アリウスの【救世主】は先生の到着を待っている   作:アリウスは無限に味がする

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みなさん多くの投票ありがとうございます
いまところ大体二強ですね。さてどっちの銃口が向けられるのか。

ですが多分投票も次回投稿したら締め切りかな
そろそろ過去のなれそめではなく本編に入りたくなってきたので

それでは過去改変注意です


錠前サオリ➀/いちまいの絆創膏

 

ここ、アリウスでは何もかもが不足している

長きにわたる戦乱。そしてそれによって齎されたこの荒れ果てた惨状は、人の心を失わせるには簡単なほどに誰も彼もが己の力だけで奪い合う乱世へと成り果てていったことは想像に難しくない。…とはいえスバルから聞いた話によればもう少し上の方に行けばまだマシな生活ができるとかなんとか

 

だが、生憎とそんな上に行けるような伝も縁もどこにも無いみなしごであるシモンとスバルにそれは夢物語のような話で程遠いもの。今日のご飯にさえも満足な保証が無いときにそんな話をすれば鬼が笑うというものだ。

 

しかし悪い事ばかりではない。

シモンとスバルは一緒に居ることを決めたその時から1人ずつが2人になったのだ。それによって単純にできることが増えた。手に入れられる食事が増えたり、食事を探す時間に使えるものが探す時間が出来たり…互いに常に気を張り続ける時間に少しだけ肩を預けて安眠できるようになったりと思ったよりもその恩恵は大きい

 

『あ、これ…持って帰ろう。まだ使えるよ』

 

『そうなの?…じゃあ私が持っておくね』

 

まず精神的な余裕が確保できたのとアリウスでやらなければならない事を理解したシモンは前の知識を活用して捨てられていた使えそうなものを直したり、糸と針を作って布をリメイクしたりと義務教育様様である。食育から軽い手縫いのやり方。そして教養まで教え込む教育とはやはりかけがえのないものだったとこの身体になってつくづく思う。

 

しかもこの世界の特性故か、この年齢で既にシモンよりもスバルの方が力が強いというシモンにとっては悲しい悲劇が発生している。…アリウスが今も銃撃戦や爆破が鳴り止まないのは全てキヴォトスの生徒全員が頭上に宿しているこのヘイローと呼べる不思議な不触物質が自分たちの肉体を守っているからだ

 

銃弾では傷ひとつ付かぬ体に、至近距離で爆発を受けても気絶で済むように

……おそらく劣悪な環境下に置かれても多少気分が悪くなるで済んでいるのはこの頭上のヘイローのお陰ともいえる。とはいえ、ヘイローの耐久力には個人差や年齢差がありヘイローの限界を超えたダメージを負えば死んでしまうのだ。

 

そんな事を考える無為な思考に潜っていたところだった

シモンは気が付けば1人、見知らぬ場所で立っていた。確かにどこも同じような倒壊した家屋が立ち並ぶような場所である事には間違いないがシモンの記憶では間違いなく見覚えのない場所。スバルにはあれほど遠くに行くなと言っておくながら自分はこの様と思えば笑えてくる

 

『だ、誰…?』

 

「!?」

 

しかし、どうしようか。道なんて覚えてるはずがない

まずは落ち着くために程よい高さに置かれている廃材に腰を下ろして黄昏ようとしたその時、背後から聞こえた警戒するかのように揺れている微かな声と人影。だがその人影はひとつではない、複数人がそこにいる

 

「…俺はここに迷い込んだだけだ。すまない、すぐに来た道を戻ろう」

 

「…………本当か?」

 

「ああ。気にするなら銃を渡そう。それでいいか?」

 

いつか、どこかからスバルが見つけてきた拳銃。

中にはたった一発しか装填されていないがそれでも持っていないよりもマシだとスバルから無理矢理押し付けられる形で今も懐に仕舞われているのが唯一シモンの護身である。ある意味お守りみたいなものだが持ってないよりはマシだと言われている

 

「…渡してもらおう」

 

「ああ。地面に置くぞ」

 

