アイドル至上主義の教室へ   作:EXTERMINATION

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最終話 アイドル・オブ・フォーエヴァー

校内ホールは、まだ熱を残していた。

 

一之瀬クラスの爽やかな王道。

龍園クラスの静かな熱狂。

坂柳クラスの芸術的支配。

 

そして――堀北クラス。

 

ピンク色の異物。

 

その余韻が、会場全体に残っている。

 

ステージ裏では、各クラスの代表者たちが結果発表を待っていた。

 

一之瀬帆波は深く息を吐き、網倉麻子と顔を見合わせる。

 

「終わったね」

 

網倉が笑う。

 

「うん。やり切った感じする」

 

姫野ユキは壁にもたれながら呟いた。

 

「もう二度とやりたくない……」

 

一之瀬が苦笑する。

 

「でも最後、すごく良かったよ」

「疲れて感情が死んでただけ」

「それも味になってたと思う」

 

姫野は少しだけ視線を逸らした。

 

「一之瀬さん、何でもプラスに変換するよね」

「そうかな?」

「そう」

 

だが、姫野の口調はどこか柔らかかった。

 

龍園クラスでは、伊吹澪が水を一気に飲み干していた。

 

「……疲れた」

 

西野武子が落ち着いた様子で座る。

 

「でも、反応すごかったね」

 

椎名ひよりは小さく笑った。

 

「最後、本当に静まり返りましたね」

 

龍園翔は壁にもたれ、静かに口元を歪めていた。

 

「狙い通りだ」

 

伊吹が睨む。

 

「アンタ、本当に観客の空気で遊ぶの好きよね」

「使えるもんは使う」

「アイドル論とは思えないのよ」

 

龍園は肩をすくめる。

 

「だが記憶には残った」

 

西野が頷く。

 

「それは間違いない」

 

ひよりは静かに言った。

 

「でも、堀北さんたちも凄かったです」

 

龍園の目が少し細くなる。

 

「ああ」

「茶柱先生、完全に空気変えてましたね」

「教師をあそこまで使い切るとはな」

 

龍園は低く笑う。

 

「ククッ……やっぱり、綾小路は切れ者だ」

 

坂柳クラスでは、神室真澄が完全に脱力していた。

 

「もう動きたくない……」

 

森下藍は真顔で牛乳を飲んでいる。

 

「補給です」

「だから何を補給してるのよ」

 

坂柳有栖は椅子に座ったまま、穏やかに微笑んでいた。

 

「ですが、良い舞台でした」

 

神室が横を見る。

 

「満足そうね」

「ええ。私たちらしいステージはできました」

 

森下が頷く。

 

「静止するセンターは成功しました」

 

神室がため息を吐く。

 

「本当に最後までそれなのね」

 

坂柳は静かに目を閉じる。

 

「ただ――」

「ただ?」

「堀北さんたちは、予想以上でした」

 

神室も小さく頷いた。

 

「……うん。あれはズルい」

「ズルい?」

「教師をピンクアイドルにするなんて普通思いつかないでしょ」

 

森下が真顔で言う。

 

「永遠の15歳です」

 

神室が吹き出した。

 

「やめて、それ思い出すと笑う」

 

坂柳は小さく笑った。

 

「ですが、あれを成立させたのは見事です」

 

そして、堀北クラス。

控室の空気は、妙な脱力感に包まれていた。

 

軽井沢恵は椅子へ座り込んでいる。

 

「終わったぁ……」

 

堀北鈴音も静かに壁へ寄りかかっていた。

完全に疲れている。

だが、その表情にはどこかやり切った空気があった。

 

櫛田桔梗は嬉しそうに三人を見ている。

 

「本当にすごかったよ」

 

軽井沢が笑う。

 

「櫛田さん、めっちゃ応援してたじゃん」

「だって応援したくなるもん」

 

茶柱佐枝は腕を組んだまま、静かに息を吐いた。

 

「……終わったな」

 

軽井沢が見る。

 

「先生、ちょっと達成感ありません?」

「ない」

「絶対ある」

「ない」

 

