モン娘ゲットだぜ! ~目指せモン娘マスター~   作:トマトルテ

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6話:タカイ山

「いいですか、マスター? モン娘リングは1つしかもらっていないんですから、出来る限り将来有望そうなモン娘を勧誘しましょう」

 

 タカイ山に登りながら、ココは後ろについてきているだろう、アオイに話しかける。

 

「可愛いとか、可哀想とか、そんな理由で選んだら駄目ですからね? これから一生面倒を見るかもしれない相手なんですから」

 

 枝や邪魔な蜘蛛の巣を爪で切り裂きながら、ココは前に進む。

 

「かといって、山の主みたいな強いのも危険です。今のマスターでは、荷が重いです。言うことを聞いてくれない可能性も高いですし、最悪反抗を受けて死んでしまいます」

 

 まるで、お母さんのようにブツブツと必要な内容を、アオイへと教えていく。

 

「後、可能ならタッグバトルでのボクとの相性も考えて、すばしっこい娘が良いですね。コンビネーションを合わせやすいですから」

 

 しかし、どういう訳かアオイからの返事が無い。

 山登りで話す余裕がないのかと思っていたが、これは流石におかしい。

 

「マスター? また、変な道でも見つけたんですか? 行くのはもう諦めましたけど、行くときは、ちゃんと言って──」

 

 ココがまた脇道にでも逸れようとしているのかと、目力を強めて振り返る。

 

「きゃー! 可愛いーっ!」

「うさ?」

「んー? この指輪に興味があるの? はめてみる?」

「うー!」

「マスターッ!!」

 

 そして、今まさに子供のウサギ娘に指輪をはめようとしている、アオイに雄叫びを上げるのだった。

 

「わッ!? どうしたの、ココちゃん?」

「ボクの話聞いてました!? いや、聞いてないですよね! 聞いた上でやってたら、殴りますから!!」

「うひぃ!? ご、ごめんね、聞いてなかった……です」

「いいですか、マスター? 指輪は1つしかもらっていないんですから、出来る限り将来有望そうなモン娘を狙いましょう! 可愛いとか、可哀想とか、そんな理由で選んだら駄目ですからね。これから一生面倒を見るかもしれない相手なんですから! かといって、山の主みたいな強いのも危険です。今のマスターでは、荷が重いです。言うことを聞いてくれない可能性も高いですし、最悪反抗を受けて死んでしまいます! 後、可能ならタッグバトルでのボクとの相性も考えて、すばしっこい娘が良いですね。コンビネーションを合わせやすいですから! 以上です!! 今度は覚えましたね!?」

「お、覚えました……」

 

 ココの剣幕にたじたじになるアオイ。

 そしてビクッとなったひょうしに、思わずモン娘リングを取り落してしまう。

 

「う?」

 

 そのモン娘リングを不思議そうに、指で転がすのは、ふさふさとした大きな兎耳を持つモン娘。

 茶色と白の柔らかい毛皮に包まれ、耳の先と肩、腕には硬質で美しい岩の結晶が光っている。

 

「それで、その子は……ウサギ娘ですか? なんだか、岩っぽいですけど」

「あ、うん。多分、岩ウサギ娘だよ。兎娘は住む場所で、属性が変わったりするんだって」

「……マスターって、意外とそういう知識に詳しいですよね。馬鹿っぽいのに」

「酷い!? テレビとか図鑑でちゃんと勉強したもん!」

 

 わーきゃー言い合う、ココとアオイ。

 そんな中、ウサギ娘は興味津々にモン娘リングを眺めた後に──

 

「──あむ」

「「あ!?」」

 

 ──指輪を飲み込んでしまう。

 

「あー! ど、どうしよう、ココちゃん!?」

「と、取り敢えず、吐かせましょう! お腹を壊すと大変です!!」

「えーっと、ほら、ペッしてね? 今のは食べ物じゃないんだよ!」

「背中! 背中を叩きましょう!!」

「そ、それじゃあ、私は確か指を口の中に入れたら……吐くはず。お母さんに、やられたことがあるから」

「ぎーッ!!」

 

 ウサギ娘の背中を叩き、口に指をツッコんで嘔吐を誘う2人。

 当然、ウサギ娘の方は理由が分からずに、泣き叫ぶ。

 

「ごめんね! でも、吐かないと大変だから!!」

「あ、やった! なんとか吐き出しましたよ!」

「よ、よかったぁ……」

「うー…!」

 

