アリウスの【救世主】は先生の到着を待っている   作:アリウスは無限に味がする

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Thirty pieces of silver

 

「安得シモンを暗殺しなさい」

 

「………………は?」

 

マダム、アリウスの生徒会長を名乗るその女性ベアトリーチェにサオリが呼びつけられたところから話は始まる。長きに渡る戦乱があったアリウスを統べたのは外から来たであろう女性。それが目の前で体を横にする血の様に真っ赤な体と目立つ白色のドレス。そして異形たる髪より覗かせる無数の瞳がサオリを見下ろしていた

 

「失礼ですが…マダム。シモンを暗殺、と?」

 

「ええ。そういいましたよ錠前サオリ」

 

一目見て恐ろしいと思うようなそんな大人。シモンはベアトリーチェについて近づくことも無かったし、話すことも無かった…つまりこの人はシモンの待ち望んでいた人ではないという事。それだけにサオリはベアトリーチェを苦手としていた

 

アリウスから戦乱を収め、力となる武器を支給してくれたマダムに恩義はある

だが多くの力を集めてこのアリウスで何を成そうとするのか。それが分からない

 

「……どういうつもりで?」

 

だけど今、明確に目の前のベアトリーチェと名乗る大人はシモンへの害意を口に出した

それはつまり姉であるサオリにとって弟であるシモンを殺せと命じるのと同じ意味、もはやこの女には従えないと銃器を抜こうとしたその瞬間だった

 

「ふむ…ではそうですね。こうしましょう」

 

その殺意をむき出しにした愚かな子どもを嘲笑するかのように口をパクリと裂けるように笑ったベアトリーチェがこうサオリに嘯く。どれほど荒唐無稽な話であってもこのように動揺し、次の行動が丸見えの子どもなど手玉に取るのは難しくないとばかりに

 

「安得シモンが武器と兵を集めています。…この意味が分かりますね?」

 

「は?、えっ?」

 

怒涛の展開。サオリの脳内キャパシティが限界を迎えるのには難しくなかった

あり得るはずがない。誰よりもアリウスの平和を、私たちの笑顔を生きがいとするような光り輝く男が、そんなクーデターなど企てるはずがない。

 

「あり得るはずがない…何かの間違いでしょう」

 

「おや?私を疑うのですか?」

 

考えるよりも先に出たサオリの否定の言葉。

そもそもおかしいのだ。…だってシモンがアリウスのトップに立ちたいと言えば私たちは両手を上げて喜んで彼に跪き、仰ぎ見るだろう。シモンはそれほどまでにアリウスに愛されて、信じられてきていた。だからベアトリーチェの言っていることは嘘であるとサオリは考えを固めていた

 

「いえ、ですがマダム。彼が、シモンがそんな事を企てる意味がありません」

 

「……ええ、そうですね」

 

だから、子どもは愚かなのだとベアトリーチェは内心ほくそ笑んだ。

獲物が釣り針に掛かった釣り人の様に、アリの巣を見つけた子どものように残酷で無邪気な邪な笑みを浮かべてベアトリーチェは子どもの妄言を肯定する。

 

「!なら…………」

 

「それと同時に、彼がアリウスに奉仕する理由も分からない。…それはありませんか?」

 

マダムは分かってくれたかとサオリは安堵した。確かにマダムの唱える『全てが空しい』という意味は分からないわけではない。何もかもが不足して何もかもが奪い合い、そして失っていくこのアリウスの中でたった一人だけ空しくてもと立ち上がった彼がいるから

 

……そんなサオリの信仰を砕くように、ベアトリーチェが肯定した横で毒を流し込むかのように呟く

 

「このアリウスで、何故彼は施しを続けるのでしょう。何故身を削ってまで誰かに尽くすのでしょう?」

 

「それは……彼の、愛だからです」

 

理解が出来ないものに共感は出来ない。共感が出来ないものに信用は生まれない

そういう意味では確かに安得シモンという子どもはキヴォトスだけではなく外の世界でもまれに見ることもできない本物の天才、歴史に名を遺した英雄と同じ視座に立っているという事になる。