堀北が小さく言う。

 

「ですが、先生がいなければ成立しませんでした」

 

茶柱は視線を逸らした。

 

「お前たちが無理やり引っ張り込んだんだろうが」

 

綾小路清隆は少し離れた場所でノートを閉じた。

 

記録は終わった。

 

ここから先は結果だけだ。

 

軽井沢が綾小路を見る。

 

「ねえ」

「何だ」

「正直どう?」

「難しいな」

「珍しく濁した」

 

綾小路は静かに言う。

 

「どのクラスも完成度が高かった。

一之瀬は王道で客席を掴んだ。龍園は空気を止めた。坂柳は印象を支配した」

「じゃあ私たちは?」

 

綾小路は少し間を置いた。

 

「最も予想を裏切った」

 

茶柱が低く言う。

 

「褒めているのか?」

「はい」

「そうか……」

 

軽井沢がにやりと笑う。

 

「先生、ちょっと嬉しそう」

「気のせいだ」

 

その時、ホール全体へアナウンスが流れた。

 

『これより、アイドル特別試験の結果発表を行います』

 

控室の空気が一瞬で変わる。

 

軽井沢が姿勢を正した。

 

堀北の表情が引き締まる。

 

茶柱も静かに前を見る。

 

結果。

 

全てが決まる瞬間だった。

 

代表者たちは再び舞台袖へ集められた。

 

ホールの熱気はまだ消えていない。

 

生徒たちのざわめき。

 

予想。

興奮。

 

誰が勝つのか。

 

意見は割れていた。

 

「一之瀬だろ」

「いや坂柳じゃね?」

「龍園クラス、最後ヤバかった」

「でも茶柱先生のインパクト強すぎたぞ」

「永遠の15歳だからな」

「やめろ笑う」

 

そんな声が飛び交っている。

 

茶柱はそれを聞き、静かに額へ手を当てた。

 

「……広まっているな」

 

軽井沢が吹き出しそうになる。

 

「そりゃ広まりますよ」

「綾小路」

「はい」

「余計な記録を流したか?」

「していません」

「信用できん」

 

舞台上には四クラスが並んでいた。

 

一之瀬クラス。

龍園クラス。

坂柳クラス。

堀北クラス。

 

それぞれの空気が違う。

それぞれの戦い方が違う。

 

司会役の教師が前へ出る。

 

「それでは結果を発表します」

 

ホールが静まり返る。

 

「第四位――」

 

誰も動かない。

 

「龍園クラス」

 

客席がざわついた。

 

伊吹が「は?」という顔をする。

 

西野は静かに息を吐く。

 

ひよりは穏やかに拍手した。

 

龍園だけは、薄く笑っていた。

 

「……なるほどな」

 

伊吹が睨む。

 

「アンタ悔しくないの?」

「悔しいに決まってんだろ」

 

龍園は低く言う。

 

「だが、負け方は悪くねぇ」

 

西野が頷く。

 

「印象は残したしね」

 

ひよりも静かに言う。

 

「楽しかったです」

 

龍園は小さく笑った。

 

「だったら次は勝つ」

 

「第三位――」

 

ホールが再び静まる。

 

「一之瀬クラス」

 

客席から驚きの声が上がった。

 

一之瀬も少し目を丸くする。

 

「えっ……」

 

網倉が苦笑する。

 

「これは予想外かも」

 

姫野は静かに言う。

 

「みんな強すぎたね」

 

一之瀬は少しだけ悔しそうだった。

だが、すぐに笑った。

 

「でも、楽しかった」

 

その笑顔に、網倉も笑う。

姫野は小さくため息を吐いた。

 

「そういうとこ、本当に強い」

 

残るは二クラス。

 

坂柳クラス。

堀北クラス。

 

ホール全体の空気が変わる。

 

誰もが息を呑む。

 

堀北は静かに前を見る。

 

軽井沢は手を握り締めていた。

 

茶柱は腕を組んだまま動かない。

 

坂柳は穏やかに微笑んでいる。

 

