そういえば、にぼっしーの誕生日とニコ生の日って同じなのねん。
彼らは皆、愛国者だ
「死神の正位置だね。今回はダメかも。お悔やみ申し上げますわ」
「ぐぬぬ……」
私は「男なんて星の数ほどいるんだから……」と自己暗示をかけながら去る級友の背中を見送りつつ、タロットカードを箱に仕舞った。
文化祭の日、私のクラスで『300年目の樹』とかいう占いをやったら、これが妙に受けて、以来占いの依頼が増えたのだ。私の占いは空気を読むことが出来ないから今回みたいに最悪の結果が出ることもあるけど、そのことで私を恨むようなカカシはこの学校にはいない。
カードを鞄に入れて、勇者部の部室へと戻る。
部室にはいつも通りの光景が広がっていた。
お姉ちゃんが書類整理をしていて、新しく園子さんを加えた二年生カルテットは楽し気なボケとツッコミが乱舞している。。そんな四人を眺めるでもなく、大佐が隅で懸垂トレーニングをしていた。
カオスだ。
「犬吠埼樹、恋愛相談より帰還しました!」
「おかえりー。どうだった?」
「死神の正位置だったよ」
「ああ、ごしゅーしょーさま」
お姉ちゃんが残念そうに言う。
勇者部は文化祭前後を境に賑やかさをより一層増大させた。勇者としてのお役目から解き放たれた解放感もあるだろうけど、なにより、新しく勇者部に加わった園子さんの存在が大きい。
「いっつん、ホント引っ張りダコだね~」
引っ張りダコな要因の一つには間違いなく園子さんの存在がある。『300年目の樹』を私のクラスの委員にこっそり提案したのは、他でもない園子さんなのだ。
そんな園子さんの言葉を受けて、お姉ちゃんがフンスと胸を張った。
「当然よ。『あの犬吠埼の妹なら、恋愛相談は間違いない』ってみんな思うもの」
「ん?」
「えっ?」
「は?」
「うん?」
「ヤクでもやってんだろこの馬鹿女」
「うるさい筋肉馬鹿」
「フーミン先輩って、そんなに恋愛豊富なんですか~?」
プンスカ言っていたお姉ちゃんだったけど、園子さんの言葉で一気に機嫌を直した。目をキラキラさせながら、エヘンと胸を張る。
「おっ、訊いちゃう聞いちゃう? そう、あれは去年の夏……」
「今度チアガールと言ったら口を縫い合わすわよ」
夏凜さんに先制される。お姉ちゃんは頬を膨らませながら、「なんでよ!」と抗議する。
それにしても、園子さんは私達に色んなあだ名で呼んでくれる。
私は樹だから『いっつん』、友奈さんは『ゆーゆ』、東郷先輩は『わっしー』ないしは『みもっしー』、夏凜さんは『ニヴォッシー(ヴォにアクセント)』などなど……。大佐については、もう『大佐』自体があだ名だから園子さんもそう呼んでいる。
「フーミン先輩は名前が軽やかだから、色々試したくなっちゃうね~」
「私のも、『ゆーゆ』になるまで色んな候補があったの?」
友奈さんが訊く。
「そうだよ~。『ゆっきー』とか『ゆどうふ』とか~」
「美味しそう! 私も園子ちゃんの新しいあだ名考える!」
園子さんは東郷先輩から『そのっち』と呼ばれているけど、友奈さんは友奈さんで、自分なりのあだ名を考えたいらしい。
「えーと……園ちゃんとか、ソノコフとか?」
「ソ連人っぽいね~」
「革命的だね! 同志ソノコフ!」
「いえーい、同志ゆーゆはシベリアの刑務所送りだ~」
「ムショには戻りたくねぇよォー」
「友奈ちゃんにそのっちったらはしゃぎ過ぎよ。 食べなさい。ぼた餅を」
「わーい」
賑やかな三人。それを見ながらお姉ちゃんは夏凜さんの肩をポンと叩いた。
「アンタが部長になったら、あれを取り纏めなきゃなんないのよ」
「ヒデェこと言いやがる……」
でも事実だ。完成型勇者であった夏凜さんが勇者部の部長に一番ふさわしいのは明らか。ちなみにほかの部長候補は東郷先輩に友奈さん、そして園子さんだ。
お姉ちゃん的には、自分と大佐が抜けた後も、みんなが楽しくいてくれればそれでいいのである。
「ところで、今日は他に依頼はないのでしょうか」
東郷先輩がお姉ちゃんに訊いた。
「そうね、今日のところはもうないわ。よーし、かめやへGOよ! みんなにうどん、奢っちゃうぞー」
「イェア!」
太っ腹なお姉ちゃんに一同は歓声を上げる。もう半月もかめやのうどん食ってねぇやってられっか!
