アリウスの【救世主】は先生の到着を待っている   作:アリウスは無限に味がする

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アツコ編と書いておきながら殆どアリウスでの生活纏め的な感じの仕上がりに

みなさん多くの投票ありがとうございます。
この小説投降後、日付が変わると同時に投票を締め切らせていただき話を進めさせていただこうかなと思います。ここまで作者が見てえアリウスの子らとの話にお付き合いいただきありがとうございます

それでは過去改変注意です


秤アツコ➀/あなたに捧げるブーケンリビア

 

シモンがアリウスで目を覚まして数年という時間が過ぎた

とはいえこの数年という歳月は全てシモンの主観によるものだ。日が昇って日が降りるまでを一日とした時、柱に刻んだ傷跡が365回を超えた時シモンもスバルもすっかり大きくなった。一回りも二回りも成長したその体には体力も力も付き、2人はより活動範囲を広げた

 

……ちなみに余談だがシモンとスバルの間にある性差はスバルがシモンを異性だと気が付いていなかったことによる誤解が発生し思わぬ一悶着があったことは当事者であったスバルとシモン、そしてその解決に駆り出されてオロオロするしかなかったサオリだけの秘密である。

 

話を戻すが行動範囲が広がった2人はそれだけでより多くの物資を集められるようになった。

カビが生えたものではなく賞味期限ギリギリの缶詰やレーション。更にはもう一端の戦力として見なされて戦いの場に立つことも少なからずとは言え経験した。だがスバルがアサルトライフルの取り扱いが上手くなる傍らシモンは拳銃さえも当たるかどうかも覚束ない始末

 

こればかりは適性がある故どうしようもないとシモンはスバルの専属サポーターの様に戦いをアシストする二人一組の戦いでなんとか大きなケガもなく戦いの場を切り抜けてきた。しかし戦場に立つ以上、使う使わないは別としてシモンも武器を持つ必要がある。というわけでスバルからシモンへと持たされたのが拳銃にしては装弾数の多いタイプの拳銃だった

 

『はい、シモン。せめてこれぐらいは持ってください。その銘は…そうですね。【アルキオネ】とでも』

 

『アルキオネ…ありがとう。とても素敵な名前だねスバル』

 

『はあ……貴方のそれは今に始まった事ではないですが、せめて私の後ろにいてくださいね。守れないので』

 

アリウスで手に入る銃は全てが無骨なただ敵を刈り取るための刃だ。

そんな中、拳銃の名前に【アルキオネ】という名前を付けたスバルの心理は如何程のモノだったのか…ちなみにだが宙に浮かぶ星々のひとつプレアデス星団、和名を『すばる』という星々の中で最も明るい星をおうし座イータ星、又の名前を『アルキオネ』といった。

 

…その名前の通り、輝ける星は殞落するその時まで彼の手に有ったとはまだ遠い未来の話

 

さて。そんな2人だが、大きくなるにつれて2人だけの世界であり続けると言うのは難しいもので成長と共に関わる人も増えていった。その中でも特に比率として大きくなるのはサオリのグループとの交流…あの日であったサオリとその背後から覗いていたミサキとヒヨリとの出会い

 

『なんか…スバルとミサキって似ているね』

 

『『誰がこの人と似てるって!?』』

 

『……なんか、ごめん』

 

良いお姉ちゃんとして2人を率いながらも守っているサオリ。そんな何処か危なっかしいサオリをフォローするように冷静沈着なミサキ。そしてそんな2人の間を保つムードメーカー的なヒヨリ。ある意味バランスが整っているその3人もシモンにとっては今を必死に生きようと足掻いている素晴らしいモノ

 

シモンを守ろうと力に手を伸ばしたスバル。どこか騙されやすい様なサオリを守るために警戒と思考によって知を鍛え続けるミサキ。この2人はどこかよく似ているとシモンが口にしたその時だった。全力で反発するかのようにハモる声はむしろお約束と言えるほどだ。

 

『今のはシモンが悪いと思うぞ』

 

『シ、シモン兄さんってたまに恐ろしいこと言いますね…』

 

なんて会話もあったぐらいにはふたつのグループは纏まり行動することが多くなった。

仲が悪いというか、どこかズレた返しをするサオリに全力で突っ込んでしまうスバルの2人は会話ではかみ合っているようでかみ合っていないのに戦いの場となれば恐ろしい程、互いの隙を補うように戦うほど相性がよかった。その後ろではミサキとヒヨリが援護しようとするのをシモンがフォローすると言った戦い方が多くなった

 

