サンテネリ祭用の出品物です。
ネタバレ要素はほとんどないと思いますが一応暗君本編と地に落ちて死なずば
全部を読んだ上で読むことをお勧めします。

一応時間軸で言えば補遺以降の想定です。

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ネガに残った光

結婚式場専属のカメラマンとして、私はとある式場で仕事をしている。

新しい家族として出発の日の晴れ姿

 

それをファインダーに収め形にするのが私の仕事だ。

 

最も、今使っているカメラはライブビューが付いているおかげでファインダーを使うなんてことはほとんどないから言葉の綾ではあるけれど

 

カメラを通して何万もの家族の形を撮っている。

 

幸せの最高点を残しておく、そういう意味ではその日の仕事はちょっと違っていた。

 

私の所属する式場は改装を行なっていた。結構年季が経っていたし、今風に受ける内装や庭園に造り替えたのだ。

 

その工事を取り持った会社とうちの式場は結構長い付き合いがあるようで

新装開店前に新しい式場がどういう風に顧客の目に映るか

色々な角度から写真を撮ってみたいという希望があったらしいのだ。

 

確かに写真を色々な場所で予め撮らせてもらえるなら映える場所や注意点が洗い出せる。とてもいい機会だった。

 

モデルは先方の会社から出してくれるらしい。

式場の社長もそういう事ならと結構本気で衣装とかの打ち合わせをしたらしいから私も気合いを入れなくてはならない。

 

そして、撮影テストの日がやってきた。

先方の造園会社の3代目社長が来店され後ろに4人のモデルさんを連れてきていた。

 

「今日はよろしくお願いします。」

そう言うと先方の社長は微かな笑顔で頭を下げて来た。

「いえ、こちらこそよろしくお願いします。」

 

流石、社長ともなれば綺麗所を用意するものだ。と感心した

失礼にならない様に後ろの女性の方々にも挨拶をしようとしてふと気がつく。

お二人は私も知る人だった。

造園会社の女性営業部長とその秘書役をやっている新人の子…

 

名前は下川茉莉さんと島津知子さんだったか…

「お久しぶりです。」

「こんにちわー今日はお世話になります。」

そう言うとお二人とも気さくに挨拶をくれた。

写真の試し撮りを提案してくれたのもこの方々だった。

今日はいつものスーツ姿ではないから分からなかったのだ。

「ほかのお二人も会社の方ですか?」

そう訊ねると茉莉さんは笑顔で二人は友達だと答えてくれた。

「アナリーズ・エストボーグです。今日はよろしくお願いしますね」。

お一人は外国の方だったが驚くほど流ちょうな日本語が返ってきた。

「三沢青佳と申します。社長がいつもお世話になっております。」

社長がお世話に…?

「あー会社の部下の方ですか?」

そうなら名刺を渡さなければならないかなとポケットの名刺入れを出そうとすると

「元部下になりますので名刺は大丈夫ですよ。今は個人的なお仕事をさせて頂いてます。」

「あーそうなんですね。今日はお願いします。」

 

多分これはあんまり突っ込まないほうがいい話題だろうと当たりをつけて切り上げる

なんでか、微笑みが圧力として力が見えそうな気配がしたからだ。

お友達……とはいっても多分色々あるんだろうなぁ。

 

「それではまずお着替えからですね。更衣室に向かってください。」

そう促すと社長を始めお連れの方を更衣室のほうに案内する。

 

着付け担当に先導をお願いし自分は最後尾を歩く。

歩き始めてすぐになんだか違和感を感じる。この5人示し合わせたように歩調が変わらない。

しかも歩く時の立ち位置が見事に決まっているのだ「まるでその位置ポジションが決まっている」かのように

普通人間の集団が歩くときはこうもっと無秩序に好き勝手動く。

 

だけどこの5人にはそれがない。社長を中心に左側にアナリーズさんそのちょっと前に島津さん

右側に三沢さんそして後ろに下川さんが続く。

曲がり角を曲がる時もこのポジションが崩れない。一定速度で……

普通女性と男性の歩く速度とは一般的に違う。歩幅も違うわけで

でもこの5人は自然と合わせている。なんか特殊な関係でもあるのだろうか……と勘ぐるぐらいに

 

いけないいけない……お得意様を勘ぐってはいけない。興味本位は猫をも殺すのだ。

 

そんなことを考えていると更衣室についたのでいったん別れる。

女性の着替えは結構時間がかかる。

社長と私は、控室で座り時間を潰すことになった。

 

私の目の前に座る社長はとても落ち着いて見えた。

とても4人も女性を侍らす派手な男には見えない。

仕事柄、人となりをみるときは靴と腕時計をみることが多い。

腕時計はシンプルな金色に革バンドどこにでもあるような時計に見えてそこらでは売ってない雰囲気を醸し出している。

 

