原作においてビターガヴは様々な変身者が存在する、いわば量産型の仮面ライダー。そんな量産型ダークライダーになってしまった前世人間、今世グラニュートのある転生者のお話。

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最強のビターガヴになるには

麻酔の酩酊感から意識が浮上する。

ふわふわと覚束無い視線とは裏腹に酷く聴覚はハッキリと機能し、その声を拾った。

 

「やあ、お目覚めかな?」

 

淡々と事実だけを伝えているようで、自らの所業が成功したことに悦びを隠し切れていないその声の主に、俺は麻酔で麻痺した口を開き声をかける。

 

「……ニエルブ様」

 

ニエルブ・ストマック。あの悪名高き闇菓子の製造元、ストマック社の開発部門担当の次男坊。……そして俺の師であり、利用相手であり、改造を施したマッドサイエンティストだ。

 

「術後は良好、拒絶反応も無し。それどころか今までで一番の適合率だ。流石に赤ガヴには負けるけどね」

 

こちらを無視しておきながら観察だけは怠らない。嬉々として評価しつつ余計な一言を浴びせてくるこの御仁にいささか辟易するものの、一時の上司に当たる故に粗相は出来ない。

 

「……オリ、ジナルと、比べられても、困ります」

 

「ごめんごめん。それで?どうかな?その新しいガヴは」

 

とはいえ愚痴る位は許されよう、その程度で機嫌を損ねる様な御仁では無いのだから。

 

未だ麻酔の影響でふらつきながらも手術台から起き上がると、全く心の籠らぬ軽い謝罪を口にしながらニンマリとニエルブは俺の腹を見やって示す。異形の証たるガヴ器官と呼ばれるグラニュート特有にして異端の臓器、黒ガヴことビターガヴを。

 

「ふむ、端から見た時はどうなのかと思いましたが……。いざ自分の一部となるとこれはこれで悪くはありませんね」

 

「気に入ったようで何より。前の被験者(マーゲン)には不評だったからね、これで少しは僕の共同研究者も報われる」

 

「酸賀様、でしたか」

 

このビターガヴの開発者であり、マッドサイエンティストと言っても過言ではない人間、酸賀研造の事を頭に浮かべる。自分の評価は単純、同情はするがそれはそうと狂っていることに変わりは無い、だ。

 

「うん。そんな酸賀さんの置き土産にして、君の新しい武器だ」

 

そういうとニエルブは生物の頭と大型拳銃を模した武器、ベイクマグナムをこちらに手渡す。……()()()()ビターガヴ共々、漸く自分がこれを手にすることが出来た……。

 

「使い方は?」

 

「知ってますよ。マーゲン様のベイクマグナムを整備していたのは私なのですから」

 

「あぁ、そういえばそうだっけ」

 

コイツ、忘れてやがったな?事も無げに宣うニエルブをジト目で見ながら内心タメ息を吐く。研究にしか興味が無いとはいえ流石に致命的だろうに、だから()()()に反逆前提で利用されてる事に気づいてすらない。そも、交換条件とはいえ俺を助手にして技術を惜しげ無く与えてる時点で詰みもいいとこ、勝負にすらなってない。

 

「まあ良いじゃないか何でも。それより検証だ、はいコレ」

 

そんな俺の内心を知るよしも無いニエルブは、黒と赤で彩られた小さなキーホルダーのような物を差し出して来た。

 

「最初に出すのがコレなのは趣味悪いですよニエルブ様」

 

若干の苦笑いを浮かべながら上司に小言を言うが、肝心のニエルブには馬耳東風。気にもせずニヤニヤと眼鏡をクイッと直す。

 

「さっきも言ったけど君の黒ガヴとの適合率は過去最高だ。出来ることはなるべく把握しておきたい」

 

「ハァ……まったく……」

 

そんな子供の様な上司の様子に呆れながらも、ビターガヴの口を開き、小さなキーホルダー……ゴチゾウと呼ばれる眷属を食らう。

 

 

『グミ』

 

『BITE グミ BITE グミ BITE グミ』

 

 

ビターガヴが俺の意識とは別に一人でにおぞましく喋りだす。それと同時にガヴの右側にあるスロットルレバーを回し、口の中のゴチゾウを噛み締めていく。

 

すると透明な袋に全身が覆いつくされ、下から溢れ出たシュワシュワとした茶色い液体とそこに浮かぶ同色のプニプニした固形物の中に沈められる。

 

「さあ、検証の始まりだ」

 

「楽しそうでなによりで……。変身」

 

ある程度噛み締めてゴチゾウのエネルギーを取り込んだら、左側のスイッチを叩く様に押し込む。

 

 

