防壁内、そこにある小さな一軒家。そこには木登りをしている女の子とそれを見守る父親。ほのぼのとした景色が防壁内にあった。
女の子「お父さーん。すごいでしょ?」
父親「危ないぞ?降りて来なさい。」
女の子「はーい。」
木からアクロバティックに飛び降りる女の子。着地に失敗し、尻もちをつく。
女の子「いてて、失敗しちゃった。」
父親「ほら、言っただろ?危ないって。大丈夫か?」
女の子「えへへ、大丈夫だよ〜。」
父親「できれば、危ないことはしないでくれ。お前が生きてくれているだけでお父さんは力が湧くんだ。だから一歩一歩頑張って危険を無くしてくれ。」
美波。
フェンリア基地地上3階医務室。ベッドが数個並べられているが滅多に人が寝ていることはない。帰ってくるのは無事で少しの怪我をしている人か死体だけ。今医務室にいるのはラーミと生存者、そして美波だ。
美波「うぅん・・・ん、あれ?ここ。」
ラーミ「お目覚めですか?波夷羅二等兵。」
美波「その呼び方は・・・ラーちゃん?ここは?」
ラーミ「その呼び方はやめてくださいと言っています。医務室ですよ。初任務お疲れ様です。」
美波「初任務・・・あっ!ラーちゃん!生存者は!?」
美波はいきなり起き上がりラーミの方をみる。ラーミは美波の後ろを指差す。静かに寝息をたて眠っている女の子がいた。
美波「はぁ、よかった。ッつ!」
ラーミ「傷口がひどいので動くのは控えたほうがいいですよ。臓器に異常はありません。」
美波「いてて、すっかり忘れてた。草薙先輩は?」
ラーミ「軍曹なら今頃研究室に」
?「先輩!資料お持ちしました!」
張り切った大きい声が医務室に響く。入ってきたのは美波と同い年ぐらいの金髪の少年。手には大量の資料があり辛うじて前が見える程度だった。
ラーミ「キラ二等兵。医務室で静かにお願いします。資料配達はありがとうございます。」
キラ「す、すみません。あ、一人起きたんですね。」
美波「ラーミ、その子は?階級は私と同じみたいだけど。」
美波がラーミに尋ね、ラーミが答えようとしたところでキラが自己紹介に入った。
キラ「えっと、一応貴女の後輩になります。キラ・ジェイルと言います。ついさっきフェンリア入隊、研究班に配属しました。よろしくお願いします!」
美波「あ、うん。よろしく。波夷羅美波です。」
美波も自己紹介をしたところでラーミが思い出したように美波に声をかけた。
ラーミ「美波、忘れていましたが博士が起きたら来てくれと言っていました。肩を貸しますので行きましょう。」
美波「わかった。ありがとう。」
ラーミ「キラ、引き続き悪いですが資料運びをお願いします。研究室までです。」
キラ「了解です!」
ラーミが美波に肩を貸し医務室を出ようとした時に美波の任務時に行動していた隊長が来ていた。見舞いに来た訳ではなさそうだ。
隊長「ち、生きてやがったか。」
美波「・・・。」
隊長「お前みたいな女が調査部隊に配属されることなんざありえないんだよ。大体、父親の待遇があったから入れて実際なら」
ラーミ「お言葉ですが、美波を甘く見すぎているのではないでしょうか?」
隊長「んだと?」
あーだこーだ適当に言葉を並べている隊長に対しラーミが言葉を切った。ラーミは資料を大量に持っているキラに美波を支えるよう命令し、隊長の正面に立つ。
ラーミ「待遇を受けているのであれば階級は軍曹から始まっているはずです。美波は全試験を通って今、ここにいます。貴方が言えた口ではないですよね?待遇を受けた貴方が。」
フェンリアに入るためには面接、体力検査、身体能力のチェックと多くの関門がある。美波はそれを突破して入っており、ラーミの目の前にいる隊長は待遇を受け浮かれているのである。
隊長「てめぇ・・・!」
ラーミ「それに、調査部隊だけに限定してますがそれ以外であれば女性は多々いますよ。調査部隊にもベテランの方でいたと思いましたが?ブレ待遇軍曹?」
ブレ「研究班の奴が口出しすんじゃねぇ!」
ブレは我慢の限界に達したようでラーミに殴りかかる。しかしラーミはそれを読み取っていたのか、少し身体を傾けかわし殴りかかってきた勢いをそのまま使って足払いをした。ズドンッ。床に叩きつけられたような音がしブレが倒れる。
ラーミ「所属は違えど私は女です。女に負けるようでは、何も言えないのでは?」
ブレ「て、てめぇ・・・!」
ラーミ「行きましょうか美波。博士を待たせては悪いから。キラ、ご苦労。」
