友奈さんがラブレターを貰った。
この事実は、勇者部(特に東郷先輩)に大きな衝撃を与えた。衝撃の大きさについては本人も相当大きかったらしく、軽くパニックになっている。
「あ、朝登校したら下駄箱に入ってて……どうしたらいいんでしょ?」
友奈さんは『恋愛』というような華やかなものをどこか遠い世界の物だと思っていたらしい。だから、クラスの友達に恋愛相談された時も、
「大丈夫! 成せば大抵何とかなる!」
と無責任極まりないアドバイスをしちゃうのだ。
そんな色恋沙汰が自分の身に振りかかっているのである。
「わ、私、ラブレターとかもらったことなくて……」
「…………」
「夏凜ちゃん聴いてる?」
「えっ? ああ、あれでしょ。プレデター貰ったんでしょ」
「いやそんなこと言ってないし」
夏凜さんも平静を装っているけど動揺が全身から漏れ出ていた。その動揺っぷりといったら東郷先輩と良い勝負である。
「どどどどうせ碌でもない輩に決まってるわ。きっとその手紙には爆弾が仕掛けられてるぅ」
「なんですって。そのような輩は追いかけ、見つけ出して、ごうも……拷問しなくちゃなりませんね」
そう言いながら夏凜さんと東郷先輩は自白作用のあるサプリとか謎の拷問器具なんかを取り出して計画を練り始めた。怖すぎる。
そんな危険人物を他所に、お姉ちゃんが一人「フッフッフ」と女子力の低い笑みを漏らし始めた。
「可愛い後輩の危機、ここは経験豊富な私の出番ね!」
経験豊富……?
「そうよ。ラブレターに関しては私の方が先輩だからね。そう、あれはチア部の助っ人をしたとき——」
幾度となく聞かされた話だ。さすがに聞き飽きたのでお姉ちゃんは大佐の麻酔銃によって眠りの園へと
「で、結局友奈はどうしたいんだ」
大佐が麻酔銃を懐に仕舞いながら友奈さんに訊いた。
そうだ、夏凜さんと東郷先輩が良からぬことを企んでいるけど、ラブレターを貰ったのは友奈さんなわけだから、結局は本人の意思が尊重されるべきなのだ。
「私は……」
友奈さんは僅かに思考した。そして、答えを見出した。
「やっぱり、断ろうと思っています。知らない人と付き合うなんて、出来ないですし……」
「まぁ、それが妥当だろう。保安上の面でも」
「別にそこまでは考えて無いですけど」
しかし、友奈さんはこれはこれで心配事が一つあるのだという。
それは、断ったら、相手を傷つけてしまうのではないかということ。
「友奈らしい気遣いね」
いつの間にやら目覚めたお姉ちゃんが感心して言う。東郷先輩と夏凜さんはそんな友奈さんを優しすぎると言っている。どうやらこの二人の中で手紙の差出人は救いがたいクズ野郎ということになっているらしい。
と、いうわけで、今日の勇者部の議題は、『いかにして相手を傷つけずに断るか』に決定した。
※
~
こういう時、とりあえずタロットで占ってみるのが私流だ。
私はタロットカードをシャッフルして、二枚を素早く選びだした。
出たカードは、隠者の正位置と法皇の正位置。意味はそれぞれ『偽り、深慮』『結婚、同盟』……。
「なるほど、結婚詐欺をして手紙の送り主から金をせしめるんだな」
「違います! これは、『恋人が既にいる振りをする』という啓示ではないでしょうか」
恋人がいるとなれば、相手もしょうがないと諦めてくれるだろう。嘘をつくのは友奈さんにとって心苦しいかもしれないけど、ここは我慢の子、ということだ。
「さすがは我が妹、ナイスアイデア」
お姉ちゃんが誇らしげに言う。ちょっと恥ずかしいな。
