ウマ娘プリティーダービー -LEGEND OF TRIZEL- 作:カズノリ
「質問ッ!」
非公式レースでの出番を終えて「さて、帰るかー」と思いながら控室へ戻るために廊下を歩いていると、突然、アタイ、リンクノエポナの前にドレス風の服装を着込み、白色のハット帽に黒猫を乗せた妙なちんちくりんが扇子を広げて何かを言ってきやがった。
何故に帽子に黒猫が乗っているのかはすげー気になるし、何故扇子に「質問」と書いてあるのも気になってはいるが!別にどうでもいい。
声をかけてきたちんちくりんの後ろから、濃い緑色の帽子と服を着た女がゆっくりとコチラへ来ているのも見えた。
「あん?誰だガキンチョ」
「おっと!まずは自己紹介からだな!
我はトレセン学園理事長!秋川やよいである!!」
「私は理事長秘書の駿川たづなと申します、ハリボテエレジーさん。いえリンクノエポナさん」
「はぁ?トレセン学園の理事長ぉ?おめぇみたいなガキンチョが?」
いや、あり得ないだろ?たづなとかいうやつが秘書なのはわかる、秘書っぽい格好しているし、ちんちくりんのガキンチョが大人なら、その立ち位置は正しく秘書だろう。
そう、このガキンチョが本当にトレセン学園の理事長なら、だけどな。
「この方は間違いなく、トレセン学園理事長の秋川やよい様でございます」
「ふーん、で?そのトレセン学園理事長様がなんでここにいるんだ?」
「ふむ!我がトレセン学園へ是非! 来てほしいのだ!!」
「ある方から、アナタを推薦したいとの申し出がありました。卒業後はどの様になさる予定ですか?」
なんか、秘書の方が話がわかりやすいな。
さて、アタイを推薦? 誰だ?
「なんで卒業後の事を話さないといけねぇーんだよ。誰がアタイを推薦したのかはわからねぇーが、お断りだ。
それに、悪いがアタイは他のウマ娘みたいに公式レースなんて、興味ねぇーんだよ。
んじゃ。話はコレで終わりだな」
トレセン学園?
なんで行かないといけねぇーんだよ。
そんな所へ行くよりも、卒業後は義務教育が終わるんだからこれまで以上に自由が得られんだ。
その分、アイツを探しに行けるっつーのに。
だが、アタイの言葉にそこまでショックを受けなかったのか、2人は平然としてやがる。
「そうか!
では! 改めて聞こう!」
「あん?」
「質問!
お主は一体何を探しているのだ?」
「・・・なんで知ってやがる」
「アナタの事は調べさせて頂きました。(道雪様から)」
「・・・」
「何年も何度も、非公式レースへ出場。
アナタが幼かったということもありますが、意外にも注目されていたのですよ?」
まぁ、その程度は分かっている。
流石のアタイでもやり過ぎたかなとは紙切れ一枚分くらいは思っていたしな。
しかし、何処の誰かは知らないが、アタイの事を調べる程とはな。
「さぁ!質問に答えてくれぬか!?」
「まぁ、答えても解決ができるとは思えねぇーけど。
簡単に言えば、探してる奴がいる」
「・・・探し人か、特徴は?」
「知らね」
「職業は?」
「知らね」
「性別は?」
「多分、男」
「・・・生きているのか?」
「さぁーな」
「・・・探し人は、お主の事を知っているのか!?」
「大体、記憶には無いだろうから、今回も無いだろうな」
あん?
なんでガキンチョと秘書が頭を抱えてんだ?
質問には答えてやっただけだろうが。
「どうやって探すつもりなのだ!?」
「世界中回れば、いつか会えるだろ」
「・・・お主にとって、その探し人はそこまで大切なのか!?」
「当たり前だ」
驚愕ッ!
私の目の前にいる緑色のジャージに段ボール箱をかぶったウマ娘、リンクノエポナ。
道雪から貰った資料にも記載されていたが、まさかここまでとは思ってもいなかった。
まるで地図を持たず、誰にも聞かず、目的地へ向かうような行動をしているのだ。
探し人を求めて、ただ巡る。
この様子では、確かに非公式レースは金銭目的に他ならない。
うむ、これは厄介。
だが、押してダメなら引いてみろ、だな!
「なるほど!!
では、我がトレセン学園へ体験入学してみないか!?」
「体験入学?」
「その通り! 1週間程度で良い!
どうだ!?」
「いや、なんで体験入学に行かないといけねぇーんだよ」
「簡単!
お主の探し人がもしかしたら、我がトレセン学園にいるかも知れないからだ!!」
「・・・成程」
そうだろう、お主はあくまでも探し人を探したいという意志が強い。
ならば、我がトレセン学園へ誘う為には、探し人がトレセン学園にいるかも知れない、という目的を見せれば・・・
「おい、本当に体験入学で1週間程度でいいんだな?」
「無論ッ!
