繋がる虚ろな人格戦争(セブンスヘイブン) および 神をも断ち切る白黒の剣(デュランダル)   作:茶鹿秀太

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愛すべきくそったれな家族3

「ロラ姉、【(うつろ)】だっ!! 離れろっ!」

 

 

 

「!? ちっ!!!!」

 

 

 

ロラ姉は、なぜかさらに速度を上げて、真っすぐ走る。向かう先は、ゴリラ顔の男?

 

 

 

「ロラ姉っ!?」

 

 

 

ゴリラ顔の男がまじまじと(うつろ)を観察してしまったことで、動きを止める。

 

 

 

「ひ、ひぃ。え、えあ、え?  ま、まさか(うつろ)……」

 

 

 

「分かったんなら黙って、離れなさいっ!!!!」

 

 

 

「ぎゅえ!?!?!?!?!?」

 

 

 

ロラ姉は速度に任せて跳び上がり、ゴリラ顔に向かってドロップキックを放った。

 

 

 

ゴリラ顔の男は騎士団へ向かって飛んでいったが、……ロラ姉は逃げ遅れた。

 

 

 

「■■■■■■■■」

 

 

(うつろ)が、声を発した。

 

 

 

それと同時に、どす黒い靄と、雷が街に降り注いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人は、もうまともに死ぬことは許されなくなったらしい。

 

 

 

それは人格が残機と呼ばれるのと同じように。

 

 

 

人格持ちが死に、人格(残機)が0になった肉体は、ごく低確率で【(うつろ)】と呼ばれる状態になる。

 

 

 

(うつろ)】は基本、最後に死んだ人間の肉体で活動する。

 

 

 

意識も人格もなく、ただ徘徊する肉体。

 

 

 

それだけではない。

 

 

 

「ぐあああああああああああああああああっ!? 苦しい、痛いっ! 毒だ、毒だぁっ!」

 

 

 

黒い靄を吸った騎士が泣きわめく。

 

 

 

よく見ると皮膚が斑点状に黒く染まっている。……毒、あるいはそれに類する何かが、周囲を取り巻く。

 

 

 

「がああああああっがっがっがっ!?」

 

 

 

突然真上から降り注ぐ雷。彼の鎧はよく電流を通し、脳天から肉体を引き裂くに至った。

 

 

 

どうあがいても、救うことはできない。

 

 

 

(うつろ)】になった人間は死ぬまで、かつての人格が使っていた能力を、無意識にすべて振りまく災害となる。

 

 

 

雷に打たれた騎士が、ミチミチと音を立てて引き裂かれた肉体を元に戻していく。脳みそが戻った瞬間、騎士は絶叫した。

 

 

 

「あぁ、あああ。おい、相棒が死んじまったぁ! ずっと一緒にいたのに!! 俺の人格が死んじまったよぉ!! 助けてくれよぉ!! 死にたくない! あんなっ、死にたくない!」

 

 

 

 

 

 

 

「■■■■■■■■」

 

 

 

よく見ると、【(うつろ)】自身も肉体が真っ黒な斑点模様ができており、放っている雷撃で自身の体を切り裂き焼いていた。

 

 

 

彼に意思はない。

 

 

 

意識もない。ただ無慈悲に、肉体が滅ぶまで全ての能力を、理性なく振りまくだけだ。

 

 

 

 

 

「う、ぁ」

 

 

 

思わず、後ずさりしてしまう。初めて、【(うつろ)】と対峙したからだ。

 

 

 

噂には聞いていた。でも、本当に、こんな街中で出くわすなんて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

騎士たちの盾も機能せず、3人倒れたところで教会の騎士たちが嘆く。

 

 

 

「畜生! 誰だ遺体の処理ミスったやつ! いや、誰だよこんなところで死んだやつは!」

 

 

 

「雷ならアイツだ! ギルドハンターのアンディだ! 第三区画住みの! 赤毛のアンディ! アイツ以外雷の能力者はいないっ!」

 

 

 

「どうやって殺せっていうんだよ! 近づけねぇぞ!」

 

 

 

瞬間、戦場へ足を踏み込んで前に出た少女がいた。

 

 

 

ロラ姉だった。

 

 

 

「私が取り押さえる! アンタたちは遠距離でこいつを殺せる奴用意しなさいっ! あと、別の場所で待機してる優男を呼んでっ!! アラタっ!」

 

 

 

「!?」

 

 

 

俺はロラ姉の声に反応して、そっちを見た。

 

 

 

「アンタは離れて」

 

 

 

その言葉は、どこか温かくて、酷く自分の奥の深いところをえぐられた気がした。

 

 

 

「っ、お、俺だって……っ!!!!」

 

 

 

ぐっと足を前に出そうとする。しかし、正面にパト姉が現れる。

 

 

 

『ダメだよアラタっ! 君が前に出てもあの毒の靄と雷にやられるだけだ! 現状を分析できていないわけじゃないよね! 相性が悪すぎる、一旦引こう! ね!』

 

 

 

