ジョン・メイトリックスは元コマンドーである   作:乾操

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たくさんのお気に入りと感想ありがとYO!
どうでもいいけど、超絶今更サルゲッチュ2を買いまして。懐かしさで失禁しそうになりました。故郷の味だ。
後今回は自分でも何書いてるのかわからなくなる時がありました。とんでもなく変な文法やら誤字やら見つけた時は教えてください。さもなくば、娘のバラバラ死体が届くぞ?


6・眼だけが光ってた……人間じゃない

 みぃんみぃんみぃん……。

「ミンミンミンミン喚きやがって! それしか出来んのかこの大根野郎!」

「こらこらジョン。蝉に怒っても仕方ないでしょうが暑苦しい」

 半ドンの放課後の勇者部部室は灼熱地獄といった体で、立っているだけで溶けてしまいそうだった。アフガニスタンを思い出す……。(注・国立アフガニスタン臨海公園の事。一面砂場で、夏はくっっそ暑い)

 今日の活動内容は今度の老人会でやる劇の練習兼舞台装置製作。演目は『プレデター』。内容は、友奈さん演じるダッチ・シェイファーと夏凜さん演じるプレデターの壮絶なバトル。夏凜さんは死ぬ。

 二人が東郷先輩の演技指導の下で練習している傍ら、私と大佐は舞台装置の製作。この暑さで鋸を扱うのは、か弱い私には地獄だった。下着は汗でびっしょり。大佐みたいに上半身裸にでもなればいくらか涼しくなるだろうけど、私はまだその辺の理性を残している。ていうか、大佐の筋肉から発せられる熱で余計に暑い。

「ほら夏凜ちゃん! もっと『ペギャー!』ってしなきゃ」

 東郷さんの演技指示が飛ぶ。

「もう少しわかりやすく説明しなさいよ!」

 みんな熱でぐったり。夏凜さんの声にもなんだか張りがない。友奈さんもいつもより元気がなかった。

「あっついねー」

「そうね。でも、旧世紀はもっと暑かったらしいわよ?」

 何でも、夏の湿度が高かったらしい。つまり、街中がサウナ状態だったというわけだ。

「湿度ってわかる夏凜ちゃん? 空気のジメジメ度だ」

「友奈ぁ、アンタ私の事馬鹿にしてるでしょ」

「ご冗談!」

「変な掛け合いしてないで~」

 そういうお姉ちゃんは机に向かって書類整理とホームページ管理の真っ最中。動いていない分一件楽そうに見えるけど、勇者部の誇る無駄にハイスペックなコンピュータからの排熱はお姉ちゃんの精神を確実に蝕んでいた。