ブレを倒したままにしラーミ達はエレベーターに向かう。フェンリア基地は6階構造で地下はない。6階が研究室となっており、同時に博士の自室でもある。
美波「ラーミ、ありがと。」
ラーミ「どのことでです?今肩を貸していること?それともついさっきのこと?」
美波「両方。なんか、救われてばかりだな〜。」
キラ「あのぅ、お二人はどんな関係で?」
ラーミ「キラ、百合を考えているのであればその脳を焼き払う事は可能ですが?」
キラ「な、なんでそうなるんですか!?上司部下関係なのか友達とかなのかってことですよ!」
ラーミ「・・・友達です。最後の。」
防壁内での人口は10万。その8割は米人である。人種差別などは起こってはいないが子供は少ない。ラーミも美波と同じ16歳で所属は6年前。知能を買われて無理矢理入ることになったのだ。そのせい、次第に友達は減り父親がフェンリア関係者で出入りが可能だった美波だけが会いに来てくれていたのだ。
キラ「・・・すいません。」
ラーミ「気にしてはいません。美波が物好きなだけです。」
美波「ひどーい。」
エレベーターを使い6階まで一気に上がる三人。エレベーターは伍長からでないと使えないルールがあるが許可があるときは使える。ラーミの階級は兵長である。
博士の自室前に到着、ラーミがノックする。
ラーミ「ラーミ兵長、到着しました。」
博士「む、入ってくれ。」
三人は博士の自室に入る。中には博士と雄二の二人がいた。
美波「あ、先輩。」
雄二「よかった。死亡報告とかじゃなくて。」
美波「それ、生きてた女の子に言うセリフですか?泣きますよ?」
博士「仲がいいな。ん?キラ君は呼んでいないが?」
ラーミ「資料持ちのです。」
あっさり雑用係を言い放った。キラは資料を置き、出て行こうとしたが止められた。
博士「キラ君、君もいなさい。人手は多い方がいい。」
美波「任務ですか?」
博士「うむ、まぁ座りたまえ。」
椅子に三人を促し座らせる。雄二は立ったまんまだ。
博士「まず最初に、美波君、ろくに支給が無い中ご苦労だった。後できつく言っておくよ。」
美波「いいですよ別に。そこまでしなくても。」
博士「君が死んでしまったら、奴に合わせる顔がないからな。波夷羅爾来(じらい)にな。」
雄二「爾来って、まさか?」
波夷羅爾来。美波の父親でありフェンリアの英雄。死因は公表されていないが美波は知っている。謎の新種バースの一撃を直撃し死亡。そのバースはその後何処かへ行ったと言う。
博士「奴は死に際に『娘を頼む』と言ってこの世を去った。英雄はもういないがやっていける。」
ラーミ「博士、それより任務の方を。」
博士「あぁ、すまんすまん。今回の任務は私直々にだ。夜間に壁の補修作業を行うのだが護衛がいないとどうしようにもできん。護衛を君達に頼みたい。」
雄二「美波はどうするんですか?その怪我では。」
美波の怪我は正直、歩くのも辛い程の怪我。止血はしているが塞がりが遅い。
博士「美波君には、これをあげよう。支給がなかった私からの詫びと、持ち主へと返さなくてはな。」
テーブルの上に置かれた長方形のカバン。美波は首を傾げながらも開ける。そこにあったのは
美波「あ、え?これ・・・って。」
SVDドラグノフ狙撃銃。パーツはサプレッサー、レーザーサイト、8倍率スコープ、拡張マガジン。そして本体に彫られている『波夷羅』の文字。
博士「爾来の、形見だ。」
雄二「ドラグノフ。博士、まさか美波に支給では無く。」
博士「あぁ、返すの言葉しかない。それを持つのはもう、疲れたからな。」
美波「父・・・さん・・・。」
静かに涙を流していた美波。ドラグノフを手に取り抱きしめる。
ラーミ「任務の開始は本日の夜中でよろしいですね?」
博士「頼むぞ。4人とも。支給は現場で渡す。解散。」
4人は博士の自室を出てエレベーターに乗る。ドラグノフは専用のケースに入れて雄二が美波の代わりに持っていて、美波をおぶっている。
美波「先輩ごめんね〜。おぶってもらっちゃって。」
雄二「そう思うなら早く怪我を治してくれよ。」
美波「はいはーい。」
ラーミ「草薙軍曹。美波は部屋が占領されているので私の部屋に。」
雄二「そういやそうだったな。」
キラ「なんで研究班が参加する事に・・・」
ラーミ「キラ、後で私の部屋に来るように。何故出撃するかをみっちり教えます。」
そして、防衛戦の夜が始まろうとしてた。
今回は戦闘なし、会話多め、次回へのフラグ。そんな感じです。次回、防衛戦の幕開け!