もちろん手に入れた戦利品の取り分けは全て話し合いだ。

これが欲しいから、それはあげる。そっちはいらないからこれはあげると…被ればスバルとサオリの一騎打ちの話し合いだ。ちなみに勝率は五分五分である…そんな2人の横でシモンは自分が持つ修繕や手縫いの方法をミサキとヒヨリに教え込んでいた。

 

自分で服や物が縫えるようになるとそれだけでもアリウスの中では無駄な消費を抑えられる。

意外にもチクチクと針仕事の方を楽しんでいたのはミサキで、廃棄された物の中から使えそうなものを取り出して直すと言ったものはヒヨリの方が得意だったらしい。

 

『いつか一緒に抱き着けるほど大きいぬいぐるみ、作れると思う?』

 

『えへへ…兄さんに教えてもらったこれで、いつか兄さんが驚くようなものを作ってみるんです!』

 

今はまだ素材も時間も足りないがシモンが横で付きっきりで教えながら作ったストラップ程度の大きさの不揃いなクマのぬいぐるみも、いつか二人が抱き着いても余るぐらい大きくてフワフワのぬいぐるみを作る夢を。

今はまだ素材も場所も足りないがシモンが後ろから手を添えて教えながら解体して作り直した箱の中から飛び出してくるような絡繰りボックスも、いつかわっと驚くような色んな仕掛けがあるモノを作る夢を

 

いつかの希望を胸に抱けるほど、この辛い現実の中で輝くモノ

そんな日々の中5人はとある噂話を聞いた

 

「廃教会?」

 

「はい。ここも狭くなったので…」

 

成長と共にスバルとシモンはサオリたちが住んでいる一角に移った。

出会った時点で手狭だったゆえにそう遠くないうちに引っ越しをしなければならないなを何度か繰り返した頃にミサキに『2人そろってどんなところで住んでるの!?』である。それもその筈、そこは人が住めるような場所ではないと人が足を踏み入れることも無くなっている貧民街の中でも特に壊滅している場所。そこで2人は常に密着した形で横になり、寝起きしていると知れば流石にヒヨリでも引く

 

というわけで急遽、移り住むという体で2人はサオリたちの住まう場所に腰を下ろした

そうして5人暮らしとなったその廃屋の中にはいつしか色んなもので溢れかえるようになった。薬莢やマガジンが転がるのは流石キヴォトスというがそれ以外にも絡繰りや縫物の跡。更には木彫り…楽譜など少しずつでも集めて行けば多くの量になる。

 

そんな中、スバルが聞いた噂。

貧民街の奥にある、誰も立ち行かないようなアリウスの僻地にある廃教会で幽霊を見たという話。既に打ち棄てられて久しいその教会で紫色の亡霊を見たという…そんな騒ぎがあってから僻地である以上ただでさえ少ない人気が余計に少なくなって今やだれも足を踏み入れることが無くなった場所となっていると

 

「広い場所かつ静かで誰も寄り付かない場所とかどうでしょう?」

 

「……しかし幽霊かあ」

 

「こんなところで幽霊になっても逃げられないのはちょっとかわいそうですねえ」

 

アリウスの中でも欠如しているのは日々の小さな幸福の積み重ねだ。奪う事でしか生きられないから奪う。失うから奪う、気に食わないから奪う…奪われたから奪う。その積み重ねがいつしか人からそういう身近な幸福を奪うには十分なもので、慎ましい中で自分のやりたい事を見つけて顔を上げて生きているシモンたち5人組はどれほど異端に見えただろうか

 

そういうわけで周りの目もうっとおしくなってたのも事実。

既に棄てられてしかも妙な噂のせいで誰も寄り付かない広く、造りもしっかりしているであろうこの噂は少し前から住むところを探していたスバルにとっては渡りに船であり、今回ようやく目途が立ったというわけだ

 

…スバルとしては昔のように2人で暮らすのが一番いいが、それを言うにはサオリたちと関係が深くなってしまった。それにもしも2人で行こうなんて言ったらシモンが絶対に反対するだろうという確信がスバルに有った。そんなわけでその提案に難しい顔をしているサオリと、手に持っている絡繰り箱を叩きながらヒヨリがどこかズレた事を言うのに合わせて顎に手を当てていたシモンが口を開く

 

「アリだと思うよ。いい考えだねスバル」

 

「…兄さんが良いなら私も賛成」

 

確かにシモンが分かるぐらいには妙な視線も増えてきた。

今まで半分暗黙の了解と化していたシモンの性別の話が広まるぐらいには今のアリウスはきな臭い。最近の戦場で出会う子たちがやけに羽振りの良い真似をすることが増えてきたりと今までとは違う何か別の要因が絡まっている気がするのだ