「第二位――」

 

短い沈黙。

 

そして。

 

「坂柳クラス」

 

ホールが揺れた。

 

歓声。

どよめき。

拍手。

 

神室が目を丸くする。

 

「マジで?」

 

森下は真顔だった。

 

「静止は二位でした」

「その言い方やめなさい」

 

坂柳は静かに目を閉じる。

それから、穏やかに拍手した。

 

「お見事です」

 

その視線の先。

 

堀北クラス。

 

軽井沢が完全に固まっていた。

 

「……え」

 

堀北も一瞬動かなかった。

茶柱だけが静かに息を吐く。

司会の教師が言う。

 

「第一位――堀北クラス」

 

その瞬間、ホールが爆発した。

 

歓声。

拍手。

笑い。

どよめき。

 

そして。

 

その熱狂は、もはや校内だけでは収まらなかった。

 

SNS。

動画サイト。

ニュースサイト。

 

あらゆる場所で、『SUPER IDOL FESTIVAL』の話題が拡散されていく。

 

『伝説の教師アイドル』

『会長系美少女』

『玉座の歌姫』

『読書家アイドル』

『HONAMI LOVEの人』

 

意味不明な単語が次々とトレンド入りしていた。

 

『#SuperIdolFestival』

 

世界トレンド一位。

 

その文字が表示された瞬間、各国のネットユーザーたちはさらに騒ぎ始める。

 

『何だこの学校!?』

『高校イベントの規模じゃない!』

『先生が優勝したって本当!?』

『日本はどうなってるんだ!?』

 

配信視聴者数は伸び続けた。

 

十万。

五十万。

百万人。

二百万人。

 

そして最終的には数百万へ到達する。

 

もはや学校行事ではない。

巨大エンターテインメントだった。

 

さらに世界中の大手芸能事務所から学校へ問い合わせが殺到した。

 

『ぜひ一之瀬帆波さんと面談を』

『坂柳有栖さんの歌声に可能性を感じます』

『堀北鈴音さんをスカウトしたい』

『椎名ひよりさんはデビュー予定ありますか』

『あの教師の方のお名前を教えてください』

 

職員室の電話は鳴り止まない。

教師たちは頭を抱えた。

 

そして極めつけ。

ニュース番組の生中継。

 

鬼島内閣総理大臣が真剣な表情で言った。

 

「これは国家事業にできないだろうか」

 

全国民が吹き出した。

 

官房長官が慌てて止める。

 

「総理、それはさすがに」

「しかし可能性を感じる」

「感じないでください」

 

ロサンゼルスでプレイする二刀流メジャーリーガーも言った。

 

「今度、僕の試合を観に来てください。チケットを送ります」

 

全部が混ざった熱狂。

 

世界規模の大騒動になったアイドル特別試験。

 

だが、その始まりは。

 

たった一つの学校行事だったのである。

 

「マジか!?」

「茶柱先生勝った!」

「永遠の15歳最強!」

「やめろ!」

 

茶柱が思わずツッコんだ。

軽井沢が吹き出す。

 

「先生、反応しちゃってる!」

 

堀北はまだ実感が追いついていなかった。

 

「……勝った?」

 

綾小路が静かに頷く。

 

「ああ」

 

軽井沢が堀北へ飛びつく。

 

「やったぁぁぁ!!」

「ちょ、軽井沢さん!」

 

櫛田も目を潤ませて拍手していた。

 

「すごい……本当に勝っちゃった……!」

 

茶柱は静かに空を仰いだ。

そして小さく呟く。

 

「……何なんだこれは」

 

綾小路が答える。

 

「アイドル特別試験です」

「知っている」

「優勝しました」

「それも分かっている」

 

茶柱は深くため息を吐く。

だが、その口元は少しだけ緩んでいた。

 

坂柳が静かに近づく。

 

「おめでとうございます」

 

堀北が振り向く。

 

「ありがとう」

 

坂柳は茶柱を見る。

 

「まさか教師をここまで成立させるとは思いませんでした」

 