置いて一歩、二歩三歩と下がった辺りで声が聞こえていた影から1人の少女がそれもこれまたシモンと同じぐらいの背丈の少女が警戒しながら現れた。黒色のキャップを被った青髪、青目の少女。…そしてあの日であったスバルと同じように薄汚れて頬に傷を作ったままの子どもが決してこちらから視線を外さずに足元の銃を取る

 

「…これだけか?」

 

「ああ。調べるか?」

 

両手を上にあげて抵抗する意思はないという事を見せてはいるが果たして伝わっているのか

少なくとも敵意はないと思われているのだろう。シモンではイマイチ分からない銃の細部を確認して訝しんでいるのに気が付いたのだろう。今のシモンの手持ちはその銃と見つけてきた賞味期限すれすれの缶詰、あとは絆創膏と糸と針ぐらいだ

 

「…ううん。良い」

 

「そうか。…邪魔したな」

 

調べるのかと思えば、どうやら向こうもシモンが偶然ここに迷い込んだことが事実だと気が付いたのだろう。先ほどこの少女が飛び出した影の後ろからもビシビシと警戒していた物陰が今はただその成り行きを見守ろうとふたつの頭が飛び出してこちらを見ている

 

「あ、そうだ」

 

「…?」

 

「これ。使ってくれ、ケガしているだろう」

 

手に取るは持っていた絆創膏。今まででシモンが探してまだ一枚しか見つけたことのない貴重な物資

だけど死蔵するよりはマシだろうと目の前の少女に差し出す。この子の頬にある傷はそう深くはないし、膿んでいるようには見えない。だけどケガはケガだ…小さなキズが思わぬ惨状を引き出すことも無いわけではないのだから

 

「……何が目的だ?」

 

「?ケガしてそうだったから、使ってくれ」

 

「どういうこと?なんのために?」

 

さっきよりも強い警戒のまなざし。さもありなん、とシモンは苦笑する

悲しいし、心が痛むことだがここではそれが当たり前なのだ。奪い合い傷つけあうのが是とするこの場所で身銭を切るような真似をする方が異端なのだ。それこそ恩を売りつけて何か…鉄砲玉の真似事でもさせようとか疑うのは無理もない話だ

 

「なんのためって言われてもな…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………は?」

 

だけど、シモンにとってはその真似は当然のこと

傷ついている子どもを放っておけるほどシモンは人でなしに堕ちるつもりはない。それにもっと分かりやすく言うなら『先生ならそうした』から、シモンも少女のその手に渡す。

 

それに、と少しだけだがシモンは分かるのだ

ここアリウスで誰かといる意味を。誰かを守り続けるその難しさを、そしてその優しさを持ち続けられる気高いモノを目の前の少女から感じ取った。…あの時、シモンがここに迷い込んだ時、いの一番にこの子が飛び出した。今背後で見ている2人を矢面に立たせてもおかしくないここで

 

「それに…良いお姉ちゃんしてる子が、報われないなんて。俺はその方が嫌だ」

 

「……良い、お姉ちゃん。本当に?」

 

「ああ。立派だ、胸を張れ。お前のそれは誇るべきものだ」

 

きっとこの子はとても家族思いだ

そしてその愛は間違いなく後ろの妹二人にも伝わっているのだろう。だって今膝を折った目の前の少女に瞬時に反応してこちらに飛び出そうとしている…名状し難い凄い目で見られるのはちょっと遺憾だが、それでも気強に顔を上げた少女が手で制した

 

「……じゃあな。頑張れよ、お姉ちゃん」

 

「…待って」

 

「?」

 

とはいえこれ以上は無粋だろうとシモンはクールに去るぜとばかりに踵を返す。

今日の収穫は少ないからスバルに文句言われそうだ。でもそんなスバルの顔を思い出せば思い出すほど帰らないとな、という想いが湧きあがってくる。あれほどリアルな夢だと思って、次寝たら前に生きていたベッドの上で目が覚めるのだと逃避した日々が今や遠い思い出のように

 

そうだ。俺はここで美しいものを見た

この現実だって捨てたもんじゃないって思わせるような輝きが、温もりを【先生】が来るまで守り続ける事。多分それこそがこの世界で目を覚ました理由と思えば最高に上等じゃないか。