私の視線に気づいたのか社長は時計を少し見せてくれる。

「これはね、今日のモデルさんの一人が経営してる会社の時計なんだ。」

エストボーグ…そう言えば読んでいたMONO系雑誌に掲載されていた記憶が蘇る。

「時計は詳しくないですがきれいな時計ですね。シンプルで自己主張しないのにそれでいて腕にあると存在感はある。

機械式ですか?」

 

「ええ、今も昔も技術としては変わらない。普通の時計です。」

普通のとはいえ値段は普通ではないのだろうが、その時計は社長の腕によくなじんでいた。

 

「私もカメラが趣味でしてね、あまり大きな声では言えない趣味ですよ。」

そう言うと社長は怪訝な顔で聞いてくる。

「カメラというと先端技術の塊と言う印象なんですが。」

 

あぁ確かにそう言う印象なのだろう。確かに撮像素子に映像を映しその情報を劣化させることなく記憶させるデジタルカメラは機械式時計とは似ても似つかない存在である。

 

フィルムカメラと言う過ぎ去った時代のカメラを除けば…

 

「フィルムカメラなんです。珍しいですよね」

「フィルムですか……そりゃまた懐かしいと言うか…」

 

男の年齢を考えればそうなのかもしれない。

「やはり仕事としてのこだわりですか?」

アナログフィルムカメラはよくデジタルより風合いがあるとか陰影がいいなどといわれている

「いえ仕事なら、圧倒的にデジタルが楽ですよ。確認もすぐできる。」

ウェディングの風景を写真に収め、式が終わるまでにスクラップし本にする。

そんなことまでできてしまう。

「フィルムは、その時の光なんです。自分がファインダーを覗いたその時のね」

「私が覗いた光をそのまま焼き付け残すのがフィルム」

「デジタルもその時の情報は残しますがあくまでそれはデータの光なんです。」

ちょっと熱が入ってしまった。社長の反応が気になるけれど意外にもきちんと聞いてくれている。

「なるほど…その時の光か。」

そう言うとちょっと考えて、身を乗り出して質問される。

「今日はフィルムの方で写真は撮るんですか?」

仕事は通常デジタルのみでやっているのでちょっと返答に困る。一応持ってきているし使えるけれどもフィルムの予備はそう持ってきていない。

「デジタルの方でやるつもりでしたが、ご希望があればお受けしますよ。枚数は少なくなりますが」

とはいえクライアントがそう聞いてくるということはご希望なのだろう。前向きに答えるのが仕事人というものだろう。

 

「ではフィルムの方の経費は私に別途請求してください。きちんとそちらはお支払いします。」

社長の琴線に何が触れたのか分からないけれど。こうして追加業務が発生した。

 

「社長、そろそろ着替えの準備に入ってください。」

進行役が着替えの呼び出しに来た。

「それでは、後ほど」

 

簡単な挨拶をして社長が部屋から退出していく。それを見送り私は趣味用のカメラバッグからカメラを取り出し撮影の準備にはいるのだった。

 

しばらくして着替えが終わり、5人が大広間に入ってくる。

私は念のためカメラをもう準備してその到着をまった。

そして直感はあたった。

ウェディングドレスという仕事柄見慣れた題材であったはずの題材は見慣れたというにはあまりに鮮烈だった。

部屋に入ってくるたびに感嘆や驚きが充満してく。

 

先頭は三沢さんだった。

全身が赤で統一されたドレスをまとい肩にかけたショールを止める金色の蛇が光る

特筆するのはスカート部分でウェストの細さが目立つフリル満載のスカート部分は山を想像させるボリュームだった。

そんなドレスを纏っているにも関わらず彼女の歩きは至極自然だった。

まるで毎日のように着ているかのごとく。

 

2番目は下川さん

こちらは三沢さんとは打って変わって漆黒のドレスだった。

細身で体のラインが出るデザインでありながら

足元にはゆったりと裾が広がるマーメイドスタイルとでも言うか

凛々しさすら感じる

 

三番目は島津さん

濃い青いドレスで結構大胆に肩と背中を出したデザイン。

スカートには幾重も細かいフリルがついており波のような白と青のドレープラインが非常に美しいドレス

 

最後はエストボーグさん

あまりに正統派な純白のウェディングドレスとベールを纏った姿だった。少し変わった所があるとすれば

左手で存在感を出している大振りの時計だった。

 

広間に4人そろうとそれはそれは壮観だった。入場が始まったあたりからカメラを構えて写真を撮っていく

化粧をしているのも当然関係はしているのだろうけど……4人とも風格が違った。

まるで何かの役に入り切ったかのような、そんな存在感だった。

「それでは撮影を開始していきましょうか。」

そう宣言し撮影を始める。

 