でも、ここで東郷先輩が、「すみません」と声を落とした。
「今日は私、もう家に帰らなくてはいけなくて」
「えっ、そうなの?」
「ええ、ごめんなさい」
先輩は申し訳なさげに頭を下げた。
「そっかぁ」
友奈さんがちょっぴり残念そうに言う。理由に関してはプライバシーだから訊かないけど、まぁ、東郷先輩に限って変なことはしないだろう。
「ごめんね友奈ちゃん」
そう言うと、東郷先輩は鞄を手にして先に家路についた。今まではこういう時、必ず友奈さんが一緒について行った物だけど、足が治って以来、そういうことも少なくなった。友奈さんとしては嬉しいと同時に少し寂しくもあるらしい。
「ちょっと距離を置いた方が、愛は膨らむんだよ~」
園子さんが寂し気な友奈さんを見ながら私に囁いた。いや、何の話だ。
「よーし! 私は、東郷さんの分までうどんを食べる!」
「その意気だ友奈」
大佐が応える。私たちも「おー」と答えて、勇んでかめやへと歩きだした。
※
「樹ちゃん、国防仮面のニュース見た?」
「こくぼうかめん?」
翌日の中休み、友達が私にそう話題を振ってきた。
なんでも、度々街に現れては困っている人を助ける正義のヒーローらしい。なるほど、世の中にはなんて趣味的な人がいるんだ。
「これが写真なんだけどね」
写真に写っていたのは、綺麗な満月をバックに颯爽と立つ国防仮面さんの勇姿だった。紺の立て襟にマントを羽織り、乗馬靴を履いて、頭には官帽が載せられている。海軍か陸軍かよく分からないスタイルだ。顔は暗くて見えないけど、『仮面』と呼ばれるのだから何かしら顔を隠すアイテムが着けられているのだろう。
「ふーん。これって女の人かな」
「ああそうかも。胸もそこそこあるし」
この胸の大きさからすると国防仮面は大人の女性がやっているようだ。良い歳して何やってるんだか。
でも、善行を働くところは尊敬できる。私も大人になったら、『普通に』人助けできる素敵なレディなろう。
国防仮面は全学年で話題になっているらしく、友奈さん達も部室でしきりに国防仮面談議をしていた。
「国防仮面さん、カッコいいね!」
「カッコいいかはさておき、まぁ、やってることは良い事よね。軽く変質者だけど」
友奈さんは国防仮面さんのミステリアスなカッコよさ(?)にメロメロだ。夏凜さんもなんだか一目置いてるみたい。国防仮面さんは、いまや地域のヒーローのようだ。
それにしても、国防仮面さん、いったい何者なんだ。
お姉ちゃんが指を立てて推理する。
「あくまでこれは女の勘なんだけどさ、意外と身近な人だと思うのよ」
「じゃぁ、国防仮面の正体は~……ゆーゆ?」
「えっ、私国防仮面だったの?」
「どうやら違うみたいよ、そのっち」
「ならばあれだ。国防仮面の正体はプレデターだな」
「えぇ~、勇者部にとってプレデターって身近な存在なの~!?」
ある意味身近だろうけど、絶対に違うと思う。
それにしても、国防仮面とは面白い名前だ。きっと国を愛する人なのだろう。そう、ちょうど東郷先輩のような。
そういえば、東郷先輩は近頃休み時間になるとグースカ眠っているらしい。国防仮面さんの活動時間は夕方から深夜にかけてだというけど……まさかね。東郷先輩はお淑やかな大和撫子だ。いくら善行を重ねているとはいえ、深夜に軍服姿で徘徊するような真似はしないだろう。
そうだ、と私は思い提案する。
「こっくりさんで占ってみましょう」
「どこの女だいそりゃ」
夏凜さんが訊く。
こっくりさんとは!