 指輪と嘔吐物を吐き出して、不満そうな鳴き声を上げるウサギ娘の子供。

 本人からすると、何が起きているか分からないので、ある意味で当然だろう。

 

「お、怒ってるよね? ごめんね? でも、食べたらいけないものを食べたら、体が悪くなっちゃうから」

「ぎー!」

「お詫びにだけど……はい、これ。私のおやつ」

 

 そう言って、アオイは自分のリュックサックからクッキーを取り出す。

 

「うさ? ……うー!」

「気に入ってくれたかな?」

「だと良いんですがね」

 

 ふんふんと匂いを嗅ぎ、クッキーを少しかじるウサギ娘の子供。

 すると、すぐに顔を輝かせて夢中で食べ始める。

 吐いた後だというのに、元気なものだ。

 

「まったく……マスターが考え無しに、契約を結ぼうとするからこんなことになるんですよ」

 

 一件落着、ひと段落。

 そんな空気の中で、ココがアオイに小言を言う。

 

「わ、私のせいかな?」

「子供のせいにするんですか?」

 

 無邪気な子供の行動を、責めるのかという、じっとりとした瞳。

 その視線に、アオイは目を右往左往させるが、やがて観念する。

 

「ご、ごめんね──」

 

 取り敢えず、謝ろうと頭を下げた所で、自分の足元に巨大な影があることに気づく。

 

「──マスター!!」

 

 ──ズドン!! 

 

 足元の影。それは、空中からアオイめがけて振って来た存在だった。

 

「……無事ですか?」

「うひぃ……コ、ココちゃんが引っ張ってくれたから平気……」

 

 まさに間一髪。

 ココがすんでの所で引っ張ったので、アオイは何とか無傷で済んだ。

 

「それで一体何なの? 兎娘ちゃんは大丈夫?」

「敵襲ですね、マスター。それから……あの子は大丈夫でしょう、何せ相手は……」

「あ!」

 

 まるで隕石のように、何かがアオイの目の前に落下して来たのは謎の存在。

 その落下物の正体を見て、アオイは息を呑む。

 

 

「あの子の母親っぽいですから」

 

 

 同じような毛色。大きな耳。

 しかし、成熟した体はボンキュッボンな体型で、子供のウサギ娘とは比べ物にならない。

 何より、その体についた岩の結晶は頑強な宝石となって輝いている。

 

「…………」

「な、なんかこっちを睨んでるような…? もしかして、怒ってる?」

「でしょうね」

「そんな! なんで、私達何も──あ」

 

 その瞬間、アオイの脳裏によぎるのは先程の自分達の行動。

 食べてはいけないものを食べさせて、背中を叩いて、喉に指をツッコんで吐かせる。

 そして極めつけが、子供の泣き声だ。

 

「………もしかして、さっきのせい?」

「まあ、客観的にみると、暴力を振るっているように見えてもおかしくないですね」

 

 お母さんウサギが怒って駆け付けても、何もおかしくはない。

 

「ご、ごめんなさい!! そんな気はなかったんです!!」

「ゔぅ…ッ!」

「逃げましょう。相手は聞く耳を持ってないみたいなので」

「あんなに大きなお耳があるのにー!」

 

 岩ウサギ娘の母親は、凄まじい勢いで、逃げるアオイ達の背を迫う。

 

「うわあああ! すっごい速い!!」

「マスター、逃げてください! あれは完全にブチギレモードです!!」

 

 ココがアオイの手を引いて全力で逃げる。

 後ろからは宝石のような硬い結晶を振るって、周囲の岩を破壊しながら、お母さんウサギは猛スピードで迫ってくる。

 

「ゔぅざぁあああッ!!」

 

 母親の怒号が山に響き渡る。

 アオイは必死に走りながら叫んだ。

 

「ごめんなさいー!! 誤解なんですー!!」

 

 しかし、母親は聞く耳を持っていない。

 一直線に、アオイとココを目指して突進し、そして──

 

 

「ゔざぁッ!?」

 

 

 ──突如として、横から撃ち込まれた粘液の塊に体を絡めとられる。

 

「へ? な、なにこれ?」

「うさ…! うさ!?」

 

 訳が分からずにポカンとする、アオイ。

 そして、遅れて来た子供の岩ウサギ娘が母親を助け出そうと、ベトベトの粘液に手を付ける。

 だが、逆に自分も動けなくなりそうになり、慌てて話して涙を流す。

 