それに、トレセン学園には中央、地方とある!お主が良ければ世界各地のトレセン学園を体験入学で巡るのも良いだろう!」
ふと、後ろにいるたづなへ目配りをする。
たづなはゆっくりと頷く。
よし、リンクノエポナが体験入学している間にどうにかして探し人を見つけるか、リンクノエポナがトレセン学園へ入学するようにすれば良い!
まずは時間を得た事をよしとしよう!
「んじゃあ、体験入学だけっていうなら」
「それでは、コチラの名刺をお渡しいたしますので、後日ご説明に伺いますね。
では、保護者の方にもお伝えしてくださいね?
後ほどで構いませんので、ご都合の良い日を教えてください」
「りょーかい」
たづなが渡した私の名刺を見つめているリンクノエポナの様子を見ている限り、恐らく大丈夫だろう。
なにせ、リンクノエポナの目的を妨げずに手伝っているのだからな!
そう、この時はまだ急展開な事が起きるとは、全くもって知らなかった。
「あー、ここがトレセン学園かぁ」
2週間後、リンクノエポナは中央トレセン学園の入門口の前で私服姿にゲストカードを首から下げた状態で立っていたのだ。
そんな、リンクノエポナの方へ駿川たづなが歩いて来る。
「あ、リンクノエポナさん!お待ちしていましたよ!」
「アンタは、たづなさん、だったか」
「はい、今日は体験入学前の見学という事でトレセン学園のご案内致しますね」
「あぁ、頼むよ」
「はい!」
こうして、リンクノエポナは駿川たづなによってトレセン学園内を案内される。
たづなは熱心に案内するが、リンクノエポナはつまらなそうに聞き流していた。
だって、リンクノエポナにとっては探し者が居なければ、直ぐに去る事になるので意味がないと考えているからだ。
たづなもリンクノエポナの様子を仕方がないと思いながらも1週間の体験入学で少しでもリンクノエポナのフォームが改善出来れば良いなと考えていた。
「さて、では次はグラウンドですね!この時間帯は牙野トレーナーのチームが使用しているので、見学に行きましょうか」
「ふぅーん、ガノ、ねぇー」
「アレ? もしかして、お知り合いですか?」
「いや、多分、ちげぇー」
たづなはリンクノエポナの変な反応に腑に落ちないが、牙野トレーナーと会わせれば判ると思いながら、グラウンドへ向かう。
グラウンドには複数のウマ娘が走り込みやストレッチをしており、近くには数人のトレーナーがウマ娘へアドバイスをしている様子だった。
その中でも1人だけ、椅子に座った年配の男性トレーナーが周りに集まった2、3人のウマ娘と話をしており、話が終わると直ぐにグラウンドへ走っていく様子からアドバイスをしているようだった。
「あの方が、チーム プルートの代表トレーナー、牙野龍二トレーナーですよ!
何人ものウマ娘達を活躍させて、何人ものトレーナーを鍛え上げた一流のトレーナーなんです!」
「まぁ、だろうな」
「あれ、やはりお知り合いなんですか?」
「・・・いや、やっぱ知らねぇー」
たづなが先程の反応も含めて確認するも、リンクノエポナは言葉では否定する。
しかし、たづなには知り合いではないが、会ったことはあるように感じられた。
その時––
「やはり、お前も来たか、エポナ」
後ろから声がかけられた。
エポナは眉をゆがめながらも後ろを振り向く。
そこには2人のウマ娘が立っていた。
1人は漆黒の長髪に漆黒の瞳を持つ、その瞳は氷のように冷たく鷹のように鋭い。
もし服装がトレセン学園の体操服ではなく、黒色を主体としたアーマードレスを着ていればまさに、暗黒の雰囲気を醸し出す騎士姫になるだろう。
もう1人は逆に雪の様に真っ白な長髪に、森を表すかの様な緑色の瞳は優しい眼差しも合わさって、まるでマイナスイオンが発生しているかの様に感じる。
また、隣のウマ娘と同じ様に服装が体操服ではなく、白色を主体としたドレスを着ていれば、まさに神聖な雰囲気を醸し出す王女になるだろう。
たづなは2人のウマ娘が相変わらず体操服なのが残念だと思っていたが、しかし、リンクノエポナには違うものに見えた。
そして、見覚えのあるやつら、いや2頭の馬であった
「・・・お前ら、ここに居たのかよ」
「うふふ! ようやくお会いできましたわね!エポナ!」
「全くだな。が、これで3人揃った。間違いないな」
「ええ! 本当ですわね!」
「え? え? リンクノエポナさん、お二人とお知り合いですか?」
たづなの質問にリンクノエポナはため息を一つ付いた。
しかし、その前に2人のウマ娘は吹き出しながら、笑い始めた。
「く、くくくく! エポナ!まさかお前が勇者の名前を欲するとは思わなかったぞ!」
「うふふふ!! あの頃のエポナさんとは思えませんわね! うふふふ!」
「ちっ! たづなさん、コイツらはアタイの腐れ縁なだけだぜ。
てか! てぇめーら! 笑いすぎだ!」
「仕方なかろう、くっ!」
「うふふふ! あの頃の暴れ馬のエポナさんにしては、うふふふ!」
笑いすぎて白色のウマ娘はお腹を抱えながら座り込む程であり、黒色のウマ娘は既に後ろを向き空を見上げながら吹き出すのを堪えていた。
そんな2人のウマ娘の様子にリンクノエポナは苛つき始めた。
3人のウマ娘達の様子にたづなはそのまま様子を見ることにした。
今まで案内してもリンクノエポナは反応が薄かったが、2人のウマ娘に会ってから変わったのだ。
「てめぇーら! そろそろ笑うのやめろや!」
「ククク、す、済まんな」
「うふふふ! 御免なさいね」
「で? てめぇーら、今の名前は?」
「そうですわね! わたくしはゼルダホワイトですわ! エポナ!」
「我はホースガノンだ。これからよろしくな」
「何だ、お前らは名前変わってないのかよ。アタイはリンクノエポナだ」
「あ! たづなさん!」
「は、はい」
「御免なさい、わたくし達でお話がしたいので、少し離れてもよろしいでしょうか?」
「え、えぇ。良い、です、よ?