この国に古くから伝わる降霊術で、『こっくりさん』と呼ばれる狐だか何かの霊を降ろし、「B組のタカシ君の好きな子は?」とか「お前の至上の喜びは?」とか「私がバル・ベルデの大統領に返り咲くには?」のようなくだらない事を訊く占いの事である。旧世紀に大流行して、一時社会問題にもなったとかならなかったとか。
私は五十音の文字『はい』『いいえ』、そして鳥居の書かれた紙を広げ、十円玉を取り出した。
「まだ始めたばかりで上手くできないけど、やってみましょう。皆さん十円玉に指を添えてください。終わるまで絶対に指を放さないでくださいよ」
「なんで?」
「頭がおかしくなって死にます」
「マジかよ」
「これでいいの?」
小さな十円玉にみんなで指を添える。大佐の指がごつくて難儀したけど、どうにかなった。
「こっくりさんこっくりさん、おいでください。おいでになったら『はい』へお進みください……」
すると、十円玉は一人で動きだし、ゆっくりと『はい』を選択した。
「こっくりさんこっくりさん、国防仮面さんの手掛かりについて教えてください……」
「おお~、十円玉が勝手に動くぅ~」
十円玉はゆったりとした動きで文字をたどり始めた。
ゆ
う
し
や
ゆうしや……勇者?
「お姉ちゃんの勘冴えてるねぇ」
「当然です、
「謎が謎を呼ぶメッセージだね~。やっぱりゆーゆじゃないの?」
「えー違うよ」
「はっはっは言えよ」
「も~違うって」
「でも、相当身近な人には違いないですね!」
「やはりプレデターか」
「それはない。じゃぁ、こっくりさんには帰ってもらいましょう。こっくりさんこっくりさん、もういいぞ帰れ。クソして寝な」
すると十円玉は『き つ い や』の文字をたどり、ぱたりと動かなくなった。どうやらお帰りになったらしい。
こっくりさんの情報が正しければ、さっきから何度も言うように国防仮面さんは私達に身近な人物、つまりこの勇者部内にいる可能性が高い。
なんだか、面白くなってきた。
※
数日後の夜。
何となくニュースアプリを眺めていた私に、興味深いニュースが飛び込んできた。
「お姉ちゃんお姉ちゃん」
「どうしたの樹」
「国防仮面さんが今まさに現れたらしいよ。割と近くだし、見に行こうよ!」
「なーに言ってんのよ。こんな夜に女子力の権化たる私たち姉妹が表に出てみなさい。捕まって、臓器を売られてしまうわ」
「世紀末だね」
ちょっとがっかり。
でも、お姉ちゃんはスマホをビッ、と取り出して、どこかへ電話を始めた。
「あ、もしもしジョン? 実はお醤油切れかけててさー。夜に女身一人で出るのも怖いから護衛に来てよ」
流石はお姉ちゃんだ。
数分後、大佐は例のごとく位置エネルギー車を駆って私達を迎えにきた。
お姉ちゃんが『護衛に来て』などと言ったものだから、武器が満載してある。一応私達分のスペース
「いやー助かったわ」
乗りこみながらお姉ちゃんが言う。
「構わんよ。で、どこのスーパーまで行くんだ」
「いやね、お醤油が切れかかってるからってさっき言ったんだけど」
大佐の言葉にお姉ちゃんは頭を掻きながら苦笑した。
「あれは嘘だ」
「なに?」
「実は、近所に国防仮面が出たらしいのよ。だから、その護衛兼ドライバーとして来てもらったわけ」
「最初からそれが目的か……ハメやがったな!? このクソッタレィ! 嘘つきめ! 醤油だの護衛だの、あれは俺を引っ張り出すための口実か!?」
「そうよ。でも、ジョンも国防仮面、気になるでしょ?」
「まあな」
「よしなら行こう!」
位置エネルギー車はゆっくりと夜の町を走りだした。
「最初から国防仮面さんを見に行こうと言って誘えばよかったのに」などとは言ってはいけないし考えてもならない。
出現ポイントには車を使ったこともあってすぐに到着した。車から降りて、辺りを見回す。
「確かこのあたりなんだけど」