「でも、そうなると恋人の設定も必要ね。どんな人か訊かれたら答えられないし」
友奈さんの恋人の設定は恋愛上級者(自称)のお姉ちゃんと大佐が練り上げることになった。二人はしばし頭を寄せあってノートに向かい、恋人を見事作り上げた。
結城友奈には将来を約束し合った恋人がいた。恋人の名前はジョン・マクレーン。ニューヨーク市警の刑事部長で、口癖はイピカイエー。とにかく不運な男だけど、ちょっぴり後退した髪の毛がチャームポイントのナイスガイ。彼と友奈の出会い、それは、去年のクリスマス・イブに遡る——。
「待ってください」
ここで友奈さんがストップを出した。
「ちょっと無理があると思うんですけど……」
「お気に召さなかった? じゃぁ、こっちは……」
結城友奈には将来を約束し合った恋人がいた。恋人の名前はジョン・ランボー。ベトナム帰りの兵士で、心に深い傷を負っていた。しかし、天真爛漫な友奈と出会うことで、彼のすさんだ心は癒されていき、いつしか敵地のど真ん中で無双できるほどタフネスな男となった。彼は——。
「あの、先輩、もう結構です……」
「あれ、ここからが面白いのに」
「どっちも友奈の好みそうな男だと思うのだが」
「二人の中だと私ってどういう人間なんですか?」
とにかく、私の出した案は没になった。別に言い訳するつもりもないし責任追及されたわけでもないけど、一応言っとくと私に責任は無い。
~乃木園子の案~
「いっつんのアイデーアからヒントを得たんだけど~、誰かがゆーゆの嘘の恋人役になればいいんだよ~」
少女漫画なんかでよくある展開だ。交際を断るために、幼馴染かなんかに偽の恋人役を演じてもらう……。初めは恋人の振りだったはずなのに、どんどん惹かれあう二人。いつしか二人は本当の恋人同士になって立ち塞がる壁を共に乗り越えていく……。
とってもロマンチック! 素晴らしい案だと思う。
でも、この案には問題があった。お姉ちゃんが指摘する。
「恋人役、誰がするのよ」
根本的な問題だ。友奈さんに訊いてみたところ、そんなことを頼めるような男子はいないという。
でも、園子さんはンフフ~、と不敵に笑い声を上げた。
「いるじゃないですか~、丁度いいところに男子が……」
「え?」
私達は園子さんの視線を追った。その先にいたのは、なじみの筋肉達磨である。
そう、園子さんは大佐に友奈さんの恋人役を演じてもらう腹なのだ。立ち塞がる壁を共に乗り越えるというか壁を破壊していきそうな恋人だ。
「いやぁ、友奈とジョンは似合わないでしょ、何となく」
お姉ちゃんが言う。確かに、二人が並んで立っていてもせいぜい親子にしか見えない。それに大佐はかなり大人びて見えるから、下手をすればそれこそ『筋肉モリモリマッチョマンの変態が中学二年生をたぶらかしている図』でしかない。
「じゃぁ~、誰かにうまい具合に男装してもらうしかないね~。わっしーか、にぼっしーあたりに」
「えっ!?」
東郷先輩と夏凜さんに電流が走った。
「で、仲良さそうなツーショット写真をスマホに入れといて、ラブレター差出人に見せるの~。お姫様抱っこなんかいいねぇ~。あ、写真は私にも送ってね」
もしかしてこの人は、それが見たいがため私達をここまで誘導したのではなかろうか。園子さん、何という策士。
しかし、その策もお姉ちゃんの前に崩れ去った。
「つうても勇者部員は学校に名も顔も知れてるからね。厳しいんじゃないかしら」
言われてみればその通りだ。私も上級生に顔が知られてて、何かあるとよく、
