似せ者。空っぽ。あるいは小鳥遊ホシノの■人。   作:曇った女の子の間の酸素

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ホシノちゃんの口調をより昔風に変えました。こっちの方が余裕なさそうでかわいい。


通院。

 

 

 

 助手席から見える横顔が好きだった。

 

 運転席に座るホシノちゃんは、普段より少しだけ大人びて見える。色が違うその両目を油断なく光らせている姿は正直、見ているだけでドキドキしちゃったり。

 

 両手でハンドルを握り、前を向く姿は真剣そのものだ。

 

 窓の外では砂混じりの風が街を撫でている。

 

 平日の昼間だからか、道路を走る車は少ない。そもそも、アビドスはあんまり車が走らないので当然と言えば当然だ。砂で故障しやすいから、仕方がないのだけれど……アビドスから出たとき、活気の違いに少しだけ寂しい気持ちになってしまう。

 

「……そんなに見られると運転しづらいんですが」

 

 前を向いたままホシノちゃんが言う。

 

 ぎく。バレてる。

 

「み、見てないよぉ」

 

「見てました」

 

「見てないもん」

 

「バレバレです。隠す気が感じられません」

 

 即答だった。

 

 むぅ。

 

 こういう時だけ妙に鋭い。

 

「ホシノちゃんって、運転上手だよね」

「普通です。これくらい誰だってできますよ」

「そうかなぁ」

 

 少なくとも私にはそう見えなかった。

 

 だってホシノちゃんは何でもできる。勉強もできるし、戦いも強い。車の運転だって上手だ。元気だったころに射撃訓練の様子を見させてもらったことがあるけど、その時はユメ先輩と二人でキャーキャー言ってたものだ。文字通り百発百中の腕前は多分、キヴォトスでもトップレベルだと思う。

 

 騒いでないで練習したらどうですか、と呆れられたのを今でも覚えている。懐かしいなぁ。

 

 ……運転かぁ。自分で出来たらいいんだけど、ホシノちゃんが練習するのも許してくれないからなぁ。

 

 まぁ……私だったら運転できるようになる前に倒れている気もするけれど。

 

 そんなことを考えていると。

 

「ちゃんとシートベルトしてますか」

「してるよ」

「苦しくはないですね」

「大丈夫」

「……少しだけ休んでも――」

「大丈夫だってば。少ししか歩いてないんだし」

 

 心配性なホシノちゃんに少しだけ笑ってしまう。

 

 病院へ向かう道中だというのに、既にお医者さんが隣にいるみたいだ。

 

「ホシノちゃん」

「なんですか」

「心配しすぎ」

 

 するとホシノちゃんは少しだけ眉を寄せた。

 

「……そりゃ心配します。この前も大丈夫と言いながらふらふらだったじゃないですか」

「それは……えへへ」

「笑い事じゃないです」

「ごめんごめん」

 

 謝りながらも頬は緩んだままだった。こういうところも好きだ。

 

 真面目で優しくて。少し不器用で、私なんかのためにこんなにも心配してくれる。さりげなく傾斜が激しい道路や、振動が大きくなりそうなときは減速して揺れを抑えたりとか。至るところに気遣いがあって、そこまでさせてしまっていることに罪悪感。

 

 私はホシノちゃんの負担になっている。

 

 病院だって本当なら一人で行ければいい。ご飯だって自分で作れればいい。掃除だって洗濯だって。全部一人でできればいい。

 

 そうしたらホシノちゃんはもっと楽になれる。

 

 もっと自由になれる。

 

 ホシノちゃんは私のことを負担と思っていないことはわかってる。そんなことを考えるよりも先に、もっと頑張ろうと思える素敵な女の子だから。でも現実は思いだけでは変わらない。

 

 ユメ先輩が死んでしまったあの時みたいに。

 アビドスの詰んでいる現状が変わらないように。

 

 現実に、ホシノちゃんはたった独りでアビドスを支えながら私というお荷物まで抱えて、ゴールの見えない真っ暗闇を歩き続けている。

 

 負担と思っていなくとも、それは疲労として身体に、心に現れる。

 

「……私のつまらない顔を見ているくらいなら、BDでも見て勉強したらどうですか。丁度この車には再生機能が付いてますから」

「むー。嫌。それにホシノちゃんの顔はつまらなくなんてないよ」

「はぁ。自分ではよくわかりませんね」

 

 ホシノちゃんの目の下に、薄っすらと隈が浮かんでいる。それに普段より僅かに呼吸が浅い。疲労を隠しているつもりかもしれないけど、私はホシノちゃんのことが知りたくてずっと見てきている。

