ジョン・メイトリックスは元コマンドーである   作:乾操

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 完結したはずの作品に最新話が投稿されています。理屈に合いませんよ少佐。
 
 『執筆中小説』の整理をしていたところ、一年前に書いた没話を見つけたので加筆投稿します。これの他に没話は三本(園子の部屋で若葉の御記を見つける話、腕相撲大会、樹の花嫁修業)あるのですが、今回はほぼ完成していた今話と樹の花嫁修業を供養したいと思います。
 所詮は没話なので、それほど期待せずお読みください。


 このお話の時期は10月ごろです。


女子力ってわかるかい? 空気のジメジメ度だ

 お姉ちゃんの好きな言葉に『女子力』というものがある。

 いつごろ誰が言い出したかは知れないけど、なんやかんや男子にチヤホヤされる力のこと、らしい。

 そんなお姉ちゃんの女子力に今、勇者部内で疑問の目が向けられつつある。

 きっかけは、東郷先輩の問いかけだった

「先輩の言う『女子力』は、ホントに『女子力』なのですか?」

「なぬ?」

 いつもの放課後、依頼をこなし帰還してきたお姉ちゃんに東郷先輩はそう疑問をぶつけた。

 というのも、今回の依頼は弩が付くほどの力仕事。それを難なくこなしたお姉ちゃんは帰還するや麦茶を煽って一言、

 

「かぁーっ! 五臓六腑に染みわたるわー!」

 

「女子力の高い人が言う台詞ではない気が……」

「なんですって」

 夏凜さんも面白がって、

「女子力(筋肉)」

「人をジョンみたいに言うな!」

「その通りかもな」

「ジョンも同意するな!」

「でも、にぼっしーの言う通りだよね~」

 園子さんがうんうんと頷く。さすがに筋金入りのお嬢様から言われるとお姉ちゃんもたじろいだ。

 だが、ここで引き下がるお姉ちゃんではない。

「いいわ。じゃぁ、測定してやろうじゃないの!」

「お姉ちゃんの女子力を?」

「否! 勇者部全員の女子力を、よ!」

 

 

 所変わって夏凜さんの家。

「なんで私の家なのよ……」

「私生活が雑そうな夏凜の家で測定したほうがわかりやすいでしょ」

「余計なお世話じゃ」

「で、最初は何から測定するんですか?」

 東郷先輩が尋ねる。

 今回の判定役は東郷先輩だ。基本的な能力値が高くてかつ公正なジャッジが出来ると思われることから選出された。

「そうね、まずは『洗濯』!」

 洗濯……家事の基本の一つだ。ちなみに犬吠埼家はお姉ちゃんがしっかり毎日洗濯している。いい加減私も手伝いたいところだ。

「私と東郷さんはお母さんが洗ってくれるね。とはいえ、東郷さんはたまに自分でやってるみたいだけど」

「私もどうにか自分で洗ってるよ~」

「俺も自分で洗っている」

「いや別にジョンの情報はいらないわよ……となると、夏凜、アンタは洗濯もの溜めてそうね~」

「なっ!? 心外もいいところだわ……ちゃんと洗ってるわよ」

 とは言え、お姉ちゃんの言う事は何となくわかる。夏凜さんは家事全般出来るイメージが無いのだ。何しろコンビニ弁当とサプリ、そして煮干しだけを糧に生きているような人だ。