「っ、ぅぁっ、ぎっ、があっ、……くそっ……、ぁぁ……、っ、パト姉が、やればいいじゃないか……あの、鎖でっ、ぶっ倒せばいいじゃねぇか! 今こそ力の使い時じゃねぇのかよ! じゃなきゃ、俺が、……ここにいる意味なんてって……っ」

 

 

 

『アラタ……。ごめん、それは……』

 

 

 

力なく、目線をそらすパト姉。

 

 

 

俺が、他の人格持ちみたいに、人格を切り替えて戦えていたら……勝てるのに、勝てたのにっ。

 

 

 

「……なん、で、俺は、俺だけ……っ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オラァどうしたのよ! 小突いただけでビビってんじゃないわよ!」

 

 

 

透けたパト姉の後ろで、ロラ姉が怒鳴り散らしながら【(うつろ)】を殴りつけた。

 

 

 

だが、ダメージが無いように感じる。

 

 

 

まるで、娯楽小説に出てくるゾンビだ。

 

 

 

意思がないから、痛みを感じないから、ずっと暴走し続ける。

 

 

 

そして、ロラ姉は……敵を殺傷する武器を持っていない。

 

 

 

殴れば、いつも依頼が終わっていたから……刃物を持たないことが裏目に出ていた。

 

 

 

しかし、ロラ姉も無敵だ。

 

 

 

雷を打たれても、「痛い」で終わらせて、黒い靄を吸っても「臭い!」で全部済ませている。

 

 

 

武器さえあれば、あんなやつにだって勝てるのに。

 

 

 

……どうすればいいんだよ、俺たち。 その時、雷よりも大きな声が、その場を切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「諸君、待たせた! 私だ。聖剣の騎士がやってきたぞ!」

 

 

 

教会の騎士の鎧をまとうも兜は外し、騎士団長のマントを羽織り、見たことのない剣を持つ黒い髪の人間が1人やってきた。

 

 

 

その剣は、鍔と握りについては正しく西洋剣のそれだった。

 

 

 

しかし剣身が、あまりにも剣のイメージからは離れている。

 

 

 

それは真っ白い長方形の剣身だった。

 

 

 

切っ先がない。まるで途中で折れたのかと思うほどだ。

 

 

 

しかしその刃先と長方形の先端は、まるで漆黒を塗りつぶしたような色で、縁ふちの全てが触れるものすべてが斬れてしまいそうな説得力とオーラがあった。

 

 

 

樋の部分は、黒い十字架がデザインされており、神聖な何かを感じさせる。

 

 

 

 

 

「オルランド団長! オルランド団長だ!」

 

 

 

白灰火(はいか)の英雄オルランド! 我らが聖剣の担い手!」

 

 

 

「神の子オルランド! 勝った! 俺たち助かるんだ!」

 

 

 

騎士団の面々がそう叫ぶと、満足そうな表情で彼は剣を天に掲げた。

 

 

 

「あぁ……、本当に美しい。私のデュランダル……」

 

 

 

瞬間、剣が白く輝く。

 

 

 

そしてその白い光を囲むように、黒く重たい色が、虚空のように空間を軋ませていた。

 

 

 

「刮目せよ、我が聖剣の威光を! 神よ、ご照覧あれ! 起動せよ、デュランダル!」

 

 

 

声が聞こえる。その光輝く聖剣から、声が。

 

 

 

 

 

【デュランダル、適合率99%。所有者:オルランド】

 

 

 

 

 

 

 

「これが、世界を断ち切る白黒の剣であるっ!!!!!!!」

 

 

 

そう言って、彼は巨大な光を【(うつろ)】に振りかざした。その直線上に、……俺はいた。

 

 

 

 

 

 

 

「えっ」

 

 

 

『逃げてっ!!!!!』

 

 

 

俺は、頑張って動こうとして、でも、足が上手く動かなくて。

 

 

 

【【(うつろ)】が先に光に呑まれて、あ、やば、死――――。

 

 

 

「オラァ!!!!」

 

 

 

「ぎゃふっ!?!?!?!」

 

 

 

横から、ロラ姉がラリアットをかましてきた。

 

 

 

飛びそうになった意識をかき集めて憶えていたのは、黒い色が地面に触れた瞬間、まるでケーキみたいに地面が斬れていったことだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

肩を揺らされて、目が覚めた。

 

 

 

わずかに入った光と一緒に、父のヒイロ・ムラサメがそこにいた。

 

 

 

「アラタっ! 良かった無事だったんだね! た、大変なんだよ! 早く止めないと」

 

 

 

ゴスッ! ゴスッ! バキッ!

 

 

 

大きな音が鳴った。

 

 

 

親父は顔を青ざめて、「お、遅かった……」と声を震わせていた。

 

 

 

いったい何が……。そう思って音の方向に首を向けた。

 

 

 

「がっ、ふ、ふがっ……!?」

 

 

 

そこにいたのは、鼻を押さえて蹲る騎士団長、オルランド。

 

 

 

彼の目線の先には、拳を振りぬいたであろう少女、ローランがいた。……ロラ姉?

