繋がる虚ろな人格戦争(セブンスヘイブン) および 神をも断ち切る白黒の剣(デュランダル)   作:茶鹿秀太

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愛すべきくそったれな家族2

「ちょっとアラタっ! アンタまた家からラジオ持っていったでしょ! 私の推しのラジオ終わっちゃったじゃない!」

 

 

 

公園に向かってズカズカとがに股で歩いてくる淑女が一人。

 

 

 

名前はローラン。……俺の家族のロラ姉だ。

 

 

 

「ロラ姉……、頼むから流石にがに股歩きは外でやめようぜ。俺恥ずかしいよ」

 

 

 

「あ? なんか言った?」

 

 

 

「言っ……けどさ」

 

 

 

「あー?」

 

 

 

「……なんでもないです」

 

 

 

「というか、何よ。生意気に戦闘訓練していましたみたいな土埃。服がきったないわよ。毎回言っているけど、戦闘するときは私とあの優男に任せればいいんだから、アンタはこざかしい頭回してればいいのよ。それでいいじゃない」

 

 

 

ロラ姉こと、ローランは俺の実の姉……ではない。

 

 

 

彼女は俺の父、ヒイロ・ムラサメに拾われて家族になったらしい。

 

 

 

具体的なことは知らないし、本人も憶えていないそうだ。

 

 

 

ただ、二つだけ言えることがある。

 

 

 

彼女は戦闘においては天才と呼ばれている。

 

 

 

強靭な肉体、と言えばいいだろうか。ぱっと見は幼い少女のような体型をしている彼女だが、どこから発揮しているかわからない筋力があり、彼女を攻撃した人間が一様に形容するのは、「岩のように硬かった」というのだ。

 

 

 

現に彼女を傷つけた存在は、今の今までいなかったらしい。あり得ないことだが、目に攻撃を受けても無傷だったとかなんとか。

 

 

そしてもう一つは……。

 

 

 

「ほら、ラジオ返して。あと家に帰るわよ。優男に依頼が届いたんだって。教会が人格持ちの犯罪者を取り締まるらしいわ。好条件依頼をこっちに優先的に回してくれるなんてギルド様々ね。これでまたお肉がいっぱい食べられるわ。そうだアラタ、私ニワトリ食べたいわ。また美味しく焼きなさい。肉は私が持ってきてあげる」

 

 

 

彼女は、もう一人の人格を持っていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人格を持っている人間と、人格を持っていない人間が存在する。理由は様々だが、多くの場合は「人格が死んでしまった」からだ。

 

 

 

人間の命は人格の数ほどある。

 

 

 

例えばとある人間が「アラタ」と「パトリシア・デュー」という人格を持っているとする。

 

 

 

「アラタ」が死んだとき、人格は「パトリシア・デュー」だけになる。

 

 

 

肉体は「アラタ」が死んだとき、理屈は分からないが「パトリシア・デュー」の体になった状態で回復している。

 

 

肉体の謎は誰も解明できていない。

 

 

 

だが、人格を入れ替わることは、存在を丸ごと入れ替わることに近いことは分かっている。

 

 

 

だから、一人の命を終わらせても、人格さえあれば生きているという不思議な状態になるのだ。

 

 

 

……誰かが言った。人格とは、残機である。

 

 

 

ロラ姉のように、人格を失っている人は多く存在する。

 

 

 

それでこそ、波乱の15年をすごした世代ならなおさらだろう。

 

 

 

俺はロラ姉のことを深く聞いていなかったが、おそらく一度彼女は誰かに殺されている可能性がある。

 

 

 

……それは恐ろしいことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「優男、帰ってきたわよ~」

 

 

 

ロラ姉が叫ぶ。

 

 

 

はっと意識を戻す。

 

 

 

周囲を見渡すと、どうやら家に無事帰ってきたようだった。

 

 

 

ぱっと見はただの一軒家。

 

 

 

煉瓦の壁にとんがりとして三角屋根。

 

 

 

扉から離れた壁際についている上げ下げ窓から、リビングが見える至って普通の家だ。

 

 

 

……まぁ、別に、本当の意味で俺たち家族が所有している家、というわけではないのだけれども。

 

 

 

俺も詳しくは知らないが、世界が滅んだあと、様々な無機物が壊れたそうだ。

 

 

 

それには、住宅も含まれる。

 

 

 

すると世界が滅んだ最初の1年目は、家の奪い合いが発生したらしい。

 

 

 

目に見える建物は全て宝物のように見えて、人格を持った危ないやつらが独占しようとしていた。

 