 

身を、私を滅するほど捧げ仕立てまつる彼は確かに聖人だ

だからこそ、アリウスでは最も異端の発想なのだ。誰も彼もが無為と絶望を抱えて死人のように生きていく中で…たった1人、光と愛を掲げて導いていく星明りのような彼の姿は吉兆星なのか、禍つ星なのか

 

「愛……愛ですか」

 

「……何がおかしいので?マダム」

 

その答えは単純だ。──見たいように見ればいい

ただアリウスには吉兆星だとしても、ベアトリーチェ個人からすれば…立派な禍つ星である事は確かだった。アリウスの支配を、統制を、搾取が進まない理由は間違いなく安得シモンの賜物だ。その功績と献身は一応ベアトリーチェ自身も認めていた。だから

 

「いえ。サオリあなたは…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

その最後は自分の慈しんだ子どもに殺されるという栄誉を渡してやろうと

マダムがサオリへと言葉という名前の毒を仕込む。普段なら考えも及ばない様な、あまりにも理論を超越し過ぎた〈言いくるめ〉を絶対に成功させるそのあまりにも埒外で気に食わないやり口だが、こういう手段にはあまりに使えると今も自身の真理だけに躍起になるあの地下籠りを嘲笑う

 

追い求めるその死と苦しみについては私の〈崇高〉に比べればあまりにも稚拙なものだが、趣味はいいとベアトリーチェは今回の成功に転がった01クリティカルの結果を尻目に笑う。……哀れなことだ、このダイスは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

つまりどうやってもこの愚かでどうしようもない子どもたちは性善…生まれつきの善性を理解できない。自分よりも志高く気高い人間の考えを理解できないだけでなくその足を引きずり落とし、地で泥をかけ嘲笑うのが子らの本性という言うわけだ

 

「………………」

 

「ええ、サオリ。あなたの考えは分かります、あまりにも突拍子のなく、そして信じていた相手の裏切りは辛いでしょう……今日は下がりなさい。」

 

「………はい」

 

ほど、哀れな子だ。安得シモン──

もしもこんな罪人の洞のような場所に生れ落ちてこなければキヴォトスの中でも有数の名声と尊敬を、多くのモノを手に入れられたはずなのにこんなところに産まれたばかりにその気高き意思も、輝きも貶められて唾を吐かれるのだろう。かつてあったどこかの聖人のように

 

「…墓、ひとつぐらいは用意してあげましょう。私は寛大ですからね」

 

確かにあなたの祈りは、どうしてと言いたくなるほど美しかった

……きっと其の答えは、深く、アリウスを、その子らを愛しているというしかないのだろう

 

(生憎と、惜しむほどの関心も興味もありませんが)

 

けどそれでも彼の抱いたものが、この地の底でそれでも微かな光で咲き誇る一輪の花であるのなら

その最期の果てに私があなたを弔いましょう。全てが無意味だとそれでもと立ち上がり続けたその無益さを讃える碑を刻みましょう。私の、私の花を手向けましょう

 

それが『ベアトリーチェ』『天国』へと導く『永遠の淑女』ですから

 

 

 

 

『全てが虚しい中で─何故彼だけが前を向き続けられるのでしょう』

 

考えたことも無かったマダムの言葉がサオリの脳内でグルグルと延々と回り続ける。

理解が出来ない。考えたこともなかったそのマダムの言葉にサオリは何故かずっと考え続けることになった…ミサキたちが待つ家の前の前まで周りを鑑みることが無い程に

 

「姉さん…どうかしたの?」

 

「ああ、いや。…どうして、」

 

……言いたくはないが、そうだ

何故私たちよりも優れているモノが私たちに奉仕するのか。自分よりも強いものは…全て奪ってきたことしか身をもって知っているサオリにとってはマダムの言葉はどうしてもそう、悪い方向に考えてしまうほどには今のサオリはごちゃごちゃだった