 そんな私達をどうにかこの世へ繋ぎ留めているのが、彼、扇風機先生だ。

「あぁあぁあぁあぁあぁ」

 身体が限界になると、みんなが揃って先生の前に膝をつく。先生は首を振って、勇者部部員に幸せを振りまいてくれるのだ。

「文明の利器だね~。先人は偉大だわ」

 お姉ちゃんも作業を放り出して先生の前に膝をついた。ちなみに大佐は身体に水を打ちつけることで暑さを凌いでいる。私たちにはまねできない芸当だ。性別的に。

 低い唸り声と共に清涼感を送り続ける先生。

「あぁあぁあぁあぁあぁ」

「いぎがえりまずねぇぇぇ」

 しかし、扇風機先生の絶頂期は割かし早く終焉を迎えることになる。

「あ、あれ?」

 扇風機先生の風圧が消えた。

「先生!?」

「扇風機先生が気を失った! 衛生兵! メディーック!」

「動けこのポンコツが! 動けってんだよ!」

「うるせえええええ!」

 私達の変なテンションで教室の気温が一度ほど上がったような気がした。

 それにしても、なぜ先生は急に活動を停止してしまったのだろう。バーテックスの襲来……でもないし。外では蝉合唱団が勢力を拡大させている。 

 天井を見ると、部室の電気も消えていた。

「停電ね」

 東郷先輩が呟く。廊下の方でも先生や他の生徒がガヤガヤ言っていた。

「こんなときに停電とは、間が悪いわね」

「こんな時だからこそ停電したのよ。発電所が電力消費に追いつかなかったのね」

 なるほど、そういうことか。

 でも、そうとは言え、この暑さで扇風機なしというのは厳しい。部室もそんなに広くないから、窓を開け放っていても熱がこもる。

「俺が扇風機になろう」

 そう言い出したのは我らがメイトリックス大佐だった。両手に団扇を装備している。

「こんなの扇風機じゃないわ! 羽のついた筋肉よ!」

「だったら扇げばいいだろ!」

 夏凜さんの指摘を一蹴すると大佐は両腕を振って風を起こし始めた。団扇とは思えない強風が部室内に吹き荒れ、プリントは宙に舞い、戸棚のガラス戸はカタカタ震えはじめた。

「やることが派手だねぇ」

 感心するお姉ちゃんだけど、部室内は大惨事だ。大惨事大戦だ。

「ストップ、ストーップ!」

 友奈さんの叫びで大佐は扇ぐのを止めた。散らばったプリントは床に季節外れの雪景色を生み出している。

 私達はそんな雪かきを終えると余計に汗をかいた。大佐はどことなく筋肉をすぼめてシュンとしている。良かれと思ってやったことが裏目に出たからだろう。

 はふぅ、とお姉ちゃんは汗をぬぐう。

 その時、勇者部が誇るスーパーコンピュータに何やら依頼が飛び込んできた。ここのパソコンは急な停電によるデータ損失に備えて東郷先輩謹製の予備電源に接続されているのだ。東郷先輩はパソコンの前に移動するとキーボードを数回たたいて依頼を呼び出した。

「迷子の猫を探してほしいですって。かれこれ二日帰ってきてないらしくて」

 こういう場合、猫というのはほっといても帰ってくるものだ。二日どころか一週間姿を消す時もある。

 でも、このカンボジアが天国に思える暑さ(注・スーパー銭湯のサウナ『カンボジア』の事)から脱出できるまたとないチャンスだ。室温は、外よりも高かった。

「はい! 私が行きます!」

「樹ちゃん積極的だねぇ」

 友奈さんが感心そうに言う。こんな暑さから脱出できるなら、ただでも喜んでやるぜ。

 お姉ちゃんも少し考えた後、

「ま、こんな暑さじゃ舞台装置作りも捗らないだろうしね。ジョン、一緒に行ってやって」

「任せろ」

 どうやらお姉ちゃんは熱源の一つである筋肉を部室から追い出したいらしい。

 

 

 外は日照りがあったけど風がそよそよ吹いていて気持ちよかった。

「でもこの中を徒歩で探すのは骨が折れますね」

 猫の特徴や画像はスマホに入っている。とは言え日差しが強いこともあって探すのに骨が折れることには変わりない。私は大佐に「コンビニで飲み物か何か買いましょう」と提案しようとした。

 そんな私の視界にちょっと面倒な絵面が飛び込んできた。

 私達が校外に出るには校門を出る必要があるのだけど、その校門のあたりにこれ見よがしに不良中学生が三人屯していたのだ。

 この不良中学生というのは讃州中の隣の学校の連中で、無免許運転、喫煙、飲酒をして粋がっているような輩だ。警察も手を焼く、とってもめんどくさい人たち。そんな連中が、校門前にバイクを停めて塞いでいる。

「どうします? 裏門から出ますか?」

 私は大佐に言った。でも、大佐は一言、

「丁度いい」

とだけ言うと不良連中の方へ歩いて行った。

 不良たちは煙草を吸いながらぺちゃくちゃ喋っている。その内の一人が、大佐の姿に気付いた。

「おいおい、讃州中の真面目君だぜぇ」

「彼女なんて連れてるぜ」

「ヒュー!」

 『彼女』というのは私の事らしい。迷惑な話だ。

 不良たちはニヤニヤしながら大佐の近くに寄った。三人のリーダー格の男に大佐は表情一つ変えずに言う

「君のメットと、バイクが欲しい」

「財布も欲しいって言わねぇのかよ」

 へっへっへ、と下種な笑い声を上げる。リーダー格の男が笑いながら大佐の腕に煙草の火を押し付けた。根性焼きだ。きっと、こうやって弱いものを恐喝したりしてるんだろう。ヒデェ事しやがる。