4人でブーケを持ってもらったり聖堂を模した式場で後姿を撮ったりと撮影は順調に進んでいく。

花嫁4人で撮る際にはノリノリで社長と一対一の時にはかなり厳粛な面持ちで切り替えるのがものすごくうまい。

ポーズをとる時は固まる社長にこういう姿勢のほうがいいとかそういう自分がお願いしないといけない変更も

積極的にしてくれる。

そうしてできた姿勢を画面からのぞくとばっちり様になる写真になるので頭の中で描いている完成像があるんだなぁと

仕事を進めつつ感心しきりだった。

 

「さて、一回休憩を挟んで最後に真正面からの記念撮影風のを撮って終わりましょうか」

そういって、長机に椅子がある場所に5人を誘導していく。社長だけは若干疲労が隠せない感じではあるが

4人はまだまだ元気だ。こういうときはやはり女性のほうが強い。

 

座り込んで若干ぐったりしている社長を5人がそれぞれの距離感で世話していく。

お茶を全員に回し配膳していく三沢さん、写真の出来やポーズを撮った時の面白さを楽しげに話す島津さん

それをちょっと見守る感じの下川さんと横に座り社長を挟んで島津さんと語らうエストボーグさん

 

あぁ……なんだろう4人がまるで一個の家族に見える光景。そんなことは現代日本ではありえない。

ありえないことではあるが、そう見えて仕方ない光景だった。私はそっと残り少なくなったフィルムカメラを構えて

シャッターを押した。この光景こそ残しておくべきだとなんとなく思ったから。

 

小休止を終えて最後の締めの写真を撮影していく。腕を組んで真正面を向き記念撮影をしていく。

これを見た人たちは、自分を投影し式の様子を脳内に描きそれぞれの物語を作っていくだろう。

今日は、充実した仕事ができた。そう思いながら3人の撮影を終えてエストボーグさんの番になったとき

液晶画面をのぞき込みながら若干の違和感を目が訴えた。

「どうしました?何か問題が?」

こちらの様子に気が付いたエストボーグさんが質問してきたとき違和感の正体が判明した。

「あの……時計……交換されたんですね?」

今まで女性の腕には若干大きかったと感じていた時計が社長のしていた金の小ぶりな時計に代わっていた。

代わりに社長の左手にはエストボーグさんが付けていた時計が鈍く光っている。

「ええ……今回は私にはこっちの方が良さそうだったので社長に今、交換してもらったのです」

「そうでしたか、二人ともお似合いですよ。ペアウォッチというには形がずいぶん違いますがなんともしっくりきます」

そう答えた時後ろから猛烈な圧が生じたのを感じた。笑顔の圧……3人とも笑顔なのに捕食者の笑顔だった。

「あ、じゃと撮りますね!ポーズ取ってください!」

身の危険を感じた私は急ぎ仕事に戻ることにした。やっぱりこの5人何かただならぬ何かを持っているんじゃないかと

確信した瞬間だった。

 

そうして撮影会は終わった。デジタルデータはそのまま会社に提出しフォトブックとして社長や4人の元に送られた。

フィルムの方は自分が現像し、社長に手渡した。

「これがあの時の写真を現像したもので、これがそのネガフィルムです。」

そういって保存袋に入った一式を手渡しする。社長はネガフィルムを眺めつつ

「これが……あの時の光の残した物なんですね?」

と聞いてくる。

「はい、そう思うとなんかすごく価値があるように思えませんか?デジタルの保存性や劣化しない物とはまた違った」

「そうですね……。」

そういうとそっとしまいこんだ。

 

 

 その家は少し前の静かで物が少なく生活感の無い様子から様変わりしていた。

物が増え、人の声が増え、光が灯っていることが多くなった。

 

季節に応じ、変化の生じる家の中で、その写真立の中だけはその時の光を再現し続けていた。

5人が楽し気に談笑している姿を

 

                        ~おわり~

 

 

 

 

 

 




暗君で着ることがなかったウェディングドレスやっぱ着たいはずなんですよね
4人とも

今のところぼくがストレス死せず4人全員がこれを着るのはお仕事の延長線上でも
ないと無理でしょう。
という所から生まれました。正直、この話にぼく視点で持ってくのは挫折したので
オリジナルの第三者視点で書きました。

仕事だから……と話を持ってこられたぼくがどういう反応をしたか正直わかりませんが
補遺以降のぼくなら飲むんじゃないかなぁと……

大本のネタはXでの雑談でチラッチラッされたのでウンウンうなってでっち上げた次第でございます。
おかげで広告に縁がないウェディングドレスや結婚式場が並んできたので
時計で上書きしました。


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