 

それがシモンの勘違いならいい。だけど、その野生の勘の見落としがスバルやサオリ…そしてヒヨリとミサキを傷つけることがあれば間違いなくシモンは自分を許せないだろう。大人としてこの子たちの可能性を守ると誓った者としてその可能性は決して認められるものではない

 

「それじゃあ行くという事で…荷物だけは纏めてくださいね」

 

「すぐではないんだろう?」

 

「まあ明日の日が昇るちょっと前に出れたらベストですけど」

 

荷物が多い(片付けられない)サオリとヒヨリを見ながらスバルは考える。

やろうとしていることは引っ越しという名の夜逃げだ。誰にも感づかれてはならない…その理由は偏にシモンの身に危険が生じる可能性が高くなっているから。それも下劣な、シモンに乱暴したいという欲求の元に立てられていた非常に下衆な考え

 

確かにスバルから見てもシモンの顔は非常に整っていると言わざるを得ない。

艶がありながらも脂気とは無縁の細く長い手触りを持つ漆黒の黒い髪を風に揺らし、まるで宝石をそのままはめ込んだような空色の眼。そして耽美に端正な顔立ちに浮かぶどこか憂いを含めた表情は確かに無理矢理暴いてみたいという欲望を唆すには十分で、それだけにサオリとスバルはその下衆な輩がシモンに万が一にも手を伸ばせぬように丹念に打ち砕いてきた。

 

シモンはアリウスを、私たちを愛している

そんな気高い愛に救われた者だからこそその愛を穢す誰かを赦さないし、何も知らないままでいてほしい。

ただ無垢に、その愛が続くことを願うのは2人とも同じだから

 

「分かった、それじゃあ明日はちょっと早起きだね」

 

「起きれるかな…起きれなかったらシモン兄さんが背負ってくださいね……えへへ」

 

「大丈夫、私が引き摺って持っていくから。ね?ヒヨリ」

 

 

というわけで急遽決まったお引越し。

なにかアクシデントがあるはずもなく、5人は誰に出会う事もなく件の廃教会にたどり着いた

 

 

足早に駆け抜けたまだ薄暗い夜明けの前。光も付けるわけにはいかないと殆ど真っ暗闇の中、どうにか互いの吐息だけを信じてたどり着いた先は確かに微かな風の静寂だけが通り抜けるようなどこか薄ら寒い空気の中、5人は殆ど倒れこむように地面に膝を付いてへたり込んだ

 

「こ、こか……」

 

「一旦…休みませんか?」

 

「賛成……」

 

息が上がった切り会話もままならないミサキとヒヨリの背中を擦りながらシモンはカンテラに光を灯す。ぼんやりと周囲に光が灯されたと同時に見えるのは目の前にそびえ立つ立派な教会の姿。ステンドグラスはいくつか破損して割れているがそれ以外には特に気にならないほどの荘厳な姿

 

その息づく神聖さにシモンは息を呑んだのだろう

圧倒される空気に合わせて同じように見上げたサオリとスバルの顔には緊張と恐れからか険しい顔をしている。今更幽霊とやらは信じていないシモンだが雰囲気だけはある。いやごめん、やっぱりちょっと怖い

 

「……行ってくる。スバルたちはここにいて」

 

「シモン!?」

 

「兄さ……げほっ」

 

だけど進まないという選択肢は今更ない。

この場において一番身軽に動けるのは誰か、コンディションがマシなのは自分であると思ったシモンの歩みは早かった。カンテラと懐にしまい込んだ銃を一度握りこんで歩みだす

 

「もしも何かあれば。一発撃つから、それを聞いて逃げて」

 

「……待て。私を置いていくなシモン」

 

「ダメ。…ちょっとは男らしいところ見せさせてよ」

 

サオリの伸ばす手をミサキとヒヨリに向けさせてシモンはせめてもと後ろ手を振りながら教会へと歩み寄る。なんというかホラー物の真っ先に犠牲になるタイプの事をやっているなと自分でも笑えてくるが、それでもここで勇気を振り絞れないならシモンは自分の矜持を曲げることになる

 

なんてカッコよく言ってるが、実際はカッコつけたいだけだ

妹分や幼馴染ともいえるほど長く過ごしたスバルに無様な姿は見せたくないというちっぽけなシモンのプライド

 

「……さぁて。鬼が出るか仏が出るか」

 