茶柱が低く言う。

 

「褒めても何も出ん」

「ですが、本当に見事でした」

 

神室も苦笑した。

 

「正直、かなり悔しい」

 

森下が真顔で言う。

 

「永遠の15歳が強すぎました」

「だからその呼び方をやめろ」

 

龍園も近づいてくる。

 

「ククッ……」

 

伊吹が呆れる。

 

「また笑ってる」

 

龍園は堀北クラスを見る。

 

「いいステージだった」

 

それは本気の言葉だった。

 

「観客を完全に持っていったな」

 

綾小路は静かに答える。

 

「お前たちも強かった」

「知ってる」

 

龍園は口元を歪める。

 

「だから余計に面白ぇ」

 

一之瀬も笑顔で拍手していた。

 

「おめでとう!」

 

網倉も頷く。

 

「すごく良かった」

 

姫野は静かに言う。

 

「先生、完全に主役だったね」

 

茶柱が目を閉じる。

 

「やめろ」

 

軽井沢が笑う。

 

「でも実際そうでしたって!」

「お前は本当に……」

 

ホールの熱狂はしばらく収まらなかった。

 

教師がアイドルとして優勝した。

 

そんな異常事態。

 

だが、その異常を成立させてしまった。

 

それが堀北クラスだった。

 

しばらくして。

 

表彰が終わり、生徒たちが少しずつ帰り始めた頃。

 

堀北クラスの四人は、静かになった舞台袖に残っていた。

 

軽井沢はまだ興奮している。

 

「いやー、勝っちゃったね!」

 

堀北は静かに息を吐く。

 

「まだ信じられないわ」

 

櫛田が笑う。

 

「でも、本当に良かった」

 

茶柱は衣装姿のまま壁へもたれていた。

 

「……終わったな」

 

綾小路は静かに言う。

 

「はい」

 

短い沈黙。

茶柱は少しだけ遠くを見る。

 

「教師人生で、自分がピンクのアイドル衣装を着て優勝するとは思わなかった」

 

軽井沢が笑いをこらえる。

 

「先生、そのワードだけで強いんですよ」

「笑うな」

「無理です!」

 

堀北も肩を震わせていた。

茶柱がそれを見る。

 

「堀北」

「……は、はい」

「笑うなら隠せ」

「は……はは、あはは!無理です!」

 

その瞬間だった。

 

パシャッ!!

 

やけに高性能なシャッター音がホール裏へ響いた。

 

全員の視線が一斉にそちらを向く。

 

そこには、携帯端末を構えた須藤健がいた。

 

須藤は完全に固まっている。

 

画面には、満面の笑みで笑う堀北鈴音が映っていた。

 

空気が止まる。

 

堀北の笑顔も止まる。

 

茶柱が低く言う。

 

「……須藤」

 

須藤は引きつった顔で後退った。

 

「い、いや!違ぇ!これは事故というか!」

 

堀北がゆっくり振り向く。

 

「須藤くん」

 

その声は静かだった。

 

静かだったが。

 

逆に怖かった。

 

「……今、何を撮ったのかしら?」

 

須藤の背中を冷や汗が流れる。

 

「いやその、笑ってる鈴音が可愛くてつい……」

「消しなさい」

「はい!」

 

須藤は即答した。

 

だが、軽井沢が横から端末を覗き込む。

 

「ちょ、待って」

 

須藤が固まる。

 

軽井沢の目が見開かれる。

 

「……え、何これ」

 

堀北が眉を寄せる。

 

「何よ」

 

軽井沢は端末を見たまま言った。

 

「めちゃくちゃ可愛い」

 

沈黙。

堀北の動きが止まる。

 

「……は?」

 

櫛田も覗き込む。

 

「あ、本当だ。すごく自然」

 

茶柱まで視線を向けた。

 

そして。

 

「……珍しいな」

 

須藤が勢いよく頷く。

 

「だ、だろ!?いや違う、そうじゃなくて!」

 

堀北は顔を赤くするわけではなかった。

だが、明らかに動揺していた。

 