『ギャハッハッハッハ!』

 

 

またもおぞましい笑い声を響かせて、取り込んだゴチゾウのエネルギーをビターガヴから吐き出すように解放する。俺を覆っていた液体と固形物が徐々に身体に纏われていき、生体鎧として機能を始める。

 

 

『スパーキングミ…! ヤミー…!』

 

 

先程までのおぞましさは何処へやら、大人しく淡々と宣言するようにビターガヴが言い放つと同時に袋が弾け飛び、変身が完了した。

 

「成功だね。気分は?」

 

「そうですね。……悪くない、ですよ」

 

と、社交辞令の様な言い回しだが実際は違う。映像越しに見る自分の姿に感動を覚える。ハードルは低いと思ってたがそれでもタイミングが間に合うかは微妙だった。だが、手にいれた。望んでいたダークライダーの力を……!

 

「それじゃあ、データ収集を始めよう」

 

「了解しました」

 

とはいえ浸るのはもう少し後回しにしよう。今は自分が仮面ライダーとして何処までやれるのか、それに注視しなくてはならない。自分の目標と旦那様やお嬢様に尽くし切る為にも。

 

「……!」

 

ニエルブのガヴから眷属が吐き出される。彼らストマック家の眷属の姿は兄弟で同一のもの、見分けるには顔と装飾の色を確認しなくてはならない。ニエルブの眷属の色はオレンジ、暖色系なので直ぐに分かる。

 

「ハッ!」

 

眷属の1体が突っ込んでくる。ニエルブの眷属は兄弟の中では中堅程の実力だが彼の特性か、とても器用だ。気を付けねばいつの間にか絡め取られてる事もあるだろう……だが。

 

「ァ!?」

 

「………」

 

それは俺に実力が無い場合だけだろう。眷属の拳は黒いグミ状の鎧の弾力に阻まれ、弾かれる。

 

「防御はまずまず。……確か、酸賀様の開発されたビターガヴは、こんな事をしてましたか」

 

淡々と流れ作業の様に腕を振るう。するとまるでゴムが延びる様に腕が伸び、距離を取っていた眷属の顔面に拳が吸い込まれるように当たる。

 

「凄いな。もう特性を理解したのかい」

 

「資料がありましたので。再現は簡単ですよ」

 

「それなら、少し難易度を上げよう」

 

思った以上の性能にニエルブは歓喜しながら眷属を2体追加する。余計な事をするなと仮面の中で苦い顔をしながら思いつつ、1体だけでは性能を掴むまでには至らないと思い黙認し、ベイクマグナムを構える。

 

「ハッ」

 

「デャッ」

 

「フン」

 

「流石はニエルブ様の眷属、正確で無駄の無い」

 

3体の眷属が連携を取りながらこちらに仕掛けてくる。狙いは正確、決まれば大体の相手は終わるだろう。

 

「まあ、無駄が無さ過ぎて分かりやすいんですけどね!」

 

俺が相手で無ければの話だが。グミの弾力を利用して跳ねる様に室内を飛び回る。俺を見失った眷属たちは必死に俺に攻撃しようと銃を乱射するが、見失った俺を捕えられる訳も無く、まぐれ当たりも鎧で弾かれ意味を成さず。俺は中央に追いつめられ集まった所を一掃する。

 

 

『BURNING!』

 

 

ベイクマグナムにゴチゾウを装填してガコンガコンガコンと三回、ゴチゾウを噛み砕く様に上部銃身を動かし、眷属の真上で引き金を引く。

 

 

『FULL EXPLOSION!』

 

 

「「「グアァァァァッ!?」」」

 

雷を帯びた超高出力のエネルギービームが3体の眷属を纏めて焼き払う。中々思う通りに動けて満足だが、まだまだこれでは足りない。俺が想定している三人のハンターはこれ以上なのだから。

 

「ニエルブ様、次を」

 

「珍しくやる気だね。まあ僕もデータが収集出来るし問題無いけど」

 

普段俺から要求をする事がないからかニエルブに多少驚かれたが、直ぐに元の研究者の顔に戻り、眷属が追加される。

 

「さっきの倍だけど行ける?」

 

「何の問題も無いですね」

 

さらりと言ってのけた俺に腹が立ったのか、語気荒く眷属たちが押し寄せてくる。でも仕方がないだろう?実際役不足も良いところなのだから。

 

「ハァッ!」

 

「遅い、もっと素早くコンパクトに動きましょう!」

 

真っ先に飛びかかった眷属の銃剣をベイクマグナムで受け止めながら二人目を蹴り飛ばし、三人目にビターガヴから射出したビターガヴガブレイドを当てて対処する。

 

