繋がる虚ろな人格戦争(セブンスヘイブン) および 神をも断ち切る白黒の剣(デュランダル)   作:茶鹿秀太

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愛すべきくそったれな家族1

「俺はこんな街、絶対に出てってやる」

 

 

 

箱庭のように外壁に閉ざされた街、オーギュスタ。

 

 

 

この街に設置されている公園の隅。

 

 

 

屈伸や伸脚、上体逸らしなどの準備運動をしながら愚痴をこぼしていると、すぐ近くに俺のことを呆れた表情で見つめる半透明な人間がいた。

 

 

 

俺にとっての2つ目の人格、彼女の名前はパトリシア・デューと言った。

 

 

 

『またその話……? アラタ、自分探しの旅なんて出ても、自分なんて見つからないんだよ。外の世界に出たら、自分のことよりも先に命の限界ってやつが見つかるだけだよ』

 

 

 

「しゃ~~ら~~~っぷ。俺はな、限界なんだよ。ギルドから依頼を受けるたびに信用は減っていく。しかも戦いの才能が評価されるときは必ずロラ姉か親父だ。俺はいつも、金魚のフン扱いだよ畜生!」

 

 

 

芝生に寝転がる様に倒れ、そのまま柔軟運動に切り替えていく。

 

 

 

柔軟を制する者が割と強いというのが、パトリシア・デュー、通称パト姉の言い分だからだ。

 

 

 

『まぁ確かにどれだけ頑張っても話題も被害も全部二人が持っていっちゃうからね。モチベは上がらないかも……』

 

 

 

「だろぉ? 燻って終わるくらいなら、何でもいいからこんなイカれた街を抜け出して、旅に出たいんだよ。パト姉もそう思わないか?」

 

 

 

柔軟を終え、立ち上がった俺はおもむろにベンチに置いていた小型のラジオを起動した。

 

 

 

ノイズが混ざりながら、音声が聞こえてくる。

 

 

 

その音に引き寄せられるように、周囲の人間が近づいてくる気配を感じた。

 

 

 

〈というわけで、今日のゲストは崩壊事象学者のガストロノーフさんにお越しいただいています。本日は世界についての考察が進んだということでお話を聞かせていただければと思うのですが〉

 

 

 

〈えぇ、そうですね。まず事のあらましとしては15年前、私たちの住む世界が滅んでしまったというところからでしょうか。世界が滅んだ理由は様々ですが、不思議な現象が発生したことは皆さんの記憶に新しいでしょう〉

 

 

 

「よし。パト姉、勝負しようぜ! 俺今日は勝てる気がするんだよなぁ!」

 

 

 

『はいはい、元気がよろしいこと』

 

 

 

パト姉は腰のコルセットについている6本の鎖を、浮かせ、鞭のように振った。

 

 

 

地面に叩きつけても土煙はたたない。彼女は俺にしか見えないからだ。

 

 

 

『まずレベル3からね!』

 

 

 

鎖がまず2本飛んでくるのを、地面を転がったり、宙に浮いて回避しながらパト姉に接近していく。

 

 

 

これくらいならいつもの特訓の範疇だ。

 

 

 

〈まず、人間や動植物、生きているものに定義されている存在のすべてに、「新しい肉体と人格」が生まれたのです。肉体の中に新しい人格が生まれ、人格を入れ替えると肉体ごと入れ替わってしまうという現象が発生しました。これによって最初に影響を受けたのは畜産業です。食品用の動物を屠殺すると、新しい人格の動物が現れ、凶暴化し作業員を襲いました。噂によれば、家畜のニワトリが死亡した際、巨大化し瞳を見ると石化させてくるコカトリスと呼ばれる生命体に変化したとか。その後討伐しても――〉

 

 

 

「へへっ、レベル3までは……余裕、だぜっ!」

 

 

 

『うんうん、すごいねぇアラタ! やるじゃないか! じゃあ次は……3の次っ! レベル6だ!』

 

 

 