「須藤くん」

「はい!」

「今すぐ消しなさい」

「はい!」

 

須藤は慌てて操作する。

 

だが、その瞬間。

 

佐藤が後ろから顔を出した。

 

「え、何それ見せて」

「うわ来た!」

「ちょ、マジじゃん!?」

 

佐藤の声が響く。

 

嫌な予感しかしなかった。

堀北の目が細くなる。

 

「佐藤さん」

 

「いや違うって!これは歴史的瞬間というか!」

 

軽井沢が笑いを堪えている。

 

「堀北さん、完全にアイドルの顔してる」

「やめなさい!」

 

櫛田も笑っていた。

 

「でも、本当にいい写真だよ」

 

茶柱は深くため息を吐く。

 

「……終わったな」

 

綾小路だけは静かにノートへ書き込んでいた。

 

『堀北――自然な笑顔、撮影成功』

 

堀北が振り向く。

 

「綾小路くん」

「何だ」

「あなたも消しなさい」

「記録だ」

「消しなさい」

「善処する」

「だからその返事を――!」

 

ホール裏に、再び笑い声が響いた。

 

そして、数日後。

 

昼休み。

教室の一角が異様に盛り上がっていた。

 

「おい見ろよこれ!」

「マジで売ってんの!?」

「鈴音のブロマイド、残り二枚!」

「須藤、お前どこで印刷した!?」

「知らねぇよ!気づいたら増えてたんだよ!」

「絶対お前だろ!」

 

教室の中心では、須藤らクラスメイトたちが騒いでいた。

 

その手には。

 

一枚の写真。

 

アイドル特別試験の後。

 

満面の笑みで笑っている堀北鈴音。

 

しかも妙に画質が良い。

 

軽井沢が席で笑いを堪えていた。

 

「いやー、マジで広まっちゃったね」

 

櫛田も苦笑している。

 

「みんな欲しがってるみたい」

「なんでよ……」

 

教室後方。

 

堀北鈴音は深くため息を吐いていた。

 

机へ頬杖をつきながら、騒ぐクラスメイトたちを見る。

 

数週間前。

 

こんな光景は想像もしていなかった。

 

自分がアイドル衣装を着るなど。

 

笑顔を撮られるなど。

 

それがブロマイド化されて学校中へ流通するなど。

 

意味が分からない。

 

本当に意味が分からない。

 

だが、騒いでいるクラスメイトたちの顔は、どこか楽しそうだった。

 

須藤がブロマイドを掲げる。

 

「これはレアだぞ!」

「奇跡の笑顔バージョン!」

「ネーミングセンス最悪よ!」

 

堀北が即座にツッコむ。

 

教室に笑いが起きる。

 

軽井沢がニヤニヤしながら言う。

 

「でも実際、あの時の堀北さんめちゃくちゃ可愛かったし」

「軽井沢さん」

「はいはい怖い怖い」

 

櫛田が優しく笑う。

 

「でも、みんな嬉しかったんだと思うよ」

 

堀北は少しだけ黙った。

 

嬉しかった。

 

楽しかった。

 

本気だった。

 

馬鹿げた試験だった。

 

なのに。

 

気づけば、自分もその中心で笑っていた。

 

窓から冬の風が吹き込む。

 

教室は騒がしい。

 

いつもの高度育成高等学校。

 

いつもの日常。

 

ただ一つ違うのは。

 

堀北鈴音という存在が、少しだけ変わったことだった。

 

堀北は騒ぐクラスメイトたちを見つめる。

 

それから。

 

小さく。

 

本当に小さく、柔らかな笑みを浮かべた。

 

「……勘弁して頂戴」

 

その声は呆れ半分。

 

けれど。

 

どこか穏やかだった。

 

騒がしい教室。

 

笑い声。

 

馬鹿みたいなブロマイド騒動。

 

そして。

 

ほんの少しだけ変わった日常。

 

アイドル特別試験。

 

それは、一日限りの祭りだった。

 

けれど。

 

あの日の熱狂も。

 