 でも、煙草の火ごとき、大佐にとってはホッカイロ程度の熱さでしかない。何しろ彼には分厚い筋肉が付いているのだ。煙草の火にびくともしない大佐に驚きを隠せない不良たち。彼らはその後大佐に掴まれてまとめて近くの川に放り込まれた。

「これを被るんだ」

 大佐が私にヘルメットを手渡した。

「こんなことして大丈夫なんですか?」

「どうせ奴らは無免許だ」

「そりゃそうでしょうけど」

「出発するぞ。しっかり掴まってろ」

 大佐の運転するバイクは私を後ろに載せると唸りを上げて走りだした。私は大佐の背中にしがみ付く。しがみ付きながら、疑問をぶつけた。

「どこでバイクの乗り方なんて習ったんです?」

「大赦だ。必修科目だった」

「へぇ。じゃぁ、お姉ちゃんも乗れるんですか?」

 私が言うと、大佐は一つ笑って、

「おいおい、風はまだ中学生だろう」

 言われてみればそうだ。お姉ちゃんは中学三年生で、まだバイクの免許は取れない。当然の話だ。……なにか釈然としないけど。

 

 バイクでの移動は楽ではあった。でも、この町だけでも一匹の猫を探し回るのは大変で、道行く人に訊いて回ってもみんな知らないと答えた。

「樹、特徴はどんなだ」

「えっと、性別はオス、毛は茶、筋肉モリモリマッチョな猫で、名前はジョン……つまり、メイトリックス大佐みたいな猫です。」

「理解した」

 かなり特徴的な猫だということはわかる。でも、町は広い。

 私たちは休憩がてら、コンビニで飲み物を買うことにした。

「買ってくる。樹はバイクで待ってろ」

「はいです」

 大佐はコンビニの中へ消えていった。それとほぼ同時、道の向こうから「あっ」という声が聞こえた。見やると、先ほど大佐が川へ放してやった不良のリーダーがこっちへ歩いて来るのが見えた。全身びしょ濡れだ。夏だし、ちょうどよかっただろう。

「クソッタレが! さっきはよくもやってくれたな」

 不良はしきりにあたりを見回している。大佐がいないか確認しているようだ。さっき川へ落とされたので怖がっているのだろう。で、一緒にいたか弱い私を脅しているということだ。ただのカカシですな、全くお笑いだ。

「ふざけやがって、どうオトシマエつけるつもりだこのタコ!」

「すみません。そんなことより、こんな猫見ませんでしたか?」

 私にとっては違法行為をカッコいいと思っているカカシの相手よりも件の猫を探す方が大事だった。スマホで画像を呼び出して、不良少年に見せる。

「あ? 知るかよそんなの」

 知らないとなると彼は用済みなので鼻っ柱を一発殴りつけた。不良少年はぶっ倒れてそのまま伸びてしまった。

「……タコが」

 しばらくすると、大佐が飲み物を買ってコンビニから出てきた。

「プロテインを探していたら時間がかかった……こいつはなんだ?」

「ここに住んでるそうです」

「そうか」

 大佐は納得すると私にジュースを手渡してバイクを発進させた。ジュースの冷たさが最高だなオイ。

 

 

 時刻は四時半を回っていた。そろそろ部室に戻っておきたいところ。

 でも、猫がまだ見つかっていない……もっとも、放っておいてもいずれ見つかるだろうけど……依頼を引き受けた手前、放棄するわけにはいかない。

 私達はバイクを停めて如何にも猫がいそうな路地裏に足を踏み入れた。雨樋から流れてくる水の生臭さがしみる。

「どこにいるんですかねー」

「いいか、こっちが風下だ。近づけば分かる」

「どうやって? 匂いを嗅げとでも?」

「ああそうだ」

 そんな馬鹿な……と思っていた矢先、大佐が鼻をクンクン動かした。そして、

「来るぞ」

「えっ」

 その時、路地裏の過度に一匹の猫が姿を現した。茶色い毛に、筋骨隆々たる猫離れした肉体。顔立ちもどことなく知り合いのマッチョマンに似ている。間違いない、ジョンだ。ジョンは目を爛々と光らせて、私達を威嚇するようにひと啼き。

「な゛ーご」

 

 

「いたぞ、いたぞおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 私は思わず走りだした。猫は挑発するように尻尾を振って駆け出した。