「ギャッ!?」

 

「一々狼狽えない。自分の役割を忘れるべからず、です」

 

「ゴアッ!?」

 

跳ね返って来たガヴガブレイドで一人目を斬り捨て、ベイクマグナムで倒れていた二人目に止めを刺す。

 

「グゥゥ!!」

 

「悔しいですか?ではその悔しさは意味の無いものと知りなさい」

 

三人目の肩に飛び乗り、肩車の体制から援護射撃をしていた残りの三人をベイクマグナムの連射で牽制、そのまま銃身でガヴガブレイドの口を模したボタンを押し込み、刀身の紫色のエネルギーの斬撃を三人目を地面に潰しながら凪払う。

 

「「「ギャァアアァア!!?」」」

 

「残り一人」

 

「グ……ガッ!?」

 

潰していた最後の眷属を蹴り飛ばしながら、ビターガヴのレバーを回転し始める。

 

 

『BEAT YOU BEAT YOU BEAT YOU』

 

 

「最後は派手に行かせていただきましょう」

 

フラフラと立ち上がる眷属を無感動に見ながらビターガヴのスイッチを叩き込む。

 

 

『スパーキングミ…! END…!』

 

 

「ハアッ!」

 

その場で屈んで飛び上がって一回転し、回転の遠心力で脚を伸ばしながら眷属に踵落としを叩き込み潰す。

 

「ゴッ……」

 

眷属は断末魔を上げる間もなく爆散していった……と同時にゴチゾウのエネルギーが切れたのか、天使の羽根を生やして昇天してしまった。

 

「ふむ…ゴチゾウの消費管理がネックですね…」

 

「お疲れ。中々良いデータが取れたよ」

 

鎧が熔け、変身が解けるとニエルブがにこやかにこちらにやって来る。…あんなに機嫌がいいのだから本人が言うようにいいデータだったんだろうな。

 

「眷属の消費に関しては問題ない。人間界のお菓子を食べれば生産可能だ」

 

「私は眷属呼べる体質では無いのですが」

 

「それを踏まえての改造さ。ほら、食べなよ。あまり口に合わないかもだけど」

 

余計な一言と共に渡されたのは人間界のお菓子、クッキー。食べるのはグラニュートに生まれ変わって以来だからもう二十年以上前か……。自分の味覚がまだ人間の食べ物を受け付けるのか心配しつつも、受け取ったクッキーを食べる。

 

「……美味しいですね、コレ」

 

「えっ、本当に?」

 

「はい。柔らかいのが不満ですが、味は好みです」

 

「そ、そうなんだ……」

 

なんでちょっとドン引きしてやがるんだこのマッドサイエンティスト。でも良かったぁ…まだ人間の食べ物が美味しいと感じられて。

 

「……おや?」

 

そんなことを思いつつクッキーを齧っていると、俺の腹……つまりはビターガヴが反応をし始める。光を放っている口に手を差し出すと吐き出される様にゴチゾウが産み出された。

 

『……グゥゥ』

 

「本当に産まれましたね」

 

「検証終了。その眷属の能力は酸賀さんやマーゲンで収集済みだから、今日はもう休んで良いよ」

 

産まれた初めての俺のゴチゾウ、ブレイクッキー。不機嫌なのか、単に動きたくないだけか掌でジッとしたまま唸っている。まあそれでも俺から産まれたのだ、見た目も愛らしいなら愛着も沸く。

 

「これから頼みます」

 

『……ング』

 

指先で撫でながら話かけると、少しは雰囲気が和らぎ確かにこちらを見据えてお辞儀して唸るのを止める。どうやら主が誰かを認識していなかっただけらしい。

 

「あー!いたー!」

 

「おおぅっ!?」

 

『クキィ!?』

 

ゴチゾウとのコミュニケーションを図ろうとした時、実験場に元気すぎる声と共にツカツカとこちらに歩んでくるゴスロリファッションの淑女が一人、俺の元にプリプリと可愛らしく怒りながらやって来る。

 

「お、お嬢様!?婿殿と居たのでは!?」

 

「こ~んな所で油売っていたなんて信じらんない!速く行くわよ!」

 

唐突な登場に驚きながらも身を整えようとするが、それよりも速くお嬢様は俺の手を引き、早々に実験場から俺を連れ出していく。

 

「いやいや、行くったって何処に!?」

 

「そんなの決まってるでしょ?人間界よ」

 

何を言っているんだ、既に決まっているぞとばかりにはにかむお嬢様こと、我が雇い主の娘たるリゼル・ジャルダック様。もうお気付きかと思われるが、俺はジャルダック家の筆頭執事をやっている。

 

「だから、婿殿と向かわれたのでは?」

 