「もう帰ったのかしらね」
その時、大佐が何かを見つけて電柱の上を指さした。
「見ろ!」
私達は一斉に指先を見やる。
「出たのね、国防仮面!」
空には満点の星、煌々と照る月。それをバックに、人影が浮きあがっていた。
「あなたの落としたカギはこれではないでしょうか」
「ああ、それ! 探していたのよ!」
電柱のふもとのは一人の女性が。仕事帰りのOLだろう。国防仮面さんは電柱から軽やかに飛び降りると女性に鍵を手渡した。
「こんな暗い中でよく見つけてくれたわね」
「目の良さに関しては自信があるので」
「ありがとう……えーと」
「憂国の戦士、国防仮面!」
そう名乗ると、国防仮面は夜の闇にスゥー、と消えていった。
「ありがとう、国防仮面……」
女の人はカギをぎゅっと握りしめて国防仮面の去って行ったほうを見つめていた。
「あれが、国防仮面さん……」
なんか、凄まじい既視感があるような……。
「俺もだ。デジャヴを感じる」
「これは、ちょいと調査する必要がありそうね」
※
日曜日。
勇者部はお姉ちゃんの緊急司令により『かめや』へと召集された。
「ずぞぞ! 東郷以外は揃ったわね。ずぞぞ!」
「東郷先輩どうしたんだろ」
「私用だって。今日は私が東郷さんの分まで働いちゃうよ! で、風先輩、今日はどういった用件で?」
お姉ちゃんはうどんをひとしきり食べ終わると、本題に入った。
「実は、国防仮面と話がしたいっていう、さるお方からの依頼が入ったのよ。だから、今日の任務は国防仮面とコンタクトすること」
「別にそれはいいけど、今昼よ? 国防仮面は夜に出るんでしょ?」
「それについては、私達の方で調査してきました」
国防仮面さんは、平日に関してはもっぱら夜が活動時間だけど、土日祝日に関してはその限りでなく、昼にも活動しているらしい。なんだか、学生っぽい感じの出現時間だ。
「なるほど。で、出現場所についての目星は?」
大佐が質問する。
「主に讃州中学の学区内です。こればかりは、
「でも、国防仮面さんに会えるかもしれないんでしょ? それくらい楽勝だよ!」
友奈さんはやる気満々だ。園子さんも、「勇者部にいると飽きないね~」と楽し気である。
私達はうどんでエネルギーを補充すると国防仮面さん捜索に勇んで繰り出した。
どこに現れるかは分からないけど、少なくとも困っている人の傍に現れるのは確かだ。それに関しては、勇者部はエンカウント率が高い。
しばらく歩き回っていると、園子さんが何かに気付いた。
「あ~」
「なに!? 国防仮面!?」
「違うよ~。犬さんだ~」
園子さんは道をテコテコ歩いてい子犬に吸い寄せられていった。
「ワンワン、こんにちワン!」
「がるる……」
「乃木、危ないわよー」
お姉ちゃんが言う。でも園子さんは笑顔で、
「大丈夫ですよ~。ほーら、怖い顔しないで~」
「がるる……ワンワン」
「そう言えば、犬はターミネーターに吠えると聞いたことがある。乃木はターミネーターかもしれん」
「大佐ったら人聞きが悪い~。ほーら、お手~」
園子さんはゆっくり手を差し出した。
「がるる……ガブ」
「あああああああああああああああああ」
「言わんこっちゃない! 乃木、大丈夫!?」
みんなで園子さんから犬を引き離す。子犬だったこともあり、特に出血するようなこともなかった。引き離しながら、お姉ちゃんはあることに気付く。
「あれ、この犬首輪してる」
犬は猫と違って気ままに徘徊することは無い。しかもこの犬は子犬。ということは、迷子の犬の可能性が高い。迷子の子猫ならぬ、迷子の迷子の子犬クンだ。
「飼い主の人、きっと探してるよ」
友奈さんが言う。きっとその通りだ。ここは国防仮面探しは中断して、この犬の飼い主を見つける方向に————。
「————その子犬は、ついさっき届け出があった迷い犬だ。ちょうどよかった。私が飼い主へ送り届けよう」
!