で、では後で理事長室へ来ていただければ助かります」
「うむ、了解した。では、ゼルダ、エポナ。ゆくぞ」
「りょーかい」
離れていく3人のウマ娘達にたづなは少し呆然としながら、トボトボと理事長室へ向かう。
しかし、リンクノエポナを入学させる為の鍵は得られた。
まさか、寮に慣れする為に来た2人のウマ娘が鍵になるとは思いもしなかったが・・・。
「で? お前らは会えたのかよ」
少し悲痛な思いで白色のウマ娘であるゼルダホワイトと黒色のウマ娘であるホースガノンに尋ねる。
無論、これまで探し者の事である。
「はい! わたくしは幼き頃に!」
「我はファン感謝祭でな」
「お前の主はどーせ、牙野とか言うやつだろ」
「分かるか」
「たりめぇーよ」
「うふふふ、牙野トレーナーさんの気配はお変わりないですわよね〜」
楽しそうに話す様子からリンクノエポナはホッと安堵する。
しかし、リンクノエポナの様子から、ホースガノンとゼルダホワイトは理解出来てしまった。
「お前の方はまだ、みたいだな」
「・・・あぁ、何処にもいねぇ」
「そう、ですの。 これからどうするおつもりですか?」
「無論、探し続けるだけだが?」
「なに? お前、トレセン学園から離れるつもりか?」
ホースガノンの言葉はリンクノエポナにとっては、何故当たり前の事を?と思いつつ、頷く。
ゼルダホワイトは考えをまとめる様に目をつぶり、しばらくしてからゆっくりと目を開けた。
「エポナさん、このトレセン学園に居た方がいいですわ!」
「はぁ? なんでだよ」
「わたくしとガノンさんの主はこのトレセン学園にいます」
「んだよ。自慢かよ」
「はぁ。相変わらず、走る事、主様の事以外は余り考えませんわね」
ゼルダホワイトはため息を一つ付いて子供に教えるようにゆっくりと話しを始める。
ホースガノンは流れが変わった空気を感じて、黙って見守る事にした。
「エポナ。あの頃、主様達は必ずお会いしていましたわ。わたくしの主様、いえ姫様は独立しておりますが、牙野トレーナーの御弟子様ですわ」
「あん?ってことは」
「そう、このトレセン学園にわたくしとガノンの主様達が居ますわ。それならば、アナタの主もこの中央トレセン学園へ来る可能性が高いのです!」
「成程な。確かにゼルダの言う通りだろう。エポナ、お前もここに留まれ」
「あー、それならしゃーねぇか」
ゼルダホワイトの説明によりリンクノエポナは納得した。
確かにあの頃、あの世界に居た頃の馬であった自分達は必ずそれぞれ己の主に出会った。
そして、必ず主達は出会っていた。
ホースガノンとゼルダホワイトの主達がこの中央トレセン学園に居るのならば、リンクノエポナの探し者、いや主も中央トレセン学園に来る可能性が高い。
「出たいレースとか無いが、アタイも主に会いてぇし、ここに留まるか」
「ホッ 良かったですわー!」
「ゼルダ、良くやったな」
「エッヘン!ですわ!」
「んじゃ、たづなさんに入学する事言って来るよ」
「あ! エポナ、行く前に電話番号を教えて下さいな」
「我も頼む」
「あー、了解、りょーかい」
「ではエポナ?何かあれば連絡してくださいね?」
「へいへい」
その後、リンクノエポナは久々に出会えたホースガノンとゼルダホワイトに少し嬉しく思いながら、理事長室へ向かう。
そう、緊張する理事長の秋川やよいとその秘書の駿川たづなが待つ理事長室に。
まさか、1週間も経たずに居なくなると思っていたのに。
たった1日でリンクノエポナの入学が決まるとは思いもしなかった。