 

やばい、相手は四肢を地面に触れ、それこそ疾風の如き獅子の動きで俺の背後に詰め寄ってきた!

 

 

 

これは、本気でやばい。爪が、背中をなぞろうとーー。

 

 

 

ガキンッッッ!!!!

 

 

 

金属同士をぶつけたような音が響く。

 

 

 

地面に飛び込むように倒れた俺は、音の鳴った方向に急ぎ首を回した。

 

 

 

「い、痛ぁあああああああ~~~~~~~~。ちょ、ちょっとアラタ! アンタ私がいなかったら死んでたわよ!」

 

 

 

「ロラ姉っ! ……くっ、お前かよ!」

 

 

 

「……ふん。安心しなさい独断専行馬鹿弟! 私が助けに来たわよ!」

 

 

 

頭を押さえながら、姉は俺に微笑みかける。

 

 

 

痛みで唸っているが傷一つついていなさそうだ。

 

 

 

ーーぱっと見は幼い少女のような体型で、白髪と黒髪を半分に割って、ツインテールにしている彼女こそが、俺の姉。ローランだ。

 

 

 

「grrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr あああああああああああああああっ!? お、俺様の爪が、爪がぁあああああ!?!?」

 

 

 

ライオン顔の男の爪が砕け、指も折れていることが気になった。

 

 

 

白黒髪の少女が、俺の前に立ち、仁王立ちする。

 

 

 

彼女のことは、よく知っている。彼女の体は、ダイヤモンドより硬い。

 

 

 

だから敵を無傷で倒す天才だった。その強さもよく分かっている。

 

 

 

その強さに、いつも心がどうしてかざわついたのだから。

 

 

 

「ふんっ! やっと追いついたわね。ライオンの方はボコボコにしたのにま~~だ懲りずににゃんにゃん鳴いていたの! もう一回そのヒゲ引きちぎってやるわ! アラタ! アンタ弱いんだからもうちょっと私の近くにいなさい!」

 

 

 

「ひっ、お、鬼、悪魔……た、助け、う、うわあああああああああああああああああああああああああああああ嫌だあああああああああ、変われっ、変われ変われ変われ変われえええええええええええええええええ!!!!ぐわあああああああああああああああああああ」

 

 

 

「あ、こら! 変わるな!」

 

 

 

ライオン顔の男が再びボコボコと体が変わっていく。

 

 

 

千切れたシャツが宙を舞い、姉の視界を覆った。

 

 

 

「うわ何も見えない」

 

 

 

「馬鹿っ! 早く前見ろ!」

 

 

 

「いやでも、なんかシャツ程度でテンパるのも恥ずかしいし……うわネコ科の毛めっちゃついてぶぇええええっくしっ!」

 

 

 

「汚ぇくしゃみだなぁおい!!! そうじゃなくて報酬! じゃない大物が!」

 

 

 

『君も大概だねぇ!?』

 

 

 

俺は急ぎ立ち上がって、ライオンから中年に変化した男に向かって走る。

 

 

 

「ち、畜生っ!! 舐めるんじゃねぇ!! 精霊よ!」

 

 

 

男は地面に手を置いた。すると突如地面が輝き、魔法陣が浮かび上がる。

 

 

 

それに呼応して、近くの植物や木の根が地面から伸び始めて俺とローランを襲い掛かるっ!

 

 

 

「はっ! それはちゃんと対策済みだぜ!」

 

 

 

装備していた缶スプレーを使った簡易型の火炎放射器で植物を焙る。

 

 

 

植物は火を避けるようにくねくねとその身をよじった。

 

 

 

「手配書に書いてあったぜ! 植物自身が意思を持っているようだったってな! なら火を使う選択肢は用意するってもんよ! 追撃だ、いくぜロラ姉! ……。…………。………………? ロラ姉?」

 

 

 

「いやああああああああああああ! めっちゃ絡みついて、しつこ、いやあああああああああああああああああああああああ」

 

 

 

ロラ姉はすでにあられもない格好になり、植物や木の根が絶えず巻き付いて逃げられないようだった。そのまま宙に吊られぶんぶんと振り回されていた。

 

 

 

どうやら根を剥がしても剥がしても数が多すぎて対応できていないようだ……。まさか、これが原因でロラ姉はこいつを逃がしたのではなかろうか。中年の男がにやりと笑った。

 

 

 

「へへ、ざまぁねぇぜ。あばよ!」

 

 

 

『アラタっ! 犯人が逃げるよ!』

 

 

 

「配食っっっ!!!」

 

 

 

『反応が現金すぎるっ!』

 

 

 

しかし、植物も絶え間なくこちらを狙う動きを繰り返し、対応に遅れてしまう。

 

 

 

火炎放射器も長く持たない。このままでは逃げ切られてしまう。

 

 

 

頭の中で逃走ルートを計算し、作戦を切り替えようとしたその瞬間だった。

 

 

 

宙を飛ぶ、何かがいた。

 

 

 

それは全身が黒のスーツで、黒い帽子とマントを羽織り、こちらに向かってエネルギーを溜めていた。

 

 

 

表情を見ることは叶わない。フルフェイスの仮面が、黒々と太陽光に反射している。

 

 

 

「アラタあああああ! 助けに来たよお! 行くぞ犯罪者っ! 我が正義と共に潰えよっ! 獄炎踏破(インフェルノシュート)起動ッッ! 灰燼と化せ!」

 

 

 

【認証:SKAR RED。申請:獄炎踏破(インフェルノシュート)

 

 

 

全身スーツに着用しているベルトから音声が流れる。

 

 

 

黒のスーツが紅蓮のように燃え盛る赤に染まり、音声が響くと同時に宙に浮く彼の右足にエネルギーが収束され、膨大な熱量が込められていく。

 

 

 

そう。――この森を燃やし尽くせるレベルのエネルギーが。

 

 

 

「ぎゃあああああああああああっっ! 親父やめろっ! やめてくれっ! ほん、本当にやめ、やめろおおおおおおおおおおおおおっ!! 森が、森が滅ぶぞぉ!!」

 

 

 

「え、あ、……あっやっば、あ、あ、ごめん。もう」

 

 

 

「待ってとま、止まれえ、止まってくれええええええ! こんんのくそ親っ、マジ止め、止めろクソ親父ぇええええええええええええ!!!!!」

 

 

 

【承認:発動(ファイア)

 

 

 

「ごめん……」

 

 

 

「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スーツを着た男、ヒイロ・ムラサメから放たれた必殺技によって、無事犯人は倒された。

 

 

 

収益は配食10日分から、森林破壊による補填、ついでにロラ姉がライオン顔を捕まえようとした時にかなり暴れたらしく修繕費が発生。

 

 

 

バウンティハンター保険を適用した。結果。

 

 

 

配食2日分、回復ドリンク5本の収益を手に入れることが出来た。くそったれぇ~。

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