「算数できないんかぁ!?!」

 

 

 

パト姉が右側の3つの鎖を、まるで爪のように扱いこちらの体を切り裂こうとする。

 

 

 

鎖の先端は槍の穂先のようになっており、触れた時点で出血は間違いないだろう。

 

 

 

『自由に生きるならやっぱ強くないと! じゃないと死んじゃうよ~! 焦らずとも、君はまだ15歳じゃないか! まだ世界は滅んだばかり。壁の外は普通に治安っていう概念があるかもわからないんだから! いいじゃん、人は守られながら生きるものだよっ!』

 

 

 

「そういうっ、しがらみがぁっ! 嫌なんだよぉっ! 俺はなぁ、もう弱いって言われたくないんだよぉ!」

 

 

 

〈――ということで、無機物は一部を除き原型を留めず破損した状態で発見されました。つまり、生物と同様に、無機物も別の何かと混ざったことで弾け飛び破損。これにより極限のサバイバルが始まる、と思われていました。しかしこの街は違いました。この街を治める聖女、リルリカ様によってこの地域一帯の復興が始まり、人類の生活圏が生まれたのです。それでは本日はリルリカ様含む白灰火教はいかきょうの皆様方が信仰している神様の教えを纏めた聖書を元に、我々はいったい何と混ざってしまったのかという考察をーー〉

 

 

 

「うらぁ!」

 

 

 

俺は必死に猛獣のように襲い来る鎖の群れを躱し、ついにパト姉の懐に入り込むことに成功する。

 

 

 

こぶしを振りかざしてその胴体を叩きつけようとした、が。

 

 

 

『えー! いい感じだね!』

 

 

 

さらっと半身になって躱され、膝を撃ち抜かれるように蹴られた。

 

 

 

まともに食らえば膝から足が反対に曲がっていたことだろう。

 

 

 

……しかし、半透明な彼女の攻撃は、俺の肉体に触れることはなかった。

 

 

 

「ち、ちくしょー! もう一回!」

 

 

 

『うんうん、でもレベル6も対応できるようになってくれて、お姉さん嬉しいよ……。よーし! 今からレベル、32だ!』

 

 

 

「算数できないんかぁ!?!!? ぎゃああああああああ!!?!」

 

 

 

突然6つに増えた鎖が俺の胴体や顔を連続で串刺しにしていく。

 

 

 

思いのほかざっくざくと体を耕されてしまい、動揺と冷や汗と嫌な想像でゴロゴロと俺は地面を転がった。

 

 

 

「おいうるせぇぞ兄ちゃん! ラジオが聞こえねぇって!」

 

 

 

ラジオの音に釣られた街の住人たちが、うようよと公園のベンチに近寄ってくる。

 

 

 

「うるせぇ! 俺の持ってきたラジオだ! これでも外にいたニワトリを退治して手に入れた報酬だぜ! 勝手に触るなよ! 盗んだら俺の人格はコエーぞぉ!」

 

 

 

「げーっ、兄ちゃんニワトリ倒したのかよ。こえーこえー。これだから戦闘系の人格持ちは。ぱっと見じゃ分からねぇなぁ」

 

 

 

『ごめんってぇアラタ。躱せると思ってぇ……』

 

 

 

「許せねぇ~~……」

 

 

 

俺は土を払いながら寄ってきた市民を威圧する。

 

 

 

ラジオなんて高価で希少なもの、かなり難易度の高い依頼をこなさないと手に入らない。

 

 

 

多少言うことを言っておけばこちらの私物に手を出すやつもいないだろう。

 

 

 

ニワトリ退治をしたと言えばもう完璧だ。

 

 

 

アイツは壁外に生息している。

 

 

 

ギルド所属のハンターですら壁外調査の討伐依頼以外でニワトリに近づこうとするやつなんていないし。

 

 

 

……。そうだよな。ニワトリ単独討伐くらいできないと、外には出られないもんな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