 

だからそう、思いもよらない弱音を吐いてしまう。

…そういうところも立派にスバルと共に生き、歩き続ける二人に■■してしまうぐらいには

 

「どうしてシモンは私たちに良くしてくれるのだろうな」

 

「そんなの簡単ですよ」「……簡単な話じゃない?」

 

そんなサオリの問いに2人は何当たり前のことを言っているのだろうと首を傾げるように軽く答えた

何故ならその答えはサオリ姉さんが最初に信じたものだった。あの日、いちまいの絆創膏をなけなしのはずの一枚をシモン兄さんがサオリ姉さんに差し出したように

 

「シモン兄さんがシモン兄さんだからです」

 

「あのお人よしだから、私たちに良くしてくれるんじゃない?」

 

決して愛とは気軽に答えないけど…多分、これが愛なのだと愚直に信じたミサキとヒヨリ。

まるで子が親に無条件の親愛を抱くかのように一切のブレなく答えるその答えは間違いなくサオリが信じたものであり、そして──それだけにサオリの決心がついた

 

「………………ああ、そうだな。そうだった」

 

マダム、ベアトリーチェはシモンを殺そうとしている

それもどうしようもないほど…下劣且つ卑劣に。旧友のそれも最も信頼のある親友を殺させようとするのがあの女のやり口なのだとしたら、次に狙われるのは間違いなくスバルでヒヨリでミサキだ

 

「そうだな。シモンは私たちを愛しているもんな」

 

なら、その愛に報わなければならない。

サオリはこの瞬間、覚悟を決めた。アリウス全てを敵に回す覚悟を

 

 

「……アツコ、すまない。カタコンベについてなんだが」

 

「ああ、アズサ。この日外での遠征演習として1人でカタコンベのここに向かってくれ」

 

その日からサオリの孤独な戦いは始まった。

残された時間はあまりにも少ない。…マダムがしびれを切らして暗殺計画を他の人間に回してしまう前にサオリは誰にもその意図を悟られる前に全ての準備を完璧にしなければならない。

 

サオリがしなければならないのはおよそ2つ

脱出手段と、その経路。逃げ場のないアリウスにおいて『外』に出るにはこのカタコンベを通るしかない…周期的に出口が変化するこの地下通路をどうにか辿っていけば脱出が出来る…はずなのだ。だからサオリはまずそういう事を知っているでだろう、姫に…アツコに頼み込んだ。

 

そしてもう1人。アズサならシモンの取り巻かれた現状を理解して外へと、トリニティへと導いてくれるだろう

生憎だがこの作戦においてミサキとヒヨリは使えない。何故なら今回の作戦においてサオリは1人で率いて挑めというかのように、周囲にいる生徒は全てシモンのところで見たことのない人ばかり

 

(おそらく同い年の……)

 

考えられるとすればシモンの施しを嫌い、マダムの掲げる虚無の教えに首を垂れたものなのだろう

……その決断を責めることは出来ない。何故ならサオリだってなにかひとつボタンを掛け違えばそこに立っていたのは自分だっただろうから。私は偶然運よくシモンの愛を、輝きを知ることが出来た

 

だからこそ、かの輝きを穢してはならない

虚無の教えが彼を飲み込んではならない

 

「……今夜、作戦を開始する。いいな?」

 

出来ることは最大限やった。

サオリはアツコから手に入れたカタコンベの地図を元に、アズサを向かわせ騒ぎが起きそこまで逃げてきたシモンを迎え入れてアリウスの『外』へと逃がすことができるはずだ。…だから私が今からしなくてはならない事は、ここにいる奴らを教会に着いたときに全員一人残らずぶちのめし、シモンを外へと逃がすこと

 

(私は、必ず成し遂げてみせる。みせるとも)

 

だから──今この時だけでも勇気をくれ

 

 





これを読んだ後君らはこういうだろう!
ベアトリーチェ、きっっっしょ!と

次回

────「待ってたよ、サオリ」

『聖者は死ぬまでに』


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