 

 

また、別件だが貨幣という概念が昔あったそうだが、滅んだ世界では共通の貨幣が無く、意味も効果も消失したらしい。

 

 

 

よって現代では物々交換が主流となっている。

 

 

そんなとき、「白灰火教(はいかきょう)」と呼ばれる宗教団体の聖女、リルリカ様が動いたそうだ。

 

 

 

 

 

彼女は手早く宗教の教えを活かして入信させた人間を庇護下に置き、残存する空き住宅の配布、破壊された無機物や土地の整備、物々交換のルール設備、教育や医療機関の設置、この15年で様々な治政を行った。

 

 

 

今この街、オーギュスタのトップは白灰火教(はいかきょう)が担っていて、住民はみんなここの信者だ。

 

 

 

かく言う俺も洗礼を受けているらしい。憶えていないけど。

 

 

 

そして、リルリカ様が生み出した政の一つに、ギルドというものが生まれたのである。

 

 

 

俺たちは、その恩恵にあずかっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お帰り、ローラン、アラタ。まずご飯にする? さっき美味しいパイを作れてね」

 

 

 

優男と呼ばれたヒイロ・ムラサメ……、俺の父は、エプロン姿でほほ笑んだ。

 

 

 

戦闘時は全身黒スーツを身に纏っていた彼だったが、今はよれたワイシャツにジーパン姿だ。

 

 

 

なかなかラフな姿でやってきたものだ。

 

 

 

「なによ、依頼が来たっていうから急いでアラタを呼んできたのよ? ちゃっちゃと話なさい」

 

 

 

「はは……。まぁ、食事は大事だし……あったかいパイが」

 

 

 

「いいから大事な話が先っ!」

 

 

 

「うぅ……わ、分かったよ……」

 

 

 

いつ見ても戦闘時以外は気弱な父だ。

 

 

 

ロラ姉の圧に負けていそいそとリビングのテーブルに座る。

 

 

 

親父と反対側に俺とロラ姉は隣りあわせで座る。いつもの配置だ。

 

 

 

「えーとね、まずギルドから連絡があって。どうもまた人格を使った犯罪があったらしいんだ。街の中で……暴行だね。殴った後に人格を入れ替えて行方をくらませたらしいんだ。今回は殴った相手が教会本部の人だったらしくて、相当おかんむりみたい……」

 

 

 

「うわぁ……」

 

 

 

恐ろしいことになっていた。よりによって教会本部絡みか……。

 

 

 

冷静に考えても、牢屋にぶち込まれるだけでは済まなそうだ。

 

 

 

「んで……その相手を探せばいいってことか?」

 

 

 

俺がそう尋ねると、困った顔をして親父が首を横に振った。

 

 

 

「いや、教会の人間が囲むから、取りこぼさないように見張ってくれって。これで配食30日分」

 

 

 

「え?マジで?」

 

 

 

これは本当に美味しい依頼というやつかもしれない。

 

 

 

教会は時折、親父のツテでかなり美味しい依頼を回してくれることがあるのだ。

 

 

 

……へへ、俺の日ごろの行いが良かったんだろうな。

 

 

 

適当な悪いやつをぶっ飛ばして喰う飯がいっちゃん最高だぜ。

 

 

 

「……その、受けたい?」

 

 

 

……、受けたい?

 

 

 

……、気分が良かったのに、若干イラっとした。

 

 

 

親父の窺うような目で、俺を見てくるのが気に食わなかったのだ。

 

 

 

……俺より強いくせに、弱い人みたいだ。

 

 

 

「……受けたいっていうか、やれよって感じだわ。美味しい依頼なんだし」

 

 

 

棘のある言葉になってしまった。

 

 

 

親父も過敏に反応して、びくりと肩を震わせ、「そうだね、受けよっか」と言った。

 

 

 

……気に入らない。気に食わない。

 

 

 

俺は親父が嫌いだ。強いくせに、こびへつらうような笑顔を浮かべるから。

 

 

 

何でもできるくせに、いつも周りを見渡して動いているのがより苛立たせる。

 

 

 

俺より強いのに、もっと自由気ままにやればいいのに、頭だけは下げるのが上手いこの人が、嫌いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後。

 

 

 

「……外の世界に行ったら、こうやって犯罪者ぶっ倒して飯が食えるのかな」

 

 

 

『無理じゃない? ルールが違うと思うよ。昔みたいに大陸を跨いだ通信機器……まぁラジオのさらにすごいやつがあったわけじゃないし、人類共通の法なんて、今じゃあってないようなものさ』