「またまた~。どうせ洗面所でサルマタケの栽培とかに勤しんでるんでしょ?」

「んなわけあるか!」

「ならば確かめるまでよ。友奈、乃木! 洗面所と押し入れをチェックしなさい!」

「ラジャー!」

「ああこらっ!」

 お姉ちゃんの号令と共に友奈さんは洗面所へ、園子さんは押し入れへ(信じられないような瞬発力だった……)突撃した。

 しばらくして、二人は居間へ戻って来た。

「乃木、汚物は見つかった?」

「イ゙エェェ! 整理された洋服だけです」

「なんですって!? 友奈、洗面所は!?」

「何もありません、痕跡はゼロです……パンツもサルマタケも、何一つありません」

「なんてこと……」

 お姉ちゃんの顔がみるみる蒼くなる。

「私の中の夏凜のイメージが……」

「失礼な奴ね」

 でも、意外だったことは確かだ。夏凜さんは東郷先輩から1ポイント進呈された。

 この時、押し入れを漁っていた(本当に容赦がない)園子さんが何かを見つけた。

「これは、穴あきズボン?」

「ああ、それね。この間穴が開いちゃったから捨てようと思ったんだけど、うっかり一緒に洗濯しちゃって、捨てれないのよ」

 ダメージジーンズ、にしては些か穴が大きすぎる。これを着て街中を歩いたら激戦地帰りの兵隊か何かだと思われるだろう。

 すると、大佐がふと、

「そんな穴、塞いでしまえばいい」

「簡単に言うけど、明らかに変になるでしょうが」

「やり方次第だ。俺の履いてるズボンだって、穴が開いたのを塞いだやつだ」

 大佐が膝を上げて見せてくれる。確かに、膝の部分をよく見ると何かで塞いだような形跡があった。器用なものだ。

「もったいないからな」

「なるほど。では、大佐に1ポイント」

「えっ、待って」

 お姉ちゃんが東郷先輩の采配に異議を唱える。

「ジョンも採点されんの?」

 当然の疑問だ。今回測定するのは『女子力』。そもそも男な大佐を測定するのはおかしな話だ。

 しかし、それに対して東郷先輩はさも当然のように、

「勇者部全員の女子力を計ると言ったのは、おめぇだぜ」

「お役所仕事め……」

 

 第二ラウンド、料理対決。

 場所は犬吠埼家のキッチン。

「なんで家に移動したの?」

「名軍師孫武曰く、戦いには地の利を生かせ! ここは文字通りホームでけちょんけちょんにしてやるのよ」

「お姉ちゃんこすいねー」

 そんなお姉ちゃんの大いなる陰謀も露知らず、それぞれ……と言っても料理が出来る面子だけだが、準備運動をしたりすでに作ってきたものをテーブルに展開している。

 エントリーナンバー1番は東郷先輩。友奈さんの事を思いながら血の滴るぼた餅を作る天才料理人。

「変な肩書つけると口を縫い合わせるわよー。はい、ぼた餅です」

「わーい!」

「わっしーのぼた餅だぁ激ウマだでぇ~」

 友奈さんと園子さんがぼた餅をパクパク口に放り込む。東郷先輩のぼた餅は素晴らしく美味しいけど、いくら美味しいとは言えそんなに大量に食べられるものではない。そんなものを次々胃に放り込む二人はたぶん人間ではない。

「むぐむぐ、東郷さんに1点!」

「まぐまぐ、同じく1点~」

「コラ東郷! 餌付けしないし二人もされない!」

「次は風の番だな」

 エントリーナンバー2番、お姉ちゃんこと犬吠埼風。十年前なら女子力で男子をぶっ殺してたぜ!

 料理といえばお姉ちゃんの一大得意分野だ。なにしろ毎日美味しいご飯とお弁当を作っているわけなのだから。私も何かお手伝いしたいけど、今現在のところ台所に立たせてくれない。まぁ、しょうがないね。

「フフフ、私の中で封印されし女子力が蠢いておるわぁ」

「いいからさっさと作れマヌケェ」

 夏凜さんが急かす。この人はこれのためにご丁寧に朝昼食抜いているためお腹ぺこぺこなのだ。

 台所に立ったお姉ちゃんは「うおおおお」と熱いオーラを纏いながら調理器具を操る。しばしすると、テーブルには筑前煮やらゴボウの卵とじなどがズラリと並んだ。いつもの事だけど色合いが地味だ。美味しいけど。

「風先輩のおかずは美味しいですね!」

「ふふ~む、美味し~」

 友奈さんと園子さんはさっきぼた餅をしこたま食べていたのにまだ食べられるらしい。やはり人間ではない。

「東郷さんのぼた餅と、風先輩のご飯は別腹だよ!」

 なるほど、便利な言葉だ。

 ちなみに東郷先輩曰く別腹は科学的に立証されている現象らしい。

「そうか、私がうどんを食べまくっても晩御飯を食べられるのはそういう……」

 それはまた別な気がする。

 ……いよいよ最後の挑戦者の番だ。

 エントリーナンバー3番、ジョン・メイトリクス大佐。女子力勝負に筋肉が混ざっていることについてはもう誰も文句を言わない。

「俺が使う食材はこれだ」

 言うや、大佐は鞄の中から白いビニール袋を取り出した。中には何やら鮮やかなものが……。

「大佐、何ですかそれ」

「キジ」

「キジ!?」

 袋を開けてみてみると、なるほど立派なキジが収まっていた。一体どこで手に入れたのやら。今夜はキジのステーキか?

