パンドラ(偽)が幻想入りするそうです   作:Park M

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パンドラ(偽)は料理をするようです

 

 

 

 慧音に手を引かれ人里を歩く俺は、キョロキョロと忙しなく視線を動かす。目新しいものばかりの場所で、俺の好奇心は尽きることなく湧いてくる。ドバドバである。明らかに挙動不審な俺にもしかしたら慧音も引いているかもしれない。……いや、なんか生暖かい視線を感じるな。

 

 「あっ、ねぇ慧音。あれってなんのお店なの?」

 

 俺の視線の先には綺麗な色とりどりの布が置かれたお店が見える。店先では店員らしき人がお客さんに布を切り売りしてる様子も見てとれた。気になった俺は慧音に聞いてみる。

 

 「あれは呉服屋だな。服の材料になる布を売っていて、あそこで買ったものを仕立て屋に持っていくと服を作って貰える。パンドラの服も、同じ手順で作って貰うんだ」

 

 「へー。じゃあ既製品が売ってるお店はないの?」

 

 「基本はそうだな。ただ、使わなくなった服を買い取って、それを古着として売る古着屋ならあるぞ」

 

 「つまりセ◯ンドストリートってやつですか」

 

 古着屋と聞いて思い浮かべたのはあの有名なリユースショップ。なんか良い感じのオシャレな服とかが置いてあって、なんか良い感じの陽キャがダチと服を買いに行く場所だ。行ったことないけど。なんならダチも居なかった。今のダチはルーミアだけである。ちなみに慧音は保護者だ。

 

 「あの変な格好の人は何する人なの?」

 

 次に興味を持ったのは、修行僧みたいな装いの人だ。袈裟を着て傘のような帽子を被り、手には輪っかがたくさん付いた杖みたいなものを持っていてなんだか物々しい雰囲気を漂わせている。

 

 「こら、変な格好だなんて言うな。…あれは退治屋だな。主に妖怪退治を生業にしている人間だ」

 

 「はえーそーなのかー。あっ、じゃああれは……」

 

 

 

 そうしてちょくちょく気になったものを慧音に聞いたりしながら歩いていた俺だが、ある違和感に気付く。いまだにキョロキョロと視線を動かす俺だが、先ほどから妙に里の人達と目が合うのだ。最初はよそ者の俺に対し、おんどりゃあよそ者なんじゃから立場弁えときぃ、って感じにガンを飛ばしてるのかと思ったが、そうではなさそうだった。大体の人は俺と目が合うと慌てて逸らすか、顔を赤く染めてじっと見つめてくるかのどちらかで、別に悪感情などは感じられない。なんだか変な気分だ。

 

 ……そういえばパンドラって人外の美貌の持ち主とかって言われてたような。思えば里の人達の反応は、たとえば可愛いアイドルを遠目に眺めていて、不意に視線が合っちゃった時のような感じに近かった気がする。つまりこれって、俺が人里中の視線を独り占めにしちゃってる……ってこと?!なんて罪な女なんだ、パンドラは。

 

 なんて考えていると、視線の先に俺を見つめる年端もいかない少年が見えた。ぼーっと心ここにあらずといった感じに見つめてくるその子に、イタズラ心が芽生えた俺は出来る限りの優しい微笑みを向けてみる。すると、少年はその顔をたちまちリンゴのように真っ赤にして走り去っていった。……ふっ、曲がったな。性癖が。もうあの子は色白薄細薄幸白髪美少女にしか興奮できないだろう。

 

 「……あまり年頃の子供の情緒を壊してやるな。お前のそれはあまりに毒だろう」

 

 「えっ、あっ……えへへ」

 

 純情をもて遊んでいた俺だが、どうやら慧音にバレていたみたいで怒られてしまう。俺は誤魔化すように見る人を虜にする笑みを向けた。オラっ食らえ笑顔!