「へへっ、いい獲物が取れたな! どこの誰だか知らんが、ここまでおびき寄せてくれて感謝するぜ。おまけにガキ付きだ」

「スライム娘から抽出した、粘液で作ったスライム団。そう簡単には逃げられねぇよ」

「これで、後は支配の首輪をはめるだけだな」

 

 大きな岩陰から、黒をベースに赤のラインの入った制服を着た男達が複数人、ゆっくりと顔を出す。

 ブラックカラー団の構成員だ。

 

「マスター! この前の奴らと同じ服です! 多分、ブラックカラーとかいう奴らです!」

「ま、待って! その人達をどうするつもりなの!?」

「人…? ………ああ! このウサギ畜生のことを言ってんのか?」

「ッ!」

 

 人という言葉に、純粋に首を傾げるブラックカラー団の構成員。

 そのあまりにも自然な、差別意識にアオイは思わず言葉を失う。

 

「何って売るに決まってんだろ? ウサギ娘はマニアの間で根強い人気があるからな。オークションにかけたら、結構な金になるぜ。今回は親とガキで、セットなのもいいな」

「……そんなことをさせるとでも?」

 

 ココが爪をむき出しにして、敵意を露にする。

 

「ああん? 家畜が会話に入り込んでくるんじゃねぇよ。人間と会話してんだよ、こっちは。家畜は家畜らしく、獣の言葉でも話してろ」

「へー……分かるんですね、あなた。獣の言葉が」

 

 ココに対しても、差別意識の目を向ける構成員。

 だが、ココは冷静に返す。

 

「あ? 何が言いてぇ?」

「獣の言葉が分かるあなたも立派な獣だって言ってるんですよ? もしかして、おつむが良くない感じですか?」

「野郎! ぶっ殺してやらぁッ!!」

「目も悪いんですね、目の前にいるのはモン()ですよ? 野郎なんて、どこにもいません。ああ、それとも自分達の愚かさに嫌気がさしたんですか? 可哀想ですね」

 

 訂正。

 内心は全力でブチギレていた。

 

「おびき寄せてくれた礼に、見逃してやろうと思ってたのによぉ! いいぜ、そっちがその気なら、てめぇら纏めて売り捌いてやるよ!!」

 

 そして、煽りに煽られたブラックカラー団の構成員達も当然、ブチギレる。

 ココとアオイもまとめて、売り飛ばしてやるとばかりに、3人が黒い首輪を腕にはめて振り上げる。

 

「こい! 仕事だ奴隷(ペット)ども!!」

 

 首輪から出てくるのは、3人のモン娘。

 ヘビ娘、コウモリ娘、トカゲ娘。

 そのいずれにも、黒色の首輪(ブラックラー)がはめられていた。

 

「これが……支配の首輪をつけられたモン娘…!」

「死んだ目をしてますね……いえ、意識が無いのでしょうか?」

 

 惨い。

 一言で言えば、そうした状況のモン娘達に2人は息を呑む。

 そして、嫌悪感に普段はしない鋭い目つきになる。

 

「当たり前だろ? 自分で勝手に動く道具なんざ使いづらいだけだ」

「道具なんかじゃない…! モン娘は家族なんだからッ!!」

 

 山全体に響くほどの大声で、アオイが否定する。

 自分の憧れの存在に教わった言葉を、決して否定はさせないと。

 

「てめえも、あの現実が見えてないチャンピオンの言うことを、鵜呑みにしてんのかよ? これだから、夢見がちなガキは嫌いなんだよ」

「てめえらには現実ってもんを教えてやるよ。多勢に無勢ってやつをな?」

「3対1で勝てると思うなよ!! ペット共、取り囲め!」

 

 ヘビ娘、コウモリ娘、トカゲ娘の3人がジリジリと、アオイとココを取り囲んで来る。

 相手は人類史における最強戦術。集団リンチを行うつもりだ。

 

「マスター……敵を煽ってすみませんでした。まさか、ここまで単細胞だったとは」

「ううん。いいよ、ココちゃん。ココちゃんが言わなかったら、私が言ってたから」

 

 そんな会話を行いながらアオイは、取り囲む三体のモン娘と、嘲笑うブラックカラー団の男達を一瞬で視界に収めながら、心の中で冷静に分析を始めた。

 

(……落ち着いて、私。今はどういう状況?)