歓声も。

 

ピンク色の伝説も。

 

きっと彼女たちの中へ残り続ける。

 

永遠に。

 

――アイドル・オブ・フォーエヴァー。

 

END

 

 




■あとがき
「アイドル至上主義の教室へ」完結です。
平和至上主義では主にコメディを投稿しているのですが
長編ではコメディものってないなと思い、
バニーロック三部作の失敗も踏まえて
スケールアップ版として執筆しました。

初期プロットでは茶柱がラストシーンを飾る予定でしたが、
ちょっと彼女のインパクトが強すぎるので堀北でエンドとなりました。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました!

次回作として「ようこそ卒業できない教室へ」を投稿します。
茶柱先生を主人公にした作品で、まだ正体不明の白銀を登場させます。
あくまでも僕オリジナルのキャラという設定なので、原作の白銀とは別人です。
内容は退学どころか、学歴が高校中退扱いになる危機に生徒たちが直面し
それを茶柱が生徒を救うために奮闘する姿が描かれます。

【挿絵表示】

途中までですが、試し読みとして第一話「綾小路のいない教室」をどうぞ。



高度育成高等学校三年生校舎の廊下には、
春の終わりを思わせる柔らかな陽射しが静かに差し込んでいた。

窓ガラスへ反射した白い光は床へ長く伸び、
まだ新学期の空気を完全には脱ぎ切れていない
三年生たちの制服を淡く照らしている。

だが、その穏やかな景色とは裏腹に、三年Aクラス――
堀北クラスの空気は、どこか微妙に噛み合っていなかった。

それは誰かが露骨に荒れているわけでもなければ、
クラス内で大きな対立が起きているわけでもない。

むしろ表面上だけ見れば、このクラスは以前よりも遥かにまとまっていた。

須藤健は以前のようにすぐ暴れなくなり、
池寛治も不用意な発言で空気を壊すことが減った。

軽井沢恵を中心とした女子グループも安定しており、
平田洋介は相変わらずクラス全体へ気を配っている。

堀北鈴音は、生徒会長としての責任を背負いながら、
確かにクラスリーダーとして成長していた。

櫛田桔梗もまた、かつてのような爆発寸前の危うさは影を潜めている。

だが、それでも。
この教室には、埋めようのない空白があった。

茶柱佐枝は教室後方の窓際から、生徒たちの姿を静かに見つめていた。

授業開始前のざわめき。

笑い声。
誰かが机を引く音。
端末を弄る音。
日常そのものの光景。

なのに、茶柱の胸には妙な空虚さが居座っていた。
その原因を、彼女自身が分からないわけではない。

綾小路清隆。

かつてこのクラスにいた、あまりにも異質な生徒。

彼は今、この教室にはいない。
坂柳有栖が去った旧Aクラスへ移籍し、既に数ヶ月が経過している。
表面上、このクラスは綾小路の移籍を乗り越えたように見えた。

実際、堀北は以前より遥かに強くなった。

クラスも崩壊しなかった。

だが茶柱だけは、未だにあの空席の感覚から抜け出せずにいた。

教壇から見て右後方。
以前まで綾小路が座っていた席。
今は別の生徒が座っている。
それなのに、茶柱の視線は時折、そこへ吸い寄せられてしまう。

自分でも情けないと思う。

教師である自分が、一人の生徒へこれほど依存していたのかと。

だが、否定できなかった。

綾小路がいたから、このクラスはここまで来られた。
綾小路がいたから、幾度もの特別試験を乗り越えられた。
綾小路がいたから、自分はAクラス卒業という夢を本気で見られた。