「犬吠埼の妹ちゃん」
と呼ばれている。お姉ちゃんが、
「犬吠埼のお姉ちゃん」
と呼ばれないあたり不公平な気もするけど、こればかりはしょうがないね。
お姉ちゃんに却下された園子さんは心底残念そうに「そっか~」と言っていた。でも、その目はまだ諦めていない。
~犬吠埼風の案~
「ここは一つ、ミュージカル風に断ろう」
「またワケ分かんないことを……」
夏凜さんが呆れ果てた声を上げる。ラブレターを貰ったことのある先輩(略してラブレター先輩)は発想力で後輩に威厳を見せつけようとしているが、見事に空ぶっている。
お姉ちゃんが言うには、妙に気負って断ろうとするから悩むんだ、気を楽にして、楽しく断れば万事OK、未来も明るいとのことだった。
「だからってミュージカルってどうよ」
「その子はきっと友奈の明るさに惚れたのよ。だから明るくしてれば何とかなるって」
「そうかしらねぇ」
~
放課後。窓から差し込む橙色の夕日が待ち合わせ場所の階段踊場を静かに照らし出している。
そこに一人立つ少年は、胸の高鳴りを抑えることが出来なかった。
「結城さん、来てくれるだろうか——」
結城友奈……天真爛漫で友達思いな女の子。
最初はあの子の笑顔を遠くから眺めるだけだった。でも、今度は、もっと近く……あの子の隣で、あの弾けるような笑顔を見たい。
緊張に震える少年。
そんな彼の背後から、軽やかな足音が響いてきた。
「!」
少年は振り向く。
振り向いた先、そこに立っていたのは、彼が恋い焦がれる少女だった。
「結城さん……」
少年の胸が、一際大きく高鳴る……。
それに対し少女は、返事をするべく息を大きく吸って——唄い出した。
「ラ~ラ~ラ~、私はァ~無垢な少女~恋をするには~まだ早いのォ~」
「…………」
「だからァ~ごめんなさぁい~付き合えないィ~! ジャジャジャ、ジャァ~ン」
「…………」
「それでは」
ひとしきり歌い踊ると少女は満足したのか足早にその場を後にした。
夕日に輝く踊り場。そこに残されたのは、ただ呆然とする少年一人であった……。
~
「風、控えめに言うけどアンタ馬鹿じゃないの?」
「な、何よ!」
お姉ちゃんがプリプリ怒る。でも、こんなことをしようものなら心に深い傷を負う……負うのかな? 何にせよ、酷く馬鹿にされたと感じるだろう。
「お姉ちゃんの案は……却下だね」
「そんなぁ」
~ジョン・メイトリックスの案~
「コイツで返事すればいい」
そういって大佐が掃除用具入れから一丁のライフル(何を掃除するつもりなんだろう)を取り出して友奈さんに手渡した。
「あの……意味が解らないんですが……」
「つまり、こういうことだ」
~
放課後。窓から差し込む橙色の夕日が待ち合わせ場所の階段踊場を静かに照らし出している。
そこに一人立つ少年は、胸の高鳴りを抑えることが出来なかった。
「結城さん、来てくれるだろうか——」
結城友奈……天真爛漫で友達思いな女の子。
最初はあの子の笑顔を遠くから眺めるだけだった。でも、今度は、もっと近く……あの子の隣で、あの弾けるような笑顔を見たい。
緊張に震える少年。
そんな彼の背後から、軽やかな足音が響いてきた。
「!」
少年は振り向く。
振り向いた先、そこに立っていたのは、ライフルの銃口をこちらに向ける結城友奈の姿だった。
「結城さん……」
少年の胸が、一際大きく高鳴る……。
「結城さん……俺と付き合ってくれ。OK?」
「OK!」ズドン!