 

 まず、敵の戦力。

 相手は3人のモン娘。

 ヘビ娘は接近戦と拘束が得意だろう。

 コウモリ娘は飛行と超音波攻撃。

 トカゲ娘は……おそらく防御力と再生能力が高いタイプ。

 

(首輪で無理やり意識を奪ってるって言ってたから、相手は自分で行動を考えられない……と思う。つまり、自分達で連携は出来ないし、行動が遅いはず)

 

 3人とも首輪で無理やり従わされているため、動きは機械的で連携が乱雑と推測する。

 だが、数が3対1でこちらの3倍。

 しかも逃げようにも、岩ウサギ娘のお母さんが粘液でほとんど動けない状態。

 放置していくわけにもいかない。

 

(多勢に無勢……普通に考えれば絶体絶命。でも、勝てる要素はちゃんとある)

 

 アオイの瞳に、青い炎が宿る。

 

(一番の鍵は……ココちゃんのスピードと、私の指示。相手のモン娘は『道具』として扱われているから、自主性が極端に低い。つまり、予測不能な動きに弱かったり、マスターの視界を遮れば、動けない。ココちゃんの素早いネコの動きなら、翻弄できる)

 

 さらに、視線を岩ウサギ娘の母親と子供に移す。

 

(あの子も戦力になる……かも。お母さんの方が今は粘液で動けないけど、ルビちゃんの方は、動ける状態。力を貸してもらえれば…!)

 

 自分が罠にはめてしまう形になったのは、申し訳ない。

 だが、それでも、この場を切り抜けるには協力するしかない。

 アオイは岩ウサギ娘の子供の方に、目を向ける。

 

「ねぇ、ウサギちゃん。こんなことになってごめんね? でも、あの人達は、ウサギちゃんのお母さんを捕まえた悪い人だから……一緒に戦ってくれる? お母さんを助けるために!」

 

 母親の方を見て、アオイとココを見る。

 そして、岩ウサギ娘の子供は、決意を固めた目でピョンと飛び上がる。

 

「ッ! う! うー!!」

「どうやら、やる気みたいですね」

 

 やる気満々といった感じの、子供にココが薄く笑う。

 頼もしい、味方が出来たと。

 

「るび!」

「え?」

「その子の名前、ルビだそうですよ」

 

 短い単語。

 しかし、しっかりと意味を持った意味を告げる、ルビ。

 緊張でこわばっていた、アオイの顔に笑顔が戻る。

 

「そっか、ルビちゃん。それじゃあ、一緒に──悪い人を倒しちゃおう!!」

「うー!」

 

 そして、バトルが始まる。

 

 

 

 

 

 ココはユウマがアオイを評した、天才という意味を噛みしめていた。

 

「ココちゃん! ルビちゃん! 一緒に頑張ろう!」

 

 アオイが普段のほんわかした声とは違う、力強い声を上げる。

 バトルになれば、アオイは研ぎ澄まされた抜き身の刃のような空気を放つ。

 それが、ココにはとても頼もしかった。

 

「了解です、マスター!」

「うー!」 

 

 ココが即座に低姿勢になり、ルビも小さな体を震わせながらも、ココの横に並んだ。

 ブラックカラー団の構成員達が嘲笑う。

 

「はっ! ガキとネコ娘が1匹で何が出来るってんだよ?」

「──あなた達に勝てる」

 

 しかし、その嘲笑も真正面から受け止め、アオイは静かに断言する。

 まるで、歴戦の戦士のような自信と、覇王のような威圧感。

 まだ未成熟ながら、その片鱗は確かに、構成員達を圧した。

 

「っ! ガキがいきがってんじゃねぇぞ! ペット共、かかれ!」 

 

 その怯えを払拭するように、構成員は声を張り上げて、命令を下す。

 そして、ヘビ娘、コウモリ娘、トカゲ娘の3人が同時に動きだす。

 しかし、その瞬間。

 

「ココちゃん! 右回りでコウモリ娘の翼に近づいて、相手の翼でブラックカラー団からは見えないから! ルビちゃんは、その隙にヘビ娘の足元に岩を落として、動きを制限して!」

 

 アオイの指示が、矢のように飛んだ。

 ココが爆発的な加速で右へ回り込み、コウモリ娘の陰に隠れて、ブラックカラーの構成員から、姿を見えなくし、指示を出しづらくする。

 同時にルビが低い声で鳴きながら地面を叩き、小さな岩の破片を飛ばしてヘビ娘の動きを封じこむ。

 地面を張って動く、ヘビ娘にとって障害物は人間以上に邪魔なものとなる。

 

「なっ…!? ち! すぐに反撃しろ! どうせ、傷を負ってもお前達は動けるんだ! 自爆覚悟でやれ!」

(やっぱり、指示が無いと相手は何も動けない……痛い目に合ってるのに逃げることも出来ないなんて、許せない!)