 

 

 

「やってくれたわねクソ野郎! 私の弟を認識しながら剣を振り抜いたのは見てたわよ。民間のギルドハンター……、弟に手を出したんだから、復讐されても当然よね?」

 

 

 

「が、ぎ、ぎびは、いっだいだにぼ……」

 

 

 

「あ? 何だって? 聞き取れないんだけど。てか私の弟を殺したんだから賠償しなさいよバイショー。可哀そうな弟。弱いばっかりにこんなクソ野郎に殺されちゃって。騎士団長だか何だか知らないけどアンタが適当な仕事するからこうなるのよ。というか何? このピッカピカ光る割に偉そうな剣。さっきの白い光、なんか気に食わないのよね。何の力よこれ。 ちょっと借りるわよ」

 

 

 

「がふっ!?」

 

 

 

全力で顔を蹴飛ばして、剣を奪い取る姉。

 

 

 

な、なんだ。何が起きているんだ?

 

 

 

え、新たな暴行事件と横暴の極みでも見せられてる?

 

 

 

「アラタ、一緒に止めてくれ! ローランのやつ、アラタが殺されかけたことにキレて、騎士団長をまず不意討ちで顔面に連続で3発入れたんだ! そして今に至る! あれは牢屋ルートだ! 最低でも1年は出てこられなくなるっ!」

 

 

 

「んぼっ、おぉ、おおお?! ろ、ロラ姉ぇええええええやめろおおおおおおおっ!!?」

 

 

 

俺は焦って飛び上がり、全力で声を出した。

 

 

 

「んあ? あーアラタ! 良かった生きてたのね! 安心して、お姉ちゃん復讐するから! アンタの仇、取ってあげる! 見てなさい、この剣使ってさっきの攻撃こいつに向けて撃つから! それでチャラにする予定よ!」

 

 

 

「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 

 

 

俺は悲鳴を上げながら姉を止めようと走り出した。

 

 

 

あかんあの人、天才拗らせて頭おかしい! 頭が、おかしいっ!

 

 

 

「さーって、どうやって光らせるのか……えっ?」

 

 

 

突如、剣から異様なオーラが出てくる。それは重力や重圧に近い、目に見えない迫力のようなものだった。

 

 

 

しかしそれに呼応して、地面が割れ、ごごご、と世界が揺れるような錯覚。

 

 

 

そして、剣から声が聞こえる。

 

 

 

 

 

【デュランダル、適合率100%。所有者:ローラン。新たな所有者に敬意を(Bienvenue mon seigneur)】

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

 

「え?」

 

 

 

俺とロラ姉がすっとんきょうな声を出す。

 

 

 

 

 

「……べ?」

 

 

 

倒れて涙と鼻血をこぼす騎士団長、オルランドが頭を真っ白にさせる。

 

 

 

「……え、やだ。喋るんだけどこの剣」

 

 

 

ポイっと地面に聖剣を捨てる姉。

 

 

 

「ぁ、ぁぁああああああああああ? あおわおあああああ???!!???!!?」

 

 

 

オルランドが大人とは思えない奇妙なうめき声を出す。

 

 

 

それと同時に、周囲にいた騎士団員がこちらに寄ってくる。

 

 

 

「……あの、暴行と窃盗です。聖剣パクっちゃダメです。教会までご同行お願いします」

 

 

 

ロラ姉が目を泳がせながらオルランドに指をさす。

 

 

 

「あ、あれ、あい、あいつが悪くて、その、わ、私も一時のテンションに身を任せただけで、ほっ、ほら、正当防衛、正当防衛じゃない、あ、ほら、剣返したし、返したわよ? だってほら、地面に置いてあるし? は、はー? 私持ってませんけど? 持ってませんけどー?」

 

 

 

「……残念です」

 

 

 

両脇を抱えられ、ロラ姉が連行されていく。

 

 

 

「いやーーーっ! 助けてアラタ! 流石に公権力には逆らえないわ! アラタ―!」

 

 

 

「ロラ姉ぇええええええええっ! 俺は無関係だってちゃんと言ってくれよーっ!」

 

 

 

「この裏切り者ぉおおおおおおおおおおおっ! 絶対許さないんだからぁあああーーっ!」

 

 

 

ロラ姉のことは残念だった。

 

 

 

でも騎士団長を殴ったんだから仕方ないと思う。

 

 

 

うんうんと頷いていると、肩をぽんと叩かれた。

 

 

 

教会の騎士だった。

 

 

 

「えーっと……、あなたも教会までご同行をお願いします」

 

 

 

「え? い、いや、俺なにもしてな……」

 

 

 

「さっきの子が、その、ずっとあなたの名前を出しておりまして。事情を聞きたいなぁと」

 

 

 

「え、あ、え? その、え? ……、に、任意? 任意ですよね? 行かない……選択肢!」

 

 

 

「…………。残念です」

 

 

 

「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 

 

 

『あぁ~あぁ~……?』

 

 

 

パト姉の呆れた声が、俺の脳に響き渡った。こうして、後にこの街で語られる【ローラン聖剣NTR 事件】は、幕を開いたのであった。

 

 

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