「二日前に獲ったやつだ。食べごろだろう」

 いきなり女子力の欠片もない。いや、確かに生きる術としてお肉の自給は素晴らしいけど、果たしてこれを女子力として認めて良いものか……。

「ふむ、キジは味も良く、故に我が国の国鳥でもあります。大佐に一点」

「女子力関係なくね?」

「善き婦女子は国を愛するのです」

 東郷先輩的にはポイント高いらしい。お姉ちゃんの女子観と明らかにずれてる気がしてならないけど、採点を任せたのはお姉ちゃんだ。今更どうと言えない。

 そんな中、キジをまじまじ見ていた園子さんがふと思い出したように声を上げた。

「そういえば、キジって今、禁猟期間じゃなかったっかなぁ~……」

「………」

 園子さん曰く、狩猟解禁は11月ごろかららしい。でも今は10月である。

「いつも平気でやってることだろうが!」

「やってないんじゃないかな~」

「違法行為なので一点減点です」

 東郷先輩がビシリと言う。いや、一点減点とかそういう問題じゃない気がするんですけど……。

 しかし、大佐は別段困った素振も見せず、

「まぁ、大赦がどうにかしてくれるだろう」

 困った時の大赦頼りである。ていうか大赦はこの人の損害補てんにどれだけのお金を使っているのだろう。買い物のたびに入り口を破壊している店とかもあるし。

 なお、キジは香草と共に丸ごと蒸し焼きにされた。

 大変美味でございました。

 

 

 その後2日に渡って測定した後、東郷先輩が点数を集計。部活の場で、結果発表の運びとなった。

「それでは、女子力測定大会の結果を発表します」

 先輩は書類を広げて読み上げ始めた。

「低い順に。まずは樹ちゃん、0点」

 まぁ予想通り。とは言え、まさか0点だとも思わなかったから、一瞬性転換を考えた。

「友奈ちゃんは1点。ホントは600点くらいあげたいところだけど」

 友奈さんは『押し花が女子っぽい』という理由で加点された。それなら私だって乙女チックな恋愛小説とか好きだし、加点してくれてもいいじゃない。

「そのっちは2点ね」

 園子さんは『食事の所作』で加点された。東郷先輩のように完璧な所作をしているわけではないのだけれど、一つ一つの動きが自然に優雅で、絵になるのだ。東郷先輩とは別ベクトルの気品があった。いつもぬぼっとしているけど決める時は決める人である。

「夏凜ちゃん、3点」

 夏凜さんは洗濯物などの他に園子さんの推薦で1点加点された。本人は知らないけど、園子さんが夏凜さんを推薦した理由は、

「ツンデレは打点高いよね~」

というものだった。

「私が5点。そして風先輩は7点」

 さすがはお姉ちゃん、大和撫子の権化を押えての堂々たる点数だ。

 しかし、お姉ちゃんは浮かない顔をしている。理由は、もう一人の参加者にあった。

「——メイトリックス大佐は15点です。というわけで、勇者部で一番女子力が高いのはジョン・メイトリクス大佐に決定いたしました」

「異議ありっ!」

「ハイ、風先輩」

「おかしいでしょ。なんでジョンがトップなのよ!」

「なんでと言われましても……」

 東郷先輩が困ったような顔をする。

 先輩のデータは精密・公平を極めている。マニュアル化した採点基準を持っているのだ。そうした結果、大佐の女子力がトップになったである。

「そもそも、男子の女子力計ってる時点でおかしいし!」

「勇者部全員の女子力を計ると言ったのは、おめ——」

「それはもうわかったわよ!」

「おいおい、負け惜しみとはみっともないぞ」

「うるさい全身筋肉!」

 とは言うものの、お姉ちゃんもお姉ちゃんで大佐の高い女子力を否定する術を持たない。何しろ女子力という存在そのものが曖昧なわけだから、東郷先輩の作った採点基準に従うほかないのだ。単純に『男性を虜にする能力』という定義づけをしても、大佐はそれを満たしてしまっている。ボディビル部を初め、ロシアンふんどし相撲部、一人ノルマンディー部等々では大佐の男らしさに惚れこむ男子生徒が多いのだ(無論、尊敬の意味である。例外もたぶんいるだろうけど)。