ライフル弾を胸に浮けた少年はそのままもんどりうって倒れた。
少年を撃ち倒した少女は満足げに銃口から立ち上る紫煙を吹くと、足早にその場を後にした。
夕日に輝く踊り場。そこに残されたのは、ただの屍と化した少年一人であった……。
~
「斬新な断り方だと思うが」
「斬新すぎて今の私には理解できないです」
「理解できる日は来ないと思うなぁ~」
大佐の案は言うことなしの却下だ。当然だぜ。
~東郷美森の案~
「事は単純です。私が友奈ちゃんに代わって断りを入れてこれば良いのです」
「つっても、本人でもないのにどう断るわけ?」
夏凜さんが訊く。東郷先輩は指をピッと立てて説明した。
「簡単なことです。こんな風に——」
~
放課後。窓から差し込む橙色の夕日が待ち合わせ場所の階段踊場を静かに照らし出している。
そこに一人立つ少年は、胸中にムクムクと沸き上がる欲望を抑えることが出来なかった。
「結城友奈ァ、来てみろぉ、ケチョンケチョンに苛め抜いてやるぜェ……」
結城友奈……天真爛漫で友達思いな女の子。
最初はあの子の悲しむ顔を遠くから妄想するだけだった。でも、今度は、直接この手であの笑顔を絶望に染め抜いてやりたい。
「小娘の喉を切るのは、あったかいバターを切るようだぜェ……」
狂喜に震える少年。
そんな彼の背後から、凛とした声が響いてきた。
「待ちなさい!」
「!」
少年は振り向く。
振り向いた先、そこに立っていたのは、ライフルの銃口をこちらに向ける結城友奈の親友、東郷美森の姿だった。
「友奈ちゃんに手出しはさせないわ!」
「うへへ」
男は気持ちの悪い笑みを浮かべながら懐からナイフを取り出した。
「野ァ郎ォォォぶっ殺してやあぁぁぁる!」
「それは、こちらの台詞よ」
言うや東郷は銃の引き金を引いた。銃口から発射された弾丸は空気を切り裂き、見事、男の額を撃ちぬいた。
「ぐはぁぁ!」
男は実をのけぞらせると、そのまま仰向けに倒れた。
「地獄に落ちろ、ベネット!」
捨て台詞を吐き捨て、東郷は足早にその場を後にした。
夕日に輝く踊り場。そこに残されたのは、ただのカカシと化したベネット一人であった……。
~
「そういうことなんで、今すぐ断ってきます」
「待って待って」
大佐の銃を手にして戦場にお出かけしようとする東郷先輩を友奈さんが必死になって止める。
「放して! 私は友奈ちゃんを救いがたいクズから守るためなら犯罪者にだってなって見せるわ」
「違うから! ツッコミどころしかないから待って」
これは修羅場だ。東郷先輩の中で差出人がドンドン悪役になっていってるようだ。そのうち全世界を己の支配下に置かんと画策するサタンがラブレターの差出人となるだろう。
それにしても、なんということだろう。ここまででまともな案が一つもない。勇者部はいつからこんな調子に……割と最初からこんな調子だったねそう言えば。
「……ていうかさ」
夏凜さんが口を開く。
「別にそんな気張ることなくさ、普通に断っちゃえばいいじゃない」
「でも、良いのかなぁ」
「良いに決まってるでしょ。第一、その程度でへこたれる奴がこの町で生きてけるわけないでしょ」
なるほどそれもそうだ。売人、ポン引き、淫売共の巣窟たるバル・ベルデ商店街の周辺に住む以上、そんな弱々しい精神していないだろう。
「なに? 結局普通に断るの?」
お姉ちゃんが面白くない、という顔をする。それは大佐と園子さんも同様で、
「あまりにも普通じゃないか」
「にぼっしー面白みに欠けるよそれは~」
「いつから面白い断り方会議になったのよ!」
結局、夏凜さんの言が一番有効になりそうだ。
「ごめんね友奈、私達、力になれなくて」
お姉ちゃんが申し訳なさそうに(本当に申し訳ないと思っているか否かはさておき)言う。でも、友奈さんはいつものように笑うと、
「でも、みんなに相談で来て良かったです。私一人だと、どうしていいのか分からなかったと思いますから」
「ホントゴメン。いやぁ、経験値が圧倒的に不足してるのよね、私達」
ラブレター先輩もついに現実を認めてしまったようだ。この歳で経験豊富なのもある意味考え物だとは思うけど……。
「ありがとうございました。今晩、みんなの言ってたことを参考にして、自分なりに考えてみます」
友奈さんは頭をペコリと下げた。
※
翌日の放課後。
部室の中にはそわそわした空気が流れていいた。