敷地内は荒野と言えるような荒れ方をしており長いこと人の手が入っていないことが分かる。低木のまま立ち枯れたのか、まるでハロウィンの装飾のような木が数本生えているだけでそれ以外には微かな雑草が風に揺れるだけ。雰囲気はあるというか一歩一歩進むごとにシモンの足取りも重くなっていく気がする

 

だがこんなところで尻尾を巻いて帰るわけにはいかないと両開きの教会の扉に手をかける

固く閉ざされている事を想定していたら拍子が抜けるぐらい簡単に重厚な音を立てて開く。その時だった、その中からこれまたか細い珠が転がるような軽やかな少女の声が聞こえたのは

 

「……こんなところになんの用?」

 

「!驚いた。誰かいるのか」

 

「うん。……中に来て。お話ししよう」

 

透き通るかのようなその声色。邪気も悪意も感じない、どちらかといえば好意や関心が入り混じっているその声にはこちらを騙してやろうという意思はないに等しいだろう。とは言えシモンの理性的な考えがこの誘いが罠である可能性を捨てきれない

 

「………お前、名前は?」

 

「え?」

 

「名前だよ。名前、…幽霊なんて言われているお前にも名前はあるんだろう」

 

だからこそ、もういっそとシモンはぶっきらぼうに踏み入る前に言葉で踏み入った

名前を知らなければ相手が何かは分からない。だけど名前を知ったのならそれはシモンの中では正体不明の幽霊か、悪魔か天使か。或いはそれでもないどれかという未知の恐怖は薄れる

 

「ふふっ、変な人だね。アツコ、私は秤アツコだよ」

 

「そうか。俺の名前は安得シモンだ。よろしくアツコ」

 

「…うん!よろしくね、シモン」

 

互いに自己紹介が終わると同時に半開きになったその扉の中から小さなその手だけが出てくる

小さい掌に細い腕。もはや心配になるほどに病的に青白くか細いその手は確かに扉の向こうにいるのが実在する人物だと分かるがそれ以上にシモンの心にはそんな少女の栄養状態などを案じていた

 

もちろんそんな扉の向こうにいるのがただの少女だと分かったシモンは迷うことなくその手を掴む。

と同時にどこにそんな細い腕に力があるのかという勢いのまま扉の向こうに引きずり込まれる。準備するよりも先にその中へと無防備のまま引きずり込まれその顔を見る。

 

「ようこそ。マイナー・バシリカへ」

 

「…マイ、なんだって?」

 

「教会の昔ながらの言い方だよ。むしろ私がいるからここはバシリカでもいいかもね」

 

紫髪の美少女。少なくともここアリウスにいるようには見えない様などこか威風と高貴さを持ってシモンを導くように両手を掴んで教会内に立てつけられてであろう椅子に腰かけるように誘導する。…そうして落ち着いたころにその顔を見れば見るほど美しいと愛らしいと交互に浮かぶようなアツコの姿にシモンは知らず知らずのうちに喉を鳴らす。

 

「そうか…アツコ、ここはお前の家か?」

 

「違うよ。近いうちにここは無人になるし、欲しいならあげるよ」

 

だがここに来た目的を忘れてはならないとシモンは強く念じながら口を開く。

幾ら手狭になったからとはいえ引っ越し先にまだ住んでいる人がいるなら手を引かなくてはならない、無駄な諍いの火種を煽ることも持つこともシモンは嫌っているから

 

だがそんなシモンの考えとは裏腹にアツコは久々に見た来訪者の姿を見て首を傾げていた

只の生徒ではない、世にも珍しい男子生徒だ。キヴォトスにおいて同じ生徒で異性というのはいないとされている中での男子。それも同じようにヘイローを持つアリウスの子だと分かる。ゆったりとした服装と女の子と並んでも遜色ない顔立ちのお陰で今まで大きな騒ぎになっていないのだろう

 

「無人に……?」

 

「うん。こんなところ、誰も来ないからね」

 

さてそんな目の前の男の子についての邪推は置いておいて

ここはかつてアリウスがこの地へと逃げて来た時に始まりとなるように置いた教会。古のバシリカ、〈平和〉へと繋がる道を封じていた教会。それが今アツコが所有者代わりになっていた廃教会の真の役割である。とはいえそんな過去のことなどアリウスでおきた長い戦乱によって喪われ、今やそれを知るのは生徒会長と呼ばれるものの血筋と神秘を継いでいる【ロイヤルブラッド】であるアツコのみ

 