 

「最後に、名前だけ聞いてもいい?」

 

「安得シモンだ。覚えなくていい」

 

記録は要らない。名前もいらない

けど誰かの記憶に残るような、この子たちが生まれ持ったこの光を守れるような【大人】になる。

スバルだけじゃない。このアリウス全土の輝きを少しでも守れる盾となれるそんな素敵な魔法が手に入れられた素敵じゃないかと思うのだ

 

 

「ううん。忘れないよ、シモン。絶対に会いに行く」

 

 

 

 

──好きである事は間違いないが姫やミサキ、スバルの好きとはちょっと違う

なんてそんな誰に聞かせるか分からない弁解を考えながら足早に私、錠前サオリはとある目的の場所に向かって歩き出す。もはや小走りしているのが自分でもわかる高揚具合だがそれさえも今は気持ちが良い

 

勿論、そんな慌てて向かう先はひとつだけ…そこはシモンが住まう教会

アリウスの中でも特に治安の悪い貧民街と嘯かれるようなそんな倒壊ばかりの廃墟を抜けてたどり着くのがアリウスの中ではお世話にならない人の方が少ないと言われる《教会》を指すのは大聖堂と名高いバシリカではなく、こちらのシモンがいる場所であると言われるぐらいだ

 

それも、そうなのだろう

幾ら頑丈な生徒とは言えケガも負わないし、風邪もひかない様な強い身体を持つ生徒なんてごく稀だ。

銃撃を受ければ痛いし何かの拍子に傷付けば血だって出る。さらに言えばアリウスという地の特徴故か日が差すことも少なくそれだけで精神が滅入ってしまう事もあるし、体調を崩しやすくなっている子も少なくない

 

(…………体調を崩したら、どうなるか)

 

きっと、どうしようもない。なぜなら誰も知らないから

ケガをすれば治るまで放っておく。体調を崩せば横になっておく。それで良くなるまで、ただ耐える…癒えるまでただ、耐え続けるのだ。辛く苦しいと泣きながらも、痛い助けてと言っても誰もその手を掴んでくれる人なんていなかった

 

…そう。シモンが教会を開くまでは

そこに行けば少なくとも傷の手当てをしてくれる。体調を崩しても癒えるまでは冷たくて硬い床ではなく、シーツのベッドの中で寝れるのだ。辛く苦しいと泣けばその手を握ってくれる人が、痛い助けてと言えば絶対に手を掴んでくれる人がいるのだ。それも、一晩中カンテラを片手に寝るその時まで背中を擦り続けてくれる人がいるということ自体、奇跡のようで

 

(……カンテラを掲げし使者、聖人か)

 

実はシモンが使っているカンテラはその昔、サオリとヒヨリが見つけてきてミサキが使えるように直して誕生日祝いとしてシモンにプレゼントしたものだ。あの時はとてもシモンは喜んでくれて今でもそうしてシモンの高潔な、それこそ後輩たちが聖人とも呼ぶような彼の働きの助けになれていることがちょっとした誇りだ

 

ただ、問題はそこなのだ

彼はあまりにもアリウスという地とそこに住まう私たちに博愛と慈愛を滅私献身と共に捧げてきた。なにひとつ報酬を求めることもなく、ただひとつの不満も持たずに彼は私たちに捧げた。捧げすぎた

もはやそれは彼の信奉する救世主ではなく、彼自身に信仰が向いてしまうほどに

 

『よくわからないですけど…シモンお父様が祈ってる奴ですよね?』

 

『けど、そんなものよりシモンお兄ちゃんの方が偉くない?』

 

毎朝の炊き出しに行われる祈り。シモンはその救世主に向かって祈っていてもそこに参加するアリウス生の殆どは()()()()()()()()()()()()()のだ。私たちはそんな名前だけで助けてくれない様なモノじゃなくて今日もご飯を用意して、体調を崩せばば匙を持って食べさせてくれるシモンに感謝と信仰が向いていた

 

……しかし、こればかりはシモンも悪い点がある。

何故ならシモンの崇める【救世主】の顔も名前も姿かたちでさえも私たちは誰も知らないからである。それは勿論、私よりも付き合いが長いスバルにさえも彼はその信仰について語ろうとしなかった