その『そわそわ』の発信源は主に東郷先輩と夏凜さんである。
「友奈ちゃん、遅いわ……」
東郷先輩が室内を右往左往しながらしきりに言っている。
友奈さんは一晩考えた結果、『直接相手に断りを入れる』という単純明快な方法に行きついた。結局、夏凜さんの案のみが採用されたわけである。
まぁ、昨日言った通りみんなの案を参考にしたら断り方が『歌い踊りながら相手を射殺する』という方法になってしまうから、当然っちゃ当然である。
で、友奈さんが断るべく待ち合わせ場所へ出陣したのが半刻前。確かに、断りを入れるだけにしては遅い気もする。
「もしかして、相手が逆上して喧嘩になってしまってるんじゃない……?」
夏凜さんが心配げに言う。喧嘩になったところで友奈さんが負けるとは思えないけど……友奈さんは人を傷つけるのを嫌うから、されるがままな可能性もある。
いや、でも一番ありえるのは実際会ってみたら気が合っちゃってそのままデート、という流れだろう。初めて会う男の人。でも、まるで運命の糸で結ばれているかのように惹かれあって……ちょっと素敵。
でも、東郷先輩的には素敵でも何でもないらしい。
「やっぱり私が断りに行くべきだったんだわ」
「……わたしちょっと、散歩に行きたくなってきたワー」
夏凜さんが棒読みで言う。
「奇遇ね夏凜ちゃん、私もよ。そういう事だから一緒に散歩に行きましょう。大佐、小銃か何か貸してもらえませんか」
「掃除用具入れにカービン銃が入ってるから持っていっていいぞ」
「こらこら、東郷も物騒なもの要求しないしジョンも貸し出さないの」
東郷先輩が友奈さんを誑かす不逞な輩への銃剣突撃を敢行しようと考えているようだ。そんな時、部室の扉がガラガラと開かれた。
「I’m Back!」
友奈さんが大佐の真似をしながら入室してきた。
「結城友奈ただいま戻りました! うわ東郷さん物騒だねぇ」
「友奈ちゃん! 無事で良かった……!」
東郷先輩は手にしていたカービン銃を放り出して友奈さんをはし、と抱きしめた。どんだけ心配してたんだこの人は。
「で、友奈。なんかえらく遅かったけど」
夏凜さんが訊く。すると、友奈さんはさらりとすごいことを言ってのけた。
「うん、なんか話してたら気が合っちゃって、友達になってきちゃった」
「あ!?」
勇者部に電流が走った。
「付き合うとか良く分からないんで、とりあえず、友達になりました」
勇者部にさらに電流が走った(ベネチャージ)。まさか友奈さんにそんな小悪魔的側面があったなんて……お姉ちゃんは尊敬の眼差しを向け始めてるし、大佐は筋肉モリモリだし、東郷先輩も口をあんぐりと開けてマヌケ面この上ない。夏凜さんは……なんてこった、さっき走った電流に耐えかねて死んじまった。
「友奈……いえ、友奈さん……いや、結城友奈大先生」
「えっ、風先輩ったらどうしたんですか」
「なんか、追い抜かれた気がして……」
「はぁ……?」
「つまり、結城友奈大先生閣下にあらせられましては、交際はお断り遊ばしたけど、友人として懇ろに付き合っていこうと……」
「良く分かんないけど、そういうことです、はい!」
友奈さんが満面の笑みで言う。
「可愛い子でしたよー」
「かわいい……かわ……かわいい?」
不思議なフレーズだ。もしかして友奈さんに告白したのは下級生……つまり、私と同学年の生徒ということかしらん?
でも、実際は違った。
「ラブレターくれたの、女の子だったんです」
「お、女の子……」
「女の子同士だから、付き合うとかは良く分かんないけど、お話してる内に、友達にはなれるかなーって!」
「な、なるほど……ちなみに、お話というのは?」
「お天気、税金、インフレ」
「湿気てるわねぇ」
友奈さんらしいといえば友奈さんらしい展開だ。確かに、友奈さんは妙に男らしいところがあるから、男の子より女の子にモテるのだろう。
「園子さん、もしかして知ってたんですか?」
私はそっと園子さんに耳打ちした。
「何となく予想付いてたな~。大佐も同じだよ」
「そうなんですか?」
「ああそうだ」
なんにせよ、勇者部始まって以来の重大局面は乗り切ったということだ。
ただ、東郷先輩と夏凜さんは、
「でも、相手は女子とは言え……注意しなくては……」
「そうね……」
二人の戦いはまだ続きそうだ。ていうか夏凜さん生きてたんだ。