そして今、その綾小路はいない。

「……先生?」

不意に声をかけられ、茶柱は小さく目を動かした。

目の前には堀北鈴音が立っている。

「どうした」
「ホームルームの時間です」
「ああ……そうだったな」

自分でも分かるほど反応が遅れた。
堀北は何も言わなかったが、その視線には僅かな心配が滲んでいた。

茶柱は教壇へ向かう。

生徒たちが席へ着いていく。
以前より統率が取れている。

それは事実だった。

綾小路がいなくなったことで、
逆に堀北が自分で立たなければならなくなった結果でもある。

本来なら、教師として喜ぶべき成長なのだろう。
だが茶柱の胸には、どうしても拭えない感覚が残っていた。

本当に、このクラスは綾小路なしで最後まで戦い抜けるのか。
自分は、本当にこの生徒たちを卒業まで導けるのか。

「これよりホームルームを始める」

茶柱の声が教室へ落ちる。

だが、その瞬間だった。
校内放送が鳴った。

『三年生担任教師は至急会議室へ集合してください。繰り返します――』

教室がざわつく。
茶柱は小さく眉を寄せた。

このタイミングで教師招集。

しかも三年限定。

嫌な予感がした。

「自習していろ。すぐ戻る」

短く言い残し、茶柱は教室を出た。
廊下を歩きながら、彼女の胸には妙な圧迫感が広がっていく。

高度育成高等学校では、突然の特別試験など珍しくもない。

だが今回の空気は違った。

教師限定招集。

しかも三年生のみ。

卒業を目前にしたこの時期。

胸騒ぎが消えない。

会議室へ入ると、既に他クラス担任たちが集まっていた。

星之宮知恵。
真嶋智也。
坂上数馬。

皆、どこか険しい顔をしている。

そして会議室前方。
そこには見知らぬ男が立っていた。

片目に付けた眼帯。
銀色に近い灰髪。
整いすぎているほど整ったスーツ。
感情を感じさせない瞳。

男は教師たちを見渡し、静かに口を開く。

「初めまして。本日付で三年生教育監査を担当することになりました、白銀です」

空気が微かに張り詰めた。

教育監査官。

その単語だけで十分だった。

高度育成高等学校は、国の実験教育機関に近い側面を持つ。
ゆえに定期的な監査そのものは珍しくない。
だが、卒業直前の三年生へ限定した監査など、茶柱は聞いたことがなかった。

白銀は資料を机へ並べながら続ける。

「本日より、三年生全クラスを対象に卒業資格再認定監査を実施します」

その瞬間、会議室の空気が完全に変わった。
星之宮が即座に反応する。

「待ってください。卒業資格再認定?」
「はい」

白銀は淡々と頷く。

「本校三年生が、社会へ送り出すに相応しい人材かを再評価します」

真嶋が低い声で言う。

「今さら何を言っている。生徒たちは既に三年間ここで学んできた」
「だからこそです」

白銀は一切表情を変えない。

「卒業とは、学校が社会へ出す推薦状です。
その推薦に値するかを確認する必要があります」

茶柱の胸に嫌な感覚が広がる。

白銀は続けた。

「不適格と判断された場合、その生徒の卒業資格は剥奪されます」

沈黙。
一瞬、誰も言葉を発せなかった。

そして次の瞬間。

「ふざけるな!」

坂上が机を叩いた。

「卒業直前だぞ!?今さら高校中退扱いにする気か!」



最後まで書かれた第一話は明日の18時に投稿予定です。
よろしくお願いします。
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やまうちのなく頃に(作者:おやまうちさま)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ )

特別試験の日に、繰り返される惨劇(喜劇)。毎回、山内が退学し、山内が行方不明になるという、終わらない連続退学。試験の真相は?Aクラスでの卒業は?▼山内は、好奇心から学校の闇へと足を踏み入れてしまう。繰り返す度に、山内の周りが少しづつ、だが、確実に変わりはじめる。そう、すべてが……▼やまうちのなく声だけが変わらず、高度育成高等学校に、毎度、お馴染みの退学を告げ…


総合評価:1034/評価:8.57/連載:26話/更新日時:2026年07月02日(木) 18:15 小説情報

退学したくない憑依山内くん(作者:白黒パーカー)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

 山内に憑依してしまった主人公が、退学を阻止するために立ち回るお話。


総合評価:8935/評価:8.71/連載:11話/更新日時:2026年07月04日(土) 10:07 小説情報


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