 

 

 ……疲れてきてるなぁ。もう、少しくらい休んだっていいのに。

 

 

 そんな自分を棚に上げた思考をしている自分に吐き気がした。勿論、そんなことはおくびにも出さない。いつものようにニコニコして、能天気にプレイヤーから音楽を掛けた。

 

 恥知らずの私はこうして助手席に座って、ホシノちゃんの厚意に甘え続けている。

 

 理由なんて簡単だ。好きだから。離れたくないから。

 

 ただそれだけの理由で、好きな人の負担になり続けている。

 

 なんてどうしようもない人間なんだろうね。

 

「……またロクでもないことを考えてますね」

 

 ホシノちゃんがぽつりと呟く。

 

「……え? なんで分かるの?」

「顔」

「顔?」

「そういう顔してますから。ウツロは先輩に似て、案外顔に出やすいタイプですよ。自分ではそうは思ってないと思いますけど」

 

 ちらりと視線が向く。本当に一瞬だけ。

 

「ホシノちゃんってエスパー?」

「違います」

「うそ」

「嘘じゃないです」

 

 小さくため息を吐くホシノちゃん。

 

 その姿がおかしくて、また笑ってしまう。

 

 すると今度は本気で呆れられた。

 

 それも少し嬉しい。

 

 そんなことを考えているうちに、車は駅前の駐車場へ滑り込んだ。病院はミレニアム自治区にある。だからここから先は列車だ。

 

「着きました。くれぐれも私からはぐれないように」

「はーい」

 

 子供じゃないんだから、それくらいはできる。……できる!

 

 返事をしてドアに手を掛ける。立ち上がろうとして少しだけ視界が揺れた。ドアを開けるのに僅かに時間が掛かったけど、本当にそれくらい。

 

 だから言わなくても良かったのだけれど。

 

「ウツロ」

 

 先に呼ばれてしまった。

 

「ん、なあに?」

「また、立ち眩みですよね」

 

 ……わーお。やっぱりホシノちゃんは凄いなあ。すぐばれちゃう。

 

 ホシノちゃんは車を降りると、こちらへ回り込んでくる。

 

 そして当然のように手を差し出した。

 

「ほら、ゆっくりでいいですから」

「私は子供じゃないよぉ」

「知ってます。限りなく子供っぽい人です」

「むー。酷い!」

「転んだら困るので」

 

 私は少しだけその手を見つめる。

 

「……ありがとね」

「いえ」

 

 結局、その手を取った。あれだけ戦闘をしていても柔らかい手のひらに、心臓がゆっくりと鼓動を速めていくのがわかる。

 

 困ったなぁ。病院は憂欝だけど、手を繋いでくれるなら毎日だって行けてしまいそう。

 

 こんなことでも嬉しくなってしまう私は単純なのかもしれない。頬が熱くなるのを必死に隠しながら、駅へ向かう道をゆっくり歩く。

 

 ホシノちゃんは私の歩幅に合わせてくれていた。

 

「体調。最近あまり良くならないですね」

「そうだねぇ」

「……やっぱり、私の――」

 

 おっと。

 

「もうっ。そんなこと言っちゃダメ。全部私が悪いの。自分で決めたことだもん。それよりホシノちゃん。ミレニアムって結構色んな発明品があるそうじゃない? だからちょっと見て帰ろうよ!」

「ダメです。ミレニアムはミレニアムで危ないところなんですから」

「アビドスより?」

「それは……その可能性もあります。日々実験で暴走した機械も絶えないとか」

「暴走した機械……なんか怖そうだね」

 

 色々話しながら歩くと、駅のホームが見えてきた。列車の到着を知らせる音が遠くから聞こえる。その音を聞きながら、私は隣を歩くホシノちゃんを横目でチラッと眺める。

 

 ジトッとした視線が重なり、慌てて前を向くけど。ホシノちゃんは呆れたようにため息をついた。

 

「そんなに見てもダメです」

「……そっかぁ。じゃあ、病院が終わったあと、お家でゆっくり――」

「もしませんから。やることが山積みなので」

 

 むー。

 

 残念だなぁ。ホシノちゃんのケチ。

 

 そんな言葉が脳裏に浮かんで、自分勝手な自分に思わず笑ってしまった。

 

 

 あぁ、ほんとどうしようもない。

 

 

 







ウツロちゃんは妙にユメ先輩に近い口調ですが、果たしてどうしてなのでしょう。例えば子供の口調は周りの話し言葉で決まると言いますが……。

あと過去ホシノはイケメン仕草が多すぎて惚れない方が難しいと思うの。


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