サ祭展示用作品です。
ネタバレ要素はほとんどないはずですが一応暗君と地に落ちて死なずば補遺
まで読んでから読むことを推奨いたします。
生活感……人間が住居で生きていく事で出てくると出てくる人個体の特徴でもある。
今までもぼくのすみかはそれをできるだけ消していた。旅立つ人間は後を濁さないからね
今はどうだろうか?4人と1人が出入りを繰り返すようになって一気に生活感が戻ってきた。
冷蔵庫には食材があふれお勝手には食器が増えた。唯一の友だったもふもふはその生活領域を大いに減らさてしまった。悲しい事に
リビングには漫画・女性向け冊子や鏡ちょっとした小物類などが鎮座を始めそれぞれの持ち主の特徴が出ている。
あまり見なかったTVも最近は生活音として重用されていてリモコンはだいたい同じ位置に鎮座するようになった。
何より変わったのがお風呂場だろうか。洗濯機は一人用の小さなものからドラム式に変わった。(主に青佳さんの要請により)洗面台には各人の歯ブラシや洗顔用具が並び歯ブラシが彩りを添える。
風呂場の中も今まで石鹸となんかのシャンプーとかそっけなかったものが、なんか高級そうな香りのいい
シャンプーだったり、洗顔料があったりとバラエティ豊かになっている。
というかこんなに種類あったんだ……
なんでこんな事を気にしているかというと、ぼくが使っていたボディソープとシャンプーが切れてしまったからだ。
こういうのは勝手に使うのは良くないからね。自称お台所を預かる青佳さんには一言断りを入れないといけない。
新しいのを買おうってそうしたらこんな言葉が返ってくる。
「あら、あなたそれでしたら私のをお使いください。」
と
え……いいの?女性ってそういう物気にしそうだけども
「かまいませんよ?社長が一緒の物でよければ買う手間がはぶけますし。」
そういうことなら僕は別に構わない。こだわりもないしね。
そうして三日くらいたったころかな?ふと茉莉さんに言われた。
「あれ?社長ボディソープ変えました?」
って、あぁ女性って香りに敏感なんだなって感心したよ。
「うん、ぼくのがなくなっちゃってね。自分用に買うのもなんだったから使わせてもらってるんだ」
と答える。
「それはそうと社長、今度アロマキャンドル使ってもいいですか?最近、ちょっと凝ってるんです。」
我が社に転職した茉莉さんはバリバリ仕事をこなしているようだしストレスでも溜まっているのかもしれない。
家に帰らず、ここに泊まっていく事も増えたしね。もちろん寝る場所は青佳さんのところだけども
ストレス解消にはいいのかもしれない。ぼくの会社のために頑張っている茉莉さんの少しでも助けになるなら
ぼくとしてもダメとは言えないね。
「うん、それが茉莉さんの体調を整える為ならね、やってもらってかまわないよ。」
その日から、リビングになんだかリラックスできる香りが漂う時間が少し増えた。
生活感という物は一度増え始めると段々、外にも浸食していく。例えば自家用車の中もその一つ。
正直、一人の時は通勤に位しか使ってなかった車が、やれ買い物だとかちょっと送迎だ
という理由で駆り出されることが増えていった。まとまった輸送力は車に勝るものは無いからね。
そういうわけで、個人のサングラスだったり長距離運転用のドリンクホルダーだったり
そういうアイテムが少しづつ増えていった。車の後部座席の後ろには茉莉さんお手製の小さな縫いぐるみが
ちょこんと乗って後ろを走る車に愛嬌をふるまってたりする。かわいい
助手席のダッシュボードの中にはなぜか知子さんの化粧直しセットが入ってたりする。
別段、彼女の指定席というわけではないのだけど……
「カーナビとかの操作に一番詳しいのは私ですからね!」
とは知子さんの言い分。確かに彼女こういう機器類の扱いは一番長けているかもしれない。
人間、共同生活という物が始まると生活時間や、生活導線という物が生まれる。
まぁぼくはほとんど会社に顔を出さなくてもよくはなったんだけども、それでも必要に応じて
会社の椅子を温めに行く必要がある。そういう時は青佳さんを置いて3人が出社することになる。
社長特権で勤務時間も出社時間もフリーダムだけど。
その日の朝はアナリースさんもエストボーグに向かうらしく一端ここに顔を出してくる。
「ここも、ずいぶん賑やかになりましたね。」
そういって部屋を見回す。確かにちょっと前の自分の部屋と見比べると天と地ほど違う。
乱雑ではない、整頓されてないわけでもない。ただ人がきちんと生きている。それを実感できる部屋。
「そうだね、ぼくの部屋があっという間にみんなの物でいっぱいになってしまった。」
別段、それが悪いというわけではない。色々倫理的にもどうなんだろうという気がしないでもないけど
部屋というのは使う人がいるのであれば必要に応じて、使いやすく過ごしやすく変わっていくものなのだ。
出社準備をして、玄関に向かうと後ろからアナリースさんもついてくる。彼女が家を出る時間はもう少し
先のはずなんだけど。
「では青佳さん行ってきます。アナリースさんもまた夜に」
行ってきます。自分一人ではいう事もなかったセリフだ。そんな縁のないセリフがすっと出てくるくらいには
この生活も慣れてきた。いや慣れるのはどうなんだろうという自問自答は置いておく。
「Mon Chéri、ちょっと待ってくださいね。」
靴を履くぼくをアナリースさんが引き留める。なんだろうか?近寄ってくるアナリースさんは僕の首元を見ている。
「ネクタイが曲がっていますよ。直しますね。」
そういうとアナリースさんの手が僕の首筋に伸びてくる。
「みんなの物が増えてきましたからね。間違わないように名前を書いておかないといけませんね。」
ネクタイを直しながら、先ほどの会話の続きなのだろうか……筋があまり見えないけれども。
首元のネクタイを直すついでにすっと手首が耳元をこすっていく。
ふわっと彼女が付けているシャネルの香りが鼻孔に残った。
「はいこれで大丈夫です。行ってらっしゃいませ。」
笑顔で送り出してくれるアナリースさん。
いきものは、自分の縄張りを主張する物らしい……深い意味はないよ。
ぼくの部屋は種族の違う猛獣猛禽類がなかよく共存している。
大自然においてはあり得ない光景が我が家の部屋では実現している。ぼくはそんな危うい生活共栄圏の中でこれまた奇跡的に平和に暮らせている哺乳類だ。残念ながらわが友もふもふの繁栄は許されなかったのだけど
地に落ちることなく死んだ過去のぼくがみたらなんというだろうか。
いまのぼくには出せない答えをぼんやりと考えつつ車に向かうのだった。
~おわり~