「それがジープったら、さっさと赤ガヴを探しに何処かに行っちゃったのよ~。だ・か・ら、迎えに行くついでに呼びに来たのよ♪」

 

「……お嬢様普通にお強いですよね?」

 

お嬢様の我が儘は今に始まった事では無いが、今回はかなり脈絡がないな……。かといって目を放すと何を仕出かすか分かったもんじゃないし、その辺り旦那様からキツく言われているので逆らいはしないが。

 

「何を言ってるの?私の外出に執事の貴方が着いてこなくてどうするの?」

 

これだもんなぁ……もう馴れたけどさ。

 

「ハァ……分かりました、お供致します」

 

「ため息禁止!」

 

「ハイ!」

 

俺の返事に宜しいとばかりにニッコリするとお嬢様は意気揚々と人間界への扉向かって歩み出す。その背を追いながら、彼女に思い馳せる。

 

ジャルダック家はこれから滅亡への道を歩む事が確定している。正直これに関しては同情の余地は無い。仕出かしたことが事だ、許されてはならないし赦されるべきでもない。だが…。

 

「それでも、少しばかりの希望は残して上げてもいいのでは?と思う辺り甘ちゃんだな…私は」

 

「何をぶつぶつ言ってるの?ひっぱたくわよ?」

 

「独り言の罪にしては重すぎませんかお嬢様!?」

 

訂正……やっぱり痛い目見た方が良いかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソォッ!……どうして、どうして赤ガヴなんかに勝てないんだ……!」

 

「これで、終わりだ!ジープ!」

 

少し時間は進んで人間界にて、歪な兄弟の殺し合いが決着しようとしていた。目の前で倒れ伏せるジープ・ストマックと彼に止めを刺そうとする仮面ライダーガヴことショウマ・ストマック。正直ジープを助ける義理はこれっぽっちも無い、というかジャルダック家没落の原因なんだからここで終わらせたい位なんだが……。

 

「それは困ります」

 

「な、グアッ!?」

 

「……ァ、お、お前は!?」

 

流石にお嬢様の命令を無視する程の価値も無い……故に助太刀です。ベイクマグナムをショウマ様に向かって撃ち、婿殿の前に庇うように立ち塞がる。

 

「ご無事ですか、婿殿」

 

「なんで…っ、お前が……っ!邪魔すんなぁ!」

 

「邪魔とは心外な。お嬢様の命により馳せ参じたと言うのに、あまり妻の親切を無碍にするものではございませんよ?」

 

現に手も足も出てないんだし、とは口には出さない。このクソガキが暴発してお嬢様に迷惑が掛かってはそれこそ本末転倒というもの。まあ、お嬢様の場合それすらも愉しんでしまいそうなのが頭の痛い所なのだが。

 

「お前、誰だ!」

 

「初めまして赤ガヴ……いえ、ショウマ様。誰だと申されれば……敵です」

 

燕尾服のボタンを外し、腹のビターガヴを顕にすると、ショウマ様は驚きながらも俺を警戒して構える。

 

「そのガヴ…!?まさかあんたもニエルブの!」

 

「不肖、助手を勤めさせていただいております」

 

その驚きを他所に、俺はビターガヴにブレイクッキーを食わせ、レバーを回し始める。

 

 

『クッキー』

 

『BITE クッキー BITE クッキー BITE クッキー』

 

 

ガヴガヴと回す度、ブレイクッキーのエネルギーが全身に満ちていき、背後に焼き上がったクッキーが現れる。

 

さあ、本当の意味での初陣だ。丁寧な所作でピンと揃えた掌を顔の前に翳す。

 

「変身」

 

瞳が緑色に輝くと同時に顔の前の掌を爪を立てる様な型にし、ボタンを叩き込んでブレイクッキーの力を解放する。

 

 

『ギャハッハッハッハ!』

 

 

後ろに控えていたクッキーが砕け、破片が素体の状態になった俺の身体に纏われていき、前回のスパーキングミとは違う、ブレイクッキーの鎧を纏ったビターガヴに変身を遂げた。

 

 

『ブレイクッキー…!ヤミー…!』

 

 

「その姿は、酸賀さんやマーゲンと同じ…!」

 

「あぁ、ショウマ様はこの姿をご存じなのでしたね。では改めて自己紹介を」

 

ビターガヴの姿で恭しく礼節を弁えた所作でお辞儀をし宣言する。彼の、ショウマ様たちグラニュートハンターの敵となる名を。

 

「ジャルダック家筆頭執事、ダスクと申します。以後、お見知りおきを」

 

これは、俺が最強の仮面ライダービターガヴになる話だ。

 


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