 

 

 

「大陸?」

 

 

 

パト姉はその言葉を聞いて、ふふんと微笑んで腕を組み、右手の人差し指を宙に向けた。

 

 

 

『そ。大陸。周囲を海に囲まれた、大きな陸地。目に映る全てよりも、もっと遠くに果てがあって、乗り物がないとたどり着けないほど長くて、広い、それが大陸』

 

 

 

「海かぁ。俺見たことないんだよなぁ。大陸ってのもイメージがつかないわ。この街より広いのかな?」

 

 

『広いよぉ。……アラタにも見せてあげたいけど、強くなったらだね』

 

 

 

「……明日にでも見てやるって」

 

 

 

『じゃあ任務に集中しないとね』

 

 

 

俺の意地も、普通に流されてパト姉は正面を見た。

 

 

 

街の大通りでは完全に人通りが規制され、100m ほど離れた距離で、教会の騎士たちがそりゃあもうワチャワチャと騒いでいる。

 

 

 

俺は普通に道の真ん中に座り込んでいて、物見遊山を決め込んでいる。

 

 

 

20人ほどの騎士たちが盾を構えて、人格持ちの暴行犯を制圧しようとしているのだが、暴行犯も暴行犯でけんかが強く、普通に戦えている。

 

 

 

顔がゴリラみたいだ。……ぱっと見で分かる。動物顔のやつは大体筋力がすさまじい。

 

 

 

並のパワーじゃない。

 

 

 

そういうやつを相手にするときは、パワーで挑まず罠にかけた方がいい。

 

 

 

まぁこの前有刺鉄線壊されたけど。

 

 

 

「つっても、何もすることないよなぁ」

 

 

 

「なに一人でくっちゃべってんのよ。暇なら私と話なさい」

 

 

 

隣で手持ち無沙汰に拾った石を蹴って遊んでいたロラ姉が話しかけてくる。

 

 

 

「話すことなんてねぇじゃん……」

 

 

 

「は? 私が退屈で死んだらアンタのせいよ? それでもいいの?」

 

 

 

「いいよ……」

 

 

 

「あー?」

 

 

 

「ごめんって……」

 

 

 

ロラ姉が俺の頭をぐりぐりと拳を作って押し付けてくる。

 

 

 

ギリギリ耐えられる痛みでやってくるあたり、本当に嫌なことをするやつだなと思った。

 

 

 

……。天才で、優秀で、俺より強い、姉。本当に、苦手だ。

 

 

 

「あ、ちょっと。見て見て。騎士が崩れた」

 

 

 

「え?」

 

 

 

『あちゃー。訓練し直しだねあれ』

 

 

 

騎士が2人、地に伏している。

 

 

 

ゴリラ顔のやつに思いっきり殴られたんだろう。

 

 

 

立派そうな盾が凹んでいる。……やらかしやがった。

 

 

 

ゴリラがこっちに来る。

 

 

 

それに合わせてドタドタと重装備の騎士たちがこっちに向かってくる。

 

 

 

まるで人の洪水だ。

 

 

 

「うおおおおお! やめてくれえええ!! 私は紳士なんだ!! 私の人格が悪さをしたのだ!! 話を聞いてくれぇ!!」

 

 

 

ゴリラが叫ぶ。

 

 

 

それに合わせて、どう猛な笑顔のロラ姉が前に出た。

 

 

 

うーわ、機会狙ってたなこの姉。呆れた。喧嘩したすぎだろ。

 

 

 

「仕方ないわよね! 明らかにこっちに来て襲い掛かってるわよね! こりゃあ防衛しなきゃいけないわよねぇ! げへへ、見てなさいアラタ、このゴリラぶっ飛ばしてーーー」

 

 

 

そのときだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すっと、ゴリラとロラ姉の間に、横から人が割り込んできた。

 

 

 

裸の男だ。

 

 

 

それはどこかカクカクと頭部を揺らし、まるで操り人形が歩いているかのような挙動だった。

 

 

 

隠す気のない陰部が、より一層日常に挟み込む異物さを感じさせる。

 

 

 

何より特徴的だったのは……、その目が、口が、穴の開いたような真っ黒に塗りつぶされていたようだった。

 

 

 

 

 

「う、【(うつろ)】だああああああああああああっ!?!?」

 

 

 

騎士の誰かが叫んだ。

 

 

 

その言葉に、脳みそがスパークして、心臓が一気に高鳴る。

 

 

 

思わぬ緊急事態に体が熱くなり、足が脳よりも先にロラ姉に向かって走った。

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