 路地裏はゴミ箱やらが入り組むように置いてあって非常に走りにくい。比べて猫は小柄な分人間より有利だ。

 でも、今日の犬吠埼樹は一味違う。火事場の馬鹿力というのかは知らないけれど、この時の私は自分でも信じられないほどの運動神経を発揮していた。

 障害物は飛び越えて、水たまりは飛び越えた。そして、あっという間に猫を捕まえることが出来た。

「やった! 捕まえたぞぉ、大佐ぁ、捕まえましたよぉ!」

「な゛うっ!」

「いたっ」

 そんな私に対して猫は爪を立てて私の手を引っ掻いてきた。私は思わず手を放してしまう。猫は逃げ出して、私の手にはひっかき傷だけが残った。血がツーッと流れる。

「ジョーン! 何だこれは! 私をこんな安物の爪で引っ掻きやがって!」

「樹、落ち着け」

 人間の方のジョンが私の背中をさする。

 猫の方のジョンとは言うと、器用にも二本足で立って近くに落ちていた木の枝を持っている。

「来いよ樹、かかってこい」

とでも言いたげだ。

 ということで私はもう一度猫のジョンに飛び掛かった。いつまでもお姉ちゃんの後ろでウジウジしている私ではない。

 私と猫のジョンの壮絶な戦いは三分ほど続き、結果、ジョンが疲れてしまったため私の勝ちとなった。

勇者(コマンドー)を舐めんじゃねぇよ」

「よくやった樹」

 大佐が駆け寄って来る。

「はぁはぁ、ようやく捕まえましたよ」

「ごろな゛ーご」

 大佐に猫を手渡す。大佐の事だから筋肉で押しつぶしてしまうのではないかとも思ったけどそれは杞憂だった。大佐は優しく猫を持ち上げると、顔の高さまで持ち上げて顔をじっと覗き込んだ。

「な゛ーご」

「なんと……可愛い顔なんだ……」

「えっ」

 

 

 

 

 猫を飼い主のところに返して、部室に戻った頃には五時を回っていた。

「ただいま~」

I'm Back(戻って来たぜ)

 全身キズまみれの私と全身筋肉まみれの大佐はそう言いながら部室の戸を開けた。すると、

「キシャー!」

と、なぜかスクール水着でプレデターマスクを被った夏凜さんが『相手を戦士と認めて決闘を挑むプレデター』のポーズで出迎えてくれた。ストリップかな?

「どうしたんですか夏凜さん。暑さでおかしくなりましたか」

 夏凜さんが震えている。マスクの下にある顔は真っ赤に違いない。

「おかえりー。遅かったわね」

 そう言うお姉ちゃんも水着だ。

「どうしたの樹、血が出てるわよ」

「拭いてる暇もないよ。ところで、なんで水着?」

「メイトリックス大佐もいなくなったことだし、いっそ水着になっちゃおうって、風先輩が提案したのよ」

「さすが、風先輩は私たちの思いもよらないことをやってのけるよねぇ」

 もちろん東郷先輩と友奈さんも水着。

 特に東郷先輩は何がとは言わないが凄かった。上げ底に見えるか? あー違うなあらぁ本物だ、間違いねえ。

 そんな犯罪集漂う勇者部部室。

「初めは恥ずかしかったけど、まぁ、背に腹は代えられないから」

 夏凜さんがマスクを装着したまま腕を組む。その姿があまりにも意味不明すぎて思わず笑いそうになった。

「それにね、風先輩がアイスを買ってきてくれたんだー。美味しかったぁ」

 なるほどそれは良い。……ん?

「友奈さん、もしかしてお姉ちゃんったら水着のまま購買に行ったんですか?」

「えっ」

 その時、部室の扉が勢いよく開けられた。生徒指導の先生だ。

「ここの部長がスクール水着着て購買にアイスを買いに来たと小耳に挟んだんだが。まさか違うよねぁ?」

 残念ながら勇者部の内四人は現在進行形で水着着用中だ。言い逃れは出来ない。この後先生にみっちりお叱りを受けた。

 

 あと、何故か私まで怒られた。ふざけやがってぇ!

 

 

 

  

 




樹ちゃんが変だぁ? みんな変だろ寝言言ってんじゃねぇや。ぬへへ。

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