「『女子力(筋肉)』は真理だったのね」

 夏凜さんはうんうんと一人頷く。

「違うもん違うもん! ジョンのは女子力じゃないもん! 強いて言うなら『コマン度』だもん!」

 いけない、お姉ちゃんが幼児退行を始めた。お姉ちゃんはしょーもないことで極度に追い詰められると精神年齢が低下するのだ。

 しかし、そんなお姉ちゃんを優しく諭してくれる存在があった。

「フーミン先輩、それは違いますよ」

「うっうっ、のぎぃ」

「とやかく言っても始まりませんよ~。ここで『ジョンなんかすぐに追い抜いてやる』という気持ちを抱く者こそが、真の『女子』ではないでしょーか」

「ううぅ……」

 お姉ちゃんは園子さんに抱き付いてぴーぴー泣いた。そんなお姉ちゃんの頭を園子さんは優しく撫でる。そんな彼女を見て、東郷先輩が、

「そのっち良い感じね。1ポイント追加」

「ぃやった」

「あれ、もしかして私利用された……?」

 園子さんは夏凜さんと同点になり嬉しいのか喜びの舞を踊っている。

 踊りながら、

「でもフーミン先輩、要素要素だけなら大佐もかなり乙女ですよ~?」

「どこがよぉ……」

 園子さん曰く、こうだ。

 まず、一人で自炊が出来る。これは将来素敵なお嫁さんになるには必須ステータスだ。女性の社会進出めざましい現代でも、やっぱり料理のできる女子は同性異性問わずモテるのである。

「いや、だからジョンは女子じゃないじゃん」

「要素の問題ですよ~」

 次に、大佐の山・森要素だ。今、巷では『山ガール』や『森ガール』と言ったものが流行っているらしい。山ガールは登山が趣味の女の子のことで、森ガールは森にいそうな雰囲気のファッションセンスのことである。なんと、大佐はこの両方を備えているのだ。

「まぁ、大佐は山に住んでるから山ガール要素あるよね」

「森にもいそうだから森ガール要素もあるわね」

 友奈さんと東郷先輩もうんうんと頷きながら納得する。

「いやいやおかしいって! 山ガールと言うか山男じゃん! 森ガール要素も密林の森林迷彩的な意味じゃん!」

 三つに、近頃の女性は肉食系が流行らしい。がつがつしているけど、どこか愛嬌もある。そんな女の子だ。

「まぁ大佐は肉食系ね……意外と子供好きだし、そういう面では愛嬌あるわね」

 なんてこった、今まで雄々しさの代表格と思っていた大佐がまさか乙女の鑑でもあったなんて!

「お姉ちゃん、お悔やみ申し上げますわ」

「樹まで! ぬぬぬ、こんなのおかしい!」

 悔しがるお姉ちゃんに、満足げな大佐。筋力と女子力を合わせもった大佐は無敵だ。神にも匹敵するだろう。

 

 かくして、第一回勇者部女子力測定大会はジョン・メイトリックス大佐の圧倒的女子力を知らしめる結果となった。お姉ちゃんはこの雪辱を晴らすべく、今後とも女子力を高めていく所存だそうだ。妹的にはそれ以前に受験勉強を頑張って欲しいところである。

 しかし、今回女子力測定で思い知らされたのは大佐の女子力の高さだけではない。

 大佐の陰に隠れてみんなあまり気にしないけど、その逆……つまり、私の女子力の低さもまた知らしめる結果となったのだ。

 来年からは私も二年生、つまり後輩が出来るということ。

 このままでは後輩に馬鹿にされて、なんやかんやで臓器を売られちまう。

 女子力、上げなきゃ。

 

 

 




神は完結作品への投稿はお許しにならないので、一応連載中に戻します。
ただ、次話の投稿時期は未定です。

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