だけどそんなかび臭い話を奇跡的に現れたお客様である彼らに話すことはないとアツコは口を噤む

近々アツコは育ったこの教会から別の場所へと送られる。名誉なことだと誰もが言うが実際はこの場所には誰も来ないし、その役割は生贄だと誰もが目で雄弁に私を見ていた

 

「そうか。…残念だ」

 

「?どうして?」

 

「いや。」

 

だからそうアツコにとってシモンは今までにあったことが無い人なのだ

私を知らないとは言え同じような視線で立ち、そしてこの場所を悼んでくれる人とアツコは出会ったことが無いから

 

「これほどまでに立派な建物が誰の日の目を浴びることなくここにあったとは、な」

 

「…けど、仕方のない事だよ。」

 

そうだ。全ては仕方のない事

トリニティから排斥され、この不毛のアリウスの地へと降り立ちそれでも尚尽きることなく争いを続けた果てがこれだ。アツコはこれから人質としてどこかに送られる。その先ではどんな扱いを受けるのか…理解しているが故の諦め。どうしようとも何も変らない絶望だけがアツコの内心だった

 

「全ては空しい、か」

 

「そうだね。ただ虚しい、どこに行こうとも…」

 

なんという虚しさ。どこに行こうともただ虚しいだけ

それだけが全てだと言うのだからとアツコはただ乾いた笑みを浮かべてシモンを見る。悲しげな顔をして何か言いたげに口を動かして、それでも何かをいう事もなく肩を抱き寄せるそんな彼にならこの人なら…彼ならば、ここを任せられると信じて

 

「だからお願い。()()()()()()()

 

「ああ。……約束しよう。アツコ」

 

青い、空のような透き通る目をしていた。その中の輝きにアツコは身勝手ながらも自分の事を刻み込む

彼なら、シモンなら私を傷として覚えてくれると思えば満足だった。時間に直せばたった数分の出来事それでもまたアリウスは捨てたもんじゃないと思わせてくれる何かがあるなら

 

それだけでアツコは満たされた気がするのだ

 

 

 

 

その後の話をしよう。

教会の奥にシモンたちを匿ったアツコは日が昇ると同時に鎖に繋がれ、護送という名目でどこかへと連れていかれることになった…正史と違うのは共に逃げようと言ってくれたシモンたちの存在と、アツコは繋がれて歩かされていく中でもその心にはあの空色があったことだけ

 

止められなかった悲劇を、忘れないでと刻み込まれたのに報いるようにその後シモンはその辺境の地で炊き出しを始めるようになり、そしてそんな彼への称賛と敬意は次第に牢の中で監禁されていたアツコの耳にも届くように…彼らが再会をしたのはマダムがアリウスの戦乱を征した後だった

 

「…花を、育てる約束をしていましたね」

 

「…………!」

 

昔の話だ。アツコが連れていかれる少しの間、何でもない事のように話し込んだ時にアツコが口にしたガーデニングを、花を育ててみたいというそれをシモンはずっと忘れないでいた。だから今まで《炊き出し》の合間に頑張ってみた、この教会の庭をせめて人が見れるものにしようと

 

「どうでしょう。少しはあの日の借りを返せましたか?」

 

そもそもの保水性が足りなかったりと大分時間は掛かってしまったが、それでも微かに淡い色を付ける野花がそこには綻ぶように咲き誇っていた。

 

「……覚えていたんだね」

 

「ええ。もちろん、忘れるはずがありませんよ」

 

スバルに、この世界で生きる『意思』を教えてもらい

サオリに、この世界はまだ捨てたものじゃない『愛情』を見て

そしてアツコに、この世界でやるべきことの『理由』を託された

 

シモンはそんな彼女たちに支えてもらったから、ここに生きている。

苦しむことも、痛みもなにもただ虚しいものではなく明日へとつなげる何かを紡ぐために

 

「うん……ありがとう。シモン、約束守ってくれて」

 

そんな彼だからこそ、アツコは────

微笑みながら抱擁を交わす二人の足元には紫色の花が喜ぶように揺れたのだった

 





◇キャラクター紹介2

名前:安得あんとくシモン
容姿:黒髪青目の女顔(大体ゲーム『プロジェクトセカイ』に出てくる『星乃一歌』を想像していただければ)
所有武器:P228『アルキオネ』

趣味:ガーデニング


感想評価お待ちしております
次回。『Thirty pieces of silver』

《安得シモン暗殺を》

  • 錠前サオリに頼む
  • 戒野ミサキに頼む
  • 槌永ヒヨリに頼む
  • 秤アツコに頼む
  • 白洲アズサに頼む
  • 梯スバルに頼む
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