 

 「私は惑わされないぞ」

 

 「あいたっ」

 

 慧音はデコピンを食らわせたあと、顔を背ける。口と態度ではそう言いながらも、その頬は見間違いじゃなければ少し赤みを帯びていたような気がする。

 

 

 

 「着いたぞパンドラ。中に上がってくれ」

 

 そういって案内された家は、他の民家と比べても一回り二回り大きい建物で、ある一室は何十人もの人が入れそうな広さをしている。これでは一軒家というより……

 

 「ああ、実は私の家は寺子屋を兼ねているんだ。いや、逆だな。寺子屋兼私の家という感じだ」

 

 「住み込みで働く先生ってことですか……」

 

 それならこれだけ大きいのも納得だ。授業のある日はきっと何十人もの子ども達が慧音の授業を受けるために押しかけるのだろう。評判はあまり良くないとは慧音から聞いたけど、いまだに納得はしてない。俺は慧音の謙遜だと思ってる。それと、住み込みで働く先生って聞くとまるでブラックな職場をイメージしてしまうが……。

 

 「何を想像しているのかは分からないが、そこまでキツイものではないぞ。週に二、三回授業をするだけだし、私自身やりたくてやっている仕事だからな。苦痛に感じたことは一度もない」

 

 「すごい、慧音は教師の鑑だね!いいなー私も慧音の授業受けてみたいなー」

 

 「そんな褒めても何も出ないぞ。それと、興味があるならなら他の生徒達と一緒に受けてもいい、っと、ここが今日からパンドラの部屋だ。自由に使ってもらって構わない」

 

 そうして案内されたのは8畳ほどの部屋で、元々空き部屋だったのか箪笥と隅に畳まれた敷布団以外は何も無い。些か殺風景だが、それでも一人で暮らすには十分過ぎるほどの部屋だ。ここが今日から俺の城か……居候だけど。

 

 「ありがとう慧音……この恩は絶対に返すからね」

 

 「子供がそんなこと気にするんじゃない。自分の家だと思って気楽に過ごせばいいさ」

 

 慧音の優しさが五臓六腑に沁みる。慧音はこういうが、俺なりに恩は返していきたいと思っている。

 

 

 

 そのあとは呉服屋に向かい布を買い、仕立て屋で採寸をして服と下着を作ってもらう依頼をしたり。帰る道中お腹が空いたので屋台に寄ったらおまけしてもらい、デザートに団子を食べようとお店に寄ったらそこでもおまけしてもらったり。そこで鼻の下を伸ばす店主に慧音が説教をしたりもした。

 

 そんなこんなで家に帰る頃には日もとうに落ち切っていて、俺は自分の部屋で床に就いた。きっと明日も、こんな優しい世界が続きますように、と願いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝。慧音より早起きした俺は台所へ向かう。前の世界……前世でも、ニートでありながら生活習慣は気にしており、早寝早起きを意識していた。下手な社会人よりか健康的な生活を送っていたと思う。引きこもりだけど。そしてニート特有の有り余る時間を使って俺はある趣味に没頭していた。そう、それは……料理である。

 

 「……よし、完璧に出来た」

 

 作った料理は二人分。白米と昨日おまけして貰った川魚を塩焼きしたものに、お味噌汁とカブのおひたし。朝ごはんには最適の献立だ。シンプル・イズ・ベスト。これで慧音の胃を掴むのだ。ちなみにちゃんと台所と食材の使用許可は昨日のうちにとってある。まさか慧音は俺が料理が出来るとは思ってはいなかったようだけどな!

 

 「……ん?なんだか良い匂いがするな」

 

 今起きてきたらしい慧音が、俺の朝ごはんの匂いに誘われてくる。まだ少し半開きの瞼がチャーミングだ。本日も麗しゅうございますな、慧音さんは。

 

 「あっ、慧音おはよう。これ見て、じゃじゃーん。朝ごはん、私が作ってみたんだ。よかったら食べてみてほしいな」

 

 俺がそう言うと、慧音は目を丸くしている。図らずもサプライズのような形になったみたいだ。

 

 「パンドラ、本当に料理が出来たのか。しかもこんなにも美味しそうな料理を……そうだな、それじゃあありがたく頂こうか」

 

 「はい、召し上がれ!」

 

 慧音が席に着き、俺もその対面に座る。同時に手を合わせて食べ始める。

 

 「どう慧音?おいしい?」

 

 「……ああ、驚くほどおいしい。毎日でも食べたいぐらいだ」

 

 「ふふん、任せてよ。慧音が毎日おいしい!って言えるようなご飯を作るから」

 

 そう言う慧音の手は止まることなく箸を運んでいる。料理人冥利に尽きるその言葉に、俺は喜びを隠せない。これで恩を返した、とは思わないけど、少しでも慧音に喜んでもらえたらいいと思う。

 

 「…あれ?慧音どうしたの?顔赤くない?」

 

 「い、いやなんでもないぞ。気にしないでくれ」

 

 

 

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