この声は……!
「おぉ! あなたが、あなたが噂の!」
勇者部は声のする方を向いた。
そこは、駐輪場の屋根の上。紺の立て襟にマント、官帽、乗馬靴。そして帽子の下には立派な
そいつは、腕に装備したブレードをカッシュカッシュ言わせながら名乗った。
「そう、憂国の戦士、国防仮面!」
「プレデターじゃねーか!」
流れからしてどう考えても国防仮面さんの正体は東郷先輩だと思っていたけど、意外や意外、正体はプレデターさんだった。大佐の予想が当たっていたわけだ。
国防仮面さん改めプレデターさんは屋根から飛び降りると、犬を優しく抱き上げた。
「犬は確かにこちらで引き受けよう」
プレデターさんはシュコーシュコーと呼吸音を上げながら目を光らせた。
私達はあまりにも予想外な展開に言葉を失う。
「君たちは優しいな。私は数世代ぶりに地球を訪れ、その変わり果てた姿に驚愕した。それで、ここでの狩は止め、ひとまず慈善活動をしようと思ったのだ」
「なんか急に語りだしたぞ」
「この星に君たちのような優しく誇り高き勇者がまだいたことを嬉しく思う」
「そういうの、分かるんですか?」
「プレデターだから」
「なんですかその『筋肉だから』みたいな理論」
「それはさておき、私は迷子の犬を見て、すぐさま飼い主を探そうとした君たちに感動した。私がこの星にいる理由ももうあるまい。さらばだ少女たちよ。君たちが今日から新しい『国防仮面』だ」
一方的に言うとプレデターは光学迷彩を起動させて昼下がりの街へ消えていった。後に残されたのは、事態を脳で処理しきれない人類代表勇者部部員だけだった。
「……実はさ、今回の依頼者は私なのよ」
ぽつりと、お姉ちゃんが告白する。
「捕まえて問いただそうと思ってね。てっきり東郷だと思っていたから」
「えっと……まぁ~、事実は小説より奇なりって言うしね~」
こっくりさんの結果である『勇者』というのは勇者部のことではなく、宇宙の戦士的な意味の勇者だったらしい。紛らわしいにも程がある。
結局その日は全員ががっかりとも言えぬ微妙な心境のまま、解散となった。
※
「それは大変だったわね」
「そーだよー」
翌日、東郷先輩はたくさんのぼた餅を拵えてきてくれた。
日曜日の『私用』というのは新しいぼた餅の開発に勤しむことだったらしい。
「ほら、前に友奈ちゃん達、外患誘致した詫びに飛びきり美味しいぼた餅を作ってって、言ってたから」
そういえば、そんなこと言ってた気もする。友奈さん本人も言ったことを忘れていたし、私たちとて今さら東郷先輩の責任を追及する気は更々無い。でも、東郷先輩としてはどんな形であれケジメをつけておきたいようだ。
「気にしなくてもいいのにー。でも、美味しいぼた餅を食べられるのは、良い事だね!」
言いながら友奈さんはぼた餅をぱくぱく頬張る。
「色んな種類作ってきたから。普通の小豆から、きなこ、抹茶あん、プロテイン」
「そいつは良いな」
「煮干しは無いの?」
「ねぇよ悪いけど」
私達は先輩の作ってくれたぼた餅を堪能する。
堪能しながら、私はふと思った。
国防仮面さんの正体はプレデターだった。でも、前に友達に見せてもらった画像、そこに写っていた国防仮面さんのシルエットはショルダーキャノンの類を装備していなかったような気がする。スタイルもより女性的だったし……もしかして、私の思い違いだったのかな。
「うふふ」
東郷先輩は、美味しそうにぼた餅を食べる友奈さんを見ながらにこやかに笑っていた。