 

分かる事というよりシモンが今まで喋ってきた言葉の全ての中からつなぎ合わせると

その【先生】と言われる救世主はいつかアリウスにやってきて、問題を解決し生徒である私たちを(すべて?)-救ってくれるというもの。

 

(そんな救世主、先生が現れたところで)

 

…正直に言ってシモンがただホラを吹いている可能性の方が高いのではないかとは正直思っているのが殆どだ

誰も口にはしないが姫やミサキは特にこの説を大っぴらに口にしている。そして私も、どちらかといえばそう思っている……だって

 

(今までアリウスを救ってきたのはお前じゃないか、シモン)

 

私たちに温かい食事を用意したのは誰だ?──シモンだ

私たちに休める場所と傷を癒したのは誰だ?──シモンだ

今まで私たちに言葉を尽くしてきてくれたのは誰だ?──シモンだ

 

その行動と私たちの感謝が、祈りが、そして今までの全てが全てシモンにとっては【救世主】のためだけに行っているとでも言うつもりなのか?……ふざけるな。ふざけるなっ!私を、私たちを見ろ。信仰のためじゃなくて、今までの貴方が積み上げたもの全てを!

 

(ああ。分かっている、分かっているとも。シモン)

 

そう。口にできればどれほど満たされるものか

とはいえそんな事が言えるはずもなく、私はいつも通り後ろでシモンが五体投地で祈りを捧げている先のあの顔も無い石像を眺める。…あれはいつかのシモンが削って作ったものだ。辛うじて人間の大人の姿をしていることが分かるぐらいで他には何の特徴も無い胴体と手脚と首が付いている人形ほどの大きさのそれ

 

あの日。シモンは私を姉だと、家族思いの姉だと言った

……ああ、そうだな。私はずっと迷っていた。この道が合っているのか苦しみに倒れるミサキにも、ただ悲願的な言葉を溢すヒヨリのどちらも見ているだけしか出来なかったから。いたずらに苦しみだけが満ちるこの虚しいはずのアリウスに、光を掲げたのが貴方だから

 

(私はお姉ちゃんだ。勿論、シモン。お前の姉でもある)

 

そんな私を肯定してくれた時、どれほどの輝きがまるで温もりのように見えていたのだろうか

きっとそれを貴方は認めることはしないのだろうけど…それでも私はあの日に誓ったのだ。姉である事を、勿論その誓いにはスバルだけではなくシモンもそうだ。それをスバルにいった時、スバルはなんか変な顔していたけど

 

(だから…シモン、お前の信仰が裏切られるその時は……)

 

だから弟のそんな夢みたいな話を私だけが肯定しよう。

ゲヘナもトリニティも、そして【先生】と同じ大人さえも見放したこのアリウスでたったひとり大人が私たちすべてを救ってくれると唱えて私たちに光を、道を照らし続けるシモンの顔が曇らぬように

 

(すべてを撃ち抜いてやる。)

 

力を求めた

ただシモンを曇らせる一切合切を撃ち貫くために

 

 

 

 

 

 

 





サオリ「家族なんだからみんな仲良くな…気持ちは分かるがそんな独占欲むき出しでは嫌われてしまうぞスバル」

スバル「勝手に姉面してシモンを婿には出さないって顔してる卑しい姉モドキの方が絶対ヤバいと思うんですけど」

家族思いの子がその愛を初めて肯定されて嬉しくなっちゃって、肯定してくれた子も自分の家族に弟にしてしまって、絶対婿には出さない!妹とくっついてもらってお姉ちゃんたちとずぅっと一緒に居るというド級のブラコン拗らせた挙句、弟の憧れが妬ましくてもしも出会って弟の憧れと違ったらお姉ちゃんが弟君の夢を守るために憧れを壊すねと背後で銃口を磨いているサオリは好きですか?

まあ選択によってはその銃口を守りたかった弟にして憧れの光にしてたった一つの輝く星を殺すために向くんだけど


感想、評価お待ちしてます

《安得シモン暗殺を》

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