 

 驚く構成員をよそに、アオイは怒りからギュッと手を握りしめる。

 だが、その思考は氷のように冷たかった。

 

「今! ココちゃん、今度はトカゲ娘の死角に入ってさらに錯乱させて! そのまま爪で肩を狙って!」

「はい!」

「この…! ちょこまかと!? 避け──」

 

 ココは地面を蹴り、トカゲ娘の背後へ滑り込むように移動。

 構成員が避けろと指示を出そうとするが、考えることのできないモン娘の動きは遅い。

 

「あなたには恨みはありませんけど! すいません!」

 

 鋭い爪がトカゲ娘の肩を深く抉った。

 

「──ッ」

 

 悲鳴はない。苦痛の声もない。ただ、痛みという生理的な反応に、眉が僅かに動くばかり。

 首輪の影響で、彼女達はあくまでも、どこまでも従順に反撃の指示を待つだけだ。

 

「ごめんね…! でも、ちゃんと解放してあげるから!!」

 

 その反応に唇を噛みしめながら、アオイはさらに指示を重ねる。

 

「ルビちゃん! 今度はコウモリ娘に岩を飛ばして、自分の意思で動けないなら空中ではただの的だよ! ココちゃんはその間にヘビ娘を軽く攻撃して、すぐに離脱! 相手を翻弄するよ!」

「うさー!」

「了解!」

 

 ルビの岩攻撃がコウモリ娘にぶつかり、ココが高速移動でヘビ娘へと小刻みにダメージを与えていく。

 3人のモン娘はそのせいで、互いに連携もできず、個別に隔離され始めた。

 

「くそっ、何やってんだ! もっと連携しろ! もっと近くに寄れよ!!」

「無駄だよ。そんな単純な指示じゃ、2人の攻撃は切り抜けられない」

 

 構成員達が慌てて叫ぶが、すでに遅い。

 アオイの初めに行った分析は正確だった。

 首輪で無理やり従わせられているモン娘達は、マスターの指示がないと柔軟な判断ができない。

 

「それに……モン娘のことをペットなんて言う人達が、モン娘に何が出来るか分かるわけない!」

 

 そして、何より。

 絆の無いマスターなど、まともな指示も出せない足手まといだ。

 

「ココちゃん! 今度は3人を連続で! 全部の注意を自分に集めて、ルビちゃんに隙を作ってあげて!」

「任せましたよ、ちびっこ兎さん?」

「る~び~!」

 

 ココが3人の間を高速で駆け巡り、爪を閃かせる。

 指示が無ければ反射機能しかもたない彼女達は、当然ココだけを見る。

 大した技能もない構成員達も釣られて、ここに視線が集中した瞬間──

 

「ルビちゃん、今だよ! 一番大きい岩でヘビ娘を潰して!」

「うーッ!!」

 

 ルビが地面を強く叩くと、巨大な岩の塊が隆起し、それがヘビ娘を直撃する。

 

「──ッ」

「ちっ! この役立たずが!?」

 

 ヘビ娘が吹き飛び、動かなくなった。

 それを見て、暴言を吐き捨てる構成員達。

 

「役立たずは、あなた達だよ」

 

 アオイの声に、子供らしからぬ冷たさが混じる。

 

「ココちゃん……もう終わらせよう」

「はい……分かりました」

 

 残る2人も、ココのスピードとルビの岩攻撃の連携に翻弄されて、追い詰められる。

 コウモリ娘は翼を傷つけられ飛べなくなり、トカゲ娘は岩の連撃で足をやられ膝をつく。

 

「う、うそだろ…? ただのガキが…!?」

「ごめんね、痛くして……でも、これで終わりだから」

 

 男達が青ざめる中、アオイは静かに最後の指示を出す。

 

「ココちゃん、仕上げ! ルビちゃん! 2人まとめて、吹き飛ばして!!」

 