へとへとになりながら、ベンチにラジオと一緒に置いていた飲み物の封を開けた。回復エナドリだ。

 

 

 

炭酸が効いてて砂糖の甘みが脳を刺激する。

 

 

 

カフェインという物質が神経をすべて覚醒させるようだった。

 

 

 

これがめちゃくちゃ美味いし、疲労も傷も全部吹っ飛ぶ。

 

 

 

どういう原理で作られているかは分からないが、死ぬほどキマるのだ。

 

 

 

『もう……太るよ? 虫歯にもなっちゃうよ?』

 

 

 

「へへ。悪い悪い。」

 

 

 

「なぁ兄ちゃん、人格と話してんのか?」

 

 

 

ラジオを聞きに来た男が再び話しかけてくる。

 

 

 

「え、あ、あぁ。そうだけど」

 

 

 

「ふーん。珍しいな。そんなに言い合いしてたら「おいそのドリンク美味そうじゃねぇか俺にも寄越せよ!」っとっと悪い。おいいきなり出てくんじゃねぇよ「だぁってよぉ! お前けち臭すぎるから飲めねぇんだろうがよ」ったぁ、わかったわかった」

 

 

 

突然男の右の顔が変形して左側の顔に怒鳴り散らす。

 

 

 

これは人格を持った人間にはありがちな話だ。見慣れた光景である。

 

 

 

「っと悪い悪い。んで話し戻すんだけどよ。お前の人格、相当落ち着いた性格してんのか? 人格と会話してんのに肉体が変化しないなんて」

 

 

 

「……、…………。あぁ、シャイなんだよ、俺の人格は」

 

 

 

そういってパト姉を見る。どこか申し訳なさそうな顔をして、彼女は後ろ手に組んで、小さい声でごめんねと言った。

 

 

 

「? まぁそっちの事情は知らねぇけど。ラジオはあんがとな。面白かったぜ。あと、人格いるなら戦闘訓練中も変わった方がいいぞ。ただ公園でゴロゴロしてるだけに見えちまうからな。不審者だぜ、へへ「飲み物今日買ってこうぜこのガキ飲んでるの見てたらマジ喉が渇いて」わかったから。んじゃなー」

 

 

 

そう言って市民は去っていく。ラジオからは新しい声が聞こえる。

 

 

 

〈はいというわけでここから1時間はこの私っ! スーパーパーソナリティのフラービーがお送りしまぁす! えー前回のラジオではお手紙を募集したんですがなんと紙がそんなに普及していないのかお便り0、ということでね、おいおいと思いながらラジオやってこうと思うんですがねー、えー、いやこの前ね、街を歩いていたらかわいい人が歩いてましてねー、うわーかわいいと思って、遠目から見てたんですよ。嬉しい気持ちでいっぱい! ということで最初のコーナー、教会のうんちく話~ってことで、あのーこの前教会の本部に行った際にね、聞いてきたことを話そうと思うんですが―、えー、メモをね、取っていまして〉

 

 

 

あぁ、無駄口フラービーの時間か。

 

 

 

こいつのラジオは普通につまらなくて、娯楽の少ないこの街でもフラービーの時間になったらあんまり誰も聞かなくなるのだ。

 

 

 

『……ごめんね。どうしても変われないんだ。私は外に出ると弱ってしまうから……』

 

 

 

「……分かってるって」

 

 

 

パト姉、パトリシア・デューはどうやら俺と人格を入れ替えると、外の環境に適応できず体が壊れてしまうらしい。

 

 

 

だから俺がずっと表に出ていて、彼女はずっと後ろに引っ込んでいる。

 

 

 

……親父やロラ姉でさえ、彼女の姿を見たことはない。

 

 

 

すると、俺が幼少期の頃に一度言われた悪口がある。

 

 

 

「本当に人格を持っているの?」と。

 

 

 

俺は、心の中で言い返していた。

 

 

 

「俺の、お姉ちゃんだよ」って。

 

 

 

でも、誰も信じてくれない。それが、パト姉だった。

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