 ココが全力で跳躍し、トカゲ娘の頭上から急降下して体当たりを食らわせる。

 ルビが最後に巨大な岩投げ飛ばしてぶつける。

 その衝撃が重なり、鈍く大きい音を立てて、2人のモン娘がまとめて吹き飛ばす。

 そして、彼女達は動かなくなった。

 

「……終わった、ね」

 

 アオイは息を整えながら、悲しそうに呟いた。

 戦闘時間、わずか3分。

 カップラーメンが出来る時間での圧倒だった。

 ブラックカラー団の構成員達は、逃げるのも忘れて呆然と立ち尽くすしかない。

 

「ば、ばかな……ただのガキ共に負けるなんて……こ、この道具が役立たずなせいで」

「モン娘は、道具なんかじゃないよ!」

 

 アオイは声を張り上げて、はっきりと叫ぶ。

 その迫力に、構成員達はビクッと体を震わせる。

 

「モン娘は家族なんだから! 大切にしたら、ちゃんと応えてくれる! あなた達が私達に負けたのは、あなた達が悪い人だから。それだけだよ!!」

 

 若干12歳の少女。

 だというのに、彼らにはとてつもない化け物が目の前に立っている気がした。

 

「に、逃げるぞ!」

「で、でも、あのペット共は?」

「置いてきゃ、あいつらの足止めぐらいにはなる! 俺達は逃げるぞ!!」

 

 情けなく、みっともなく、腰砕けになりながら、背中を向けて逃げていく、構成員達。

 

「あ! いいんですか、マスター? 追わなくても?」

「今は、ルビちゃんのお母さんと、操られていた人達を助けてあげないと……」

「うー! うー!」

「まったく……分かりましたよ、マスター」

 

 その言葉に、ココが仕方のない人だと小さく微笑み。

 ルビがとても元気よく返事をする。

 こうして、ブラックカラーとの2度目の戦闘は、アオイの勝利で終わるのだった。

 

 

 

 

 

「こんな所で堂々と、モン娘の密猟をしているとは……まったく下っ端は勝手に動き過ぎでありますな」

「誰だ、てめえは!?」

 

 構成員達が這う這うの体で、山道を逃げ回っていた時。

 1人の女性が3人の前に立ち塞がる。

 

「またまた、アオイ殿のお手柄でありますな」

「警察…? しかも、ハーフ(汚れた血)かよ」

「人間にも、モン娘にもなれねぇ半端物が……俺達に何の用だよ!」

「モン娘と違って、売り物にもならねぇ、血のゴミが!」

 

 女性、ミコトの登場に敵意をむき出しにする、構成員達。

 口々に汚い言葉を吐き、彼女を侮辱する。

 そんな、想像を絶する罵倒に対して彼女は──

 

 

「嫉妬でありますか?」

 

 

 あっけからんと答えて見せる。

 

「は?」

「本官はダブル。人間とモン娘の特徴を引き継いだ、2倍お得な存在であります!」

 

 呆気にとられる構成員達に、堂々とした口調で答えて見せる、ミコト。

 その瞳には、差別に晒されているという、悲壮感など欠片もない。

 

「なんだ、こいつ頭おかしいのか?」

「ダブルなんて、ハーフの言葉遊び。あの基地外のチャンピオンが言い出した呼称だろ?」

 

 ピクリとミコトの耳が絞られる。

 まるで、今の言葉を決して許さないとでも言うように。

 

「……待てよ? アジトで聞いたことがあるぞ」

「何をだ?」

「警察に俺達の仲間が居るって聞いたことあるだろ? 引きこもりのボスが()()()()奴らしい。そいつの名前が──」

 

 ──ドムッ! 

 

 ミコトの腕が話していた構成員の腹にめり込む。

 

「ガ…ハッ!?」

「1つ訂正を。本官は、少なくともあなた達の仲間ではありません」

 

 気を失い、ズルリと倒れ落ちる男をよそに、ミコトは残りの2人を睨みつける。

 

「ヒッ!」

「そして……本官のことを馬鹿にするのは、結構ですが──」

 

 人間と同じ体ではない。

 モン娘程力があるわけでもない。

 だが、その中間であっても、並みの人間では太刀打ちできないパワーを持つ。

 そんな彼女が、一度怒り狂えば──

 

 

「──あのお方を侮辱することだけは許しません」

 

 

 ──ただの人間に太刀打ちする術はないのだ。

 




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